香取隊の狙撃手   作:デスイーター

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雨取千佳③

 

 

 ────────その映像には、そこに至る大まかな経緯が映し出されていた。

 

 那須隊が選んだMAPは、市街地C。

 

 高低差のあるMAPを利用して、千佳と異なり人を撃てる狙撃手である茜のいる優位を活かそうとしたものと思われる。

 

 那須も障害物など関係なく動く事が出来る為、そういう意味でも相性の良い地形であったと言えよう。

 

 また、上下に広いMAPである為玉狛のワイヤー陣を使い難くする意味もあっただろう。

 

 だが。

 

 彼女達の思惑通りには、ならなかった。

 

 序盤、遊真はMAP上層部を目指しつつ諏訪と合流しようとしていた堤を発見し、接敵。

 

 そこへ現れた熊谷との三つ巴になるが、隙を見て堤を撃破。

 

 熊谷を援護しようと狙撃して来た茜の攻撃を回避し、即座に彼女の下へ急行した。

 

 そして当然の如く待ち構えていた那須が現れ、交戦。

 

 しかし、その間にカメレオンを利用して上層部へ辿り着いた笹森が茜を撃破した。

 

 ────────()()が起きたのは、その直後だった。

 

 上層部に潜伏していた千佳が、メテオラを起動。

 

 それを、笹森や那須・熊谷に向けて撃ち放った。

 

 那須は変化弾(バイパー)で爆撃の迎撃を図るが、その隙を突かれて遊真に落とされた。

 

 笹森もシールドで持ち堪えたが、その間に修による奇襲を受けて撃墜。

 

 熊谷も同じくシールドで防御していたが続く爆撃を前に身動きが取れず、那須を落として自由(フリー)になった遊真によって沈んだ。

 

 諏訪も撤退しようとしていたが遊真のスピードの前に逃げ切れず、爆撃に乗じた波状攻撃で撃墜。

 

 これが、玉狛が蹂躙劇を見せたROUND4の内約であった。

 

「────────嘘でしょ。もう人を撃てるようになったってーの?」

「少なくとも、人に()()()()()ようにはなったみたいね。今回は直接爆撃で落とした相手は一人もいないものの、彼女の火力が直接襲って来ないという確約はなくなったわね」

 

 映像を見ていた香取は驚嘆し、華は冷静に試合内容を分析していた。

 

 これまでは千佳は人を撃てないという制約から、直接の脅威にはならなかった。

 

 ROUND3では彼女の設置したメテオラを起爆するというやり方でその規格外のトリオンを活かしていたが、それも設置したものを爆破するというタイムラグがある為何とかやり様はあったのだ。

 

 しかし、今回彼女は明確に人を狙って爆撃を敢行している。

 

 確かに華の言う通りこの試合で千佳の爆撃で直接落とされた者は一人もいないが、人に向かって弾を撃てないという縛りはもう通用しないと考えた方が得策だろう。

 

「でも、今回はあくまでも爆撃だけで()()()()()()()()わね。もしかするとこの試合では、()()()()()()()()心配が少ないから実行した可能性もあるわ」

「どういう事よ?」

「爆撃は確かに派手だけれど、その内実は炸裂弾(メテオラ)よ。確かに効果範囲は広いけれど、シールドさえ張れれば凌ぐ事自体は出来るし那須先輩がやったように迎撃する事()()なら出来るもの。それを踏まえて実行に移した可能性は、ゼロじゃないわ」

 

 華の分析を前に、香取は成る程、と頷く。

 

 確かに映像では明確に人に向かって撃ってはいたが、狙撃は一度も行っていない。

 

 要するに、()()()()()()()()()()攻撃自体はやっていないとも言い換える事が出来るのだ。

 

 千佳の狙撃は、何れにしても強力だ。

 

 アイビスはどんな防御でも障害物ごと吹き飛ばすし、ライトニングは反応すら許さない速度での一撃を可能とする。

 

 イーグレットも樹里と同じくどんなに離れていても標的に届かせる事が出来、この試合でどのトリガーをセットしていたかまでは分からないが位置が不明な状態で一発撃てば確実に一人は落とせただろう。

 

 だが、それをしなかった以上は()()()()()()()()があると華は見たのだ。

 

 千佳が狙撃すれば、確実に相手は落とされる。

 

 修はそれを厭ったのではないか、という分析だ。

 

 恐らく、千佳は本当の意味で()()()()()段階には至っていない。

 

 ()()()()相手を落とす事は出来ても、直接スコープで覗いた相手を撃つ事までは出来ないのではないか。

 

 それが、華の推論だった。

 

 勿論、推論である以上確証はない。

 

 しかし、あそこまで合理の塊のような作戦を組み上げる修が意味のない行動をするとは、どうしても思えなかったのである。

 

「樹里の話だと、雨取さんはスコープを覗いてそこに映った相手を撃つ事に忌避感があるような事を言っていたらしいわね。だから相手に対処される前提の爆撃は撃てても、直接的な狙撃は()()出来ないと見ても良いかもしれないわ」

