香取隊の狙撃手   作:デスイーター

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第十幕~B級ランク戦ROUND5/Fifth Rank Battle of White Girl
第五試合、到来


 

 

「襲撃は、恐らく夜になるよ。視えた光景(みらい)が、結構暗かったからね。少なくとも、日が完全に落ちてからになるのは間違いない」

 

 会議室。

 

 ボーダー上層部が集まるその場で、そう発言したのは迅だった。

 

 彼の事を知らなければ何を言っているのか、と思う内容であろう。

 

 しかし、この場に集う者達は違う。

 

 未来視。

 

 それを持つ迅の発言が、正しく予言であると知っているのだから。

 

「夜か。つまり、昼の部はこのまま開催しても問題は無いな」

「ああ、そうだね。けど、夜の部の方は少し時間が被る可能性があるね。となると────────」

「────────夜の部に参加予定の部隊の防衛への参加は見送らざるを得ない、か」

 

 忍田はそう言って、眼を細める。

 

 襲撃が夜となれば、昼の部に参加する予定の部隊であれば問題なく参加可能だが、夜の部はそうはいかない。

 

 対外秘を遵守するなら、下手にランク戦の時間を延期したり中止したりする事は出来ない。

 

 今回は基本的に防衛に参加する者とその他必要最低限の人員以外には侵攻がある事自体秘される事になっている為、予定を変える事が難しいのだ。

 

 そうなると必然的に、夜の部に参加する予定の部隊は防衛には参加させられない。

 

 こうなる事はある程度予測は出来ていたが、何とも歯痒い事だった。

 

「となると、B級中位の面子は参加出来ないか。村上が使えないのは少し心配だな」

「その分はおれの方で補填するから大丈夫だよ。上位の面々がフルで使える分、他が楽になるしね」

 

 冬島の言う通り今日の夜の部の試合はB級中位のものであり、必然的に現在中位の順位にいるメンバーは防衛に参加出来ない。

 

 防御に定評のある村上の所属する鈴鳴第一は、現在9位でB級中位にあたる。

 

 先日のランク戦の結果次第では参加出来ていただろうが、そこは仕方のない部分だと割り切る他ない。

 

 B級上位の面々がフルメンバーで参加出来る事を思えば、まだマシな方ではあるとは言える。

 

「では予定通り、ランク戦自体は通常通り進行する。迅、また何か視えた場合には逐次報告しろ」

「了解、っと」

 

 城戸の言葉を受け、会議は一旦お開きになる。

 

 迅は笑みを浮かべて応対し、ふぅ、と息を吐いた。

 

「昼にランク戦をやって夜に防衛だと結構ハードスケジュールかもだけど、そこは割り切って貰うしかないね。少しでも彼等の負担が軽くなるよう、精一杯やりますかねっと」

 

 

 

 

「作戦の最終確認をするわよ」

 

 香取隊、隊室。

 

 そこに集まった香取隊の面々は、ランク戦前の最終ミーティングをしていた。

 

 なお、彼等には今日行われる予定の防衛任務の詳細については知らされていない。

 

 急な予定変更で夜に防衛任務が入るとは聞かされてはいるが、今はランク戦に集中して貰う為に詳しい事はランク戦終了後に告知される予定なのだ。

 

 流石にランク戦の前から「今日の夜近界民の侵攻があります」と聞かされていれば、試合に集中出来なくなる恐れがある。

 

 それを避ける為の処置ではあるが、直前に鉄火場に放り込まれる事を聞かされる当人達にとってはたまったものではないだろう。

 

 そんな、いざ事態を知った時に良い反応をする事が確定している香取は、未来の事など分かろう筈もないので普段通りの様子でチームメイトを見回した。

 

「今回の相手は、影浦隊と東隊ね。正直、どっちも色んな意味で面倒な相手だわ。特に、影浦先輩の攻略と東さんに関しては最大限に気を配る必要があるわ」

「そうだね。影浦先輩相手だと、狙撃や奇襲が効かないし。東さんはもう、説明不要だよね」

「ああ、注意してし過ぎるって事はないだろ。東さんだからな」

「そうね。それには同感。東さんがいるってだけで、警戒ランクは最大限に上げといて損はないわ」

 

 口々に東への警戒を口にするが、それも無理からぬ事と言えるだろう。

 

 当然の事ながら、東春秋の名を知らない正隊員はいない。

 

 一度彼の試合を眼にすれば、その厄介極まりない性質は嫌でも理解出来る。

 

 何せ、()()()()()()()()のだ。

 

 少なくとも今期に於いては、彼は一度も他者による攻撃で緊急脱出していない。

 

 どの試合もタイムアップか、自発的な緊急脱出により終了している。

 

