「奥寺くんが小荒井君と組んで仕掛けたけど、小荒井くんは乱入した三浦くんが撃破。奥寺くんと若村くんはユズルくんに狙撃で二枚抜きされて、ユズルくんは東さんにやられたわね」
「目まぐるしく状況が変わりましたね。一気に四人も落ちてしまいましたし」
そうね、と月見は頷く。
一瞬で戦況が一変した状況を前に、会場は沸いている。
次々と状況が変わり、あっという間に四人も落ちたのだから無理もないだろう。
未熟なC級の面々からすれば、猶更である。
「順番に整理していきましょうか。まず、奥寺くんは多分、自分を囮にして小荒井くんに若村くんを仕留めさせる────────────────と、見せかけて三浦くんを釣り出して彼を落とすつもりだったわね」
「奥寺は、恐らく香取隊が三浦を近くに置いていた事を推測していたんでしょうね。だから、最初からそちらに狙いを絞って行動していたという事でしょう」
「そうでなくとも、奇襲が通ればそのまま若村を落とせば済む話ですからね。合理的だと思います」
発端となったのは、奥寺が自身を囮に三浦を引っ張り出し、そこを小荒井に落とさせる事を狙った事だ。
奥寺は現状のままでは自分が削り殺されるだけだと察し、自らを陽動として決死の作戦を練った。
それが、一見無謀な特攻を契機とした奇襲作戦だ。
まずは奥寺が特攻を仕掛け、小荒井と組む事で相手が伏せていた三浦という手札を開示させる。
若村はあくまでも銃手である為、攻撃手二人に接近されれば基本不利だ。
だからこそ、その窮地を脱する為には三浦という手札を解禁する必要があった。
そして、その上で本命の三浦をこそ、奥寺達は落としにかかったのだ。
若村への奇襲が通れば良し。
そうでなくとも、三浦を迎撃して落とし一点を得る。
彼等の作戦内容は、そのような形であった。
「けれど、逆に小荒井くんが落とされる結果になった。決め手になったのは、幻踊ね」
「ええ、幻踊弧月は
しかし、その作戦は三浦の伏せていた手札、幻踊によって覆された。
三浦のセットしていた幻踊の存在を失念していた小荒井は、その一刀により撃破されたのである。
「幻踊は、セットしている人が少ないトリガーね。米屋くんから概要は聞いているけれど、折角攻撃手がいるのだし説明をお願い出来るかしら。村上くん」
「分かりました。では、僭越ながら俺の方から説明させて貰います」
月見から話を振られ、了承した村上はこくりと頷く。
そして、幻踊の説明を始めた。
「幻踊は旋空と同じく、弧月とセットで運用されるトリガーです。旋空と異なり威力の上昇効果はありませんが、代わりに仰られていた通り刀身の変更を可能にします」
「じゃあ、使用者が少ないのは何故かしら? 聞くだけなら、便利なトリガーに思えるけれど」
「そうですね。トリガーの枠の問題もあると思いますが、第一に
まず、と村上は前置きして続ける。
「幻踊が効果的に使えるタイミングは、至近距離での鍔迫り合いです。相手の懐に入り込んで初めて有用に使えるトリガーで、そもそも攻撃手が射手や銃手相手にその間合いには入れればその時点で勝ちのようなものですから、射手や銃手相手には腐るのがネックなんです。旋空と異なり、こちらに射程の拡張効果はありませんからね」
村上の言う通り、幻踊の難点は使いどころが限定され過ぎる部分がある。
近付かなければ効果を発揮しないので、射手や銃手相手には無用の長物と化してしまうのだ。
旋空のように射程の拡張効果で遠くの敵を狙う事も、威力の増加で防御を叩き割る事も出来ないので、使うのであれば攻撃手相手の鍔迫り合いに限定されるのである。
「加えて、相手がスコーピオンの使い手であれば応用性の点で圧倒的に劣ります。向こうは身体の何処からでも自在に望んだ形のブレードを生やす事が出来るので、ただ刀身の形が変わるだけの幻踊とでは使い道の自由度に雲泥の差がありますから」
「それに、スコーピオン使いは基本的にスピードアタッカーが多いので、ヒット&アウェイが基本と聞きます。陽介も、スコーピオン使い相手には幻踊を
更に、相手がスコーピオンを使う攻撃手であれば応用性の点でどちらに軍配が上がるのかは明らかだ。
こちらは柄から伸びる刀身の形を変えられるだけなのに対し、向こうは好きなタイミングで身体の何処からでも自由な形状のブレードを展開出来る。
単なる応用性の観点から考えると、スコーピオンに勝る部分が何一つ無いのだ。
そこもまた、幻踊の使い勝手に難がある一因である。
