「生駒隊長により、鈴鳴の二人が
「ああ、完全に生駒隊の────────────────いや、水上の読み勝ちだな」
氷見と荒船はそう言い、傍目からでも驚いた様子で画面を見ていた。
香取隊の奇襲からの、それを利用した生駒隊による鈴鳴の撃破。
あまりにも鮮やかに過ぎる流れに、二人共瞠目しているのが見て取れた。
それだけ、生駒隊のやり口は凄まじかったのだから無理もない。
「香取隊は、太一を落とした事で放置された照明を操作する権利を得た。だからそれを他チームに気付かれないようにあの時までスイッチに触れず、タイミングを見計らって再点灯。香取の奇襲を敢行したワケだが」
「それに引っかかったのは鈴鳴だけで、生駒隊は予め暗視を切っていたワケですね」
「そういう事だな」
ふぅ、と荒船は息を吐く。
自分で肯定しておいてなんだが、流石に今回の事には度胆を抜かれた。
何故ならば。
「しかし、本当に水上の頭のキレは大したモンだな。まさか、この展開を完璧に読み切るなんてな」
「ええ、あの動きは香取隊の作戦を完全に看破していなければ出来ません。最初から、彼の思惑通りに事が進んだんでしょうね」
それだけ、水上の読みの鋭さはズバ抜けていたのだから。
傍目から見れば、理屈を理解は出来る。
照明を操作していた太一を倒した香取隊が、同じように照明を操作する可能性に思い至り、それを利用した奇襲を仕掛けて来ると読んで暗視を切っておく。
成る程、理屈は通る。
だが、その読みを信じて暗視を切って戦闘を行っていたとなれば話は別だ。
確かに、暗視を切っても戦闘は出来なくもない。
しかしそれは、いつ来るか分からない香取隊の奇襲の時まで暗闇の中で暗視を使っている相手に対して視界の不利を抱えたまま立ち回らなければならないという事に他ならない。
幾ら時間経過で眼が慣れるとはいえ、相手だけが暗視によって暗闇でも十全に視界を確保している状況で自分だけ朧気にしか周囲が見えない状況で戦うのだ。
それがどれだけの難度であるかは、言うまでも無い。
鈴鳴の照明操作戦術の時にも香取が似たような事をやってはいたが、あれは短時間だからこそ迷いなく実行出来たと言っても良い。
生駒隊は今回、それなりの時間を暗視を適用せずに動いていたと思われる。
しかも、生駒の場合は片手片足を失っていたとはいえ銃手である来馬の援護付きの村上と戦いながら、である。
ただでさえ難敵である村上を相手に、ハンデ戦じみた事をやっていたのだ。
幾ら負傷した来馬を抱えて動きが鈍っていたとはいえ、銃撃の援護付きの村上がどれだけの脅威なのかは言うまでもない。
それを出来ると踏んで暗視を切っての戦闘を指示したあたり、水上の自身の隊長への相当な信頼が伺えた。
生駒なら出来ると、何の躊躇いも無く信じたのだろうという事がその動きからは伝わって来たのだから。
「ですが、何故香取隊は鈴鳴ではなく生駒隊を狙ったのでしょうか? 鈴鳴の方が負傷者を抱えている分、狙い易く思えるのですが」
「そこは多分、現状でより厄介な生駒さんを先に片付けておきたかったんだと思うぜ。そんでそれが成功したら、生駒隊がやろうとしていた事をそっくりそのまま鈴鳴に仕掛ける腹積もりだったんだろーぜ」
「つまり、来馬先輩の銃撃を牽制で封じながら二人纏めて削り殺す、というやつですか」
ああ、と荒船は頷く。
「そうだ。生駒を落とせれば、水上は三浦だけでも抑えられる。だから残りの戦力をフルに使えば、順当に削り殺せただろーからな」
香取隊が生駒を狙ったのは、単にそちらの方が脅威度で言えば上だからだ。
鈴鳴は善戦していたが、それはあくまでも来馬の銃撃を妨害する第三者がいなかった為に過ぎない。
片手片足が削られた来馬は、傍から見れば戦力外だと言って良い。
それが曲がりなりにも援護役として機能していたのは村上が彼を抱えて無理やり移動砲台として扱っていたからであり、当然ながらその分だけ村上自身の
人一人抱えて移動しながらの戦闘がどれだけ困難かは言うまでもなく、村上程の剣士が近距離での鍔迫り合いではなく旋空の撃ち合いという中距離戦闘に終始していたのもそれをカバーする手段でしかない。
それが可能だったのは本来来馬を狙う筈だった水上が三浦の対処に割かれて動けなかった事に起因する為、隊員全員が健在である香取隊ならやり様が幾らでもある。
