香取隊の狙撃手   作:デスイーター

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少女達の総評③

 

 

「何とか勝てたわね。巧く作戦がハマって良かったわ」

 

 ふぅ、と香取は大きく息を吐く。

 

 荒船達が言っていた通り、今回は綱渡りも良い所な試合だった。

 

 もし、生駒隊の選択が一つ違っていれば。

 

 もし、鈴鳴が別のプランを用意していれば。

 

 最後の作戦が決まる事は、なかったかもしれない。

 

 結果としてみれば圧勝であるが、楽に勝てたなどとは思っていない。

 

 鈴鳴第一と、生駒隊。

 

 どちらの隊も、決して侮れる相手ではなかったのだから。

 

「そうね。皆、良い仕事をしてくれたわ。勿論樹里もね」

「ん。どうせなら生駒さんの頭を吹き飛ばしたかったけど、水上先輩を蜂の巣に出来たし満足しておく事にする」

 

 華の称賛に対し、樹里はいつも通りの無表情で物騒な事を宣いながらピースサインをかます。

 

 割と火力狂い(トリガーハッピー)な気質のある樹里としては、最後に水上を吹き飛ばせた事でそれなりに満足したのだろう。

 

 生駒への狙撃も実の所急所狙いをしたかったのだが、それだと警戒度が跳ね上がり対処される可能性があった為泣く泣く四肢狙いにしたのが真相である。

 

 そもそも、今回はレーダー及び仲間の観測情報を頼りにした床抜き狙撃だったのだ。

 

 いつもと違い裸眼で対象を視認しているワケではなかった為、精密性に関する担保は無い状態であった。

 

 樹里はかなりの精密狙撃を行えるが、それはあくまでも強化視覚という副作用(サイドエフェクト)あってのもの。

 

 それを抜きにした狙撃技術は、当真や奈良坂といった最上位の面々は勿論B級上位陣の狙撃手に比べてもやや劣る。

 

 あの狙撃もレーダー情報に併せて香取・若村の観測情報がなければ、まともに当てる事も難しかっただろう。

 

 標的までに視界が通っていればどうとでも出来たのだが、そういう意味でもこのMAPは樹里にとって鬼門に近かったと言える。

 

「…………でも、最初から爆撃でモールを吹き飛ばすんじゃ駄目だったの?」

「それだと、生駒さんや村上先輩を落とし切れる算段がつかないから駄目って試合前に言ったでしょうが。試合が膠着してる隙に雄太や麓郎を落とされてたんじゃ、眼も当てられなかったと思うわよ」

「むぅ。残念」

 

 なので文句を言ってはみたが、本当に言ってみただけだ。

 

 案外派手好きな樹里としては面倒臭いモールなど早々に爆撃で吹き飛ばしたかったが、それをすればまともに点が取れなくなる可能性が高いとストップを受けていたのだ。

 

 なので渋々潜伏に徹した樹里であるが、あれが結果的に最適解であった事は理解出来るのでこれ以上の文句は言わない。

 

 最後に水上を蜂の巣に出来ていなかったら更に不満を言っていたであろう事は、言うまでもないが。

 

「それに、今回は本当に葉子の機転のお陰で勝てたようなものよ。あそこで葉子が照明操作戦術を利用する事を思いつかなきゃ、あの展開には繋げられなかったし」

「その戦術自体は生駒隊に利用されちゃったけどね。ったく、あれを読むとか一体どうなってるのよ」

 

 チッ、と香取は苛立ち紛れに舌打ちする。

 

 本来であれば、あの照明操作を仕掛けた時に生駒を片付けて、鈴鳴の点も丸々頂く予定であった。

 

 だが、水上がその作戦を完璧に看破した上に逆用された事で、鈴鳴の二点はみすみす生駒隊に掻っ攫われる結果になってしまったのは香取としても痛恨の極みであった。

 

