香取隊の狙撃手   作:デスイーター

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第十一幕~ガロプラ侵攻/Bad Omen of White Girl
ガロプラ②


 

 

「ちょ、今夜近界民(ネイバー)の襲撃があるって、何でこんなタイミングで────────!」

『重々済まないと思っているが、こちらにも事情があるんだ。少し、説明を聞いて欲しい』

「わ、わかりました…………」

 

 突然の宣告に食って掛かる香取であったが、忍田の説得で何とかそれを押し留める。

 

 思えば反射的に噛みついてしまったが、相手が忍田でなければ問題になっていたであろう発言だ。

 

 どうやら向こうには今の所咎めるつもりはないらしいので、間一髪である。

 

 今回は向こうも急な話という事で、斟酌してくれたといった所だろう。

 

『まず、襲撃と言っても先日の大規模侵攻のようなものではない。あの時とは規模の面では小さく、市街地に被害が出るような事にはまずならない。そこは安心して欲しい』

「…………そうですか。それでは、通達が当日になった理由はなんでしょうか?」

『今回の防衛戦は、可能な限り部外秘で行うと決定された。その為の措置だ』

 

 成る程、と華は頷く。

 

 今、忍田は「市街地に被害が出るような事はない」と断言した。

 

 この発言の根拠は、間違いなく迅による未来視だ。

 

 迅は未来視の副作用(サイドエフェクト)を持っており、未来の情報を先取りで識る事が出来る。

 

 忍田がああ言った以上、彼が市街地に被害が出るような事にはならないと伝えたに違いない。

 

 だからこそ、部外秘での防衛戦という選択肢が出て来たのだ。

 

 流石に先日の大規模侵攻のような市街地にまで被害が及ぶケースでは、部外秘などと言ってられる筈もない。

 

 迅による担保があって初めて行える、一見すると暴挙とすら思える采配と言えた。

 

「部外秘の理由は、市民感情でしょうか?」

『そうだ。先日の大規模侵攻の事もあり、三門市の方々は過敏になっている。この状況で再び侵攻があると知れば、不安からボーダーへの不満を噴出させる恐れがある。そうなれば遠征にも悪影響が及ぶ可能性がある為、という事だ』

 

 そして、理由の方も想像の通りであった。

 

 先日の大規模侵攻の記憶は、まだ新しい。

 

 市民に犠牲者が出る事こそなかったものの、市街地にまで破壊が及び夥しい数のトリオン兵が街を闊歩する光景は住民の眼に焼き付いている。

 

 その記憶から神経が過敏になっている今の三門市民が、こんなタイミングで侵攻があると知らされればどうなるか。

 

 そこは、言うまでも無いだろう。

 

 根付の努力によって最低限に抑えられているとはいえ、昔からボーダーアンチというものは存在する。

 

 そういった者達にとっては、今回の事は格好の攻撃材料となるに違いない。

 

 質の悪い者が多い事で有名な三門市のマスメディアも、こぞって煽り立てるだろう。

 

 流石にそうなれば遠征への悪影響も考慮せざるを得ず、部外秘という決定が下されたのだろうと考えられる。

 

「でも、ならなんで通達がこんな直前になったんですか? 防衛に参加するチームに関しては、事前に知らされているべきだと思いますけど」

『事前に通達すれば、ランク戦の際にそちらに注意が向いて本来のパフォーマンスが発揮出来ない恐れがあった。勝手ながら、そのあたりを考慮して今日の昼間にランク戦に参加する部隊に関しては試合終了後の通達とさせて貰った』

 

 だが、と忍田は続ける。

 

『君の言う通り、誠意に欠けた面があったのは事実だ。申し訳ない』

「い、いえ、そういう事なら仕方ないですし」

『そうか。すまない』

 

 忍田はそう言って頭を下げ、香取はむぅ、と言葉に詰まる。

 

 思っていた以上に忍田が低姿勢で謝って来たので、気勢が削がれた形だ。

 

 香取は沸点が低く喧嘩っ早いが、基本的に善性が根付いている。

 

 相手に誠意を以て返されると、流石に矛を収めざるを得ないのだ。

 

 真っ向から敵意をぶつけて来る相手であれば幾らでも噛みつけるが、先に折れた相手に対してはこちらも折れるしかない。

 

 そういう意味で、忍田の対応は百点満点と言えた。

 

 巧いな、と華が感心するくらいには、忍田の対処は的確なものだったのである。

 

 こうなると、香取はもう余計な口は出さないだろう。

 

 納得してしまった事に対していちいち愚痴を言う程、彼女は浅慮ではない。

 

 一度同意を示してしまったならば、後にまでそれを引きずらない。

 

 それは香取のポリシーのようなもので、彼女の根の誠実さが伺えるというものだ。

 

『勿論、今夜の防衛に参加した部隊には臨時の手当を支給するし、今後のシフトも最大限配慮するつもりだ。何か要望があれば受け付けるし、可能な限りの補填はすると約束しよう』

