香取隊の狙撃手   作:デスイーター

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ガロプラ①

 

 

玄界(ミデン)との境界接触まで、あと800』

 

 ────────機械音声が鳴り響く中、狭い遠征艇の中を男達が行き交う。

 

 此処は、アフトクラトル属国ガロプラの遠征艇内。

 

 宗主国より指令を受けた近界民達が、此処には集っていた。

 

「結局ロドクルーンは不参加かよ。舐めやがって」

「こっちに回す程、兵が足りてないんだろ。ただでさえ、()()()との関係を詰められてアフトクラトルに干されていたんだ。トリオン兵を出すと言って来るだけ有情だろう」

「それこそ自業自得じゃねーか。あんな怪しい国に頼ってたツケが回って来ただけだぜ」

 

 そう言って、金髪の少年────────────────レギンデッツは、悪態をついた。

 

 メンバーの中で年若い彼の物言いに、穏やかな顔をした少年────────────────ラタリコフは、苦笑する。

 

 確かに、彼の言う事も分からないではないのだ。

 

 ()()()に対して苦い想いを抱いているのは、自分も同じなのだから。

 

「お待たせしました」

「ご苦労。さあ、任務の最終確認だ」

 

 二人が作戦室に到達し、それを出迎えた無精髭の男────────────────ガトリンが、そう言って着席を促す。

 

 ラタリコフとレギンデッツは促されたまま椅子に座り、その場にいた全員がガトリンに向き直った。

 

 それを確認したガトリンは、ゆっくりと口を開いた。

 

「今回の任務について、俺の決定を伝える。アフトクラトルからの指令は、玄界(ミデン)の「足止め」。玄界(ミデン)の兵がアフトクラトルを追えないように、打撃を与えるのが俺達の仕事だ。やり方はこっちに一任されてる」

 

 で、今回は、とガトリンは続ける。

 

玄界(ミデン)の、基地への攻撃を行う事に決めた」

「この人数で敵の基地を? 街を狙うんじゃないんスか?」

「いや、狙うのはあくまで基地だ。人間は狙わない。無論、トリガー使いや雛鳥を捕まえるのもナシだ」

「ふむ、理由を聞いても? それらを狙えば、玄界(ミデン)に対する充分な足止めになると思いますが」

 

 そう尋ねるのは、落ち着いた雰囲気の青年────────────────コスケロだ。

 

 確かに、彼の疑問は尤もだ。

 

 街を狙い破壊すれば混乱を引き起こす事が出来るし、トリガー使いやC級隊員(雛鳥)を狙い、捕まえれば向こうにとって痛手になる。

 

 それで充分、アフトクラトルの注文通りの足止めになるからだ。

 

 疑念を抱くのは、当然と言えよう。

 

「…………俺達が今玄界(ミデン)の民に手を出せば、玄界の戦力は俺達の国に矛先を向ける。ガロプラ(うち)の方が、軌道的にあちらに近いからな」

「玄界の眼を私達の国に逸らす事が、アフトクラトルの本当の狙いって事ですか」

「俺はそう見てる」

「成る程、最初から身代わりの子羊(スケープゴート)扱いだったワケか」

 

 そう言って悪態をつく隊唯一の女性は、ウェン・ソーだ。

 

 彼女は事の内実を悟り、諦観したように天井を仰いだ。

 

 元より、アフトクラトルが属国である自分達に対しまともな扱いをするとは思っていない。

 

 彼の国は近界屈指の軍事国家であり、自分達はその大国に攻め落とされた小国の人間でしかないのだ。

 

 こんな捨て駒のような役割を振られた事自体、特に疑問は抱かない。

 

 むしろこれくらいは普通にするだろう、と彼女は考えていた。

 

 そういう意味で、ガトリンの説明はこれ以上ない程効果的だったと言える。

 

「玄界は、(ブラック)トリガー4人を含むアフトの精鋭を退けている。本拠地(ホーム)の戦術的有利があったとはいえ、相当な戦力だ。そんな相手の恨みをわざわざ買ってまで、アフトの都合に合わせる必要はない」

