香取隊の狙撃手   作:デスイーター

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ガロプラ③

 

 

「…………!」

 

 ボーダー本部、その一室。

 

 この日の為に詰めていた面々が揃う中、迅は己が未来視()に映る光景を視て立ち上がった。

 

 視界内に無数に展開される、未来の映像ウィンドウ。

 

 その中に、無視出来ないモノが混ざっていたからだ。

 

(来たか。けどこれは…………っ! いや、時間が無い。動かないと)

 

 懸念すべき事項はあるが、今は動かない事にはどうしようもない。

 

 事態は、既に始まっているのだから。

 

「忍田さん、敵が来ます。パターンは一応「A」で」

「…………! 了解した。予定通り人員を配置する」

 

 迅の報告を受け、忍田が動き出す。

 

 横で聞いていた太刀川もニヤリ、と笑みを浮かべつつ迅を見た。

 

「パターン「A」って事は、本部基地防衛だな。迅、何か面白そうな未来は視えたか?」

「太刀川さんがぶった斬られる未来は、視えたよ」

「…………! へぇ」

 

 迅の言葉に太刀川は笑みを深め、小南は眼を見開いた。

 

 あの太刀川が、斬られる。

 

 流石にそれは、無視して良い未来(よげん)ではなかったからだ。

 

「油断出来ない相手って事ね」

「ああ、小南はそっちに行ってくれ。おれも一仕事終わったら向かう。それから、京介の奴も連れてけ」

「あれ? 連れてくのって弓場ちゃんじゃなかったっけ?」

「弓場ちゃんには別でやって貰う事が出来たからね。とにかく頼んだ」

「了解。アンタもヘマすんじゃないわよ」

 

 小南はそう言って戦闘体に換装し、部屋を後にする。

 

 既に太刀川は我先にと目的地へ向かっており、意気軒高なのが見て取れる。

 

 開戦の気配を感じながら、迅はすっと前を向く。

 

「心配すべき事は多いけど、やれる事をやるしかないか。頼んだよ、皆」

 

 

 

 

(ゲート)発生。北東方向、距離400。レーダーに多数の反応あり、近界民(ネイバー)による計画的侵攻と思われます」

 

 沢田の声が、司令室に響き渡る。

 

 室内には緊張した空気が満ちており、全員がその言葉に傾聴していた。

 

「B級ランク戦夜の部まで、あと30分。予定通りランク戦を実施するなら、参加するB級中位7チームは防衛に参加出来ません。よろしいでしょうか?」

「問題ない。ランク戦はそのままやって貰う。B級上位が揃っている以上可能性は薄いが、万が一手が足りないと判断した場合にはランク戦を中止して戦闘に参加だ。会場警備の風間隊と解説の二人にもそう伝えてくれ」

「了解しました」

 

 沢田は忍田の指示を受け、各所に連絡を飛ばしている。

 

 その様子を見ながら、忍田は再び口を開く。

 

「陽動の可能性を考慮し、西と南に一部隊ずつ残す。それ以外の戦力は北東に集中だ。トリオン兵の大群が来るぞ」

 

 

 

 

「司令部、こちら木崎。狙撃班位置についた」

『こちら東。同じく準備完了』

 

 レイジを始めとした狙撃手チームは、本部屋上に陣取っていた。

 

 離れた場所には東を筆頭とする別部隊も布陣を完了しており、戦闘開始の合図を待っている。

 

 配置はレイジ班に奈良坂、古寺、佐鳥、千佳。

 

 東班に当真、ユズル、外岡、隠岐。

 

 各員それぞれが、狙撃準備を整えていた。

 

「…………! 来ました、トリオン兵です…………!」

 

 古寺の報告に従い、スコープを向ける。

 

 その先には、無数の白い群れ。

 

 人型を模した大量のトリオン兵が、警戒区域を進軍していた。

 

「人型のトリオン兵っすか」

「的が小さくて面倒そうやなぁ」

 

 初めて見るトリオン兵に対し、外岡と隠岐は眼を細める。

 

 初見のトリオン兵という事で先日の大規模侵攻のラービットが想起されるが、流石にあのレベルではないだろう。

 

 しかし、未知の相手である事は事実。

 

 油断は出来ないと、各々は警戒を強めた。

 

「射程圏内に接近。迎撃を開始する」

 

 レイジの号令で、狙撃班が一斉に攻撃を開始した。

 

