香取隊の狙撃手   作:デスイーター

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ククロセアトロ⑤

 

 

「これは…………!」

「ふむ、尋常な事態ではなさそうですな」

 

 異形の天使達と戦闘を続けていたランバネイン達の眼にも、それは映った。

 

 罅割れ、裂けていく大地。

 

 地割れが建造物を、仮面の兵士の残骸を呑み込み、奈落の扉が開いていく。

 

 この星に、致命的な何かが起きたのは間違いが無かった。

 

『────────■■■■』

 

 だが、そんな異常も異形の天使達には関係ない。

 

 死化粧(デスマスク)を胸部に戴く異形の天使は再び背のリングを発光させ、エネルギーを収束させる。

 

 これまでに何度も放った、極大の熱線。

 

 その、射出準備である。

 

「────────」

 

 だが、それを易々とさせるヴィザではない。

 

 星の杖を振るい、ヴィザは異形の天使のリング────────────────即ち、砲台を両断する。

 

 先程からの戦闘の最中、ヴィザはこのリングこそがエネルギーを収束させあの熱線を放射する為の砲台であると理解していた。

 

 仕組みは定かではないが、そんなものは結果さえ伴っていればどうでも良い。

 

 重要なのは、あの極大の熱線を放つには数秒の充填時間(チャージ)が必須であり、その間に砲台を破壊すれば砲撃は止まるという一点。

 

 ヴィザによって両断された砲身に集められていたエネルギーは暴発し、自壊。

 

 暴発したエネルギーが迸り、異形の天使の身体を削る。

 

『────────!!』

 

 悲鳴のようなものをあげ、異形の天使は悶え苦しむ。

 

 どう見ても痛覚などといった人間的なものとは無縁の存在に見えたのだが、どうやらそういうワケでもないらしい。

 

「矢張りですか」

 

 だが、それは敵の打倒とイコールではない。

 

 両断された天使の背負うリングが、徐々に一つに戻っていく。

 

 まるでコマ送りの映像の如く、二つに断たれたリングが引き寄せ合い再生していく。

 

 良く見れば、その二つを繋ぐように極細の糸が斬られたリング同士を接合させようとしていた。

 

「させるか」

 

 そこへ、ランバネインが雷の羽(ケリードーン)の爆撃を叩き込む。

 

 高火力の砲撃に晒された事で、異形の天使はその翼を前面に展開。

 

 翼を構成する瓦礫同士をより硬質化させ、ランバネインの攻撃を防ごうとする。

 

「させませんよ」

 

 しかし、そこへヴィザが斬撃を振るう。

 

 星の杖の一撃により、防御を敷いていた両翼は切断。

 

 ランバネインの砲撃がリングへと直撃し、異形の天使は悍ましい悲鳴をあげた。

 

 基本的に、この敵へは斬撃よりも爆撃の方がより効果的なダメージを見込む事が出来る。

 

 ただ斬るだけではすぐに接合し元通りになってしまう為、そもそも斬撃だけでは大した効果を望めないのだ。

 

 しかしただ爆撃を仕掛けるだけでは先程のように防御を固められてしまい、碌に攻撃が通らなくなる。

 

 だからこそ、ヴィザが星の杖を用いて防御を斬り払い、そこをランバネインが突くという連携を行っていた。

 

 あの熱線はとにかく範囲が広く、回避以外に凌ぐ手段は無い。

 

 故に、()()()()()()()()()という方法を取ったのだ。

 

 熱線は放たれれば脅威だが、その動作は大ぶりで隙だらけだ。

 

 そこへ攻撃を差し込む事はそう難しい話ではなく、結果として敵の行動をある程度縛る事が出来ていた。

 

「…………!」

 

 だが、あくまで()()()()だ。

 

 ヴィザの下に、熱線が照射される。

 

 撃ったのは、浮かぶ白い子供の一体。

 

 威力だけは折り紙付きな熱戦が、老剣士を狙って放たれる。

 

 それを避けるべく、ヴィザはその場から跳び退いた。

 

 幾らヴィザとはいえ、広範囲に散らばった敵全員を一度に相手するのは無理がある。

 