「別に玄界が攻めて来てもどうってことねーっスけどね」

「そうやって舐めてかかった結果、あのアフトクラトルだって例の国相手に辛酸を舐めたのを忘れてない? 聞くところに依ると、かなり酷い有り様だったらしいし」

「そうだな。アフトクラトルのような大国でさえ、油断すればそうなるんだ。まあ、そうでなくともあの国の実態を知った今となってはそれ以上に悍ましさが先立つけどな」

 

 う、とウェンとコスケロの指摘にレギンデッツは言葉を詰まらせた。

 

 「例の国」の実態、本性についてはアフトクラトルによる通達で既に共有されている。

 

 あの戦役の直後、対外秘、機密扱いを条件にアフトクラトルから属国の全てに対して通達があったのだ。

 

 即ち、()()()()()()()()()()()()()()()について。

 

 それを知識として知っていたレギンデッツが、言葉に詰まるのも当然と言える。

 

 若く浅慮な彼でさえそんな反応を見せる程に、彼の国の本性と呼ぶべきものは悍ましかったのだから。

 

「あの国に関しては、我々の国にも接触はありましたからね。あの時の王の判断で取り引きを断っていなければ、ロドクルーンの二の舞になっていた事でしょう」

「ロドクルーンは確か、奴等と頻繁に交易を重ねていて挙句戦役の最中に自国に滞留していた技術者をそのまま匿っていたらしいからな。アフトから「ククロセアトロの研究者を見付けたら即時拘留、及び報告せよ」って命令が全ての属国に通達されていたのに、それを無視したんだ。ああなるのも無理はないだろう」

 

 コスケロの言うように、ロドクルーンは例の国────────────────ククロセアトロとは、それなりに蜜月な関係だった。

 

 技術交流を頻繁に行っており、その一環としてククロセアトロの技術者を自国に招いていたのだ。

 

 但し、その最中にククロセアトロ戦役が発生し、更に宗主国であるアフトクラトルから研究者を見つけたら即刻差し出すようお触れが出たのである。

 

 そこで素直に研究者を突き出せば良いものを、ロドクルーンは何を血迷ったのかククロセアトロの研究者を自国内で匿ったのだ。

 

 当然それはアフトクラトルの知る所となり、直接兵を向けられ技術者は拿捕・尋問の後処刑。

 

 ロドクルーンは宗主国のお触れに逆らった罰として、相当な搾取を受けたという話である。

 

 その内容はかなり苛烈であったという所から、恐らくは見せしめの意味もあったのだろう。

 

 アフトクラトルに逆らえばこうなるという意味と、ククロセアトロに関連する事で謀れば容赦しない、という通達を込めてだ。

 

 それだけ、彼等のククロセアトロに対する姿勢は苛烈だ。

 

 伝え聞いた戦役の内容からすれば、ある意味当然とも言えるのだが。

 

「ロドクルーンの奴等も馬鹿だよね。トリュボスの連中の顛末を聞けば、下手しなくてもどうなるか分かってた筈だってのに」

「確かあそこは、ククロセアトロ戦役の時に同行してその最中にあの国からの()()()を拾って匿ったんだったな。恐らく、あのアフトすら辛酸を舐めさせた連中の技術を解析でもして宗主国に対する何らかの手札を握りたかったんだろうが、その結果が首脳部の壊滅だからな」

「噂だと、その匿った漂流者が()()した結果らしいね。いや、()()も同然だった、って話だったか」

「どちらにせよ、あの国に由来するモノが特大の厄物である事に違いはないだろ。関わる事自体がリスク、って考えた方が良いだろうな」

 

 そう言って、コスケロは肩を竦めた。

 

 あの国に関する話は、聞けば聞く程碌でもないものばかりだ。

 

 当初は中立の医療国家を謳っていたが、実態を知ってみればこれである。

 

 かつては彼等の母国ガロプラにもククロセアトロから技術提供の打診があったが、当時それを断った王の判断は慧眼と言える。

 

 それを()()()()()()ラタリコフは、その時の事を想起していた。

 

 

 

 

「ふむ、我々の技術提供は不要と? 理由を聞いてもよろしいでしょうか?」

 

 数年前、ガロプラ王城。

 

 その謁見の間に訪れていたのは、ククロセアトロの技術者を名乗る男、アパテオナスである。

 

 今回はガロプラに対し技術提供の交渉に来たのだが、王はそれを断った。

 

