香取隊の狙撃手   作:デスイーター

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ガロプラ⑤

 

 

「標的を確認した。処理を開始する」

 

 地上、警戒区域。

 

 そこではまた一人、ガロプラの精鋭を相手に戦闘が勃発しようとしていた。

 

 相対するのは、三輪と米屋。

 

 彼等を前にするのは、コスケロ。

 

 先程屋上に向けて鏃を撃ち上げた事で位置が露見し、こうして二人に捕捉された近界民(ネイバー)である。

 

 当然ながら、ボーダー側は屋上に狙撃手を配置し周囲を俯瞰していた。

 

 その彼等相手に、上に向けて鏃を撃ち上げるという目立つ真似を行ったのだ。

 

 こうして即座に位置バレし、追っ手を差し向けられるのも無理からぬ事と言える。

 

「おっと、槍使いに銃使い。強そうな相手に見付かっちゃったね」

 

 飄々とした様子でそう宣うコスケロだが、警戒は怠っていない。

 

 三輪と米屋は先日の偵察により、相当な強さの兵士としてマークしていた相手だ。

 

 表面上はおどけているように見えても。その警戒は最大級。

 

 油断など、するワケがなかった。

 

「────────!」

 

 先に仕掛けたのは、米屋だ。

 

 槍型の弧月を振るい、コスケロに斬りかかる。

 

 無論、ただでやられるコスケロではない。

 

 シールドで防御し、攻撃を弾く。

 

 但し、ただのシールドではない。

 

 液状に展開された、スライムの如き特殊なシールドである。

 

 米屋はその異様な見た目に目を見開くが、攻撃の勢いは止められない。

 

 槍型弧月が液状シールドに接触し、受け止められる。

 

 咄嗟に弧月を引き抜く米屋だが、槍の先端部分にはスライム状の液体が纏わりついていた。

 

「…………!」

 

 そこに、三輪が銃撃を加える。

 

 コスケロは今度は通常のシールドを掲げ、更にドグを呼び寄せる。

 

 シールドと盾替わりにしたドグにより、三輪の銃撃は受け止められる。

 

 だが、それで充分。

 

 今度は自由(フリー)になった米屋が、再び弧月で斬りかかる。

 

「…………っ!?」

 

 しかし、異変が生じた。

 

 斬りかかった、米屋の弧月。

 

 それが敵に触れた瞬間、まるで手応えを感じなかったのである。

 

 正確には、纏わりついたスライム状の物体がクッションのような役割を果たし、刃物を刃物たらしめなかったのである。

 

「…………!」

 

 その隙をコスケロが狙うが、すかさず三輪が銃撃。

 

 コスケロはすぐさま横に跳び、銃撃を回避。

 

 体勢を立て直した米屋は、使い物にならなくなった弧月を破棄。

 

 新たな弧月を生成し、コスケロと相対する。

 

「あのシールド、触れるとブレードが使い物にならなくなるみてーだな」

「分かった。そう考えて相手をする」

 

 三輪と米屋は相手のトリガーの正体を看破し、冷静に分析。

 

 お互いに、一切の油断はなし。

 

 智慧者同士の戦闘が、再開された。

 

 

 

 

「ハウンド」

 

 加古は展開した球体からまるで餅でも千切るかのように弾丸を分裂させ、ウェンに向けて撃ち出した。

 

 ウェンは呼び出したドグにシールドを張らせ、それらを防御する。

 

 ハウンドはバイパーと異なり、相手を追尾する軌道で弾が飛ぶ。

 

 既に初見でその法則を理解していたウェンは、的確に弾の通り道にシールドを配置するようドグを操作していた。

 

「…………!」

 

 だが、それはハウンドの認識としては少々甘い。

 

 ハウンドは誘導設定を調整する事で、弾道をある程度操作する事が可能なのだ。

 

 故に発射した幾つかの弾丸は側面を迂回する形でシールドをすり抜け、ドグに直撃。

 

 防御役として呼び出した数体のドグが、瞬く間に破壊された。

 

「旋空弧月」

 

 そこへ、黒江が旋空を発動。

 

 横薙ぎに振るわれた拡張斬撃が、ウェンへと襲い掛かる。

 