 放たれる、無数の弾丸。

 

 それは狙い過たず、地上を行くトリオン兵に飛来する。

 

「…………!」

「へぇ」

 

 だが、それが兵隊に直撃する事はなかった。

 

 人型トリオン兵、アイドラは数体ずつ連携してシールドを展開。

 

 その合力で、狙撃の弾を凌ぎ切ったのだから。

 

「成る程。連携するトリオン兵か」

「連携重視なら、個々の能力は低い筈だ。一体ずつ、集中して倒していくぞ」

「了解」

 

 しかし、狙撃班が慌てる事はない。

 

 太一あたりがいればあからさまに動揺したかもしれないが、この場に集うのはB級上位以上の猛者ばかり。

 

 この程度で、心揺らす事などありはしない。

 

「こっちは右端からやるぞ」

「了解。こちらは左端からやります」

 

 東班とレイジ班でそれぞれ分担を決め、再度狙撃を開始した。

 

 無数の弾丸が一点に集中し、アイドラの展開したシールドを力づくで破砕。

 

 今度こそ弾丸はトリオン兵に直撃し、その頭部を粉砕した。

 

 一度撃破に成功すれば、後は流れ作業だ。

 

 1体、また1体と狙撃の集中砲火によってアイドラが破壊されていく。

 

 砲兵の優位、それを前面に活かした戦い方で狙撃手達は戦場の主導権を握っていた。

 

「千佳は敵がアイビスの射程に入ったらいつでも撃てるようにしてくれ。タイミングはこっちで指示する」

「了解」

 

 その火力故に奥の手としている千佳には、レイジは待機の指示を下す。

 

 敵が更に防御を厚くして来た場合、もしくは予想外の挙動を取って来た場合には千佳の手で強引にその守りを突破して貰う予定だ。

 

 とはいえ、レイジには基本的に千佳を積極的に使うつもりはない。

 

 エネドラやヒュースからの情報もありアフトクラトルが今後再びこの世界に来る可能性は低いと思われるが、あくまでもそれは直近の話であり将来どうなるかまでは分からない。

 

 その為、なるべくアフトクラトルに連なる相手に千佳の情報を渡したくはないというのがレイジの本音であった。

 

 しかしそれはあくまでもレイジの所感であり、先の大規模侵攻のように危急の懸念がない以上は、千佳を使わない理由としては薄い。

 

 故にこの場には連れて来ているが、使用に際する判断はレイジが行う、という形で妥協したのだ。

 

 事実として千佳の火力は頼りになるし、厚い防御をして来る敵相手には有効だ。

 

 いざとなれば使用は躊躇わないが、そうならない事を祈るレイジであった。

 

「このまま削っていくぞ。地上の部隊と連携して、敵部隊を粉砕する」

 

 

 

 

「側面から崩すぞ。狙撃班の援護だ」

「了解」

 

 警戒区域、地上。

 

 そこに布陣した面々は、狙撃班と連動する形で戦闘に参加。

 

 嵐山の号令で、若村や北添といった銃手の面々が銃撃を開始する。

 

 アイドラのシールドはどうやらボーダーと似通った作りのようで、強度を持たせるには一方向に集中して展開する必要があるようだ。

 

 故に狙撃に対して防御を展開していたアイドラは側面からの銃撃に対応出来ず、被弾。

 

 次々とその防御網を崩され、1体、また1体と削られていく。

 

 先の大規模侵攻を経たボーダーの面々にとっては、連携するとはいえこの程度の相手はものの数ではない。

 

 同じ連携する部隊であれば、その練度がものをいう。

 

 少なくとも機械的なプログラムでしか連携出来ないトリオン兵と、個々の判断で動けるボーダーの部隊とでは連携の練度がまるで違う。

 

 事実としてアイドラの部隊はこちらの攻撃に対応し切れなくなっており、このまま行けば全滅は時間の問題と思えた。

 

 

 

 

『おいおい、アイドラがガンガン削られてるじゃねーか。やっぱ待ち伏せてたんじゃねーかこれ』

 

 その光景を見ていたレギンデッツは、焦った声を漏らす。

 

 無理もない。

 

 開始直後で、既にトリオン兵の全滅の未来が目に見える展開となっているのだ。

 

 幾らロドクルーンの支援で大量のトリオン兵を確保出来ているとはいえ、数は有限だ。

 