 その決定に対し白い仮面を被った研究衣の男は、心底不思議そうに首を傾げていた。

 

 何故、自分達の提案が蹴られたのか分からない。

 

 断られた事に対する不満ではなく、ただ純粋に疑問に思っての質問のようであった。

 

「其方等の技術は、確かに有用ではあるのだろうな。不具の者や戦争で手足を失った者の四肢が動くようになれば、成る程兵士として再起の芽が出るだろう」

「ならば、何故?」

「第一に、私は腕や足を取り換えてまで民を戦争に徴用しようとは考えておらん。ある意味で安寧を得た者達を、徒に戦争に駆り出す事はしたくはない」

 

 その言葉に、アパテオナスはふむ、と特に不満を漏らすでもなく頷いた。

 

 確かに、彼等の技術を求める国の大部分が四肢の欠けた、もしくは機能を喪失している者を復調させ、兵士として徴用するのが主な目的である。

 

 日常的に戦争が発生する近界に於いて、兵士の()()()が出来るというのはかなりのメリットを生む。

 

 だからこそククロセアトロの()()は多く、これまで幾つもの国と交渉を成功させて来たのだろう。

 

 しかし、ガロプラ王はそれを不要だと言う。

 

 それを、アパテオナスは心底不思議がっていた。

 

 戦争が日常的に行われている近界では、命の価値────────────────それも、兵士のものとなればかなり軽く扱われる。

 

 取り換えの利く駒というのが概ねの見解であり、人道を無視した行いも自国の利益を求めるならば当然の如く断行される。

 

 そういった価値観の者達ばかりを見ていたアパテオナスからすれば、ガロプラ王の話はどうにも理解し難いものだったのであろう。

 

 故に、単純な疑問が浮かぶ。

 

 何故、と。

 

 彼は自身の価値観で思考した結果、合理的とは言えないガロプラ王の判断を理解出来なかったのである。

 

「何故ですか? 健常者の兵を徒に損耗するリスクよりは、不具者を再利用した方がリスクヘッジの観点から見ても効率的です。何故そういった判断に至ったのか、差し支えなければお聞かせ頂ければ幸いです」

()()だ。私がお前達を信用出来ないのは、そういった部分があるからだ」

 

 ふむ? とアパテナオスは王の言葉に疑問符を浮かべる。

 

 何を言われたのか、理解が出来ない。

 

 これは、そういった反応であった。

 

「言葉の節々から分かる。其方等からは、人間に対する敬意が感じられん。其方等はまるで、人を()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()ようにしか思えん」

 

 だからこそ、と王は続ける。

 

「そんな者達の技術が、真っ当なものであるとはとても思えん。故に、我々が其方等を受け入れる事は無い。話は以上だ。即刻、この国より立ち去るが良い」

 

 王の退去命令に対し、アパテオナスは特に不満を漏らす事なく頷き「了解致しました」と一礼し、謁見の間を出て行った。

 

 無碍に提案を断わられたにも関わらず、一切気分を害した様子もなく淡々と白衣の男は淡々と歩を進める。

 

 もう此処には何の興味もない、そういった有り様だ。

 

 憤慨するでもなく、ただ価値のないものとして判定し視界にすら入れなくなる。

 

 それはあまりにも露骨で、それでいて機械的な反応だった。

 

 まるで、ヒトの形をした虫か何かを見ているようである。

 

 その人間味に欠けた振る舞いを見て王は嘆息し、部屋の奥でその様子を覗き見ていた()()は得体の知れない男に対し、密かな恐怖感を覚えたのであった。

 

 

 

 

「任務については納得出来たか? そろそろ作戦の話に移るぞ」

「了解」

 

 ラタリコフが当時の情景を想起した直後、ガトリンは話がいち段落したと見計らい号令をかけた。

 

 その言葉に、全員が頷く。

 

 今は、今回の作戦をどう実行するかが肝だ。

 

 余計な感傷は、今は置いておくべきだろう。

 

「ヨミ」

「はい。アフトから送られて来た情報(データ)に依ると、確認された玄界(ミデン)の実働部隊は40~50人前後。総数はその倍から三倍はいると思われます。その下に「雛鳥」が相当数いるようですが、こちらは戦力として数える必要はないでしょう」

 

