(やっぱり待ち構えてましたね)
(ああ)
ガロプラの二人、ラタリコフとガトリンは眼下に佇む三人の兵士を見て、眼を細めた。
彼等は目的地へ向かうべく基地内を降下し、この場所へと辿り着いた。
しかし案の定、敵が待ち構えていた。
基地内の警備が手薄過ぎると感じていたのは、間違いではなかったようだ。
(部屋の各所にトリオン反応多数。罠に注意しろ)
(了解)
そして当然、待ち構えていたのであれば罠がある事も必定。
何せ、相手はこちらが基地内を進む間に悠々とこの場で準備するだけの時間があったのだ。
罠の一つや二つ、ない方がおかしいだろう。
「────────」
ガトリンは下へ飛び降り、同時にラタリコフは背の装置から無数の円盤を展開し、戦闘準備を整える。
この作戦を遂行しなければ、本国の未来が危うくなる。
故に、気の進まないアフトクラトルの命令の上での行動とはいえ手は抜けない。
今はただ、作戦を穏便に遂行する事のみに注力する。
そういった決意を、固めていた。
だが。
そんな彼等を見て、相手の一人がニヤリと笑みを浮かべた。
「あんた等のお目当ては、この中だ」
「「…………っ!?」」
そして、何の前触れもなく自分達の目的と言い当てられ、驚愕する。
此処まで、こちらの狙いを悟らせるような材料はなかった筈だ。
にも関わらず、この言い方からして間違いなく敵は自分達の目的を知っていると予想出来る。
おかしい。
事態を理解出来ず、ガトリンは困惑する。
「遠征艇をぶっ壊したきゃ、その前に俺達三人をぶった斬らなきゃならないな」
だが、敵は待ってはくれない。
髭面の青年、太刀川はその推測が正しかった事を不敵な顔で説明し、そして。
「…………! 隊長…………!」
「…………!」
────────その隙を突かれ、不意に空気から溶けるように出現した四人目の敵によってガトリンの左腕が斬り落とされた。
現れた小柄な青年、風間は追撃はせず、距離を取る。
その行動からは無理をせず、あくまでも連携で仕留めるという意思が滲み出ていた。
「悪いな、三人じゃなく四人だった」
何の悪びれもせず宣う太刀川の言葉に、やられた、とガトリンは内心で舌打ちする。
これ見よがしなトリオン反応は、この姿を消せる仲間を隠す為の囮。
自分達はまんまと、それに引っかかってしまったワケだ。
「────────」
だが、やる事に変わりはない。
ガトリンは背のトリガー、
四本のアームの付いたブレードが、その凶悪な姿を露にする。
更に、ガトリンは背の鏃を引き抜き斬られた左腕の断面に押し当てる。
すると、左腕に接続される形で砲塔が出現した。
厳つい砲塔の装着に、四人の警戒が強まる。
「…………!」
そして。
その場でガトリンが処刑鎌のアーム二本を地面に突き刺した光景を見て、風間は眼を見開いた。
気付いたのだ。
ガトリンの腕の、砲塔。
それは、遠征艇の存在する格納庫へと照準が向けられている事に。
「京介」
「了解」
轟音と共に、放たれる砲撃。
しかし既に、太刀川の号令で烏丸が動いていた。
ガトリンの砲撃が向かう先に、無数の壁がせり上がる。
合計7枚にも及ぶそれの名は、エスクード。
ボーダーのノーマルトリガーの中でも屈指の硬度を誇る、
ガトリンの砲撃は、その7枚のバリケードへ直撃。
圧倒的な火力を以てせり上がった壁を焼き貫くが、その全てを貫通するには至らず。
6枚のエスクードを貫いたところで、その進軍は終わりを告げた。
「
間一髪で
ラタリコフのトリガー、
今の防御を行った烏丸を速攻で処理せんと、四方八方から円盤が飛来する。
同時にドグ数体も突貫し、一斉に烏丸へと攻撃を集中させる。
「────────」
しかし、直接盾で防いだのであればともかく、烏丸本人は地面に手を付いただけで位置は移動していない。
即ちそれは、仲間の援護が充分に届く事を意味している。
飛来する
