香取隊の狙撃手   作:デスイーター

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東隊Ⅳ

 

 

『ユズルー、そっちで何か見えっか?』

「さっきと変わらないよ。カゲさんは香取先輩と戦ってるけど全然決着付きそうにないし、若村先輩と奥寺先輩は今もやり合ってる。こっちは、若村先輩が優勢だけどね」

 

 ユズルは光からの通信に、溜め息交じりにそう答えた。

 

 影浦のチームメイトである彼は最初から狙撃手としての利点を存分に活かす事が出来る為、試合開始当初から高所に陣取って盤面を俯瞰していた。

 

 高所と言っても建物の屋上ではなく、とあるビルの上層階であるが。

 

 幾ら影浦がいるとはいえ、屋上のような如何にもな場所にいれば樹里の眼に発見される恐れがある。

 

 その為ユズルはそこそこに高い建物の上層階に陣取る事で、樹里の脅威への対処としつつ盤面の俯瞰を行っていたのだ。

 

 とはいえ、陣取る場所の高さを妥協した為、何もかも見えるというワケにはいかない。

 

 それでも影浦と香取の戦闘場所や若村と奥寺の戦っている場所は俯瞰出来ているが、他の相手については未だ発見出来ずにいた。

 

 影浦と香取の戦闘が膠着状態な事も相俟って、影浦隊としてはやり難さを感じてもいたのだ。

 

 光の声色が愚痴っぽくなっていたのも、無理からぬ事と言えるだろう。

 

『そっかー。今んトコはゾエにも手出しされる様子もねーし、奥寺がやられるまでは様子見しとくか?』

「東隊は、奥寺先輩を見捨てるって事?」

『あの状態の奥寺助けてもしょーがねーだろ。足が削れてるんなら連携しても足手纏いになるだけだし、それならワンチャン囮にして背後から奇襲かける方がいーだろ。それが通じるかどうかはともかくとしてさ』

 

 そう言って、光は淡々と現状を分析してみせた。

 

 現在、奥寺は足が削れた状態で若村の攻撃を何とか凌いでいる最中だ。

 

 あの状態では小荒井と合流しても満足な連携攻撃は出来ないだろうし、だったら囮にしての奇襲が精々だろうと彼女は判断している。

 

 割り切った考え方だが、あながち間違いとは言えない。

 

 ただ負傷した駒を見捨てるくらいなら、それを利用して点に繋げる。

 

 それは、ランク戦ではあり触れたやり方なのだから。

 

「じゃあ、オレ達としては────────」

『そーだな。予定通りでいーだろ。何かあれば、いつも通り臨機応変に、だな』

「了解」

 

 その上で、やるべき事は決めてある。

 

 ユズルはこくりと頷き、戦っている若村と奥寺の方へとスコープを向けた。

 

「…………勝つのは、オレ達だ。その為なら、幾らでも待ってやるさ」

 

 

 

 

「く…………!」

 

 奥寺は若村の銃撃を回避するが、ワイヤーを避けようと不安定な状態で着地した際に片足でバランスを取るのに失敗し、その場でつんのめる。

 

 そこへすかさず叩き込まれた銃撃を回避し切れず、奥寺は脇腹を弾丸で射抜かれた。

 

 傷口からは少なくないトリオンが漏れ出しており、このまま放っておけばトリオン漏出過多で緊急脱出するのも遠くはないだろう。

 

 集中力を総動員しての片足での回避行動は、既に限界が見えていた。

 

 むしろ此処まで保った方が奇跡なのだから、良くやった方だと言える。

 

(ったく、手傷負ったんだから油断しろよな。アレ、このまま削り殺す気満々じゃないか)

 

 こちらが手痛い手傷を負ったにも関わらず、むしろだからこそ若村は堅実な行動を変えなかった。

 

 決して無理をせず、こちらを防戦一方にする為だけの弾幕展開。

 

 そこに一切の遊びはなく、敢えてこちらを追い詰めようとする魂胆も、チャンスと見て勝負をかける様子も見られない。

 

 あくまでも堅実に、こちらのトリオンが切れるのを待つつもりらしい。

 

 確かにこのままなら遠からずトリオン漏出過多で緊急脱出(ベイルアウト)するだろうが、それにしたって前期の若村では考えられなかった冷静さである。

 

 以前の若村であればチャンスがあっても自分では無理だと尻込みするか、或いは焦って攻め込んで隙を晒して討ち取られるかのどちらかだった。

 

 今の若村は、違う。

 