 このままいけば全滅は必至であるのは、誰の眼から見ても明らかであった。

 

玄界(ミデン)の部隊が集まって来ます。どうしますか、隊長」

『このまま行く。屋上(うえ)を一分黙らせろ』

「了解しました」

 

 しかし通信でレギンデッツの声を聴いていたコスケロに、焦りはなかった。

 

 ガトリンの命令に従い、用意していた砲から弾丸を射出。

 

 無数の鏃が、本部屋上へ向けて飛んで行った。

 

 

 

 

「…………!」

 

 それは、屋上の狙撃班にも見えていた。 

 

 突如地上から、無数の鏃が飛来する。

 

 降り注ぐ鏃に対し、狙撃班はシールドを張って防御。

 

 結果、誰一人被弾する事なく鏃は地に落ちる。

 

「…………っ!」

(ゲート)…………っ!?」

 

 しかし、それは厳密には()ではなかった。

 

 地面に突き立った鏃を中心に、黒い穴が開く。

 

 そして、そこから無数の犬型のトリオン兵────────────────ドグが、出現する。

 

 狙撃手は、近付かれれば弱いポジションだ。

 

 彼等にとって、雑魚であるトリオン兵とはいえこの近距離で展開されれば苦戦は必至。

 

「───────!」

 

 だが、この程度で崩れはしない。

 

 レイガストを握り締めたレイジが、その拳でドグを破壊する。

 

 本来ならばまず想定されていない、スラスターを用いたレイガストパンチ。

 

 その常識外れの使い方をする唯一無二の存在であるレイジの剛腕が、トリオン兵を駆除していく。

 

「うしっと」

 

 更に、狙撃班の護衛として待機していた緑川がスコーピオンを振るって次々とドグを破壊する。

 

 狙撃手が近付かれれば弱いのは、こちらとて承知している。

 

 故に、レイジ以外にも近接が出来る護衛の存在が必須だった。

 

 荒船がいれば普通に兼任出来たのだが、彼は現在ランク戦に参加する為待機中だ。

 

 だからこそ手が空いており尚且つ他の部隊メンバーがスカウト旅で不在の緑川が招集されたのであり、彼はその役目を十二分にこなしていた。

 

 スピードアタッカーである緑川は、雑魚の殲滅としてはこの上なく適している。

 

 ドグはアイドラと同じく個々の能力は左程高くはなく、精々B級下位程度の能力しかない。

 

 その程度の相手なら、緑川は問題なく無双出来る。

 

 腰を据えて一体一体撃破していくレイジよりは、彼の方が適任でさえある。

 

 とはいえ、この間狙撃の支援が行えないのは事実だ。

 

 そういう意味で、この邪魔者は充分に役目を果たしている。

 

「下の部隊は一旦引け。狙撃なしだと数に食われるぞ」

 

 

 

 

「無理をするな。他の部隊の合流まで保たせろ」

「りょ、了解」

 

 狙撃支援が途絶えた地上では、若村達は若干押され気味になっていた。

 

 既に到着している少ない人員だけでは、アイドラの膨大な数を一度に相手にするのは無理がある。

 

 個々の能力が低いとはいえ、連携して展開するシールドは簡単に突破出来るものではなく、狙撃支援のない状態では苦戦するのも通理だ。

 

 嵐山は現状を鑑みて、無理をするべきではないと早急に判断した。

 

 此処で下手をこいて戦力を削るような真似をすれば、万が一が起きないとも限らないのだから。

 

 焦らずとも、最も主戦場に近い場所にいた為に先んじて戦線に投入された彼等とは別の場所に配置されていた部隊が続々とこちらに向かっている。

 

 焦って動くよりは、そちらとの合流を待った方が賢明だろう。

 

「もうすぐ、他の部隊も合流する。そこから、反撃していこう」

 

 

 

 

「…………まずいな。人型トリオン兵の中に、()が違う奴がいる」

「なに?」

 

 ボーダー、司令室。

 

 そこで副作用(サイドエフェクト)を用いて敵戦力の分析を行っていた天羽の言葉に、忍田が反応した。

 

 天羽のサイドエフェクトは、敵の能力を()()()する事が出来る。

 

 その天羽が、トリオン兵の中に色が違う────────────────即ち、()()がいると告げた。

 

 それが、意味するものは。

 

 すぐに、判明する事となる。

 

 

 

 

 ボーダー本部、直下。

 