「だから必然的に、幻踊を使うなら弧月使い同士の近接戦闘に限られます。また、急に刀身の形状が変わるワケなので、咄嗟にそれを扱えるだけの適応力も求められます。なので総括すると、使いどころが限定され、尚且つ扱いが難しいのが幻踊使いが少ない原因と言えますね」
「成る程、納得出来たわ。ありがとう」
いえ、と村上は会釈で返すが、月見がある程度分かった上で問いを投げかけて来た事くらいは理解している。
彼女は単に幻踊というマイナーな部類のトリガーの解説をする為に、話題を振ってくれたに過ぎない。
そもそも彼女がオペレーターを務める三輪隊には同じ幻踊使いである米屋がいるのだから、月見がその詳細を知らずにオペレートをしているとは思えない。
オペレーターは自部隊の隊員の持つ武装の情報は基本的に網羅している筈であり、出来る事や出来ない事に関しても聞き取りを行っているだろう。
故にこれは彼女なりのリップサービスに過ぎず、改めての確認の意味合いでしかないのだ。
鉄面皮のイメージが強い彼女であるが、求められた役割はこなすし、これで案外茶目っ気もある。
あの太刀川の幼馴染である時点で、色々と察して然るべきであるが。
「ともあれ、幻踊の一撃で小荒井くんは落ちた。でもその矢先に、奥寺くんと若村くんがユズルくんに纏めてやられてしまったわね」
「二人同時に撃ち抜いたあたり、中々やりますね。曲芸の域ですが、流石の技量と言えます」
話は、ユズルの二枚抜きの話題に移る。
一発の弾丸で、二人同時の撃破。
これがどれ程の偉業かは、言うまでも無い。
「運良く二人が同時に射線に重なっただけ、というワケではないのね?」
「ええ、あれは恐らく狙って撃ち抜いたのだと思われます。空中で移動している相手に当てるのは、想像以上に神経を使います。静止状態の的と動作状態の的を狙うのは、まるでワケが違いますから」
奈良坂の言う通り、あれは狙っても中々出来るものではない。
まず、前提として奥寺は若村を狙う為に上に跳び上がっていた。
急な加速を得て跳躍した相手に当てるには、相当な神経を使う必要がある。
いや、当てる事自体は出来るだろう。
「更に、絵馬は若村と同時に撃ち抜ける射線で撃っています。ただ跳び上がった相手に当てたのとは、ワケが違いますからね」
問題は、射線が重なっていた────────────────即ち、奥寺の身体の陰になる場所にいた若村を同時に射抜いた事だ。
一発の弾丸で二人が同時に撃ち抜かれた、という事は狙撃の瞬間ユズルには奥寺の身体が障害物となって若村の姿が見えていなかった筈なのだ。
要は壁の向こうの相手を狙う要領に等しく、当然ながら並の相手に出来る芸当ではない。
これだけでも、ユズルの技量の高さが伺えるというものである。
「最初から、絵馬はこれを狙っていたんだと思います。影浦先輩と戦っている香取はあからさまに狙撃を警戒していましたし、そっちを狙っても点は取れないと考えたのでしょう」
「誰を落としても一点、だものね。エース狙いに固執せず、点を稼ぐ事を重視したというワケね」
「そうですね。ランク戦は、点の奪い合いです。エースを落としてもそれ以外を落としても同じ一点ですし、失点をしたとしてもそれ以上の得点を取れば勝てます。だから極論、最終的に勝てれば経過がどのようなものであれ関係無い、とも言えますね」
ユズルが奥寺達を狙ったのは、偏に点に出来そうな相手が彼等しかいなかったからだ。
東は初撃を撃つまではまず見つからないと断言出来るし、香取は明らかに狙撃を警戒していた。
ランク戦が点取り合戦である以上、誰を落としても点が変わらないのであれば、より狙い易い方を狙うのが通理である。
最終的に得点で勝てれば良いのがランク戦なので、そういった割り切りも時には必要になるという事だ。
「ですがその絵馬も、最後には東さんに落とされました。これは、仕方ない面もあるでしょうね」
「東さんの居場所が判明していない時に撃ったのだから、ある程度は覚悟していたかもしれないわね。居場所が知れた狙撃手がいてその相手を狙える状況なら、東さんなら動くでしょうし」
しかしそのユズルも、最終的には東に落とされてしまった。
狙撃手はスコープを覗き狙撃を行う瞬間、周囲への警戒を行う事が出来ずに無防備になる。
バッグワームと狙撃銃を起動しているので両手が塞がっており、シールドも張れない為に防御すらも出来ない。
その状態の相手に狙撃を叩き込むのがカウンター
佐鳥のようにバッグワームを外してイーグレットの両手撃ちでもすれば話は別かもしれないが、あれは基本曲芸の類なので参考例にはならない。
