香取隊の狙撃手   作:デスイーター

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第五試合、開始

 

 

「こんにちは。今回、ROUND5の実況を担当する事になった月見よ。よろしくお願いするわ」

 

 最初にマイクを握ったのは、月見蓮。

 

 三輪隊のオペレーターである、怜悧な美貌の才女である。

 

 普段こういった場に顔を出す事が殆どない相手なだけに、会場の空気は浮ついている。

 

 同じく公の場にあまり出ないのは真木も同じだが、彼女と違いあからさまな攻撃性を表に出していないので、その端正な容姿に眼を奪われているC級もいた。

 

 なお、彼女の為人を知っている者達からすれば月見の女傑ぶりは熟知しているので、そんな愚は犯さない。

 

 知らぬが仏、というやつである。

 

「解説は、村上くんと奈良坂くんに担当して貰うわ」

「よろしくお願いします」

「よろしく頼む」

 

 月見に紹介され挨拶をしたのは、村上と奈良坂だ。

 

 村上は影浦についての解説の為に呼ばれた人員であり、奈良坂は東を始めとした狙撃手の面々に対する担当である。

 

 奈良坂と月見は同じチームではあるが、これは単にスケジュールが空いているオペレーターと隊員が被っただけである。

 

 前回の氷見と辻のように、どちらかに実況に際した問題があったワケではない。

 

 同じチームの組み合わせを呼ばないのは単にそういった事が多いだけで、明確な規定があるという事ではない。

 

 単に色々な視点から意見が貰えた方が面白いからと、桜子が担当者を選定する際にチームをバラけさせる事が多いだけだ。

 

 今回は夜に近界民の侵攻があるという事はランク戦の実況・解説システムの責任者である桜子には当然通達されており、ランク戦当日に襲撃が被る可能性があるという事で、ある程度配慮した結果でもある。

 

 村上は今日は夜の部の参加者なので防衛には参加しないし、奈良坂は迅や太刀川のように万が一の時に即座に動けるように詰めておかなければならない立場ではない。

 

 月見は必要とあれば重要な会議にも出席はするが、全体の差配に必須という役柄でもなく、尚且つ旧東隊のオペレーターとして彼女の実況の参加は外せなかった。

 

 桜子側としてはB級上位で東の試合を行うにあたり、なるべく彼に関連した隊員を実況か解説に付けたいという思惑があったのだ。

 

 相手が同じくB級上位の強豪であれば、東は相応に入り組んだ立ち回りをする。

 

 その解説をするには、彼を良く知る人員の調達は必須なのだ。

 

 そういう理由で今回選ばれたのが月見であり、彼女も特に断る理由はなかった為了承。

 

 こうして、この三人による実況・解説が成立したワケだ。

 

 今回は全員が物静かで冷静沈着な為盛り上がりには欠ける恐れがあるが、そもそもランク戦の実況や解説に盛り上がりは必須ではない。

 

 これは興行を求める試合ではなく、あくまでも技術向上や改善点の洗い出しを狙った訓練の一環なのだ。

 

 スポーツの試合のように場を盛り上がらせるのはあくまでも副次効果であり、本来の目的とはズレる。

 

 まあ、白熱した試合に実況や解説を付けるだけで普通に盛り上がるので、そこまで深く考えても仕方ないのであるが。

 

「今回の試合は、香取隊と東隊、影浦隊の三つ巴ね。香取隊は今台風の目みたいな立ち位置だし、注目の一戦じゃないかしら」

「そうですね。香取隊は今期、成長が著しいですから」

「ええ、前の試合ではそれを痛感しましたね。勿論、次は勝つつもりでやりますが」

 

 最初に彼女達が話題に挙げたのは、香取隊だ。

 

 今期で最も成長の著しいダークホースであり、ただでさえ高い香取の突破力に加え、その彼女が冷静さと指揮官適正を身に付けた。

 

 加えて若村や三浦の動きが良くなり、何より樹里という大駒が加わった。

 

 ROUND2では敗退したが、その後は快進撃を続けているので話題になるのも無理からぬ事と言えるだろう。

 

「けれど、今回は一筋縄じゃいかないと思うわ。東さんも影浦隊も、中々に癖が強いもの」

「ええ、東さんも影浦先輩も、生存力の高い駒ですからね。東さんは言わずもがなですし、影浦先輩も回避能力が高いですから」

「確か、東さんは今期は一度も落とされていないんでしたよね。狙撃手の立場でこれは、相当に凄い事だと思います」

 

 村上の発言に、会場がざわついた。

 

 東の試合は傍から見ると地味な立ち回りが多い為、注目しているC級は少ない。

 

 彼の凄まじさを理解している正隊員と異なり、C級にとって東はそこまで注視する相手ではないのだ。

 

 だが、此処で東の戦歴が明確になった事で、その見る眼も変わる。

 

 これまでの四試合で、一度も落とされていない。

 

 狙撃手という、一発撃てば後は狙われて落とされる確率が非常に高いポジションでありながら、全ての試合で逃げ切っている。

 

