香取隊の狙撃手   作:デスイーター

249 / 492
香取隊ⅩⅦ

 

 

『というワケよ。いいかしら?』

「ん、構わない。わたしは、わたしの仕事をこなすだけ」

 

 そう言って、樹里はこくりと頷いた。

 

 通信で華から作戦を聞き、彼女は一も二もなく承諾した。

 

 先程は東を逃がした事をぶーたれていた樹里であるが、香取が巧い具合に煽てた事で機嫌は既に直っている。

 

 今は再び華を通じてやるべき事を聞かされた事で、やる気に満ち溢れているようだ。

 

「タイミングは?」

『こっちで指示するわ。焦らないでね』

「ん、了解」

 

 樹里は華の要請に対し、素直に頷いた。

 

 不本意な指令であれば多少ごねたかもしれないが、幸い今回下された命令の内容は彼女にとっても望むところだった。

 

 今まで確たる戦果を挙げられていないと自認している分、フラストレーションの発散先が見つかってむしろやる気充分といったところだ。

 

 実際にはあの東を撤退に追い込むという巨大な戦果に貢献しているのだが、直接落とせたワケではないのでその自覚は薄い。

 

 樹里は若村程ではないが、眼に見える成果を求める傾向にある。

 

 以前の彼とは違って目に見えずとも隊に貢献する働き自体は否定していないが、どうせなら派手に相手を吹き飛ばしたいという思惑があるのは確かだ。

 

 自分の力に充分な自認がある分、その欲求は大きい。

 

 もしも幼馴染が隊長を務める香取隊にいなければ、突然の独断専行でチームに迷惑をかけていたであろう事は想像に難くない。

 

 樹里は性能(スペック)は高いが、操縦には()()がいる。

 

 それを熟知している香取達でなければ、まず乗りこなせないであろうじゃじゃ馬なのだ。

 

 一度、二度の命令であれば黙って従うかもしれないが、日常的に不本意な指示を繰り返されればパフォーマンスは落ちるし、反骨心が表に出て来る。

 

 ソロ時代はその場限りのチームという事で何とかなっていたが、彼女は見た目ほど使い易い駒ではないのである。

 

 樹里を本当の意味で使いこなせるのは、香取と華を措いて他にはいない。

 

 それが、十二分に分かるやり取りと言えた。

 

()()も用意したし、あとは機会を待つだけよ。頼んだわ、樹里』

 

 

 

 

「ハッ!」

 

 影浦は腕を振るい、しなる刃が香取へ襲い掛かる。

 

 香取はそれを紙一重で回避しつつ、サイドステップで跳躍。

 

 側面に回り、銃撃を敢行する。

 

「甘ぇ」

 

 だが、影浦はそれをマンティスで叩き落とす。

 

 最早回避する暇すら惜しいと、振り抜いた刃で再び香取を狙った。

 

 先程から、影浦はマンティスの使用を一切躊躇っていない。

 

 狙撃が来たとしても副作用(サイドエフェクト)で感知出来るからそれで良いと、完全に割り切った戦い方だ。

 

 マンティスは使用時に両攻撃(フルアタック)の状態になる為、迂闊に使えば大きな隙を晒す諸刃の剣だ。

 

 しかし、影浦はそれを己のサイドエフェクトによる攻撃感知と組み合わせる事でリスクを最小限に抑えている。

 

 たとえシールドが張れない状態であろうと、不意打ちを察知した瞬間影浦の肉体は反射的に迎撃態勢を取る。

 

 それは度重なる戦闘経験によって蓄積された反射行動であり、半ば自動的と言える精度でサイドエフェクトで感知した攻撃の軌道を読み取った動きを可能としている。

 

 先程まではその感知を突破する東がいたが故に狙撃に対し警戒態勢を取っていたが、最早その必要もなくなった。

 

 故に影浦は奇襲に対する備えをサイドエフェクトの感知に任せ、攻撃に全振りした状態で戦闘を行っている。

 

 更にギアが上がっている状態にある為、マンティスで弾丸を叩き落とすという離れ業も平然とやってのけているのだ。

 

「────────!」

 

 香取はこのままでは埒が明かないと悟ったのか、地を蹴り跳躍。

 

 そのままの勢いで、近くの路地に跳び込んだ。

 

