香取隊の狙撃手   作:デスイーター

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シロノイト⑥

 

 

『行くぞ、ユーマ』

「おう」

 

 レプリカは遊真の返事を聞き届け、彼のボディスーツの右腕と一体化する。

 

 これが、本気の遊真が取る戦闘スタイル。

 

 レプリカの戦線離脱により叶わなくなっていた、彼の最強形態である。

 

『────────』

 

 そんな事は関係ないとばかりに、模倣躯体ラービットが攻撃を再開する。

 

 模倣躯体ラービットは両腕を大きく広げ、その内側に夥しい数の突起を生成。

 

 それらを一斉掃射し、無数の鏃が遊真に襲い掛かる。

 

『弾』印(パウンド)

 

 しかし慌てず、遊真は加速台の印を使用。

 

 その勢いを以て跳躍し、敵の射程圏外────────────────即ち、背後へと移動する。

 

 最初の時とは異なり、前面にしか発射していない弾丸を避ける事など造作もない。

 

 回避の面では、剣竜を簒奪する前よりも楽になっていると言える。

 

「────────さっきと攻撃モーションが違う?」

『恐らく、あの鎧のトリガーを取り込んだ弊害だろう。背部と腕部を覆うように装着している鎧が邪魔で、あれがない部分からしか発射出来ないと見て良いだろうな』

 

 レプリカの言葉に成る程、と遊真は頷く。

 

 先程は模倣躯体ラービットは腕部だけでなく背部からもあの突起を発射していたが、今は腕部の内側からしか出していない。

 

 それは即ち、剣竜(テュガテール)が覆っている部分からはあの突起射出は出来ないという事に他ならない。

 

 故に全方位攻撃だった突起の射出は前面のみが射程圏内となり、易々とそこから逃れる事が出来たのだ。

 

『あれが糸で強引に繋げた張りぼてだと言うのなら、あの鎧のトリガーも文字通り糸で接合しただけなのかもしれない。故に強引に糸で動かす事は出来ても、本当の意味でトリガー自体を使用出来ているワケではないという事だ』

「要するに、強奪した鎧を無理やり腕の力で振り回してるみたいなモンか」

『その認識で差し支えないだろう。むしろ、的確な表現と言うべきかもしれない』

 

 レプリカの言葉は、筋が通っている。

 

 確かに先程から模倣躯体ラービットは剣竜(テュガテール)を自在に操っているように見えるが、それはあのトリガーが特殊な能力が存在せず、処刑者(バシリッサ)と同じく展開した武具を操るという類の武装であるという事が大きいのだ。

 

 得体の知れない相手ではあるが、この個体には本当の意味で敵から奪取したトリガーを自在に操る能力は存在しないのだろう。

 

 使用出来ているように見えるのは、奪った鎧を糸で繋ぎ、強引に動かしているからだ。

 

 同じガロプラのトリガーであっても、コスケロの黒壁(ニコキラ)やウェンの藁の兵(セルヴィトラ)のような特殊能力タイプのトリガーであれば、このように扱えはしなかっただろう。

 

 要は()を繋げる物理的な実体があり、尚且つ特殊な能力を持たないトリガーでなければ今のような扱い方は出来ない、という事だ。

 

 だからこそ、鎧で覆った部分からあの突起攻撃は撃てないのだろう。

 

 あくまでも鎧は強引に纏って動かしているだけなのだから、鎧から突起を生成する事は出来ず、結果射程範囲が大幅に狭まる事になった。

 

 剣竜の装備で攻撃力と防御力は大幅に向上したが、その弊害が出ている、というワケだ。

 

 これは、明確な朗報と言えるだろう。

 

『────────』

 

 だが、背面が完全な弱点、というワケではない。

 

 遊真が後方へ退避した事を確認した模倣躯体ラービットは、剣竜を動かして鎧刃を振るう。

 

 強固な鎧そのものが鋭利な刃となっている剣竜による攻撃が、遊真に襲い掛かる。

 

「…………!」

 

 それを横に跳んで遊真は回避しつつ、こちらを振り返ろうとする模倣躯体ラービットの背後に常に陣取るように移動を開始した。

 

 敵の動向を見据えながら、遊真は眼を細める。

 

(やっぱり、あの鎧での攻撃の速度自体は反応出来ない程じゃない。少なくとも防御無視とかの面倒な効果とかも乗ってないみたいだし、あの突起攻撃よりは幾分対処が楽だ)

 

 確かに剣竜での攻撃は重く鋭く、攻撃のリーチ自体も長いので注意はしなければならない。

 

 しかし広範囲に一斉に弾をばら撒き、しかも防御貫通の効果まで乗っている突起の射出攻撃に比べれば対処は容易だ。

 

 剣竜(テュガテール)の真価は攻防一体の安定性にあり、どちらかといえば防御寄りのトリガーだ。

 

 故に全体的な防御能力は向上していても、攻撃能力に関しては見た目程上がっているワケではない。

 

 むしろ背部への突起攻撃が出来なくなった事から、攻撃面では弱体化しているとさえ言える。

 