「…………!」

 

 ウェンは再びドグを配置して、シールドを展開。

 

 伸びる刃を防御しにかかるが、運悪く先端付近に当たってしまったドグはシールドごと斬り裂かれる。

 

 黒江はとあるオプショントリガーを主戦力として使っている関係上、旋空の練度はハッキリ言って低い。

 

 たった今ドグを斬り裂けたのは身も蓋も無く言ってしまえばラッキーヒットであり、他のドグへは先端付近を当てる事が出来ず、シールドで受け止められている。

 

 こうなる事は、承知の上。

 

 そもそも加古の指示で迂闊な特攻を禁じられている以上、彼女にはこうするしかない。

 

「────────」

 

 されど、それで充分。

 

 加古は再びハウンドを展開し、大きく山なりに撃ち上げた弾がウェンへと降り注ぐ。

 

 無論、ただでそれを受けるウェンではない。

 

 ドグの群れを操作して壁にしつつ、後方へと後退する。

 

「…………っ!?」

 

 その、瞬間。

 

 相対していた加古の姿が、消える。

 

 同時、()()()()無数の弾丸が飛来。

 

 間一髪でそれに気付いたウェンは咄嗟にシールドを展開し防御するが、幾つかは凌ぎ切れず被弾。

 

 脇腹を抉られ、傷口からトリオンが漏出し始めた。

 

「────────」

 

 背後を見れば、そこには先程まで正面にいた筈の加古の姿がある。

 

 加古は相対した時から変わらない余裕に満ちた笑みを浮かべ、告げる。

 

「今ので仕留められないなんて、残念。戦い慣れているのね」

「────────」

「あら、だんまり? もっとお喋りしましょうよ」

 

 くすくすと笑う加古を前に、ウェンは警戒を強めた。

 

 呑気に話しているようにも見えるが、こちらが会話に意識を向けた途端にもう一人の幼い剣士に仕掛けさせるつもりなのは目に見えている。

 

 淑女然とした立ち振る舞いでありながら、中々に良い性格をしているらしかった。

 

(コスケロと同じ、おどけているように見えて頭が回るタイプか。厄介だな)

 

 同僚に同じように立ち振る舞いからでは一見して実力が分かり難い男がいるので、ウェンに油断する理由など欠片もなかった。

 

 こういう相手は、こちらの虚を突く為なら平気で道化のような真似をする。

 

 相手の口車に乗った時点でアウトなのだと、ウェンは経験則で理解していた。

 

(やり難い…………っ! けど、こいつに隊長達を追わせるワケにはいかない。あたしが此処で、最低でも足止めはしとかないとね…………っ!)

 

 

 

 

(敵の作戦が大胆過ぎるな。最初は地上を制圧してから基地に侵入して来るかと考えていたが、少数で忍び込んで来るとは。これでは遠征艇を破壊しても、脱出は難しい筈だが)

 

 忍田は敵の動きを見て、訝しんでいた。

 

 確かに、あの壁抜けトリガーがあるなら侵入作戦に踏み切るのは理解出来る。

 

 だがこれでは、()が続かない。

 

 仮に遠征艇の破壊に成功したとしても、そこから脱出するまでにはこちらも地上の掃討を完了し、更なる追っ手を基地の内部に差し向ける事が出来るようになっているだろう。

 

 天羽によれば侵入した三人は少なくともA級クラス、隊長と目される壮年の男に至っては自分に近い実力を持っているらしいが、それでもあのハイレインやヴィザのような隔絶した実力までは備えていないだろう。

 

 アフトクラトルの精鋭は揃って厄介な実力者だったが、キューブ化の生物弾を操るハイレインと一騎当千の体現者とも言えるヴィザは特に別格だった。

 

 あれらは真実単騎で軍勢を相手取れる化け物であり、仮に彼等ならば基地の奥深くに侵入したとしても単騎で生還どころか基地を壊滅に追い込んでいても不思議はない。

 

 しかし、流石に彼等はあのレベルではあるまい。

 

 以前の大規模侵攻で遠目にヴィザを見ていたらしい天羽に聞いたところ、「視た事ない色をしてた」と話しているので、少なくとも今回その発言が出ていない事からあの中にヴィザレベルの怪物はいないと見て間違いない。