 ガトリンの呼びかけで説明をする少年は、隊のオペレーターであるヨミである。

 

 副作用(サイドエフェクト)、完全並列同時思考を持つ彼は、優秀なオペレーターとして隊を支える縁の下の力持ちであり、高い情報処理能力を持っている。

 

 正しく、隊の頭脳(ブレイン)と呼ぶべき存在だった。

 

「そして少なくとも一つ、最大で三つの黒トリガーを持っているとの事です」

「一本と三本じゃ大分違うじゃねーかよ。適当な情報寄越しやがって」

「文句はアフトに直接言いなよ」

 

 ふん、とウェンの指摘にレギンデッツは押し黙る。

 

 確かに黒トリガーの本数が1本か3本かはかなりの差異だが、宗主国に直接文句など付けられる筈がない。

 

 若く浅慮ではあるが、そのあたりの分別くらいは彼も付くのだから。

 

「こちらの戦力は我々六人と、手持ちのトリオン兵。ロドクルーンとの連携が取れない以上、総力的に厳しい任務になりそうですね」

「そうっスよ。なんでロドクは不参加OKなんでスか?」

「不参加じゃない」

 

 レギンデッツの文句に対し、ガトリンはそう言ってヨミに目配せした。

 

 すると、スクリーンに夥しい数のトリオン兵のマークが浮かび上がった。

 

「ロドクルーンは、ドグ200体にアイドラ1()0()0()()を出すと言って来た。これではさすがに文句は言えん」

「…………! 300体も。良くそれだけの貯蓄がありましたね」

「元より、技術的には優れた国だ。トリガー使いの数や質こそ覚束ないようだが、トリオン兵は別という事なのだろう」

「成る程、それだけの戦力があれば、やりようがありますね」

 

 ああ、とガトリンは頷く。

 

「そのやりようを、これから詰めていく。但し、その前に一つ最重要の注意点がある」

「注意点、ですか?」

「そうだ。どうやら玄界(ミデン)には、ククロセアトロの()()があるらしい。そいつには、断じて干渉してはならん」

「「「「…………ッ!」」」」

 

 ────────ガトリンの布告に、事前に知らされていたヨミ以外の全員が目を見開いた。

 

 ククロセアトロの遺物。

 

 その名の持つ意味は、それだけ大きいものだったのだから。

 

「…………マジですか」

「悪いがアフトクラトルから送られて来た()()()()だ。疑う余地はないだろう」

「おいおい、まさか玄界もあの国と取り引きがあったってのか?」

「いや、恐らくは()()()の方だろうな。どうやら、元々はこの国の人間であった可能性が高いらしいとの事だ。大方、何も知らずに()()()として迎え入れたのだろう」

 

 うげ、とレギンデッツが顔を引き攣らせているが、気持ちは分かる。

 

 それだけ、彼等にとって()()の持つ意味は無視出来ないものだったのだから。

 

「対象は、白い髪に片方だけが瞳の青い年若い少女らしい。外見や行動から、骸肢兵(ネクロス)の類ではない事は確かだそうだ」

「つまり、人間っぽい外見とそれらしい行動を取れるって事ですよね。擬態かどうかは知りませんけど」

「詳細は分からん。奴等の()()の中には、自我を残していた個体も数は少ないがいたそうだからな。それに類するものである可能性もあるだろう」

 

 そう語るガトリンの声には、若干の憐れみがあった。

 

 ククロセアトロの()()については、碌な話を聞かない。

 

 その境遇を想えば、人情派に分類される彼がこういった顔をするのも無理からぬ事と言えるだろう。

 

「画像データとかはないんですか?」

「送られて来てはいない。恐らく、トリュボスの二の舞を避ける意味でも我々に詳細な情報は渡したくないんだろうな」

「信用ありませんね。まあ、トリュボスやロドクルーンの()()()()を思えば無理もありませんか」

 

 ああ、とガトリンは頷く。

 

 そして、全員に向き直った。

 

「とにかく、玄界(ミデン)に着いたらまずは実地調査と前情報との照らし合わせだ。ロドクルーンのトリオン兵が届き次第、作戦を開始する。くれぐれも、注意してくれ」

 

 了解、とガロプラの兵士達は一様に頷く。

 

 戦いの時は、刻一刻と迫っていた。

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