 あれはあくまでも無理をする必要は無いと割り切り、堅実にこちらの逆転の目を潰しているだけだ。

 

 追い込まれている側の奥寺としては一番やって欲しくない挙動であり、その事実に舌打ちする。

 

 矢張り、楽をさせてはくれなさそうだと。

 

(一番簡単な方法は無理だな。となると───────────────)

『奥寺。こっちはいいぜ』

「────────来たか」

 

 奥寺は通信を受け、眼を細める。

 

 待ち望んでいた時が、訪れた。

 

 その眼は、雄弁にそう語っていた。

 

「始めるぞ。しくじるなよ」

『おうっ!』

 

 

 

 

「…………!」

 

 若村は、それを見て眼を見開いた。

 

 これまで強引な回避を続けて来た奥寺が、こちらの銃撃に対し回避ではなくシールドでの防御を選択した。

 

 若村の弾丸は全て奥寺のシールドに弾かれ、霧散する。

 

 傍から見れば、これは悪手だ。

 

 一度でも動きを止めてしまえば、後は防御の上から弾丸を叩き込まれそのまま削り殺される。

 

 足が削れている奥寺では、この状態から離脱する事は出来ないだろう。

 

「────────!」

 

 だがそれは、あくまでも()()()()であればの話だ。

 

 奥寺はグラスホッパーを展開し、それを片足で踏み抜いて加速。

 

 一息に、若村へ向かって跳躍した。

 

「…………!」

 

 若村はその行動に対し、横に跳びながら弾丸をバラ撒いた。

 

 片足の奥寺では、急な方向転換は無理がある。

 

 一度くらいなら出来るかもしれないが、相当無理な体勢になるだろう事は予想出来る。

 

 そうなったらそうなったで、その隙に改めて弾丸を叩き込めば良い。

 

 定石で考えれば、これで終わる。

 

「旋空弧月」

 

 しかし、乾坤一擲の勝負を仕掛けて来た奥寺に定石()()での対応は下策だった。

 

 奥寺はグラスホッパーで跳躍した状態で、旋空を起動。

 

 既に彼と若村の距離は、20メートルを切っている。

 

 先程までは射程外であったが、今ならば届く。

 

 防御不可、弧月使いの切り札と呼ぶべき拡張斬撃が若村へと襲い掛かった。

 

「く…………!」

 

 横薙ぎに振るわれた旋空を、若村は屈んで回避した。

 

 旋空は、基本的に防御を許さない攻撃だ。

 

 先端に近付けば近付く程威力が増すという特性を持つこの斬撃は、堅牢な強度を誇るエスクードすら斬り裂く絶対の矛だ。

 

 基本的に、防御という択で凌げる攻撃ではない。

 

 これが弧月使いであれば先端を避けて剣を接触させて軌道をズラすといった真似も出来るかもしれないが、若村はそもそも攻撃手ではないし並の者にそんな神業めいた真似が出来るワケもない。

 

 そんな事が出来るのは生駒や村上といったごく一握りの天才達であり、若村には縁遠い話だ。

 

 故に、此処で屈んでの回避を選ぶ以外の選択肢は彼には与えられていなかった。

 

「────────!」

 

 ────────そこに、背後から跳びかかる影があった。

 

 路地裏から飛び出して来たその人影の正体は、小荒井。

 

 バッグワームを解除しながら斬りかかって来た小柄な攻撃手は、既に旋空を起動させており防御不可の刃を若村目掛けて振り下ろしていた。

 

「────────」

 

 だが。

 

 そこへ、更なる影が現れる。

 

 その影は、三浦は。

 

 小荒井と同じように旋空を起動させた弧月を構え、空中に躍り出た彼目掛けて刃を振るった。

 

「────────やっぱ来たな」

「…………!」

 

 されど、小荒井に動揺はなかった。

 

 まるでそうなる事が分かっていたかのように、彼は攻撃を中断しグラスホッパーを起動。

 

 ジャンプ台を踏み抜いて大きく横に跳び、再度旋空を構え、放つ。

 

 狙いは当然、横槍を入れて来た相手である三浦だ。

 

(やっぱ、予想通りだった…………っ! 幾ら何でも、若村先輩が()()()()()()()()。あれは明らかに、小荒井の介入を想定した上で()()をかけていた動きだった)

 

 彼は、彼等は、最初から三浦の介入を想定していた。

 

 奥寺がそれを予測出来たのは、若村があまりにも落ち着き過ぎていたからだ。

 