スコープを見ずにしかもサイドエフェクト等の補助なしで標的に当てられる佐鳥がおかしいだけで、普通の狙撃手に当て嵌めて良い括りではないのだから。
「けど、これで狙撃手が一人やられて、東さんの位置も割れた。となれば」
「ええ、恐らく始まるでしょうね。この状況で、彼女が躊躇う理由はありません」
そう言って、奈良坂は画面を見据える。
「始まりますよ。あれが」
「────────来たか」
東は空の向こうから降り注ぐ光の雨を見て、眼を細めた。
MAPの右端から放たれたそれは、放物線を描いて東のいる区画に向かって降り注ぐ。
流星雨の名は、
合成弾を使用した、爆撃である。
「ふむ」
東はライトニングを構え、引き金を引く。
ピンポイントに自身の周囲に着弾するであろう弾のみを狙い撃ち、空中で起爆。
降り注ぐ弾を狙撃で迎撃するという神業めいた真似を難なくこなす東だが、流石に弾数の差はどうしようもない。
迎撃されなかった弾幕が次々と地面に着弾し、周囲の建造物を吹き飛ばしていく。
東の近辺のみは無事に残ったが、周囲は一瞬で瓦礫の山と化した。
そして。
流星雨は、一度では終わらなかった。
MAPの端から、再び光の雨が撃ち上がる。
煌めく流星雨が、再び破壊の嵐を巻き起こさんと降り注ぐ。
「流石に、あそこまで遠いと狙えないな。潮時か」
爆撃の発射地点は、MAPの右端に当たる。
東のいる地点からでは、イーグレットであろうとも届く距離ではない。
莫大なトリオンを用いた、超々遠距離からの爆撃。
射程範囲内であればカウンター狙撃でどうにか出来たが、流石に物理的に届かないのであればどうしようもない。
「撤退する。
東は速やかに撤退を決断し、自らの判断で緊急脱出を敢行。
始まりの狙撃手は、光の柱となって戦場から離脱した。
「案の定、こうなりましたね。とはいえ、東さんの事だから予想はしていたでしょうが」
「東さんでも、物理的に隠れる場所がなければどうしようもないものね。ユズルくんが落ちて、東さんの位置も割れたのならこうなるのが必然でしょう」
その光景を見て、月見は奈良坂と共に頷いた。
こうなる事は予め分かっていたので、そこに驚きはない。
ユズルが狙撃で落とされた時点で、これは予定調和だったのだから。
「もう一人の狙撃手であるユズルくんが落とされて、東さんのいる場所も分かったのなら、木岐坂さんが爆撃を躊躇う理由はないものね。東さんは常識外れの生存能力を持ってはいるけど、それはあくまでも基礎能力を徹底的に突き詰めた技術の成果。物理的に隠れる場所がなければ、流石にどうにも出来ないわ」
「加えて、あの超射程の爆撃ですからね。あの距離はイーグレットでも届かないでしょうし、無理もないでしょう」
これまで樹里が動けなかったのは、敵の狙撃手の位置が判明していなかったからだ。
迂闊に爆撃を仕掛けた結果、近くに狙撃手がいてそこを狙われれば眼も当てられない。
しかし、ユズルが落ちて東の位置が判明した以上、樹里が爆撃を行っても不意を撃たれる可能性がなくなった。
となれば、爆撃で東の炙り出しを行わない筈がない。
樹里には、12という出水と同値の豊富なトリオンがある。
相手の射程外からそのトリオンにあかせた超射程の爆撃を行えば、如何に東とて抗し得るものではない。
東の生存能力は、窮極まで突き詰めた基礎力を臨機応変に運用する事で実現する技巧の極地である。
故に物理的に隠れ場所を潰されればどうしようもない為、カウンターを貰わない前提であれば爆撃は有効な手段なのだ。
こうなれば東は、自ら撤退を選ぶだろう。
東を仕留めるのは不可能にしても、彼は無理が利かない場面であれば迷わず撤退を選ぶ潔さがある。
隊長としての東の目的は基本的に部下の育成なので、勝敗に拘る事もないからだ。
故にあの爆撃は東に撤退を選ばせる為のものであり、その目論見は成功したと言える。
これが東の撃破ともなれば一気に難易度は跳ね上がるのだが、彼に撤退を選ばせるだけであれば状況によっては可能となる。
そこは欲を張らずにこの方針に踏み切った、香取隊の英断と言えるだろう。
「これで、残るは香取隊と影浦隊のみとなりました。ポイントは影浦隊が二点、香取隊が一点ですね」
「ええ、香取隊はまだ三人いるとはいえ、カゲがいる限りどうなるかは分かりませんね。此処からも、見ものですよ」
勝負は、影浦隊と香取隊の一騎打ちとなった。
盤面が変化し、試合は佳境に突入しようとしていた。