「…………()()、ね」

「ええ、これはあくまで現時点ではという話よ。()()()()()()()()()という最初の段階をクリアした以上、遠からずそれが出来るようになったとしても不思議じゃないわ」

 

 とはいえ、これはあくまで現時点での推測である。

 

 最初の一歩とも言える「人に向かって弾を撃つ」という境界線を踏み越えた以上、遠からず千佳の制限は解かれるものと思った方が良いだろう。

 

 加えて、爆撃が解禁されたという事実は消えないのだ。

 

 これまでは爆撃による炙り出しという選択肢のなかった玉狛にそれが生まれてしまう以上、今以上の警戒が必要である事は言うまでもない。

 

「それに、ROUND6からはヒュースくんも加入する事になるわ。そうなると、爆撃の脅威に加えてエースが二人に増える事になる。B級上位の中でも、下手をすれば上位2チームに並ぶ脅威になったとしてもおかしくないわ」

「…………そうだったね。確かに、それは厄介だ」

 

 加えて、ROUND6以降はヒュースも加入してしまうのだ。

 

 これは現時点で自分達しか知らない情報ではあるが、大規模侵攻で実際にヒュースと相対した香取隊はその強さを体感している。

 

 ノーマルトリガーに持ち替えた彼がどれだけの実力を発揮するかは分からないが、十中八九遊真と並ぶ脅威となるのは間違いない。

 

 更に千佳の縛りもいつ完全に解けるか分かったものではない以上、二宮隊・影浦隊に並ぶ難敵に成長する可能性は考えなければならないだろう。

 

 これまでは自分達や二宮隊の専売特許と言えた高火力での爆撃が、玉狛第二にも加わるのだ。

 

 那須隊がそうであったように爆撃への対処で手一杯になった所を奇襲されれば、エース級であっても容易く落とされる。

 

 幾らシールドを張れば凌げるとはいえ、爆撃で固められればそれ以外の行動に移る余裕はなくなる。

 

 爆撃に移られた時点で対抗策がなければ、そのまま詰みかねないのだ。

 

 しかも、その隙を突くべく動いて来るのは実質A級クラスである遊真とヒュースである。

 

 これがどれだけの悪夢かは、言うまでも無いだろう。

 

「けど、何で最初から爆撃しなかったんだろ? その方が簡単に思えるけど」

「馬鹿ね。んな事したら向こうが撤退して点が取れないでしょうが」

「あ、それもそっか」

「それから、狙撃手の日浦さんとカメレオンで姿を消せる笹森くんがいたのも大きいと思うわ。幾ら爆撃の威力が高くても、遠くからの狙撃や姿を隠しての奇襲で落とされる可能性はあるのだもの」

 

 また、決してその爆撃頼りにはなっていない所も修の優秀さが伺える。

 

 千佳の爆撃は威力が大きいが、一度行えば間違いなくその居場所はバレる。

 

 そこに遠方からの狙撃やカメレオンでの奇襲を喰らえば、戦闘経験の浅い千佳は呆気なく落とされてしまうだろう。

 

 だからこそ、修は茜を落とし笹森の位置が露見するまでは千佳を動かさなかった。

 

 思えば最初から遊真が積極的に動いていたのは、茜を釣り出す目的もあったのだろう。

 

 その証拠に、遊真は茜の位置が露見した瞬間即座にそちらに向かっている。

 

 あれは彼女を守るべく待ち構えているであろう那須を誘い出し、その隙にカメレオンを使える笹森に茜を処理させる狙いがあった筈だ。

 

 高低差のある市街地Cで上層部に向かうには、遮蔽物のない道路を通る必要がある。

 

 そうなると上に陣取っていた相手からは視認する事が出来てしまうのだが、ROUND1で三浦達がやったようにカメレオンを使えば高所からの視認を防ぎつつ上に向かう事が可能なのだ。

 

 それが出来るのはこの試合では笹森一人だけであり、ROUND1のログを彼が見ていたのならばそれを参考に実行に移してもおかしくはない。

 

 修は、そこを狙った。

 

 狙撃手の位置が露見しても、十中八九那須は茜を守るべく前に出て来る。

 

 遊真といえど、高い機動力を持ち変幻自在の変化弾(バイパー)を駆使する那須はそう簡単に倒せる相手ではない。

 

 横槍のない状態ならばともかく、狙撃を警戒しながらでは攻め切れない可能性もあったろう。

 

 だからこそ修は警戒網を潜り抜けて狙撃手を落とせる笹森を動かし、ついでに位置を自ら露見させた彼を圧殺すべく策を巡らせたのだ。

 

 茜の位置が割れ、那須が遊真の対処に手一杯の状況になれば間違いなく笹森は狙撃手を排除すべく動く。

 

 そういう目算があったからこそ修はそうなるように誘導し、憂いのなくなった段階で千佳の爆撃を解禁したのだ。

 

 茜と位置の分からない状態の笹森という対抗手段二つを失った段階で、那須隊・諏訪隊に玉狛第二を止める手段は残されていなかった。

 