 レギンデッツは肩に装着する形で装備していた剣竜だが、模倣躯体ラービットは防御面の向上を優先したのか背部と腕部前面に装備する形にして纏っている。

 

 故に背部の防御能力は劇的に上がっているが、反面突起攻撃の射程範囲が大幅に狭まる結果となっているのだ。

 

 あのトリガーを奪った目的は恐らく遊真の攻撃力を重く見たが故の防御性能の向上なのだろうから間違った使い方とは言えないが、それでも攻撃面の弱点が出来た事に違いは無い。

 

 遊真としてはそこを突かない理由は存在せず、戦術方針は固まった。

 

「このまま後ろを陣取って、隙を狙うぞ。()()を使えば動きを止められるけど、そうなったらあの鎧を取り外して来るかもしれない。そうなった方が正直厄介だし、一撃で仕留められる機会が来るまで粘るよ」

『了解した。私の方でも変化がないかチェックしておこう。油断するな』

「当然。全力でやるだけだよ。手を抜いたら、此処を任せてくれた迅さんに顔向け出来ないしな」

 

 

 

 

「ハウンド」

 

 二宮より、ハウンドが両攻撃(フルアタック)で放たれる。

 

 狙うは、右端に陣取る模倣躯体ラービット。

 

 夥しい数の弾丸が、白い異形を取り囲むように斉射される。

 

『────────!』

 

 模倣躯体ラービットはその攻撃に対し、跳躍を以て対応。

 

 驚異的な脚力により、包囲射撃の着弾前に上空へと跳び上がった。

 

「馬鹿が」

 

 しかし、それは二宮達によって誘導された結果だった。

 

 遥か上空より、無数の弾丸が飛来。

 

 一斉にそれらが跳躍した模倣躯体ラービットに着弾し、その装甲を大きく抉り取る。

 

 これは言うまでもなく、遠方からの樹里による射撃援護だ。

 

 彼女の近辺にはもう一体の模倣躯体ラービットが迫っているが、そちらは遊真の方で対処出来ている為、樹里はこちらの援護を行う事を選んだのだ。

 

 遊真の方を援護しても良いのだが、樹里の射撃の精度はハッキリ言ってそこまで高くは無い。

 

 下手をすれば戦場を縦横無尽に動く遊真の枷となってしまいかねず、それよりはこちらを援護した方が合理的であると判断したのだ。

 

 連携能力自体も高い遊真であればそのあたりも対応してしまいそうな気はするが、生憎樹里と彼の間にそこまでの信頼関係はない。

 

 一方、こちらの戦場であれば今のように指定された場所に射撃を撃ち込めばそれで充分過ぎる援護となるので、樹里としてはこちらの方がやり易い。

 

 何より曲がりなりにも二宮は師匠筋である為に、連携はこちらの方が取り易いのだ。

 

 今の流れも、二宮達が一斉射撃で上空へ追い込んだ敵を上からの攻撃で撃ち落とす、という単純な連携だ。

 

 これならば樹里の射撃精度でも問題なく実行出来る為、白羽の矢が立ったというワケである。

 

 加えて、各個撃破を行う以上どうしても他の模倣躯体ラービットへの対処が課題となっていた。

 

 もしも樹里の助力がなければ追撃の一手を行うには他の銃手や射手を使わざるを得ず、そうなると流石に影浦一人だけでは四体もの模倣躯体ラービットの相手は難しい。

 

 出来なくはないだろうが、影浦は一人しかいないのだから当然取りこぼしは出て来るだろう。

 

 そうならない為にも、樹里の援護射撃は必須と言えた。

 

 適材適所、とはこの事だろう。

 

 結果として模倣躯体ラービットは蜂の巣となり、ボロボロの姿を晒している。

 

『…………!』

 

 通常であれば致命傷である筈の損傷だが、それでも未だに模倣躯体ラービットは動いていた。

 

 矢張りあのラービットを模した姿は張りぼてに過ぎず、本体はあくまでも内部のコアなのだろう。

 

 それさえ無事ならば模倣躯体ラービットはどのような損傷を負おうが糸で装甲を補充して活動を再開出来、コア以外への攻撃は意味が無い。

 

「そこだよ」

「旋空弧月」

 

 ────────等という、ワケではない。

 

 菊地原の指示に従う形で、生駒旋空が炸裂する。

 

 装甲がボロボロになり、腕も足も穴だらけになった模倣躯体ラービットは碌な抵抗すら許されず、拡張斬撃により両断される。

 

機宿糸(パラシトス)本体、に大幅な損傷、を確認。機能、を停止します』

 

 無機質な機械音声が、敵の機能停止を告げる。

 

 生駒旋空は今度こそ確実に、敵のコアを斬り裂いたのだ。

 

 確かに模倣躯体ラービットはどのような損傷を負っても活動を再開出来るが、それには糸による装甲の補充という工程(プロセス)が必要になる。

 

 当然ながら一度失った手足を瓦礫によって拡充する為には相応のタイムラグが必要となり、その間は無防備となる。

 

 故に樹里の射撃の直撃を受けてボロボロになった模倣躯体ラービットは回避も防御も許されず、コアの両断を受け入れざるを得なかったのだ。

 