 狙撃班と地上部隊の隙を突いて此処までやって来た無数のアイドラの内、三体が基地の壁に何かの装置を張り付ける。

 

 すると、それまで何もなかった壁が変形し()()が出現する。

 

 三体のアイドラはその通路を通り、基地に侵入。

 

 同時、彼等の()()が剥がれた。

 

 現れたのは、3人の男女。

 

 ガロプラの精鋭部隊、その隊長のガトリンと部下のラタリコフとウェン。

 

 その、三名であった。

 

 ガトリンは周囲を確認しつつ、号令をかける。

 

「予定通りだ。10分で終わらせるぞ」

 

 

 

 

「人型近界民(ネイバー)侵入。数は「3」です」

「隔壁閉鎖。C級と一般職員を遠ざけろ!」

 

 忍田の号令で沢田は隔壁を閉鎖し、万が一にも敵の人型と非戦闘員が接触しないよう取り計らう。

 

 幾ら迅から人的被害が出る事はないと聞いているとはいえ、偶発的な接触からの()()が起こる可能性はある。

 

 処置としては、当然のものと言えた。

 

「迅は?」

「既に動いている模様。位置は────────」

 

 

 

 

「最短で行く。追っ手がかかったらウェンが止めろ。俺とラタで目標(ターゲット)を破壊する」

「OK、隊長」

 

 ガトリンは部下に指示を下しつつ、ボーダーの通路を進んでいた。

 

 オペレーターのヨミの解析により、進行ルートは示されている。

 

 事前準備もあり、その動きに淀みはなかった。

 

「レギーとコスケロは、可能な限り玄界(ミデン)の兵を引きつけろ。例の「遺物」の事は、しっかり念頭に置いておけ」

『『了解』』

 

 特に妨害もなく、ガロプラの兵達が進んで行く。

 

 伽藍とした通路は、昼間の喧騒とは無縁のようにも思える。

 

 それを知る由もない彼等だが、しかしその()()にはすぐさま気が付いた。

 

「…………! あれは…………!」

 

 

 

 

「────────」

 

 通路の角から現れた、迅。

 

 その手に持つブレードが振るわれ、無数の風の刃がガトリン達へと襲い掛かる。

 

 黒トリガー、風刃。

 

 唯一無二の風の刃が、ガロプラの精鋭達に牙を剥く。

 

「…………!」

 

 だが、彼等はシールドを展開し風刃の遠隔斬撃を防御。

 

 そのまま壁に装置を設置し、向こう側への通り道を作り出す。

 

 風刃の強みはあくまでもその奇襲性と、特殊性。

 

 タネさえ分かっていれば対処は可能だし、威力自体はそこまで特筆すべきものでもない。

 

 故に、此処で数人がかりのシールドで防御に徹した彼等の選択は最適解と言える。

 

 そして、ガトリン達は次弾が放たれるその前に壁の向こうへと姿を消した。

 

 風刃は、あくまでも床や壁伝いに斬撃を伝播させるもの。

 

 壁の向こう側に逃げられてしまっては、どれだけ距離が近かろうが射程範囲外となる。

 

 既に彼等はあの壁抜けトリガーを使って更に先に進んでいる筈であり、そもそも離れた場所から遠隔斬撃を飛ばしていた迅の位置からでは今更追いつけない。

 

 此処での追撃は、最早意味が無いだろう。

 

(アフトクラトルから風刃の性能はバレてたか。けど、相手の姿は()()()。これで────────)

 

 しかし、最低限の目的は達成された。

 

 迅の目的は、最初から相手の姿を肉眼で視認する事。

 

 これにより、ガロプラの面々を対象とした新たな未来視の映像(チャンネル)が開いたのだから。

 

「司令部。向こうの狙いは、想定通り遠征艇だ。準備の方をお願いするよ」

『了解した』

 

 司令部に未来視の結果を通達しつつ、迅は駆け出した。

 

 まだ、行うべき事は多い。

 

 ヒュースの懐柔成功によって仕事(タスク)は一つ減ったが、まだやるべき事はあるのだ。

 

(取り敢えず、おれはこっちに向かった方が良いだろうな。リスクは承知だけど、これが一番リカバリーが利き易い。心苦しいけど、リスクヘッジはちゃんとしないといけないからね)

 

 心に様々な想いを抱え、迅は通路を進む。

 

 その表情は、葛藤故に苦しそうに歪んでいた。

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