 敵が纏まってくれていれば割とどうとでもなったのだが、上空に存在する子供たちはそれぞれ一定の距離を保っている。

 

 無理をすれば一斉に両断する事は出来るが、その隙を突かれない保証が無い。

 

 恐らくは熱線に巻き込まれない為の処置なのだろうが、それがこちらの妨害となっているのは何とも歯痒い。

 

 膠着状態。

 

 そう言って差し支えないのが、今の戦況であった。

 

『ランバネイン、ヴィザ、撤退だっ! すぐに戻れっ!』

「撤退、だと?」

「…………ふむ」

 

 そんな時に聞こえて来たのが、ハイレインの撤退命令だ。

 

 柄にもなく焦った様子の領主の声を聴き、二人は訝し気な顔をする。

 

 しかし、すぐに思い至る。

 

 大地に広がる、星の異常。

 

 恐らくはそれが、この命令の原因であろう事に。

 

「良いのか? まだ敵を全員屠ったワケではないと思うが」

『それどころではない。この星は、間もなく()()する。この国の「神」が、死ぬ事でな。一刻も早く退避しなければ、星の滅びに巻き込まれるぞ』

「「…………!」」

 

 そして。

 

 想定を超えた事態の重さに、二人は揃って眼を見開いた。

 

 「神」の死による、星の滅び。

 

 それが事実ならば、確かにモタモタしている場合ではない。

 

 どういう経緯でそうなったのかは不明だが、「神」が死ぬという事は星の機能が停止するという事だ。

 

 そうなればこの星を星たらしめている環境の全てが崩壊し、「神」によって増築された領土は縮小される。

 

 その崩落の規模がどれ程のものになるかは分からないが、大地に広がる異常を見る限り安全な場所は皆無になると思った方が良いだろう。

 

「ふむ、ヒュース殿は?」

『貴方方が戻り次第、回収します。そこから別の部隊の回収も行う予定です』

「了解しました。ランバネイン殿、行きましょう。ですがその前に」

「ああ」

 

 二人はお互いに頷き合い、再生が終わろうとしている異形の天使とその奥に浮かぶ白い子供達を見据えた。

 

 自分達が此処からいなくなれば、あれ等の標的が何処に向かうか分かったものではない。

 

 既にハイレイン達は遠征艇に退避しているようだが、自分達を回収する為に開いた「窓」に攻撃を叩き込まれでもしたら大事だ。

 

「────────星の杖(オルガノン)

 

 ────────故に、一度全員を斬り払う。

 

 ヴィザは星の杖のサークルブレードを最大展開し、空に浮かぶ天使達の全てを両断した。

 

 これまでは万が一の不意打ちに備えて残しておいた分も含めた、星の杖の全力斬撃。

 

 それにより、空に浮かぶ異形の天使達はその全てが斬り裂かれた。

 

「喰らえっ!」

 

 そこに、ランバネインが雷の羽(ケリードーン)で追撃をかける。

 

 胴と翼を同時に斬り裂かれた天使達はその攻撃に対応出来ず、ランバネインの爆撃の直撃を受ける。

 

 耳障りな悲鳴と共に天使達は悶え苦しみ、そんなものは関係ないとばかりに散らばったパーツ同士が「糸」によって接合され始める。

 

 失った部位は瓦礫で補填し、歪なヒトの形を取り戻していく。

 

 だがこの瞬間は、こちらに気を向ける事など出来ないだろう。

 

「早く、入って下さいっ!」

「ああ」

「ええ、参りましょう」

 

 それを見計らって開かれた窓の影(スピラスキア)の窓からミラが二人に呼びかけ、ランバネインとヴィザはその向こうへと跳び込んだ。

 

 二人の回収を完了し、ミラは「窓」を閉じる。

 

 その向こうでは、再生を終えた異形の天使達が今まさに熱線を放とうとしている光景が映し出されていた。

 

 

 

 

「次はヒュースですね」

「ああ、回収しろ」

「了解しました」

 