「了解しました。では、()()()()の要求は通ると思っても構わないでしょうか?」

『ああ、()()()()。あくまでも可能な範囲でだが、ある程度は配慮しよう』

 

 了解、と華は小さく頷く。

 

 そして、脳内で小さくガッツポーズした。

 

 これで、いざという時の()()が通り易くなったと見て間違いない。

 

 以前の会話を鑑みても、忍田本部長が心的な立ち位置としては協力的な立場にある事は分かっている。

 

 ならば、此処で()()を明言しておけば乗って来るだろうと踏んでいたのだが、想定の通りであった。

 

 向こうも承知の上でこの返事をしたのであろうし、概ね華の目的は達成されたと言っても良い。

 

 それを考えれば、今回の事は大いにプラスとなった。

 

 むしろこのタイミングでの告知を選んだ事を感謝しても良い、と思うくらいには華の機嫌は良かった。

 

 何事も、想定通りに進むのは気持ちの良いものなのだから。

 

『すまないが、これから他の部隊へも通達を行わなければならない。このあたりで失礼する』

「了解しました。ありがとうございます」

『では、詳細な防衛任務の内容は追って連絡する。疲れているだろうがよろしく頼む』

 

 そう言って、忍田は通信を切った。

 

 室内に、静寂が満ちる。

 

 横で話を聞いていた若村や三浦はどう言って良いか分からない様子であたふたとしており、樹里は我関せずを貫いている。

 

 彼女にとってはこのタイミングでの防衛任務の知らせも、特に心を割く理由にはならないのだろう。

 

 仕事ならばやるだけだし、やるべき事は変わらない。

 

 ならば自分が留意する事などないと、割り切っているのだろう。

 

 このあたりの達観は彼女の強みと言えるが、傍から見ると不真面目に見えてしまう事もある為、善し悪しと言える。

 

「さて、聞いての通りよ。忍田本部長の言い方からして、多分だけど今回も人型が出て来ると予想されるわ。人型と当たるかどうかはともかくとして、当たった場合はどんなトリガーを使って来るか警戒が必要そうね」

「人型、か。またヒュースのようなのが出て来るワケ? あのジジイみたいな化け物はもう勘弁よ?」

「流石にあのレベルが早々出て来るとは思ってないけど、それでも近界のトリガーは未知だから警戒するに越した事はないと思う。トリオン兵も組織立った運用をして来るだろうし、侮って良い相手じゃない事は確かよ」

 

 華は先の大規模侵攻の経験から、皆に注意喚起を促した。

 

 単独の部隊でヒュースという人型を倒したという功績がある香取隊とはいえ、相手は未知のトリガーを持った近界民(ネイバー)だ。

 

 一筋縄で行く筈もないし、初見殺しというものはそれだけで脅威だ。

 

 ボーダーのランク戦と異なり相手のトリガーがどんな性質のものかが分からない為、どうしても初見殺しの要素が付き纏う。

 

 その上で対処するとなれば、ヒュースの時のように最初は見に徹しつつ情報を解析する必要があるだろう。

 

 そのあたりのノウハウはヒュース戦で習得した為、やって出来ない事はない筈だ。

 

 流石にヴィザのような例外的特機戦力相手ではそうも言ってられないが、あのレベルが何人もいるようならこの世界はとっくの昔に滅んでいる。

 

 あれは近界の中でも異例中の異例と見るべきであり、たとえるならば迅や東のような替えの利かない特別な存在である可能性が高い。

 

 今回の侵攻の背景は分からないが、あれが二度来るというのは流石にないと思いたいものだ。

 

「もしかしたら尖兵くらいはもう送り込んで来てるかもしれないし、くれぐれも注意しないとね」

 

 

 

 

「よし、撃破だな」

追尾弾嵐(ハウンドストーム)が巧く決まったな。これは自慢出来るぞ」

 

 同日、警戒区域。

 

 そこでは間宮隊が、機能停止したモールモッドを前に胸を張っていた。

 

 妙に上機嫌なのは、モールモッドを倒せたからだろう。

 

 正隊員であれば容易く倒す事の出来るモールモッドだが、B級下位の中では単独で倒せない者達がそれなりの数存在する。

 

 そんな中、三人がかりのハウンド集中攻撃、間宮隊命名ハウンドストームで何とかモールモッドを倒せた事は、彼等からすれば偉業なのだろう。

 

 B級中位以上なら単騎で軽く倒せるので単なる撃破カウントにしかならないモールモッド駆除も、B級下位の面々からしてみれば誇るべき功績と見られるワケだ。

 

 この程度で満足しているあたりが彼等の限界とも言えるが、先の大規模侵攻で鉄火場を経験した為、ある程度の胆力は備わっている。

 

 以前はモールモッド撃破は安定しなかった間宮隊だが、今回の撃破はその経験が活かされた形となる。

 

 そういう意味で成長していないワケではないので、今後は要努力だろう。

 

 まあ、三人がかりでようやく、といった所で地力の低さは如何ともし難いのであるが。

 