 当然、影浦はそれを追いかける。

 

 罠があるのは明らかだが、此処で万が一にも香取を見失いたくはない。

 

 香取はどちらかといえばヒット&アウェイのゲリラ戦を得意としており、グラスホッパーがある以上瞬間的な機動力はあちらが上だ。

 

 技巧で上回っている為難なくいなせてはいるものの、その瞬発力は侮れない。

 

 故に一旦彼女に隠密に徹されると面倒な事になるのが目に見えており、罠があろうと食い破る前提で踏み込んだのだ。

 

「…………! 何処だ…………っ!?」

 

 だが、踏み込んだ先の路地に香取の姿はなかった。

 

 大して時間が経っていないのに、これはおかしい。

 

 そう、違和感を覚え警戒した刹那。

 

「…………!」

 

 影浦は己のサイドエフェクトの警鐘に従い、その場から跳び退いた。

 

 その一瞬後、彼のいた場所に向かって壁からブレードが突き出ていた。

 

 何が起きたかは、見れば分かる。

 

 もぐら爪(モールクロー)

 

 壁や地面を経由してスコーピオンを展開する発展技法であり、影浦も稀に使う戦法である。

 

「そこかっ!」

 

 影浦はその壁、正しくは塀の向こう側に香取がいると判断し、それを蹴り抜いた。

 

 トリオン体の脚力であれば、この程度の塀を壊す事など造作もない。

 

 容易く崩れ去った塀の向こう側には、紙一重でスコーピオンを抜き去り後退した香取の姿があった。

 

 もぐら爪は一見便利な技に見えるが、その実使()()()()()()()()()()()()()()()()という致命的な欠陥がある。

 

 動けなくなると言っても攻撃の際の一瞬だけだが、戦場でその一瞬がどれだけの意味を持つのかは自明の理だ。

 

 スコーピオンを展開している以上片腕は塞がっている為、両防御(フルガード)を行う事も出来ない。

 

 そんな状態は敵からすれば格好の的であり、迂闊に使えば自分の首を絞める諸刃の剣である。

 

 それを措いても奇襲性が高い為ここぞという時の手札としては有用だが、一歩でも退避が遅れていればそのまま攻撃を喰らっていた事だろう。

 

 香取の姿を視認した影浦が、マンティスを放つ。

 

 その攻撃に対し、香取はグラスホッパーを起動。

 

 ジャンプ台を踏み抜いて大きく跳躍し、家屋の向こうへ姿を消した。

 

「鬼ごっこのつもりか、オラァ!」

 

 影浦は、ノータイムで香取を追った。

 

 踏み込んだ家屋の出口を通り、背を向ける香取を追跡する。

 

 路地を駆ける香取は横目で影浦の姿を確認すると、後ろ手で銃撃を敢行。

 

 この狭い路地では、回避行動には限界がある。

 

 故にこその、銃撃。

 

 当てるのは無理でもシールドを張らせれば、それで充分時間稼ぎにはなる。

 

「甘ぇんだよっ!」

 

 だが、影浦はマンティスを振るい難なく香取の弾丸を斬り落とした。

 

 既にギアがかかっている影浦にとって、この程度の事は最早造作もない。

 

 影浦は刃を引き戻すと即座に腕を振るい、香取に向かって攻撃を放った。

 

 狭い路地で回避行動に制限がかかるのは、香取も同じだ。

 

 だからこそ、影浦は此処で躊躇わず攻撃を敢行した。

 

「────────!」

 

 そして。

 

 香取は案の定、上への跳躍を選んだ。

 

 横への回避が難しい以上、避けるには上に跳ぶ他ない。

 

「────────かかったな」

「…………!」

 

 されど、それこそが影浦の狙いだった。

 

 香取は、気付く。

 

 路地の向こう。

 

 そこでは突撃銃型(アサルトライフル)を構えた大柄な影────────────────北添が、こちらに照準を向けている事に。

 

 最初から、影浦()の狙いは香取を跳ばさせる事にあった。

 

 地面から離れてしまえば、空中での機動はグラスホッパーに頼らざるを得ない。

 

 しかしグラスホッパーには、弾が当たると霧散するという特性があった。

 