生駒という大駒がいる状態でそれをやれば横殴りされているのが目に見えていた為、先に厄介な生駒の方を狙った、というワケだ。
結果的にそれを利用されたのは、皮肉ではあるが。
「水上はそれも含めて、読み切ってたんだろーな。とはいえ、自分と生駒のどっちに奇襲をかけて来るか、ってのは賭けだったんだろーがな」
「そうですね。仮に香取隊長が水上先輩を奇襲先に選んでいれば、流石に分が悪かったと思います」
「あくまでも水上は射手だからな。近距離まで肉薄して来た香取を撃退すんのは、流石に厳しいだろ。ありゃ、生駒だからこそ出来た真似だろーからな」
とはいえ、賭けの要素が無かったワケでもない。
香取が仮に生駒ではなく水上を先に処理しに来ていた場合は、どうにもならなかった。
確かに水上は頭がキレるが、本質として攻撃までにタイムラグがある射手である事に変わりはない。
三浦相手には嘘弾による圧で何とか距離を稼げていたが、スピード特化の香取相手にその戦術は通用しない。
一気に近距離まで肉薄して来た時点で、香取相手に水上が抗する手段は何も無いのだ。
香取の攻撃を一手で捌くような真似は、エースの攻撃手である生駒だからこそ出来た事なのだから。
「その場合ですと生駒先輩はフリーになるワケですから、問題なく鈴鳴は落とせたと思いますが」
「そうなると、後が続かねーんだ。確かに鈴鳴は落とせるが、一つ問題が残ってやがる。香取隊が、鈴鳴の照明操作戦術を乗っ取ったまま、って問題がな」
そして、その場合に問題になる事がある。
それは、香取隊が照明の操作権を掌握したままであり、いつ消灯や再点灯を仕掛けられるか分からない、という点だ。
生駒隊の今の戦力は生駒と水上だけであり、一階にいるであろう相手の下へ割ける戦力など存在しない。
故に香取隊がやったように照明操作役を片付けに行く事は出来ず、放置すれば圧倒的に不利な状況を強いられるのが目に見えていた。
「ですが、それは今も変わらないのではないでしょうか?」
「そうでもねー。水上が、射手が生き残ってんならどうとでもなる。確かに、一階まで照明操作役を落としに行く事は出来ねーだろうが」
けどな、と荒船は続ける。
「照明をどうにかする手段は、他にもあっからな」
「アステロイド」
「…………!」
三浦は、瞠目した。
水上は展開した弾丸を、天井に向けて発射。
それによって照明は破壊され、モール内は再び暗闇に包まれた。
水上相手では言葉の上での弾種が一切信用出来ない以上、何の弾を撃って来るか分からず回避に力を注がざるを得ない。
そんな状況下での、照明への攻撃。
まんまと、彼の策に嵌められたと言って良いだろう。
(そうか、一階に戦力を割けなくても照明さえ破壊してしまえばもう同じ手は使えなくなる。それを今までやらなかったのは、あくまでもオレ達の作戦を利用する為だったのか…………!)
現状、別所に割ける戦力は生駒隊には存在しない。
生き残っているのは攻撃手である生駒と水上だけで、どちらも機動力に特化した駒ではない。
故に香取がやったように一階へ赴いて操作役を処理する事は出来ず、だからこそ照明操作戦術が有効だと考えたのだ。
しかし、水上はそんな固定観念には捉われず、照明そのものを破壊する事で対処して来た。
それを今まで行わなかったのは、先程実践した通り香取隊の作戦を完全に利用する為。
故に鈴鳴撃破を成した以上、最早用済みである照明を破壊しない手は無かったというワケだ。
(先に、水上先輩を落とすべきだったんだ。そうすれば、照明操作の戦術は変わらず活かす事が出来た。選択を誤ったのは、オレ達だ)
これは、射手という遠くへの攻撃手段を持った水上が生き残っていたからこそ出来た事だ。
生駒にも生駒旋空という攻撃手段はあるが、あくまでも攻撃手である彼の武器は弧月一本だけだ。
それを天井に向けるとなるとその瞬間無防備になると同義であり、当然その隙を逃がす香取ではない。
故に、先に水上を落としさえすれば照明操作戦術に抗する手段は生駒隊にはなくなり、そのまま勝てていただろう。
その可能性を模索しなかった事が、この状況に繋がったと言って良い。
相手の読みの鋭さを見誤った事そのものが、最大の失敗ではあるのだが。
(こうなったら、葉子ちゃんの援護に…………!)