 攻撃手や銃手に接敵された事自体は何度かあったが、その悉くを無傷で逃げ切っているのだ。

 

 一度影浦と弓場の二人に挟まれた事もあったのだが、そこへ生駒隊を誘導して乱戦に持ち込み、その隙に逃走を完了させている徹底ぶりだ。

 

 警戒するなと言う方が、無理からぬ事と言えるだろう。

 

「今回のMAP選択権は東隊にあるし、どの地形を選んで来るかも重要ね。指揮をするのは東さんじゃないとはいえ、そこは結構大きいからね」

 

 

 

 

「じゃあ、MAPは市街地Bって事でいいんだな?」

「ええ、お話した通りです。下手に特殊な地形を選べば、利用されます。今まで香取隊に挑んで来た相手が大体そうでしたからね」

 

 奥寺は東の問いに、ハッキリとそう答えた。

 

 此処は、東隊室。

 

 彼等もまた、最終ミーティングを行っていた。

 

「市街地Aじゃない理由はなんだ?」

「あまりスタンダード過ぎると、隊の地力の差が明確に出てしまいますから。悔しいですが、影浦隊や香取隊には強力極まりないエースがいます。単純過ぎる地形だと、力押しで持って行かれる可能性があるので」

「影浦先輩は当然として、香取も今期になってマジ化けたからなぁ。ホント、前期まではなんだったんだよ、って話ですよ」

 

 小荒井はそう言って、溜め息を吐いた。

 

 無理もない。

 

 お調子者な彼がそう嘯く程には、香取隊の今期の成長は著しかったのだ。

 

 少なくとも、前期までとはまるで別物の部隊と考えた方が良いだろう。

 

「香取はただでさえ強いのに隙が無くなってるし、何より木岐坂がマジ理不尽だよなー。あのトリオンで狙撃も射撃もやって来るし、こっちとしちゃ堪ったモンじゃないぜ」

「けど、流石に今回は派手な爆撃なんかは仕掛けて来ないだろ。何せ、影浦先輩がいるからな」

「そういう意味じゃラッキーだよな。あれが来ないってだけで、大分楽になるしよ」

 

 何よりも大きな差異は、樹里の存在である。

 

 出水と同値という高いトリオンを持ち、狙撃と射撃を使い分ける香取隊第二のエース。

 

 今までの試合でも散々盤面を引っ搔き回しており、決して無視出来ない駒でもある。

 

 しかし、今回の場合は事情が異なる。

 

 何故ならば────────。

 

「影浦先輩は、視認されるだけで相手の存在を察知するからな。木岐坂が持ってる強化視覚(サイドエフェクト)の事を考えれば、迂闊に高所に陣取る事自体危険だからな」

 

 ────────影浦の副作用(サイドエフェクト)、感情受信体質は見られただけで相手の存在を感知出来る。

 

 即ち、彼の姿を視認しただけで狙撃手はその位置を把握されてしまうのだ。

 

 加えて言えば、樹里は強化視覚のサイドエフェクトを持っている。

 

 通常はMAP全域を見渡せるメリットとして働くが、今回はそれが影浦に発見され易くなるデメリットとして機能してしまうのだから。

 

「そうだな。そういう意味では、狙撃手としての木岐坂の脅威度は減っていると思って良いだろう。他には何かあるか?」

「あ、それならやっぱ天候設定弄りたいですね。木岐坂に怯える必要がないなら、もうちょい相手に制限をかけたいです」

「構わないぞ。そこは、奥寺と相談して決めると良い。駒として言わせて貰えるならMAPの設定は凝っていない方が助かるが、多少変更を加えた所で修正は利くからな」

 

 分かりましたー、と元気に返事をして、小荒井は奥寺と話し合い(ディスカッション)を開始する。

 

 それを微笑まし気に見守りながら、東はチラリと時計を見上げるのだった。

 

 

 

 

「影浦隊は、なんと言っても影浦先輩の存在ね。この人がいる限り樹里は迂闊に使えないし、こっちが優位を取るなら最優先で潰す必要があるわ」

 

 香取は、影浦の扱いについて言及する。

 

 この試合で、ある意味最も重要なのが影浦への対処である。

 

 彼がいる限り狙撃手としての樹里はまともな運用が出来ず、射手としての立ち回りも実質封じられるのだから当然と言えば当然ではあるのだが。

 

「一応聞くけど樹里、アンタ正面から弾幕張って影浦先輩を倒せる?」

「多分無理。あの人クラスだと、普通に突破して来ると思う。少なくとも、1対1じゃ厳しいかな。葉子が守ってくれるなら、いけるかもしれないけど」

「場合によっては、それもアリかもね。とはいえ、樹里を使う前に片付けられればベストか。けど────────」

「────────影浦先輩は、生存能力がかなり高いからね。樹里なしで勝つってのは、中々に厳しいかもしれない」

 