 傍目からは千佳の火力を頼りに圧殺しただけのようにも見えるが、修は一切手を抜く事なく策謀を張り巡らせていた。

 

 そういう意味でも、玉狛第二の脅威度は大幅な修正を迫られる事は間違いなかった。

 

「いずれにしても、警戒を重ねるに越した事はないわね。ったく、こうなった一因はアンタにもあるんだから反省しなさいよ、樹里」

「ん。でも、後悔はしてない。やっぱり我慢をするのは、身体に毒だから」

「こいつ全然反省してないわねこの野郎」

「葉子、わたし、野郎じゃない。女郎?」

「その減らず口を叩くのはこの口かこいつぅ!」

ひょうこ、ひひゃい(葉子、痛い)

 

 香取は相変わらずの反応を見せる樹里に対し折檻しながら、はぁ、とため息を吐く。

 

 いずれこうなる事は分かっていたものの、あまりにも早過ぎる。

 

 初見であれを喰らうよりはマシか、と思い直すものの気は重い。

 

 今度玉狛とぶつかるとすれば、ROUND6以降。

 

 その時にはヒュースも加わっているのだから、二宮隊や影浦隊と同様の脅威と見做すべくなのは言うまでもなかった。

 

(まあ、どちらにせよやる事は変わらないわ。相手が誰であれ、ううん────────────────あいつ等は、必ずアタシ等でぶっ潰す。それだけよ)

 

 

 

 

「今回は巧く行ったな。千佳も、大丈夫か?」

「う、うん。結局わたしだけで相手を落とす事は出来なかったけど」

「そこは気にしなくていい。最初から、そういう算段だったしな」

 

 修はそう言って、千佳を労った。

 

 見たところ、彼女に無理をしている様子はない。

 

 千佳から言い出した事とはいえ直接人を狙って爆撃させたのは今回が初であった為懸念していたが、この様子なら心配はなさそうだ。

 

「爆撃だけならシールドを張れば防げるし、那須先輩なら迎撃もして来るだろうと予想はしてた。けど、それをすれば確実に隙が出来るから、その隙を空閑に突いて貰ったんだ。それで勝てたんだし、問題はないさ」

「ああ。ああなった相手なら楽に落とせるからな。援護、助かったよ」

「う、うん。でも、やっぱり直接人を撃てた方が────────」

「そこは無理しなくてもいい。爆撃を直接撃てるようになっただけでも、大分相手チームにはプレッシャーになるからな。今回のお披露目は、その認識を植え付ける意味もあったんだしな」

 

 修が今回千佳の爆撃の敢行を許可したのは、偏にその姿を印象付けさせる為だ。

 

 一度とはいえ人に向かって弾を撃てた以上、千佳の「人を撃てない」という縛りがなくなったものと相手は考える筈だ。

 

 だからこそ茜の分の得点を諏訪隊に譲る形になったとしても、爆撃の際の懸念点であった狙撃手と笹森の双方を炙り出す戦術を取ったのだ。

 

 全ては、次に繋げる為に。

 

 修は、今回の作戦を実行に移したのだから。

 

「次に当たるのは、二宮隊と生駒隊、弓場隊か。どのチームも強敵だけど、二宮隊が一番の脅威だな」

「ああ、二宮さんならチカと正面から撃ち合えるからな。トリオンではチカの方が上とはいえ、技術では圧倒的に向こうが上だ。だけど」

「最大の脅威である二宮さんを、千佳が抑えられるのは大きい。けれど、何の考えもなしに撃ち合っても横槍を入れられるだけだからな。そこは、しっかり作戦を練らないと」

 

 とはいえ、次の相手は難敵にも程がある二宮隊だ。

 

 他の二部隊も当然一筋縄でいく相手ではなく、千佳の爆撃が解禁されたとはいえ油断は禁物。

 

 どころか、現状ではむしろ敗色の方が濃いと修は見ていた。

 

 確かに千佳が正面から二宮と撃ち合えるというのは好材料だが、ただ撃ち合っても得点には繋がらない。

 

 むしろ、その隙を突かれて奇襲で落とされる可能性すらある。

 

 二宮と異なり、千佳は戦闘経験が浅い。

 

 奇襲に対する対処も拙く、近付かれれば呆気なく落とされてしまうであろう事は言うまでもない。

 

 並の相手ならばともかく、相手はB級上位の強豪。

 

 甘い考えで挑めば、容易く蹴散らされてしまうだろう。

 

「ヒュースがいれば色々違ったかもしれないけれど、そこは今言っても仕方がない。とにかく、二宮隊に得点を稼がれ過ぎないように立ち回る事を第一にしよう。勿論、やれる事は全部やった上でな」

「ああ」

「分かった」

 

 遊真と千佳の二人は、修の言葉に勢い良く頷いた。

 

 その光景を見ていたヒュースはふん、と鼻を鳴らしながらも来たるべき自身の参戦に向けて闘志を募らせるのであった。

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