「けど、今日の昼の防衛シフトはB級下位(おれら)ばっかだよな。何か理由でもあるのか?」

「偶然じゃね? 単に予定が空いてなかったとかそこらだろ」

「そうだな。気にしても仕方ないだろ。戻るぞ」

 

 今夜の防衛任務に関して知る由もない間宮隊の面々は、多少の疑問を口にしつつも帰路に着く。

 

 その背後。

 

 破壊されたモールモッドの内部に、犬型のトリオン兵が目を光らせていた事には、彼等はついぞ気付かなかった。

 

 

 

 

「弱いね。今のが玄界のレベルなら楽なんだけど」

「流石に下の下くらいじゃないか? 多分、雛鳥に毛が生えたレベルだと思うぞ。昨日の槍使いや銃使いとは雲泥どころじゃない差だしな」

 

 ガロプラ、遠征艇内。

 

 そこでは犬型のトリオン兵、ドグを経由した映像で間宮隊の様子を眺めていたガロプラ兵達の姿があった。

 

 既に数体のドグをモールモッドやバムスターの内部に格納する形で送り込んでおり、こうして諜報活動を行っているワケだ。

 

「探知トリガーは無効化してますが、これ以上は監視の眼にかかりますね」

「やはり、忍び込むのは難しいか」

 

 オペレーターのヨミの言葉に、隊長のガトリンは重々しく頷く。

 

 画面には、ボーダーの設置した監視装置の姿が映し出されている。

 

 あわよくば秘密裏の潜入としたかったのだが、基地に近付くとなるとどうしても監視網を潜り抜ける必要があるのだが、穏便にそれを突破出来るルートがないのだ。

 

 アフトクラトルの命令は遂行しなければならないが、可能であれば必要以上に玄界との間に余計な波風を立てたくはない。

 

 襲撃をする以上全く遺恨が残らないようにする事は出来ないが、アフトクラトル以上のヘイトを買っては元も子もない。

 

 元よりアフトクラトルからは都合の良い身代わりの人柱(スケープゴート)として見られている以上、素直にその思惑に乗るつもりもない。

 

 なので可能な限り交戦を避ける侵入ルートがあれば良かったのだが、そうも言っていられないようだ。

 

「相当、警戒されてる気はしますね」

「アフトから情報が洩れてんじゃねーだろな」

「そこを気にしても仕方がないだろ。アフトだって、ある意味では今回の作戦は成功して欲しいんだし」

 

 それを知らせている以上、隊員達の雰囲気が刺々しくなるのも無理はない。

 

 自分達は都合の良い使い捨ての陽動役だと知らされれば、こうもなる。

 

 モチベーションの低下は避けられないが、かといってこちらの意図を知らせないままだとレギンデッツあたりは普通に雛鳥の拉致に舵を切りそうなので、通達は必須だった。

 

 痛し痒しだな、とガトリンは心の中でため息を吐くのだった。

 

「強行突破、しかないでしょうね」

「そうだな。トリオン兵は?」

「準備出来てます」

 

 よし、とガトリンは頷く。

 

 周囲に確認を求めると異議なし、と返答がある。

 

 これならば、問題はないだろう。

 

 半ば駄目元だった第一プランは崩れたが、それならば本命の第二プランで行くだけだ。

 

 あのアフトクラトルを撃退した玄界を、甘く見る事など出来ない。

 

 何せ、アフトクラトルの遠征部隊にはあのヴィザやハイレインがいたのだ。

 

 かつて、ガロプラを襲ったハイレイン達の脅威は彼等の中にしっかりと刻まれている。

 

 飛び回る無数の白い鳥を従える、冠の主。

 

 白い鳥によって次々と仲間がキューブに変えられていき、こちらの攻撃も根こそぎ無効化される様は悪夢のようだった。

 

 そんな彼等を、玄界は正面から撃退したのだという。

 

 それだけで、警戒度は最大限に設定すべきだと断言出来る。

 

 可能な限り恨みは買いたくはないが、やるべき事はやらねばならない。

 

 属国故の葛藤と言えるが、何よりもまず自国の安全の確保が最優先。

 

 今回の作戦は、細心の注意を払って実行に移すべきだろう。

 

「事前の通達通り、例の「遺物」に関してはそれらしい相手を見付けたら基本的に交戦は禁止だ。場合によっては撤退も視野に入れて構わない」

「その「遺物」の少女が前線に出て来たら、どうしますか?」

「そうなったらそうなったで、撤退の言い訳が出来る。アフトクラトルも、「遺物」を前にして作戦を断念したと言えば呑み込まざるを得ないだろう。それだけ、彼等にとってククロセアトロの名は重いのだからな」

 

 了解しました、とラタリコフは頷いた。

 

 他の面々も異議なしと見て、ガトリンは咳ばらいをした。

 

玄界(ミデン)の部隊が交代する時間を狙うぞ。日が沈んだら仕掛ける。「目標(ターゲット)」は、玄界(ミデン)の遠征艇だ」

 

 そして、その時が来る。

 

 ガロプラによる侵攻が、始まろうとしていた。

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