 そして最大の問題は、影浦自体が難攻不落の実力者である事だ。

 

 サイドエフェクトによって狙撃・奇襲の一切が通じず、乱戦への適性は香取をも上回る。

 

 それを最大戦力の一角である樹里のサポートなしに倒すとなると、相当な難易度になるだろう。

 

 少なくとも、まともに正面から当たるべき相手でないのは事実である。

 

「オマケにとうの影浦隊は狙撃も奇襲もやりたい放題だから、そっちをどう抑えるかも重要ね。北添先輩も絵馬も、無視して良い相手じゃないわ」

 

 

 

 

「カゲさん、木岐坂先輩はどうにかなるかな?」

「問題ねーだろ。狙撃で狙って来りゃあ分かるし、トリオンが高いとはいえ二宮よりはマシだ。正面からやりゃあ、まず勝てるだろうよ」

 

 影浦隊、隊室。

 

 そこでは以前とは比較にもならない真剣な様子で作戦会議に臨む、影浦隊の面々の姿があった。

 

 以前であれば適当に対戦相手について話すだけで終わっていたのだが、ユズルの意識改革があった今となってはこの時間を無駄にする事は出来ないとばかりに全員が意欲を見せていた。

 

「じゃあやっぱ、初手はいつもので良いよね。MAP次第じゃあるけどさ」

「流石に東隊なら市街地Dみてーなトコは選ばねーだろ。あっちは東さんがいっからな」

「東さんなら出来る、って考えて逆張りして来るかもしれないけど、まあ普通はそうだよね。木岐坂さん()の事を考えれば、開けたMAPの方が都合が良いだろうし」

 

 北添の言う通り、東隊にとって市街地Dのような狙撃手不利な地形を選ぶ理由は微塵もない。

 

 恐らく香取隊は影浦の副作用(サイドエフェクト)を警戒して樹里を出し渋るだろうが、屋内戦であればそこまで気を向ける必要はなくなるからだ。

 

 影浦がいる以上、狙撃手がいるチーム相手なら開けたMAPの方が余程やり易い。

 

 今回の場合は彼女の射線が通る方が、却ってその動きを制限する事が出来るのだから。

 

「数が減りゃあそれだけウチが有利になんだろ。別に、変に特別な事をする必要はねーんじゃねーか?」

「ま、俺ぁ何処だろうが構わないぜ。東のオッサンがいっから狙撃にゃ気を付けなきゃなんねーけど、過剰に怯える必要もねーだろ」

「確か、東さんの狙撃だけは察知出来ないんだったよね。ホント、相手が東さんじゃなきゃ到底信じられないけどさあ」

 

 但し、今回は東がいるので影浦も狙撃を警戒する必要が出て来る。

 

 東の狙撃だけは、影浦にも察知出来ないからだ。

 

 彼曰く、「攻撃の時も殺気を出さないから察知出来ない」との事だが、そもそも攻撃の瞬間にも一切の殺気を漏らさない、などといった埒外の真似が出来るのは彼等が知る中では東だけだ。

 

 遊真と知り合っていればまた違ったのだろうが、現時点ではまだ彼との直接の接触(コンタクト)はない。

 

 サイドエフェクトの所為で対人能力に難のある影浦にとって、初対面の人間など特に親しい村上や荒船あたりの紹介でもなければ、会う事自体に否定的になるだろうからだ。

 

 なお、村上の手で二人が引き合わされるのはそう遠くないので、時間の問題であったりはするのだが。

 

「とにかく、今回は凝った作戦を考えるよりもいつも通りにやった方が強いだろ。カゲも、あんま気負い過ぎんじゃねーぞ」

 

 

 

 

「そろそろね」

 

 染井の言葉に、皆が一様に頷く。

 

 もう間もなく、試合の開始時間となる。

 

 相手は、影浦隊と東隊。

 

 厄介なエースが在籍する二部隊相手だが、それでもやる事は変わらない。

 

 手持ちの手札(カード)から最適解を探し出し、実行する。

 

 それだけだ。

 

 相性が悪い相手であろうとも、決して倒せない敵というワケでもない。

 

 ならば、やる事は同じだ。

 

 その場その場で最適解を探り出し、臨機応変に手札を切っていく。

 

 単純な力押しが通じないなら、絡め手で行くだけだ。

 

 それが出来るだけの柔軟性と実力は、既に備えているのだから。

 

 ミーティングが続く中、時間は経過する。

 

 そして。

 

 ランク戦、ROUND5。

 

 開始時刻が、もう間もなくまで迫っていた。

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