 今の香取隊であれば、小荒井がこの場に介入して来る可能性くらいとうに見越していただろう。

 

 流石に銃手の若村では、攻撃手に隙を突かれて肉薄を許せば呆気なく倒される。

 

 奥寺相手に一方的な戦闘になっていたのは、偏に彼が足を削られていた事と、ワイヤー陣という優位環境あってのものだ。

 

 確かに今の奥寺ではまともな連携攻撃は出来ないが、それでも囮になるくらいは出来る。

 

 だからこそ彼を陽動に使い小荒井を突っ込ませたのであるが、その可能性を考慮したのならばもう少し周囲に気を配る様子を見せても良かった筈だ。

 

 しかし若村はあくまでも奥寺を逃がさない事を第一に動いており、周囲への警戒は若干おざなりに見えた。

 

 今更彼が油断からそうしているとは考えていない為、可能性は一つ。

 

 即ち、()()()()()()()()()()()()()()ケースだ。

 

 これならば若村が周囲への警戒を最低限で済ませていた理由も理解出来るし、向こうの魂胆も想像がつく。

 

 香取隊は恐らく小荒井の介入を予見した上で、あわよくば彼も落とすべく三浦を傍に配置していたのだろう。

 

 三浦は奥寺や小荒井と同じ、弧月使いの攻撃手だ。

 

 仮に小荒井が若村への攻撃に全神経を注いでいれば、横から奇襲で落とす事は容易かっただろう。

 

 だがこちらは、それを想定した上で行動していた。

 

 来るのが分かっている奇襲ならば、対処する事はそう難しくはない。

 

 今度は、こちらが詰め(リーチ)をかける番だ。

 

 三浦は小荒井と異なり地に足を付けているが、それでも旋空を相手にするなら回避以外の挙動は取れない。

 

 だから、彼が回避を行った瞬間、奥寺が旋空を用いて若村に斬撃を叩き込めた良い。

 

 最初から、二段構えの前提。

 

 何が何でも一人は確実に落とすという、奥寺達の執念の行き付く先。

 

 必殺へ繋がる斬撃が、三浦へと振るわれた。

 

「────────!」

 

 三浦はそれを、身体を捻り必要最低限の動きだけで回避した。

 

 奥寺達が想定した、大ぶりの回避ではない。

 

 あくまでも自身の動きを阻害せず、尚且つ敵の攻撃は躱せる最低限度の挙動。

 

 それのみに絞って防御不能の斬撃を避けた三浦は、すぐさま小荒井へと肉薄。

 

 眼を見開いて動揺していた彼に対し、弧月を振るった。

 

「く…………!」

 

 想定外の動きに動揺していた小荒井ではあるが、何とかギリギリで持ち直し弧月での迎撃を図った。

 

 見たところ、旋空を起動している様子はない。

 

 今更回避は難しいが、受け太刀での防御は出来る筈だ。

 

 シールドでは弧月を防ぎ切る事はまず出来ないので、この場合は受け太刀での防御を選択する他道はない。

 

 あと数秒待てば奥寺の援護も届くだろうが、それよりも三浦の攻撃が直撃する方が早い。

 

 故にこの攻撃だけは、小荒井の独力でどうにかする必要があった。

 

 彼の受け太刀の技術は左程ではないが、少なくとも一度の攻撃を凌ぐくらいであれば可能だ。

 

 そう判断し、小荒井は防御に回った。

 

「────────幻踊弧月」

 

「え…………?」

 

 ────────だが。

 

 それこそが、三浦の狙いだった。

 

 三浦の振り抜いた弧月はその形を変え、小荒井の弧月を()()()

 

 そして防御をすり抜けた刃が小荒井の胴へと叩き込まれ、両断。

 

 三浦の攻撃は直撃し、致死の一撃と成り果てた。

 

「幻踊…………っ!?」

 

 何が、起きたのか。

 

 その答えは、三浦の使用したオプショントリガーにあった。

 

 幻踊。

 

 それは旋空と同じく弧月に追加効果を付随させるオプショントリガーであり、刀身の形を変え相手の防御をすり抜ける形で使用される。

 

 しかし効果的に使用するには至近距離での鍔迫り合いを制する精密な動作と技量が不可欠であり、旋空と異なり手軽に飛距離を伸ばすような方法には使えない為、セットしている隊員は非常に少ない。

 

 三浦もセットはしていたものの前期までは隊のフォローに徹していた事も相俟って、殆ど使用した事はなかった。

 