両腕の手斧の細かな斬撃により、飛来するブレードの全てを斬り払ったのである。
そして、ドグもまた風間と太刀川の手により撃墜される。
連携が可能とはいえ、ドグ1体1体の能力はB級下位程度のものでしかない。
波状攻撃の形にはなっていたが明確な隙を見せたワケではない相手にとっては、この程度の対処は容易かったという事だ。
「────────!」
だが、この程度で諦めるワケもない。
今度はガトリンが処刑鎌を横薙ぎに振るい、攻撃を開始する。
多少の防御であれば斬り裂く事が出来るし、四本のアームを同時に操作する事が出来る為、手数の面でも圧倒出来る。
単純明快且つ汎用性の高い攻防一体の性能こそ、処刑者の真髄だ。
そしてその攻撃範囲も広く、伸びたアームの届く範囲であればその全域が射程内だ。
「…………!」
しかし、それで素直に当たるような相手でもない。
標的となった太刀川と小南は共に身を屈めて斬撃を回避し、小南はそのままガトリンへと突貫。
両腕の手斧、双月で斬りかかった。
「────────!」
ガトリンはそれを処刑鎌のブレードで受け止めるが、小南は突撃の勢いを利用してそのまま上へ跳躍。
天井近くまで跳び上がった小南は、ガトリン達二人に向けて
突如として上から飛来した無数の爆撃が着弾し、双方は回避と防御を余儀なくされる。
「旋空弧月」
その隙を突いて、太刀川がラタリコフへ肉薄。
必殺の拡張斬撃を以て、その胴を両断せんと迫る。
「────────」
しかし、それは目の前に跳び込んで来たガトリンによって防がれる。
ガトリンは直近に現れた為、旋空の先端を当てるには至らず、太刀川の斬撃はアームの一本も折る事なく防がれる。
「
そこへ、天井近くに張り付いていた小南が双月二対を合体させ、飛来。
大斧となった双月の斬撃が、一閃。
ガトリンのトリガー、
「…………!」
驚愕する間もなく、烏丸による銃撃が飛来する。
ガトリンは咄嗟に処刑者のアームで防御するが、三本へと減った事で防御可能な面積が減り、全てを防ぎ切る事は出来ず数発が脇腹へと着弾する。
致命傷ではない。
しかし確実な損傷となったその傷口からはトリオンが漏れ出しており、下手な長期戦が行い難くなった事に変わりはない。
戦闘開始から間もなく、手痛いダメージを受けてしまった。
(まさか
されど、闘志は折れていない。
損傷は無視は出来ないとはいえ、戦闘続行そのものに支障はない。
厄介な相手である事は確認出来たが、やり様はある。
自分達は、ガロプラの精鋭部隊。
気に食わないアフトクラトルの命令とはいえ、従わなければ国が危地へ陥る。
故に、作戦は遂行しなければならない。
たとえそれが、どんな障害を前にしたとしてもだ。
「────────残念だけど、あなた達が遠征艇を破壊出来る未来はないよ。おれが、来た以上はね」
────────だが。
その闘志に水をかけるように、涼やかな声が響いた。
カツン、と靴音を鳴らしその姿を見せたのは、サングラスを首にかけた少年。
迅悠一。
彼は不敵な笑いと共に二者を睥睨し、告げる。
「おれが此処に来た以上、君達の
「おいおい、なんでお前が此処に来てんだよ?」
「此処が一番リカバリーの利き易い
悠々とした足取りで仲間の下に近付いた迅は、呆気に取られた様子の太刀川に対しそう言って笑いかけた。
当然ながら、この場に迅が来る事は誰にも通達されていない。
迅本人はたった今忍田へと通信で報告したが、元より彼には独断で動く権限が与えられている。
その為特に問題は無いのだが、流石に迅という特級の大駒までこの場に投入するのは幾ら何でも戦力過剰と言えた。
四人が疑問符を浮かべるのも、無理からぬ事と言えるだろう。
「迅、外は良いのか?」
「問題ないよ。弓場ちゃんはあっちに行って貰ってるし、遊真も万が一の時の為に待機させてる。余程の事がない限り、戦線が崩れる事はないよ」
「そうか」
風間はそう言って、一先ず納得した。