「行かせへんで」
「…………!」
香取一人で生駒の相手は、少々分が悪い。
そう考えて援護に向かおうとした三浦であったが、それを見逃す水上ではなかった。
水上の放った弾丸を咄嗟に横に跳んで避ける三浦だが、当然香取の下への離脱という手は封じられた。
隙を見せれば間違いなく、第二射が飛んで来るであろうからだ。
これ見よがしに展開されたトリオンキューブが、それをあからさまに明示していた。
「一階の若村が上がって来るまで、時間かかるやろ。それまで、俺の相手して貰うで。これまでもそうしとったんや、最後まで付き合うて貰うで」
「く…………!」
「嫌な顔すんなや。ゆっくりしとけぇ────────────────その間に、ウチの隊長がそちらさんの隊長を片付けるかもしれんけどな」
敢えて煽るように、水上は告げる。
確かに、香取は強力な力を持ったエースだ。
しかし単騎同士での決戦となった場合、生駒の方に分があるのは事実だ。
香取の本分はあくまでもスピードを活かしたゲリラ戦法であり、正面切っての戦いはそこまで得手ではない。
当然並の相手には彼女が突っ込むだけでも相当な脅威ではあるが、間違っても生駒は
全霊を以て相対しなければならない、超級のエースである。
援護が行える若村は一階にいる為、上がって来るまでには相応に時間がかかると水上は判断している。
それまでに香取がやられる確率は、そう低いものではないのだ。
故に今度は、水上が三浦を足止めする。
弧月が使える前衛である彼が援護に向かえば、天秤が傾く可能性があった。
それを見過ごす程、水上は甘くは無い。
諧謔の笑みを浮かべ、水上は告げる。
「そっちの手番は終わりや。今度は、こっちが動かせて貰うで」
「旋空弧月」
「…………!」
ジャブのように放たれる、拡張斬撃。
それに対し香取は、即座に跳躍して回避。
空中に躍り出て、同時に拳銃を抜き放つ。
牽制の銃撃を、生駒へ見舞った。
「────────」
だが当然、その程度が通じる筈もない。
生駒は慌てずにシールドを展開し、弾丸を防御した。
先程までと違い、生駒がシールドを張る事に躊躇いは無い。
村上が生存していた頃であれば防御をした瞬間旋空を叩き込まれる危険があったが、現在旋空が使える駒は生駒を除けば三浦しかいない。
その三浦も四階で水上が抑えている為、防御の択を取った所で一撃死するリスクはなくなったと言って良い。
「旋空弧月」
「…………!」
故に、生駒旋空を撃つ事にもまた迷いはなかった。
放たれる、神速の抜刀斬撃。
目にも止まらぬ速さのそれを、香取は咄嗟の動きで回避する。
とはいえ、生駒旋空の剣速は尋常ではない。
相当量のリソースを注がなければ、咄嗟の回避など出来はしない。
「旋空弧月」
故に、技後の硬直を終えた生駒はそこへ通常の旋空を叩き込む。
生駒旋空は連射不能だが、通常の旋空は別だ。
二連の旋空弧月が、空中にいる香取へと襲い掛かる。
「…………!」
香取はグラスホッパーを展開し、横に跳んで逃げる。
生駒旋空程の速度を持たない通常の旋空であれば、それで回避可能だ。
スラスターという緊急回避手段を持っていた村上と異なり、香取は人を抱えてもおらず、グラスホッパーというより小回りの利く移動手段がある。
故に、充分な距離さえ取っていれば線の攻撃である旋空も回避は可能だ。
(癪だけど、単独でどうにかなる相手じゃないわね。回避に徹して、援護が来るまで待つのも手かしら)
間一髪とはいえ生駒旋空も避けられた事から、香取はそう考えた。
この相手に単騎で攻め切るのは難しいが、若村の援護があればどうとでもなるだろう。
幸い最大の脅威である生駒旋空も、危うくはあるが回避出来ないワケではない。
そう考えたのと、生駒が弧月を鞘に納刀したのは同時だった。
(来────────!)
「────────旋空弧月」
────────だが。
来る、そう考えて咄嗟に身体が動いた時には、既に生駒の攻撃は完了していた。
放たれた伝家の宝刀は先程のそれを上回るスピードで飛来し、無意識に嫌な予感を感じて身を捻った香取の左手首を斬り飛ばした。
呆気に取られる香取を前に、生駒は振り抜いた腕を元に戻しながらゴーグル越しにこちらを見据えていた。
(嘘でしょ。さっきのが、最高速度じゃなかったっての…………っ!?)
生駒旋空の速度を、見誤った。
その事を理解するのに、そう時間はかからなかった。
最初に放たれた生駒旋空は、抜刀された状態から放たれていた。
その時も相当なスピードだったが、何とか対処する事は出来ていた。
されど、二度目。
納刀状態から放たれた生駒旋空の剣速は、更に群を抜いていた。
生駒旋空は、居合の技法を利用して生駒が独自に完成させたものだ。
そして、居合とは
即ち、鞘に刀を納めた状態から放つ一撃こそが生駒旋空の真骨頂。
抜刀状態から放たれるそれよりも速度が上回る事は、自明の理と言えた。
NO6攻撃手、生駒達人。
その力の真髄を前に、香取は知らず息を呑む。
難敵だ。
そう思う認識こそまだ甘かったのだと、香取は痛感する事となった。