 ランバネインとヴィザを回収したミラは、遠征艇の中でハイレインに確認を取るとヒュースに持たせていたマーカーを目印に再び「窓」を開く。

 

 その向こうにはヒュースの姿が確認出来、その奥には異形の巨大な蜘蛛脚が見える。

 

 どうやら彼もまた、エネドラの時と同様あの巨腕との戦闘の真っ最中のようであった。

 

「ヒュース、撤退よっ! 急いでっ!」

「…………! 了解しました」

 

 突然の撤退命令に面食らった様子のヒュースであるが、事態の深刻さは理解出来ていたのだろう。

 

 特に反論する事なく承諾し、「窓」に向かって跳び込んだ。

 

「…………っ!?」

 

 ────────その、瞬間。

 

 エネドラは、見た。

 

 ヒュースの跳び込んで来た、「窓」の向こう。

 

 そこから、夥しい数の「糸」がこちら目掛けて殺到して来る光景を。

 

「早く閉じやがれっ!」

「…………っ! ええっ!」

 

 エネドラの警告の意味を理解したミラは、すぐに「窓」の消去を行おうとする。

 

 しかし、間に合わない。

 

 大量の糸は、すぐそこまで迫っていた。

 

「チィッ!」

 

 エネドラは、咄嗟に泥の王(ボルボロス)を展開。

 

 ミラの「窓」の前面に押し出した泥を硬質化させ、泥の盾を形成。

 

 その盾により無数の「糸」が弾かれた一瞬後、ようやくミラの「窓」の消去が終わる。

 

 間一髪。

 

 そうとしか言えない、ギリギリのタイミングであった。

 

「今のは…………」

「恐らく、今や国中が似たような状態になっていましょうな。あの「糸」が何なのかは分かりませぬが、迂闊に「窓」を開けばそこから侵入される危険が高いと思われます」

「…………隊長」

「…………止むを得ん、な。他の部隊の回収は、断念する」

 

 その光景を見て、ハイレインは苦渋の決断を下した。

 

 今の糸は、奥で暴れている蜘蛛脚とは無関係の場所から発生していた。

 

 それはつまり、今やククロセアトロの国中で似たような状態になっている事が推測出来る。

 

 今回は何とか間に合ったが、次も無事に済む保証は無い。

 

 あの「糸」の能力の全貌が全く掴めていない以上、危険な橋は渡るべきではない。

 

 未だ回収出来ていない別動隊の事は見捨てる形になるが、ハッキリ言って彼等と此処にいる精鋭部隊の存在価値は比べるまでもない。

 

 こちらは黒トリガー所有者を含めた国の中枢に近い人材が揃っており、あちらはそれなりに優秀と言えるが稀少なトリガーの所有者や要人と言える人物はいない。

 

 他国ではトリガー使いそのものが稀少であるが、アフトクラトルは層が厚い。

 

 彼等を失っても痛手ではあるが、まだ補填は利く。

 

 まかり間違っても国宝の使い手であるヴィザや領主であるハイレインを失うワケにはいかない以上、領主としてはある程度の損失には眼を瞑るべきだ。

 

 一応撤退命令自体は出しているし、後は向こうが間に合うのを祈る他無いだろう。

 

 それが、どれ程低い確率か理解しながらも。

 

「しかし、国全土に広がる程の規模で展開されているなんて。あの「糸」は、一体────────」

「────────恐らくは、この星の(クラウン)トリガーだろう。(マザー)トリガーに直接接続されていた事から鑑みても、間違い無い筈だ」

「…………っ! そういう事ですかっ!」

 

 (クラウン)トリガー。

 

 それは(マザー)トリガー直属のトリガーであり、有り体に言えばその国で最も強力なトリガーである。

 

 その性質は多岐に渡り、母トリガーの守護を行うモノや星を豊かにするモノなど、国によって様々な役目がありその特徴によって星の在り方が左右される事もある。

 

 あんな馬鹿げた能力や効果範囲の規模を鑑みるに、確かにハイレインの言う通りあれが冠トリガーである事に疑う余地は無いように思えた。

 