迅がこう言っている以上、彼が此処に来ても戦力的な問題はないのだろう。
他の者であれば楽観と断じれるが、迅だけは違う。
未来視を持つ彼の言葉は、いわば予言のようなものだ。
彼の視る未来は無数に分岐する為百発百中とはいかないが、それでも単なる予測よりは余程信憑度の高い情報を持つ事に変わりはない。
その彼が問題ないと断じている以上、外の心配は必要ないだろう。
此処は単純に迅という特記戦力が来た事を考慮し、その上で動けば良いだけの話だ。
「ふぅん、あの未来がなくなったっての、アンタが此処に来るつもりだったから、って事?」
「それもあるかな。それに、京介は役に立ったでしょ」
「そりゃな。確かにありゃあ、京介じゃなきゃ無理だったな」
太刀川はそう言って、烏丸を見る。
あの砲撃を防ぐには、彼がいなければ危うかった。
この場に集う面々は基本的に敵に切り込む事を第一とする攻撃特化メンバーであり、守る戦いには向いていない。
攻撃は最大の防御というのが太刀川と小南の戦闘スタイルであり、風間もまた隠密戦闘が軸である以上何かを守りながら戦う適性は低い。
そもそも、最低でもレイガストクラスの防御力がなければあの砲撃は防がなかっただろう。
そういう意味でも、エスクードを使える烏丸がこの場に来た事は正解だった。
彼がいなければ、初撃で終わっていた可能性すらあったのだ。
烏丸をこの場に派遣した迅の目論見は、正しかったと言える。
「敵の能力と狙いは
そして、迅がこの場に来た事には一つ、絶対の意味合いがある。
それは、この場での勝利がほぼ確定したという事だ。
未来視という
自身は未来を視て指示を出す事に集中し、高い実力を持った仲間がその
これだけで、大抵の相手は詰むのだ。
流石にヴィザやハイレインのような規格外の相手ともなればそれだけでは勝てないが、幸いこの二人は彼等のようなレベルというワケではない。
迅が来た、というだけでこの場の趨勢はほぼ決したと言っても過言ではなかったのである。
「
(なんだ、こいつは…………?)
ガトリンは、いきなり現れた少年の不可思議な威圧感を前に、気圧されていた。
長年の経験から、実力自体はあの髭面の剣士とそこまで離れていない相手だと判断出来る。
此処に来る前に一度相見えた時には、そこまでの脅威は感じなかった。
しかし、戦場を生き抜いて来た戦士の直感は「こいつは駄目だ」と最大限の警鐘を鳴らしていた。
言うなればそれは、かつてガロプラ本星を侵攻した際のハイレインやヴィザを前にした時の空気感に似ている。
同じ生き物の筈なのに、立っている
そんな強烈な違和感を、ガトリンは迅から感じていた。
黒トリガーの持ち主である事は、分かっている。
しかしあくまでもその脅威は奇襲性であり、タネが分かっていれば対応出来る類のものの筈だ。
少なくとも、ハイレインの
攻撃一辺倒の能力でもある為、やり様はある筈だ。
(だが、なんだ? 先程会った時とは、感じる威圧感が比ではない。仲間がいるというだけで、此処まで違うものなのか?)
だがその常識的な判断を、戦士の勘が否と告げていた。
先程上で会敵した時とは別物だと、本能で感じている。
仲間が、共にいる為だろうか。
たったそれだけで、こうも存在感が違うように見えるものなのか。
その悪寒の正体が分からず、ガトリンは困惑する。
彼は、知る由もない。
迅の能力は、仲間がいてこそ十全以上にその力を発揮出来るという事を。
そして、彼がお膳立てを整えた舞台に上がった以上、万に一つの勝ち目もなくなった事を。
ガトリン達は、精鋭だ。
他の国々のエース格とも、互角以上に戦り合えるだろう。
だが、それはあくまでも常識的な範疇の強さだ。
少なくとも、迅の未来予知を力づくで突破出来るような、ヴィザのような理不尽の化身ではない。
戦闘は、続く。
しかしこの場に限っては、その趨勢は既に決しようとしていた。