「さあ、やって参りましたB級ランク戦ROUND6! 解説は私こと、武富桜子がお送りして参ります!」
ブース内に、少女の元気な声が響く。
彼女は、武富桜子。
ランク戦の実況解説システムの責任者にして、考案者だ。
桜子はランク戦における実況と解説の必要性とメリットを上層部にプレゼンし、その結果として今のシステムが出来上がったという立役者だ。
現在のランク戦の実況解説についての差配は彼女に一任されており、責任者として役職すら持っている。
本業である筈の部隊オペレーターの仕事よりも、こちらの方に熱が入っているのは最早誰が見ても明らかだろう。
そんな桜子だが、今期は予定が合わなかったり他に有望な試合がある等の理由で、中々香取隊の実況を行う事が出来ていなかった。
桜子としても話題沸騰中の部隊である為に出来るならば自ら実況をしたかったのだが、此処に来て漸くその念願が叶ったと言える。
彼女のハイテンションには、そういった理由もあったりするのだ。
「解説には先日のROUND5でもお越し頂いた出水先輩と、なんとS級隊員の天羽先輩に来て頂けておりますっ!」
「よろしく頼むぜ」
「よろしく」
尚、その上機嫌の理由には今回解説を引き受けた二名の存在もある。
出水はROUND5でも会場警備と兼任の為に解説を引き受けて貰ったばかりだったのだが、突然桜子に彼の方から接触があり「ROUND6の解説をやりたい」と打診があったのだ。
突然の申し出に驚きながらも丁度従来の解説役に急用が入り代打を探していた桜子の側に断る理由はなく、内心ウキウキで承諾をしている。
出水については気になる情報を事前に入手していた事もあり、面白い話が聞けるかもしれない、という期待もあった。
それに加えて、今回はあの天羽が解説を引き受けてくれたのだ。
桜子は出来る限り多種多様な隊員に解説をやって貰いたいという想いがあり、普段人前に顔を出す事の少ない相手にもそれなりの数ランク戦の解説の打診を行っていた。
今回天羽に話を持って行ったのも半ば駄目元であり、以前に無下に断られた事もあったので駄目だった場合の候補も用意した上での打診であった。
しかし蓋を開けてみれば天羽は二つ返事で快諾し、当日となった今も問題なくこの席に座ってくれている。
これは望外の幸運と言えるものであり、天羽の気まぐれに感謝する桜子であった。
「今回戦うのは香取隊と玉狛第二、そして中位落ちから上位に復帰したばかりの王子隊となりますね。噂では玉狛第二の三雲隊員は王子先輩の弟子らしいですが、事実でしょうか?」
「らしーな。王子先輩の方も結構な溺愛っぷりで、指揮官としての性質の悪さも結構似てるぜ」
「ふぅん、王子さん弟子とか取ったんだ。そういう人には見えなかったけど」
「それだけ気が合ったって事だろ。実際、かなり似た者同士だしな」
ふむふむ成る程、と桜子は頷く。
修が王子の弟子である、という情報は事前に調べてあった事だ。
一応噂の範疇であった為同じく修の師匠をしているという話の出水に確認を取ったのだが、この分だと事実で間違いないようである。
天羽もあの王子が弟子を取ったという事で、若干驚いている様子であった。
「それから、出水先輩は三雲隊員や木岐坂先輩の指導も行っているという噂を聞いたのですが、そちらも?」
「ああ、確かに三雲くんの指導もしてるし、木岐坂に頼まれて色々教えてもいるぜ。
「成る程、ありがとうございます」
桜子は出水が修と樹里の師を行っていると確認出来た事に満足しつつ、頷いた。
話通りならば今回は弟子同士の戦いとなるようだが、矢張り公私はハッキリしているらしくどちらを贔屓しているというワケでもないらしい。
むしろ「弟子同士の戦いが楽しみだ」という雰囲気さえ感じ取れる為、今回彼が解説を引き受けてくれたのはあの二人に関係する何かである可能性は高いだろう。
しかし暗に「まだネタバレはしない」と言われた為、この場での追及はしない。
この分なら遠からず面白い話を聞けそうなので、潔く引っ込む桜子であった。
「今回の選択MAPは、市街地F。これは、滅多に選ばれる事のない地形ですね」
「そーだな。昔一度だけ試した事はあったけど、確かにありゃ中々に癖のつえーMAPだかんな」
「へぇ、どういう地形なの? オレ、ランク戦とかしないし分かんないんだよね」
天羽はS級隊員である為、チームランク戦はおろか個人ランク戦すら参加出来ない。
少なくとも彼がS級になって以降はランク戦は一切行っていない為、マイナーなMAP等は知り様がないのだ。
要はそれだけ、この市街地FというMAPは選ばれる事の少ない珍しい地形なのだと言える。
勿論それは観客の面々にとっても同じであり、出水はこの場の総意を察した。
「一応、説明が必要みてーだな。武富さん、頼める?」
「了解しましたっ! では、簡単に説明をさせて頂きますっ!」
桜子は元気良く返答し、出水の要請に応じた。
MAPの解説は出水にも出来るのだが、どうしても主観寄りのものとなる。
その点オペレーターである桜子ならば、完全に客観的な説明が行える為適役なのだ。
無論随時補足は入れるが、まずは彼女に譲った方が良いと考え、水を向けた形だ。
こういう配慮も出来るあたり、出水らしいと言える。
何より桜子が妙にやる気を出しているので、見せ場を譲ったとも言えるが。
「市街地Fは、性質としては市街地Dと似ています。MAPの北側に大きな駅舎があるので、そこでの屋内戦が起こるケースの多いMAPです」