「でも、樹里をあそこに置いたって事はその後の展開もある程度予想してたんでしょう? 照明操作戦術はすぐに潰される事を見越してなきゃ、あの采配は出来ないと思うけど」

「そりゃまあ、あれはあくまで初見殺しだから通じるんであって二度目はまず通じないわよ。相手は、あの生駒隊なのよ? 結果的に二回も見せた戦術に、みすみすかかってくれるワケないでしょうが」

 

 されど、その失敗すらも結果的に利用出来たあたりに香取の機転が伺える。

 

 香取はあの戦術が通じるのは一度きり、と割り切っていた。

 

 確かに照明操作戦術は初見殺しとしては有効だが、タネが分かってしまえば対処の仕様は幾らでもある。

 

 それこそ、水上がやったように照明そのものを破壊すればそれで済む。

 

 あの戦術の肝は最初の奇襲を如何に最大限活用するかが全てであり、それ以降は頼れるものではないと香取は切って捨てていたのだ。

 

 だからこそ、狙撃手である樹里を操作役に配置するという大胆な策が行えたのである。

 

 ある意味で、敵の有能さを信じているが為に。

 

 香取は、結果的に最善となる采配を行う事が出来たのだ。

 

「それに、生駒さんさえ片付けちゃえば後はどうとでもなったしね。奇襲が成功していればもっと楽に勝てたんだけど、そう巧くはいかないものね」

 

 また、当初の予定通り照明操作の時の奇襲で生駒を落とせていれば、残るは負傷した来馬を抱えた鈴鳴と一人きりになった水上だけだ。

 

 楽勝とはいかないだろうが、そうなればどうとでもなる。

 

 樹里の射撃を解禁して弾幕を降らせた上から波状攻撃をするだけでも、大方押し潰す事は出来ただろう。

 

 村上が善戦していたのはあくまでも援護射撃を行う者がいなかったからであり、幾ら彼とはいえ来馬を庇いながら弾幕を背に迫って来る香取隊の波状攻撃は流石に凌ぎ切れなかったであろう。

 

 そうなっていればそもそも樹里の位置を隠す必要すらなく、力押しで圧殺出来た筈だ。

 

 水上に作戦を読まれていなければそうなっていたであろう事は、想像に難くない。

 

 つくづく、思い通りにはいかないものだと香取は嘆息した。

 

「でも、結果としては勝てたんだし、反省点は次に活かせば良いだけだと思うよ。荒船先輩もそう言ってたしね」

「分かってるわよ。反省会()()をしても意味ないけど、試合を振り返らないのはそれはそれで問題だしね」

「ホント、以前の葉子からは考えられなかった台詞だよな」

「それ、アンタが言う? ま、いいけどね。麓郎もちゃんと、役目を果たしてくれたワケだし」

 

 お、おう、と若村は何処か挙動不審になりながら目を逸らす。

 

 てっきり罵倒が飛んで来ると思っていただけに、素直に労いを言葉をかけられた事で梯子を外されてどう返せば良いか分からない。

 

 そんな二人の様子を樹里はむぅ、と頬を尖らせながら見ていたが、華にポンポン、と頭を撫でられてにへらと笑って機嫌を戻した。

 

 「葉子がその気になるなんて有り得ないしね」と小さく聞こえた気がしたが、幸いな事に誰の耳にも入っていなかった。

 

 なんだかんだ、平常運転な樹里であった。

 

「何よ? 言っとくけど、目立たなかったから役に立てなかったとか言うつもりじゃないでしょうね? あの時アタシを守ってくれただけでも、充分過ぎる程勝ちに貢献したんだから文句は受け付けないわよ」

「べ、別にそんな事思っちゃいねぇよ」

「ふぅん。ま、ならいいけどね」

 

 尚、若村の反応の理由を理解出来ない香取はキョトンとしながら首を傾げる。

 

 煮え切らない態度が気にはなったが、直感的に此処は突っ込みどころではないと判断し話を打ち切った。

 

 なお、その光景を華はニコニコしながら見ていたのだが、その内心は知る由もなかった。

 