 

 ならば実力的に考えても、敵の作戦がどうも撤退を視野に入れていないものに思えてならないのだ。

 

(何か、あるな。もしかすると、アフトクラトルの転移使いのような隠し玉があるのかもしれない。エネドラから聞いたアフトクラトルの属国への扱いからして本人が来ている可能性はまずないだろうが、警戒するに越した事はないな)

 

 

 

 

「先程の追っ手以外、目ぼしい妨害はありませんでしたね。この下が、目的地のようです」

「ウェンに足止めを任せて正解だったな。勘だが、あの相手は相当なやり手だ。あのまま追って来られては、少々面倒な事になっていただろう」

 

 ラタリコフとガトリンは、目的地の直上────────────────格納庫へ向かう、エレベーターの前まで来ていた。

 

 先の加古による襲撃以外、彼等を妨害するものは何もなかった。

 

 基地に侵入しているのにも関わらずの手応えのなさに、拍子抜けですらある。

 

「どうも、こちらの動きを気取られているような感じがするな」

「こちらの動きが掴まれている、と?」

「そうでもなければ、内部の警備が緩過ぎるからな。あの追っ手が手練れだったとしても、こっちは三人だ。一人が残って足止めに徹する事くらい予想出来るだろうし、それで二の矢がないのはどう考えてもおかしい。となれば────────」

「────────この先で待ち構えている目算が高い、というワケですか」

 

 ああ、とガトリンが頷く。

 

 相手は、曲がりなりにもあのアフトクラトル相手に迎撃に成功した者達なのだ。

 

 油断など出来る筈もなく、最大限の警戒で事に当たるべきだと長年の経験が告げていた。

 

「行くぞ。やる事はやらなければならん。たとえ、どれだけの相手だとしてもな」

 

 

 

 

「来るぞ。二人、遠征艇用のエレベーターを降下中だ」

「お、来たか。二人って事は、一人は加古の足止めに残ったってトコか」

「そう報告が来ている。来るのは男二人だ」

 

 遠征艇格納庫、その手前の倉庫。

 

 そこに待機していた風間達は、敵が来ると知り戦意を昂揚させていた。

 

 風間の報告を聞いた太刀川はニヤリと笑い、弧月の柄に手をかけている。

 

 意気軒高、といった様子で彼は敵が来るのを今か今かと待ち望んでいた。

 

「確か、敵は犬型のトリオン兵を小型の(ゲート)で呼び出すんでしたね?」

「ああ、一体一体は雑魚だが連携して来る。油断はするな」

「了解」

 

 そんな自身の元隊長を相変わらずだなと眺めつつ、烏丸は頷いた。

 

 それを見て、ふん、と小南は鼻を鳴らす。

 

「纏めてぶった斬っちゃえばいいでしょ。こんだけ戦力集めてんだから、全力でやればどうとでもなるわ」

「油断はするなと言った筈だが」

「別に油断はしてないわよ。ただ、それが一番手っ取り早いし相手が予想外の手を打って来たらそれに対応すればいいだけでしょ? 余計な事を考えるよりも、その場その場で臨機応変に対応した方が早いわ」

 

 そう宣う小南を前に、風間はそうか、と頷く。

 

 言動は軽いが、小南は何も相手を軽く見て油断しているワケではない。

 

 ただ、自分達の実力を正確に認識し、相手の戦力を加味した上で冷静に最適解を言っているだけだ。

 

 彼女の言う通り、この場にはボーダー内でも屈指の実力者が揃っている。

 

 総合一位の太刀川に、二位、三位の風間と小南。

 

 加えて元太刀川隊の隊員にして現玉狛第一の万能手である烏丸までいるのだから、総合力の高さがどれ程かは言うまでも無い。

 

 これだけの戦力を揃えている以上、警戒し過ぎて動きが硬くなるよりは、本来の潜在能力(ポテンシャル)を十全に発揮した方がよりコストパフォーマンスの高い動きが出来る。

 

 それを数々の戦争経験で理解している小南にとっては、当然の発言でしかない。

 

 このあたり、本物の戦争を緊急脱出という保険もなしで渡り歩いた経験の凄みが出ているのが小南らしいとも言える。

 