 これがどれ程の偉業かは、言うまでも無いのだから。

 

「東さんは、そう簡単には落とせないからね。四つ巴の戦場で他の三部隊が東さんだけを狙って追い込めば機会くらいは生まれるかもしれないでしょうけれど、その間に()()はされるでしょうからね」

 

 そう断言する月見の言葉に、一切の嘘やハッタリはない。

 

 実際、本気で東を落とすつもりならそれくらいの事は必要になる。

 

 その上で、落とされるまでに自分の仕事は完遂するだろうという信頼が東にはある。

 

 自分が狙われている事が分かれば、それを利用するくらいは息を吸うようにこなすのだ。

 

 もしも自分に狙いが集中していると理解すれば、それを逆用して点を取るくらいは普通にやるのが東である。

 

 彼に何も仕事させずに退場させるのは、まず不可能と思った方が良いだろう。

 

「それに、東さんは唯一影浦先輩に狙撃を当てた事のある人よ。そういう意味でも、影浦隊はこの人の事を意識せざるを得ないでしょうね」

「カゲも、東さんの相手はやり難いって言ってましたからね。無理もないでしょう」

 

 更に、東は影浦に対しても狙撃を有効打に出来る唯一の狙撃手である。

 

 彼の副作用(サイドエフェクト)を抜いて弾を当てに行けるのは、東以外にはまずいない。

 

 そういう意味でも、規格外な隊員と言えた。

 

「今回のMAPは、市街地Bね。場所によっては射線が通り難い事もあるけど、市街地Aと並んでスタンダードなMAPと言えるわ」

 

 

 

 

「市街地Bか。割とやってるトコだな」

「まあ、東隊が市街地Dや市街地Eを選ぶとも思えないしね。妥当な所でしょ」

 

 影浦隊は東隊のMAP選択を知り、特に変わったMAPではない事に安堵する。

 

 東本人ならばまず特殊な地形は選ばないが、小荒井は割とそういったギャンブルを好むので、そこだけが懸念事項ではあったが杞憂に終わったようだ。

 

 まあ、市街地Dも市街地Eも狙撃手に不利なMAPである以上、まず選ばれる事は無いとは思っていたのだが。

 

「じゃあ、戦い方はいつも通りで良いよね。下手に捻り様がないMAPだし」

「そーだな。ゾエはいつも通り、開幕アレで良いだろ。後は適当にカゲを殴り込ませりゃいいしな」

「それで、オレはいつも通り狙える相手を狙えば良いね」

「ああ、変にガチガチに決めるよりいつも通りがアタシ等は一番つえーしな。そっちのが断然良いと思うぜ」

 

 光の言葉に了解、とユズルは返事をする。

 

 色々考えてはみたが、なんだかんだでこれが自分達にとっては最適解なのだ。

 

 個々の隊員の地力の高さと、枠に捉われない臨機応変且つ大胆な戦い方が影浦隊(じぶんたち)の長所だ。

 

 アレコレ考えてガチガチに作戦を決めるよりも、戦術試合はアバウトにだけ決めておいて、後は臨機応変に立ち回る方が融通が利く。

 

 下手に複雑な戦術を決めるよりも、隊員の好きにやらせた方が結果的に最大のパフォーマンスを発揮出来るのが影浦隊というチームの性質なのだから。

 

 影浦は話し合いを横で聞きながら、ニヤリと獰猛な笑みを浮かべた。

 

「どちらにしろ、やる事は変わらねーよ。向かって来た奴は、全員ぶっ倒す。結局、それが一番手っ取り早えんだしな」

 

 

 

 

「東さんが得意な展示場とかにして来るかとも思いましたが、思いのほかスタンダードなMAPになりましたね」

「もしかすると、特殊な地形にしてそれを香取隊に利用されるのを嫌ったのかもしれません。これまでの試合で、香取隊は相手の選んだ地形を逆用する戦術を多く活用して来ましたからね」

 

 村上の言う通り、東隊が東の得意とする展示場ではなく市街地Bを選んだのは、香取隊に地形を利用されるのを嫌った為だろう。

 

 これまでの試合で香取隊は、相手の得意とする地形や選びそうな地形を看破し、その上で作戦を実行に移して勝利を手にして来た。

 

 展示場は確かに東の得意とするMAPではあるが、それはB級隊員にとっては周知の情報だ。

 

 ならば、それを読んで罠を仕掛けるくらい、今の香取隊ならば普通にやるだろう。

 

 村上は実体験をしてそれを知っているので、説得力が違う。

 

「市街地Aを選ばなかったのも、そういう理由かしらね。スタンダード過ぎると、それを読まれかねないもの」

「そうですね。その線は、充分にあるかと思います。別の狙いもあるかもしれませんがね」

 

 

 

 

「じゃあ、天候はそれで良いんだな?」

「はい。きっと、こっちのが良いと思いますっ!」

「そうか。奥寺もそれで良いのか?」

「ええ、一応利が無いワケではありませんから。そのあたりは、もう話し合っています」

 