「とにかく、単独じゃどうやっても勝てなかった生駒さんを倒せたのは大きいわ。ホント、片腕飛ばされてなんであそこまで粘れるのかって話だったけど」

「いや、マジあの粘り強さは驚いたよな。普通、武器ごと腕を飛ばされた時点で弧月使いの攻撃手ならどうにもなんねぇ筈なのによ」

「そうだね。流石、剣の達人ってだけあるよね」

 

 三浦はそう言って、天井を仰ぎ見る。

 

 あの時、生駒の最後の奮闘は尋常ではなかった。

 

 普通ならば剣ごと腕を飛ばされた時点で弧月使いには碌な抵抗手段は残らない筈だが、あろう事か生駒は飛ばされた弧月を空中でキャッチし、そこから旋空まで放ってみせた。

 

 それを神業的な個人技で回避した香取の攻撃に対しても、シールドを張って最後まで抵抗したのだ。

 

 もしも片腕を飛ばされていなければ、あの時やられていたのがどちらだったかは言うまでもないだろう。

 

 それだけ、生駒達人の技巧と粘り強さは群を抜いていた。

 

 NO6攻撃手(アタッカー)の称号は、伊達ではないという事だろう。

 

「それから、同じような手はもう通用しないと考えた方が良いわね。水上先輩なら、今回のでこちらの思考傾向は読み込めた筈。次はもっと頭を捻らないと、向こうにペースを持って行かれかねないわ」

「同感。あのブロッコリーヘアー、マジで性格悪そうだしね。警戒するに越した事はないわ」

「葉子、一応先輩だから」

「流石に面と向かっては言わないわよ。王子先輩じゃあるまいし」

 

 あんまりにもあんまりな渾名で水上を呼んだ香取の事は置いておいて、次に戦う時にはより一層の警戒が必要なのは事実だ。

 

 今回は巧く騙されてくれたが、同じ手が二度通じる相手だとは思っていない。

 

 生駒隊の地力はそれだけ高く、軍師である水上も甘い相手ではない。

 

 次はより一層、作戦を練って臨機応変に対応する必要が出て来るだろう。

 

「それより次の試合よね。影浦隊と、東隊か。どっちもクソ面倒な相手よね」

「元A級というか実質A級部隊と、あの東さんが率いる部隊だからね。どっちも、一筋縄じゃいかない相手だよ」

 

 話題は、次の対戦相手の事に移る。

 

 影浦隊と、東隊。

 

 双方共に、間違っても侮るなどとは言えない相手だ。

 

 まず、影浦隊。

 

 彼等は影浦の不祥事によってA級から降格した部隊であり、実力そのものはA級の時と何ら変わってはいない。

 

 つまり二宮隊同様事実上A級部隊を相手にするのと同義であり、言うまでもなく難敵だ。

 

 東隊も()()東が率いる隊というだけで、十二分以上の警戒に値する。

 

 東春秋という名前には、それだけの意味があるのだから。

 

「影浦隊は、とにかく影浦先輩の対処をどうするかが問題だよね。確か、副作用(サイドエフェクト)でこっちの狙撃も奇襲も通じないんだっけか」

「感情受信体質、というものらしいわね。聞く所に依ると、相手の感情を肌感覚として受信するから何処に攻撃が来るのかが分かるらしいわ」

「マジチートだよな。まあ、犬飼先輩が言うには日常生活が大変っていうから本人からしてみれば厄介な能力なのかもしんねーけどよ」

 

 影浦は感情受信体質という副作用(サイドエフェクト)を持ち、その所為で()()()()()()()()()()()

 

 何処に攻撃が来るか予め分かってしまう為、たとえ本人が相手を視認出来なくともこちらが攻撃の為に意識を向けた時点で察知されてしまう。

 

「だから、くれぐれも下手に影浦先輩を見るんじゃないわよ樹里。話通りなら、それだけでも位置を特定されかねないわ」

「ん、気を付ける。でも、面倒な相手だね」

「狙撃手殺しな能力だからね。特に木岐坂さんは他の人より()()()()()し、気を付けた方が良いと思う」

「…………面倒」

 