 その知名度のなさが、今回は不意打ちと言う形で働いた。

 

 香取隊が成長したという情報を聞いていた奥寺達は、あくまでも香取隊のログを()()()()()に絞って見直していた。

 

 故に、三浦が幻踊を使用した事のある前期以前のログには眼を通していなかった。

 

 東隊との戦闘ではこれまで三浦が幻踊を使う場面がなかった事も相俟って、彼がこれを使える事を奥寺達は知らなかったのだ。

 

 成長したという情報が、前期以前のログを無価値なものとして結論付けてしまった。

 

 皮肉にも奥寺達の行った事前準備が、彼等の足を掬う事になったのだ。

 

『戦闘体活動限界。緊急脱出(ベイルアウト)

 

 機械音声が、小荒井の脱落を告げる。

 

 小荒井の戦闘体は崩壊し、光の柱となって消え失せた。

 

「小荒井…………!」

 

 その光景を見て舌打ちしながら、奥寺は何とか一矢報いようと旋空を起動させる。

 

 弧月を振り抜いた状態の今の三浦であれば、何とか旋空を当てる事は出来るかもしれない。

 

 そう考えて奥寺は上を取るべく跳躍し、旋空を振り抜かんと力を込めた。

 

「え…………?」

「は…………?」

 

 だが。

 

 その小荒井を、否。

 

 ()()()()()()、同時に一発の弾丸が貫いた。

 

 二発の攻撃が、別々に飛来したのではない。

 

 一発の弾丸が、二人の身体を()()したのだ。

 

 香取隊の若村と東隊の奥寺が攻撃を受けた事から、樹里でも東でも有り得ない。

 

 故に、この弾丸の主は、一人しか有り得ない。

 

「絵馬か…………っ!」

 

 絵馬ユズル。

 

 1万ポイント超えの技量を持つ、影浦隊の狙撃手。

 

 虎視眈々と機会を狙い続けていた彼が、このタイミングで二枚抜きを敢行したのだ。

 

 二つの標的を一つの弾丸で仕留める、神業めいた技量。

 

 これは、してやられたと言う他なかった。

 

『『戦闘体活動限界。緊急脱出(ベイルアウト)』』

 

 奥寺と若村、二人の戦闘体が同時に崩壊する。

 

 二つの光の柱が昇り、一気に二名の隊員が戦場から離脱した。

 

 

 

 

「成功したよ」

『よっしっ! 良くやったぜユズルッ!』

 

 それを成し遂げたユズルは、スコープ越しに自身の仕事の成果を見据えていた。

 

 最初から、この機会を待ち続けていた。

 

 東隊が小荒井をあの場に投入して仕掛ける事は、予め予測出来ていた。

 

 だからこそそれを待ち、得点の機会を狙っていたのだ。

 

 奥寺が焦って上に跳んでくれたお陰で、二枚抜きという望外の戦果も得られた。

 

 予想していた以上の成功を収めたので、後はこの場から退避するだけだ。

 

「え…………?」

 

 ────────されど。

 

 それは、許されなかった。

 

 遠方から飛来した弾丸が、彼の頭を撃ち抜いたが故に。

 

 致命傷を負ったユズルは、咄嗟にスコープ越しに弾丸が飛来した方向を見た。

 

「東さんか…………っ!」

 

 その先にいたのは、東春秋。

 

 東隊の狙撃手にして、始まりの狙撃手。

 

 何が起きたのかは、その時点で察した。

 

 東隊が残していた、奥の手。

 

 それは、想定外の第三者が介入した時に、その相手を東がカウンター狙撃(スナイプ)で撃ち抜くというものだったのだ。

 

 東は今の一撃ですぐさまユズルの居場所を看破し、逃走に移る前に狙撃を実行した。

 

 狙撃の瞬間、通常の狙撃手はスコープを覗いている為周囲への警戒が疎かになってしまう。

 

 東は狙撃手としてそれを熟知している為、ユズルがスコープから眼を離す前に仕留めるべく、弾を撃ち放ったワケだ。

 

 基礎の基礎。

 

 狙撃手のお手本のような動きを鮮やかな手並みで遂行された結果、ユズルは東に敗北したのだ。

 

「やられたね」

『戦闘体活動限界。緊急脱出(ベイルアウト)

 

 機械音声が、ユズルの敗北を告げる。

 

 自隊に大きな戦果を齎した狙撃手は、黎明の狙撃手の一撃によって戦場から離脱した。

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