 そうか、と東は頷いた。

 

 ミーティングの中で天候設定について話し合っていた小荒井と奥寺だが、どうやら彼等の中で決着が付いたらしい。

 

 最初は渋っていた奥寺であるが、最終的には折れたようだ。

 

 無論、そこに至るまで散々意見をぶつけ合ったのは言うまでも無い。

 

 東はそれを見守り、最終的に出た意見を尊重する。

 

 あくまでも隊長というよりは指導者としての立場に殉ずる、彼らしいやり方であった。

 

「お前達の中で納得したなら、俺から言う事はない。作戦は、さっき決めた通りで良いのか?」

「ええ、天候設定はあくまでも副次効果を狙ったものですから大筋は変わりません。流石に、そこを弄るようなら反対しています」

「分かった。小荒井も良いか?」

「はいっ! それでいきますっ!」

 

 ふむ、と東は頷く。

 

 今回の相手はどちらも厄介なチームだが、二人のやる気は充分以上。

 

 これなら、と東は内心で笑みを浮かべた。

 

(この試合、二人の成長の度合いを測る良い機会かもしれないな。そういう意味では、丁度良いマッチングだったかもしれんな)

 

 

 

 

「今回、木岐坂さんはどう動くのかしらね。そこが、結構大きい気がするわ」

「恐らく、軽々に爆撃を撃つような真似はしないでしょう。今回は、影浦先輩と東さんがいますからね」

「下手な動きをすれば、カゲならすぐに急行するでしょう。狙撃も通じないので、迂闊な真似が出来ない事は分かっている筈です」

 

 三人の言う通り、今回気になるのは樹里の立ち振る舞いだ。

 

 少なくとも、ROUND1でやったような無差別爆撃の類はまず無いと見て良い。

 

 あれは相手に弾幕を突破する手段と自分に届くだけの攻撃手段が無いが為に強行したものであり、狙撃を感知し弾幕を突破可能な影浦と、狙撃手の始祖である東相手に通用するものではない。

 

 間違いなく、そんな迂闊な真似をすれば即座に樹里にとっての致命傷となるだろう。

 

 今回の手合いは、そういう相手なのだから。

 

「だから、基本的な狙撃手としての立ち回りを遵守すると思います。彼女は狙撃手としては変わり種ですが、そういった基本は覚えている筈ですので」

 

 

 

 

「葉子、市街地Bだって。暴れちゃ駄目?」

「駄目よ。何度も言ったでしょうが。今回、下手な真似したら即首が飛ぶような相手なのよ? アンタが考え無しに暴れたらどうなるかくらい、分かるでしょうが」

 

 ────────なお、とうの樹里本人はその事実に不満たらたらであるのだが。

 

 なるべく派手に相手を吹き飛ばしたい樹里にとって、二試合続けて狙撃手の立ち回りを遵守するのは少々ストレスが溜まる。

 

 頭は悪くないのでそうしなければならない理由は分かるのだが、理解と納得は別だ。

 

 彼女としては派手に暴れたい欲が溜まっていた頃合いだったので、足掻きとして不満を漏らしたワケである。

 

「影浦先輩と東さん、どっちかがいる間は基本的に暴れちゃ駄目よ。その代わり、出番が来たらちゃんとコキ使ってあげるから」

「…………分かった」

 

 むぅ、と口を尖らせながらも樹里は一先ずの納得を示す。

 

 此処でゴネても仕方のない事くらい、樹里とて分かっている。

 

 今のは単に構って欲しかっただけとも言えるので、ちゃんと構って貰えた分は大人しくする、というワケだ。

 

 なんだかんだで気まぐれな猫らしい性格の、可愛らしい振る舞いと言えた。

 

「それで、例の作戦はどうするの?」

「勿論チャンスがあればやるわよ。その為に雄太のトリガーセットを弄ったんだし、やらない手はないわ」

「勿論、状況を見極めてにはなるけれど。有効な手段である事は確かだから、いつでもやれるように準備しておいて」

「了解」

 

 三浦はそう言って、頷いた。

 

 今回、作戦に臨むにあたり三浦はトリガーセットを微調整している。

 

 作戦会議の中で香取の立案した戦術だが、その思いも依らない作戦を聞いてひたすらに感心したのを覚えている。

 

 若村はあまりの内容に驚いて反射的に反論していたが、三浦としては否はないので最終的には実行に舵が切られていた。

 

「今回の相手は、どっちも一筋縄じゃいかないわ。奇策の一つや二つ、仕込んでおいて損はないでしょ」

 

 

 

 

「そろそろ時間ね」

 

 月見は時計を見ながら、静かに呟いた。

 

 会場が、静まり返る。

 

 嵐の前の、静けさ。

 

 これはそういう類のものであると、誰もが理解していた。

 

「全部隊、転送開始」

 

 月見の宣告により、転送が開始される。

 

 B級ランク戦、ROUND5。

 

 その試合が、開始された。

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