 むぅ、と影浦の能力の実態を改めて理解して樹里は頬を膨らませた。

 

 強化視覚(サイドエフェクト)の影響によって高所にさえ陣取ればMAP全域を裸眼で見渡せる樹里にとって、視線を向けただけでこちらの存在を察知する影浦は天敵そのものだ。

 

 何せ、地形を見渡した際に影浦を一瞬でも視界に入れてその存在を意識してしまえば、その瞬間相手にこちらの存在がバレてしまうのだ。

 

 その眼を頼りにする樹里にとって、これ程やり難い相手はない。

 

 思わず毒を吐くのも、無理は無いと言える。

 

「北添先輩の適当メテオラも、気を付けなきゃね。あれをやられた隙に影浦先輩に寄られて乱戦に持ち込まれるのは、可能な限り避けなくちゃいけないし」

「そうなったらそうなったで、その混乱の隙を突いてやるわよ────────────────って、迂闊に言えないのも厄介よね。何せ、東さんがいるんだから」

 

 また、頭痛の種はそれだけではない。

 

 東春秋。

 

 壮年のベテランにすら見えるあの大学院生の名を、正隊員で知らない者はいない。

 

 二宮・加古・三輪という癖のあり過ぎるメンバーを率いてかつてA級一位に君臨した旧東隊の話は有名だし、あの三人を問題なく指揮下に置けたという時点で彼の有能さがどれだけズバ抜けているかは分かろうというものだ。

 

 狙撃手のランキングではトップに位置するのは当真だが、東の狙撃技術の程を疑う者は誰もいない。

 

 どころか、こと()()に関する事柄であれば彼程卓越した者はいない。

 

「今期のランク戦では、()()()()()()()()()()()()()んだもの。改めて聞いても、正気を疑う戦績よね」

 

 ────────東の能力の中でも特に突出しているのが、その生存能力だ。

 

 通常、狙撃手は相手に寄られた時点で終わりだ。

 

 荒船や樹里といった例外を除き、狙撃銃しか武器を持たない狙撃手は近付かれた時点で逃げる以外の選択肢は無いに等しい。

 

 狙撃手が脅威なのは位置が分からず相手と離れている時であり、位置が露見し尚且つ接近に成功すればさしたる脅威ではない。

 

 だが、そんな常識など知った事はないという立ち回りを見せるのが東だ。

 

 今期でもそもそも位置バレする率そのものが低く、敵に詰められても手練手管を駆使してどういうワケか生き延びてしまう。

 

 そんな埒外の生存能力を持っているのが、東なのだ。

 

 しかもその過程でしっかりと得点も重ねているあたり、尋常ではない。

 

 彼がいる、というだけで一定数以上の警戒を割かなければならないのは言うまでもないだろう。

 

 それこそ、下手に影浦と乱戦に持ち込んだ所を狙撃で狙われてもなんらおかしくはないのだから。

 

「今回のMAP選択権が東隊にあるのもネックよね。ったく、王子隊も情けないわね。もうちょい点を取っててくれれば、東隊は下位に落ちてたってのに」

「まあまあ、今回は玉狛と弓場隊が大量得点で上位に復帰した結果でもあるんだし今更言っても仕方ないよ」

「…………そういえば、玉狛は七点も取ったのよね? 華、試合ログ見れる?」

「可能よ。折角だから見て見ましょうか」

 

 そこで、話は玉狛の話題に移る。

 

 七点という大量得点を取ったのはもう驚きはしないが、流石に得点を重ね過ぎだ。

 

 三人部隊である那須隊と諏訪隊相手に七点を取ったという事は、一人を除いて他部隊全員を玉狛が落とした上に生存点を取ったという事に他ならない。

 

 一体どんな試合展開だったのかと気になり、華に頼んでログを開く。

 

「────────は?」

 

 そして。

 

 香取は、その映像を前に眼を見開いた。

 

 そこには。

 

 ────────那須隊目掛けて爆撃を()()、千佳の姿があったのだから。

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