(クラウン)トリガーによって引き起こされた暴走による自滅、ですか。因果応報、と呼ぶには些か他への被害が大き過ぎますな」

「…………今回の作戦は、国を滅ぼす事は出来たが判断の甘さが目立った。下手に部隊を展開せず、我々だけで事を収めるべきだったな」

「隊長らしくないな。俺達の前で非を認めるなど、常の隊長ならばまずせんだろう。なあ、当主殿? それとも兄者と呼んだ方が良いか?」

「…………そうだな。失言だった。忘れてくれると有難い。それと、その呼び方は止めろ。部下の前だ」

 

 ハイレインの言葉に、ランバネインは苦笑しつつ胸を撫で下ろした。

 

 今回の顛末には、流石のハイレインも堪えたのだろう。

 

 常ならば有り得ない部下の前での弱音に対し、ランバネインの指摘を認め軽口まで叩いたのだから。

 

 恐らく、他の部隊の生存は絶望的だろうと理解していたが故だろう。

 

 ハイレイン達はミラの窓の影(スピラスキア)のお陰で迅速に撤退出来たが、それが無い以上彼等は自分の脚で遠征艇に向かう他無い。

 

 未だに異形の天使達が暴れているこの国で、それを成し遂げるのがどれだけ難しいかは分かるだろう。

 

 連れて来た部隊の、事実上の壊滅。

 

 この失点は、今後のハイレインにとって無視出来ない瑕疵となる筈だ。

 

 それこそ、常日頃から他の領主を蹴落とそうと目論んでいる他の領主達にとっては格好の付け入る隙となるだろう。

 

 故に此処からは、慎重に且つ迅速に動く必要がある。

 

 喪った者を悼む暇など、領主たる彼には残されていないのだから。

 

 背負う重責を微塵も感じさせない表情でハイレインは顔を上げ、部下の前に向き直る。

 

「これで作戦を終了する。皆、ご苦労だった」

 

 その言葉を契機に、後に「ククロセアトロ戦役」と呼ばれる事になる戦争は事実上終結を迎えた。

 

 それはアフトクラトルの領主、ハイレインを始めとする精鋭達の記憶に残る忘れ難い戦いであり。

 

 勝利と呼ぶには苦過ぎた、一つの国の終わりだった。

 

 

 

 

『────────つうワケで、連れて来た部隊はオレ達を除いて全滅。ククロセアトロは「神」の死によって滅んで、そのまま何処かに消えてった。それが、オレ等の体験したククロセアトロ戦役の顛末だよ』

 

 話を終えたエネドラッドを前に、鬼怒田達は一様に絶句していた。

 

 予想していたものを遥かに超えた、ククロセアトロの実態。

 

 人の悪意、否。

 

 ()()の極地と呼ぶべきものを、まざまざと見せつけられたのだから。

 

「…………その後は、どうなったのだ? 何か、ククロセアトロについて追加の情報は出なかったのか?」

『っても、あの国の名前はほぼ禁忌みてーな扱いになっちまったからな。オレも詳しく調べようとは思えなかったしよ────────いや、待てよ』

 

 鬼怒田の質問に溜め息交じりに答えるエネドラッドだが、不意に何かを思い出したように頷く。

 

 そういえば、と言いつつエネドラッドは口を開いた。

 

『あの後、確かククロセアトロに攻め込んだ時に連れて来た属国、トリュボスだったか。それがあの侵攻の数日後に、()()したって話だ』

「半壊、じゃと?」

 

 ああ、とエネドラッドは頷く。

 

『文字通り、国の中枢が()()()()()んだとよ。何があったかは知らねーが、確かその直後にハイレインの野郎が妙なお触れを出しやがったんだよな。「素性の知れない()()()に対する一切の関わりを禁じる」、ってよ。どういう繋がりがあるかは知らねーけどな』

「…………()()()、か…………」

 

 鬼怒田はエネドラッドの言葉を反芻し、何かを考え込むようにため息を吐いた。

 

 その様子を見ていた遊真は、何事かを思案する。

 

 横でそれを聞いていた修もまた、その意味を量るべく頭を巡らせるのであった。

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