 以前ランク戦の折に偶然それに気付いていた北添は、影浦に対し香取に跳躍を強要させるよう頼んでいたのだ。

 

 自分が合流出来るこのタイミングで、勝負をかける為に。

 

 北添は重銃手(ヘビーガンナー)の呼び名の通り、高いトリオン量から繰り出される威力の高い銃撃が武器だ。

 

 適当メテオラの印象が強い北添であるが、炸裂弾(メテオラ)を撃ち出す為の擲弾銃ではなくアステロイドを射出するアサルトライフルを用いれば、相手の防御を力づくで突破する火力役に変貌する。

 

 北添の使用する突撃銃は他の銃手と比べて見た目がゴツく、相応に火力も高めに調整されている。

 

 無論弓場のように極端な威力重視の設計ではないが、通常の銃手と比べれば一発一発の威力は高い。

 

 当然、拳銃型を使う香取と撃ち合えばどうなるかは自明の理だ。

 

 香取が防御を選べば、シールドの上から削り殺される。

 

 グラスホッパーを使って逃げようとしても、足場ごと北添の銃撃が吹き飛ばす。

 

 自力での回避を選んだところで、影浦のマンティスからは逃れられない。

 

 詰み。

 

 傍から見て、明確にそうと言える状況であった。

 

 そして、北添に此処で手を緩める要因は微塵もない。

 

 北添は引き金を引き、突撃銃から無数の弾丸を撃ち放った。

 

「え…………っ!?」

 

 だが、香取はそのどちらもを選ばなかった。

 

 香取は中空の何もない場所に()()し、跳躍。

 

 一息に横に跳び、北添の銃撃を回避してみせた。

 

 何が、起きたのか。

 

 その答えを、二人は瞬時に察した。

 

「スパイダーか…………っ!」

 

 ワイヤートリガー、スパイダー。

 

 それがこの場に仕掛けられていたのだと、北添達は悟った。

 

 思えば、三浦が若村のいる戦場に介入するまでそれなりに時間がかかっていた。

 

 ならば、その間彼は()()にいたのか。

 

 言うまでも無い。

 

 こうして、通り道にワイヤーを仕掛けて回っていたのだ。

 

 後々、香取がそれを利用出来るように。

 

 三浦は、布石作りを欠かさなかったワケである。

 

「────────!」

 

 そして、奇襲を防いだ以上香取のやる事は決まっている。

 

 香取はワイヤーを蹴り、跳躍。

 

 そのまま、北添の場所に向かって滑空する。

 

「うわ…………っ!」

 

 北添は銃撃で応戦するが、香取は再びワイヤーを掴む。

 

 それを軸に方向転換し、銃撃を回避。

 

 遂には北添の側面に回り込む事に成功し、スコーピオンを振るう。

 

「く…………っ!」

 

 北添は咄嗟に銃口を香取に向けようとするが、遅い。

 

 香取は足払いをかけ、それによってバランスを崩した北添の持つ突撃銃の銃口はあらぬ方向を向く。

 

「────────!」

 

 その隙を、逃す香取ではない。

 

 容赦なく振り下ろした一刀により、北添の首を両断。

 

『戦闘体活動限界。緊急脱出(ベイルアウト)

 

 機械音声が、北添の敗北を告げる。

 

 北添のトリオン体は崩壊し、光の柱となって消え失せた。

 

「野郎…………っ!」

 

 目の前でチームメイトを落とされた影浦は、その返礼をすべくマンティスを振るう。

 

 この場には、ワイヤーが張り巡らされている。

 

 故に下手に動けば足を取られ隙を晒す可能性があり、その場にいながら距離の離れた相手を攻撃出来るマンティスを選んだのは自明の理と言える。

 

 影浦のサイドエフェクトはあくまでも相手の感情を察知する能力であり、設置されたワイヤーは言うまでも無く対象外だ。

 

 そういう意味では、この場に踏み込んだ事そのものが影浦の失態と言える。

 

 どんな策があろうと踏み潰す気でいたが、ワイヤーをこの場に張られていた可能性に気付かなかったのは痛恨と言える。

 

 だが、だからといってイコール敗北とはならない。

 

 マンティスを振るえばその通り道のワイヤーは切断する事が出来る為、やりようはあるからだ。

 