「それに、どうにもさっきの迅の予知も撤回されたみたいよ? 今連絡が来たけど、未来はもう変わってるって」

「へぇ、そりゃ残念だ。何かしたか? あいつ」

「これからするんでしょ、どうせ。京介を連れて来たからかもしんないけど」

「成る程、弓場じゃなくて京介を連れて来たのはそういうワケか。でもいいのか? 加古さんだけじゃなくこいつもいないとなりゃ、地上の火力要員は大分減ってるが」

 

 太刀川の言う通り、射手の加古に加えて万能手の烏丸まで基地内部に回されている現状、地上の火力不足が懸念される。

 

 敵のトリオン兵は遠距離攻撃の手段も備えているので、射手や銃手の数というのはそれだけ重要になる。

 

 その射手である加古や銃手トリガーを扱う万能手である烏丸までこっちに来ている以上、太刀川の懸念は当然と言えた。

 

「大丈夫よ。今回、B級上位とA級がスカウト旅に行った部隊以外はほぼ全員揃ってんのよ? かなりまあまあな連中なんだし、アンタに心配される程層は薄くないっての」

 

 

 

 

徹甲弾(ギムレット)

 

 同刻、地上。

 

 そこでは前線部隊と合流した二宮が、合成弾で敵を薙ぎ払っていた。

 

 アステロイド同士の合成弾である、徹甲弾(ギムレット)

 

 その効果は単純明快で、()()()()()だ。

 

 アステロイドと同じく直線状にしか飛ばないが、単純にその威力が強化されている。

 

 それが二宮レベルのトリオンで放たれればあのラービットの装甲でも貫通出来る以上、アイドラのシールドなどまるで問題にならない。

 

 無数のアイドラがシールドごと破砕され、瞬く間に骸が増えていく。

 

「オラァ!」

 

 別方向では、影浦がマンティスを振るってアイドラを駆逐していた。

 

 曲線状の軌道を描けるマンティスは、相手のシールドを躱して攻撃を届かせる事にこの上なく適している。

 

 何より、相手は人ではなく機械的なプログラムで動くトリオン兵だ。

 

 杓子定規のパターンで展開されたシールドなど、影浦相手では防御としての意味を為さない。

 

 本来であれば両攻撃(フルアタック)状態を強要されるマンティスは諸刃の剣だが、影浦にとっては相手が感情のないトリオン兵だろうとその攻撃を対処するのは容易い。

 

 常日頃からB級上位という強者ひしめく環境で戦っている影浦にとって、拙い連携で戦うトリオン兵などものの数ではないのだ。

 

 元A級の二人のエースが、凄まじい勢いでアイドラを殲滅していく。

 

 他方では射手の水上や万能手の帯島が弾幕で敵を押し返しており、完全に向こうを圧倒していた。

 

「お、後退していきますね」

 

 その勢いを抑えきれず、アイドラ達は狙撃手の射程外へ逃れるべく後退を始めた。

 

 それを見て二宮は目を細め、通信を繋ぐ。

 

「狙撃班、狙撃手(スナイパー)を半分下にくれ。地上で追撃する」

『了解した』

 

 二宮の要請に従い、レイジ班が地上へ降りて来る。

 

 なお、街中で使うには威力過剰な千佳は東に預けて来ている。

 

 そのあたり、抜かりはないレイジであった。

 

 なお、此処に加古がいれば二宮に茶々を入れていたであろうが、彼女は現在基地内で戦闘中だ。

 

 内心で鬱陶しいのがいなくて助かったと二宮が思っている事は、言うまでも無い。

 

「このまま互いがフォロー出来る距離を保ちつつ、左右に展開。角度を付けた火力戦で一気に押し込む。攻撃手(アタッカー)はそれを援護し、狙撃手は定石通り敵の射程外から攻撃していく」

 

 二宮は作戦方針を伝え、異議がない事を確認し頷く。

 

「流れは掴んだ。このまま押し潰すぞ」

 

 射手の王の号令の下、地上部隊がアイドラの殲滅を開始する。

 

 敵トリオン兵の駆逐は、最早時間の問題と思えた。

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