 模倣躯体ラービットは移動するコアさえ無事ならば幾らでも損傷を修復して活動を再開出来るという初見殺し甚だしい性質を保持しているが、それでも無敵ではない。

 

 こうして一体ずつ確実に仕留めていけば、決して倒せない相手ではないのだ。

 

 残る模倣躯体ラービットは、他の射手や銃手による射撃援護を受けた影浦が相手取っている。

 

 二宮を除く射手と銃手が絶え間なく射撃と銃撃を敢行しつつ、平然とそれらの中で斬り込んで来る影浦が相手では、模倣躯体ラービットも防戦一方しか出来ていない。

 

 あの突起攻撃は脅威だが、あれを放つ為には一瞬の溜めと硬直がネックとなる。

 

 今のように絶え間ない攻撃を続けていれば、あの突起攻撃が襲って来る事はない。

 

 更に己の副作用(サイドエフェクト)を駆使して弾丸の雨の中でも構わず斬り込んで来る影浦までいるとなれば、碌な抵抗すら出来ないだろう。

 

 影浦は本来、こうした乱戦の中でこそ活きる駒だ。

 

 サイドエフェクト、感情受信体質により影浦は敵味方問わず攻撃の軌道を察知出来る。

 

 それは影浦本人に向けられたものでなくとも、その感情の()()()に彼が居さえすれば問題なく受け取れる。

 

 相手の視線がそのまま攻撃の射線となる為、このような包囲射撃のただ中でも彼を狙ったワケでもない弾幕程度、影浦は平然と切り抜けられる。

 

 勿論射手や銃手の面々が影浦に当たらないよう留意して攻撃している事もあるが、普通あんな弾幕の中に身を晒そうと思う者は中々いない。

 

 それが当たり前のように出来てしまう時点で、影浦の乱戦への適性の高さが伺える。

 

 二宮による各個撃破の方針は一体に集中している間の他の個体への対処がネックであったが、影浦の存在がそちらへの解答になった。

 

 本来感情など発しようがないトリオン兵相手に影浦の副作用(サイドエフェクト)が通じたのは気にはなるが、今はそれを考えるべきではないだろう。

 

 自分の仕事はあくまでも敵の殲滅であり、()()()については管轄外だ。

 

 無論求められれば協力は惜しまないが、今は戦闘以外の余計な事に意識を向けるべきではない。

 

 感情のない筈のトリオン兵が感情を受信する影浦のサイドエフェクトの適用内となった、というだけで碌な結果は思い浮かばない以上猶更だ。

 

 今はただ、敵の殲滅に集中すればそれで良い。

 

 そう割り切った二宮は、次の指示を出した。

 

「木岐坂、次は二番目の個体を狙う。同じ手が通じるとは限らないが、必ず何かしらのアクションは起こす筈だ。お前はそこを狙え」

 

 

 

 

「了解。準備します」

 

 二宮の通信を受けた樹里は、早速両脇にトリオンキューブを生成する。

 

 既に位置バレしている以上バッグワームは不要として解除してあり、弾数を重視しての両攻撃(フルアタック)態勢だ。

 

 こちらに接近していた個体に関しては遊真はしっかりと対処してくれており、あの様子なら心配ないだろうと判断していた。

 

 活躍の場が奪われた香取は何とも言えない表情をしていたが、樹里が危険な目に遭うよりはマシだと割り切ったようで文句は垂れていない。

 

 どころかしっかりと周囲を警戒しており、何が起きても樹里を守れるように備えてすらいた。

 

 現在両攻撃(フルアタック)での攻撃を敢行し続けている樹里はシールドを張れず、いざ攻撃を受ければ無防備を晒す事になる。

 

 現状優勢ではあるものの敵は再生するトリオン兵という得体の知れない相手であり、警戒をし過ぎるという事はないだろう。

 

 樹里本人が漠然とした不安を抱いているのを目撃した以上、香取に手を抜くという選択肢は無い。

 

 護衛に徹している為香取本人は今回の戦闘で直接的な貢献は出来てはいないが、それでも樹里を一人にするワケにはいかない以上仕方ないと割り切っていた。

 

 これが他の人物の護衛であれば文句の一つでも言っていたかもしれないが、香取にとって幼馴染の平穏は何よりも優先すべき事項である。

 

 故に自分の出番が無いのはむしろ幸運な事だと言い聞かせ、こうして待ちに徹しているのだ。

 

 このあたり、身内を最優先にする香取らしいと言える。

 

 そんな香取の厚意を一身に感じている樹里は、心なしか嬉しそうな顔をしている。

 

 先程模倣躯体ラービットに睨まれた時は怯えすら見せていたが、大切な幼馴染が隣にいるという状況が思った以上に彼女の精神を安定させているようであった。

 

(順調ね。このままなら、問題なく終われるでしょ。油断は出来ないけど、何とかなりそうだわ)

 

 幼馴染が妙な不安を抱いていた様子であった為警戒したが、案外拍子抜けと言っても良い結果に頬が緩む。

 

 警戒は解かないものの、このまま順当にいけば敵の駆除は間もなく完了するだろう。

 

 少なくとも香取は、そう考えていた。

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