 ワイヤーさえなくなってしまえば、影浦が香取に負ける事はない。

 

 少なくとも、この場で香取を仕留める事さえ出来れば相手に勝ちの目はなくなる。

 

 そう考えての、攻撃の敢行。

 

「…………!」

 

 だがその目論見は。

 

 上空から降り注ぐ、光の雨を見た瞬間崩れ去った。

 

「チィ…………ッ!」

 

 影浦は後方に向け、駆け出した。

 

 業腹だが、前に進めば何処でワイヤーに引っかかるか分からない。

 

 故にこそ、今は後退し場所を選んで仕切り直す。

 

 一度でもあのハウンドの雨に捕まれば、そのまま削り殺される。

 

 樹里はハウンドは片方にしかセットしていなかった筈だが、あの少女は試合ごとにトリガーセットを毎回のように変えて来るという性質がある。

 

 前回の試合で使っていなかったからといって、今回もそうであるとは限らない。

 

 もしもハウンドを両腕にセットしていたのであれば、二宮ばりの弾幕が降り注ぐ事になる。

 

 シールドの耐久力も無限ではない為、そうなれば最早詰みだ。

 

 この場のワイヤーを吹き飛ばしてはあちらの優位が崩れる為、あれは間違いなく合成弾ではなく通常弾。

 

 即ちハウンドであると当たりを付けた影浦は、防御ではなく退避を選択した。

 

「な…………っ!?」

 

 だが。

 

 その推察は、自らのサイドエフェクトが感じ取った攻撃範囲を察知した瞬間間違いであったと知る事になる。

 

 影浦は咄嗟にシールドを張り、そして。

 

 降り注いだ弾丸が()()した瞬間、大規模な爆発が周囲を席捲した。

 

 轟音が一面を支配し、路地が爆破によって吹き飛ばされる。

 

 そんな中、影浦はシールドの中信じられないものを見た顔で仰天していた。

 

「────────マジかよ。ワイヤーごと吹き飛ばしやがった」

 

 あの場の最大の優位点であったワイヤー陣を、自ら吹き飛ばした。

 

 その暴挙に対し、流石の影浦も眼を剥いていた。

 

 確かに影浦の気付きが一歩でも遅れていれば爆発に巻き込まれてやられていたが、だからといって自分達の優位を簡単に投げ捨てるかの如き大胆な策には目を見張る。

 

「────────!」

 

 しかし、驚いている暇はない。

 

 爆発に乗じ、爆煙の中から迫る香取の姿が見える。

 

 恐らく、こちらの混乱が収まる前に奇襲をかけて勝負を決めるつもりだろう。

 

 だが、動揺はしたがそれだけで隙を晒す真似はしない。

 

 影浦は迫り来る香取を迎撃すべく、スコーピオンを構えた。

 

「…………っ!?」

 

 されどその瞬間、影浦の副作用(サイドエフェクト)()()を感じ取った。

 

 影浦の肌には、自身の頭を狙う一筋の弾道が突き刺さっていた。

 

 その攻撃軌道からして、間違いなくこれは狙撃に依るもの。

 

(木岐坂か…………っ!)

 

 しかし、そうと分かれば慌てる事はない。

 

 影浦は咄嗟に一歩右方向へ移動し、その射線を躱す。

 

 これでもう、狙撃に当たる心配はない。

 

 如何なる精密狙撃であっても、影浦にとっては来るのが分かっている攻撃でしかない。

 

 故に、彼にとって狙撃は脅威足り得ない。

 

「は…………っ!?」

 

 ────────その、筈であった。

 

 狙撃の射線を避けた、影浦。

 

 いつも通り回避行動の末、敵の弾は空を切る。

 

 その筈だった。

 

 されどその左肩に、遠方から飛来した弾丸が着弾していた。

 

 何が、起きたのか。

 

 流石の影浦でも理解が及ばず、そして。

 

「…………!」

 

 影浦は、見た。

 

 爆煙が晴れた、その向こう。

 

 その先には、屋根の上でイーグレットを構える()()の姿があった。

 

「…………っ! そういう、事か…………っ!」

 

 影浦は、理解した。

 

 彼の副作用(サイドエフェクト)は、相手の感情を察知する。

 

 故に攻撃が行われる際には相手が行動に移そうとしている攻撃の軌道が肌に突き刺さり、結果として不意打ちだろうと狙撃だろうと感知出来る。

 

 だが、もしも。

 

 相手が当てるつもりでも、()()()()()()()()()()()()()()どうなるか。

 

 その場合、向こうが思い描いていた軌道の通りに弾が飛ばない事も、有り得なくはない。

 

 思えば、たった今までこの場には爆煙が残留しており、影浦の姿はシルエットでしか分からなかった筈だ。

 

 三浦との距離は相応に離れている為、狙撃銃を触った事など今回が初めてであろう彼が正確な軌道で狙撃出来るワケもない。

 

 結果として未熟な腕で狙撃を断行した三浦の弾が、影浦の意表を突く幻影の弾(ファントムバレット)となった。

 

「チ…………ッ!」

 

 既に、香取は間近まで迫っている。

 

 肩をやられ、左腕はもう使えない。

 

 影浦は残る右腕でスコーピオンを繰り出し、香取を迎撃せんとする。

 

 この至近距離では、マンティスを使う意味はない。

 

 むしろリーチが持ち味であるマンティスは、格闘戦の距離では邪魔になる可能性すらある。

 

 だからこそ影浦はスコーピオンでの迎撃を選択し、香取を迎え撃った。

 

「────────!」

 

 されど香取は影浦の左側に回り、右腕でスコーピオンを振り抜いた。

 

 左腕が使えない現状、右腕から放つ影浦のスコーピオンではこの攻撃には対応出来ない。

 

 左の死角を利用した、詰めの一手。

 

「…………!」

 

 しかしそれは、影浦が左腕から展開した扇状のスコーピオンによって防がれた。

 

 左腕そのものは動かせずとも、そこからスコーピオンを出す事は出来る。

 

 その仕様を利用し、影浦は香取の攻撃を防いだのだ。

 

 されど、それで終わる香取ではない。

 

 香取はすぐさまホルスターから拳銃を抜き放ち、影浦に銃口を向け撃ち放った。

 

 距離が近過ぎる為、回避は出来ない。

 

 だが、防御は充分に間に合う。

 

 影浦はシールドを張り、その弾丸への解答とした。

 

 この攻撃さえ凌げれば、反撃が可能だ。

 

 片腕を失ったのは痛いが、その程度力技でどうとでもなる。

 

 まだ、戦える。

 

 影浦は、そう考えて笑みを浮かべた。

 

「は…………?」

 

 されど。

 

 その目論見は、瓦解する事になる。

 

 香取の銃撃。

 

 その軌道をなぞるように遠方から飛来した、()()()()()によって。

 

 飛来した弾は容易く影浦のシールドを叩き割り、その胸に風穴を空けた。

 

 銃撃など置き去りにする、高威力の狙撃。

 

 それが、影浦の身体に突き刺さった攻撃の正体だった。

 

「…………! そういう、事か…………っ!」

 

 影浦は、何が起きたのかを理解した。

 

 樹里だ。

 

 今度こそ狙撃手である樹里が、遠方から影浦を狙い撃ったのだ。

 

 しかも、香取の弾道をなぞる形で撃つ事で影浦の副作用(サイドエフェクト)の感知を潜り抜ける形でだ。

 

 影浦は確かに、その攻撃の軌道は感知出来ていた。

 

 しかし目の前で香取が銃口を向けていた為、その突き刺さる感情の主が彼女一人だと誤認していたのだ。

 

 樹里は、そこを突いた。

 

 彼女は己が強化視覚(サイドエフェクト)を十全に利用し、香取の弾道と重なる形で弾が飛来するように狙撃を実行した。

 

 それにより影浦の副作用(サイドエフェクト)を騙す形で潜り抜ける事が可能になり、致死の一撃を見舞う事に成功したのである。

 

「────────やるじゃねぇか」

『戦闘体活動限界。緊急脱出(ベイルアウト)

 

 影浦は恨み言ではなく称賛を口にし、不敵な笑みを浮かべる。

 

 同時に彼の身体が罅割れ、機械音声と共に四散。

 

 影浦は光の柱となって消え失せ、ROUND5の試合はこうして幕を閉じるのだった。

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。