ですが、と桜子は続ける。
「市街地Dと異なるのは、やはりMAPの
「一応市街地Aとは違って、線路や踏切に電車とかもあっから、色々感覚が違うMAPでもあるけどな。駅舎の向こうにゃでっけービルもあるし、あの上に陣取れればMAP全域を見渡せたりもするな」
市街地Fは二人の言う通り、少々特殊なMAPである。
性質としては駅舎という特殊な建物があり、そこでの屋内戦闘が起こるケースが多いという点ではモールが主戦場となる市街地Dと似通っている。
但しこちらは市街地Dと異なりMAPの広さが市街地Aと同程度に存在する為、駅舎以外での戦闘も普通に発生するのだ。
駅舎の奥には展望台付きのビルが存在し、そのビルより高い建物はMAP内に存在しない為、狙撃手ならば押さえておきたいポイントもある。
様々な意味で、特殊なMAPと言えた。
「しかし、何故このMAPは選ばれるのが少ないのでしょうか? 屋内戦闘を厭うのであれば他の場所でも戦闘が行えますし、敬遠する理由はないように思えますが」
「理由ってのが、まさに
出水の言う通り、このMAPが選ばれる事が少ないのは独自の強みを押し付け難いという点にある。
相手に屋内戦闘を強要し、狙撃手封じをしたいのならば素直に市街地Dを選べば良い話だ。
そういう狙いを持つチームならば、わざわざ屋外戦闘も可能なこのMAPを選ぶ理由が無いのである。
要は需要と供給の問題で、作戦を立てる上で市街地Dではなくこちらを選ぶメリットがあまり見当たらない、というのが大きいのである。
かといって、屋内戦闘を仕掛ける以外の目的を持つチームとしてもこの地形を選ぶ理由は薄い。
変に特殊なMAPを選ぶのならば、やり慣れた市街地Aや市街地Bを選んだ方が余程戦い易いからだ。
MAP選択はランク戦に於ける大きなポイントであり、その選択には重要な意味がある。
故にこそ、中途半端に特殊な地形であるこのMAPは選ばれ難いのだ。
「一応駅舎だから、市街地Eみたいな駅地下もあっけど、そっちでの戦闘がしてーんなら素直に市街地Eを選べば良いワケだしな。そういう理由で、わざわざこのMAPを選ぶ部隊は少ないんだよ」
また、駅舎である以上俗に駅地下と呼ばれる地下街も存在し、そこでの閉所戦闘が起こるケースもある。
しかしそれならば駅地下での戦闘を強要出来る市街地Eを選べば良いだけであり、そういう意味でもこのMAPが選ばれる理由は薄くなる。
総じて色々特殊なギミックはあるものの、それを積極的に活かす方法が少ない事からこのMAPは選ばれ難い、というワケだ。
「屋内戦闘がしたくねー相手からすりゃ、駅舎を避けて戦えば良いだけだからな。実際に昔、駅舎に籠るチームと駅舎に近付きたくないチーム同士が睨み合って、時間切れになった事があったんだよ。そういう泥試合を避ける意味でも、このMAPは人気がねーんだよな」
出水の言う通り、屋内戦闘が苦手な相手からすれば駅舎を避けて戦えば良いだけの事なので、参加チーム同士の思惑がぶつかり合った場合はそういった泥試合が起こる可能性もある。
そういう意味でもこのMAPは不人気なのであり、市街地Cや市街地Dとはまた違った意味でのクソMAP認定がされているのだ。
面倒なギミックのあるMAPというのは巧く利用出来れば良いが、そうでなければ泥試合の温床になり易い。
堅実さを旨とする者達にとっては、このMAPは下手に関わるのを避けたい地形と言えるだろう。
「焼き出し用のメテオラすらなかった場合は、それが顕著だしな。そういう意味じゃ、今回は邪魔なら建物ごと吹っ飛ばせば良いってチームが二つ揃ってるワケだが、どういうつもりなんだろーな」
「市街地Fか。面倒なのを選んでくれるじゃない」
香取は選ばれたMAPを確認し、顰め面を浮かべた。
それは他のメンバーとしても同様で、一様に難しい表情をしている。
この市街地FというMAPは、それだけ特殊な地形と言えるのだ。
「大きな特徴としては、北側に巨大な駅舎があるって所ね。実質、市街地Aと市街地D、市街地Eの性質を複合させたMAPと言えるわ」
「駅舎内では市街地Dみたいな屋内戦闘が起こるし、駅地下だと市街地Eみたいな閉所戦闘が起こるもんね。一回試しで戦ってみた事あるけど、なんていうか、その」
「────────色々やろうとしてギミックが取っ散らかってるのよね、このMAP。此処を選ぶくらいなら素直に市街地Dや市街地Eを選んどけ、って話よ。凄い地形を作るぞ、って意気込んで失敗したパターンじゃない? これって」
三浦が言葉を選んだのに対し、香取は身も蓋も無い言い方をするが、実際にそうなのだから反論のしようもない。
この市街地FというMAPはギミックこそ多いものの、市街地A並の広さがある為にそれを活かすのが難しいのだ。
屋内戦闘や閉所戦闘を避けたい相手であれば駅舎を戦場にしなければ良いだけの話だし、そもそもMAPが広いので駅舎を主戦場にしようとしても集結までに時間がかかる。
そういう意味でも泥試合になり易い要素の塊であり、見る者によっては欠陥MAPと言われても差し支えない地形であった。
「────────けど、あの王子が選んで来た以上は何かしらの思惑がある筈よね。気まぐれで、って事は絶対にないと思うわ」
────────しかし、それを選んだのが王子である以上油断は出来ない。
優れた策略家である王子の行動には、何かしらの意味がある筈だ。
少なくとも、この特殊なMAPを選んだ相応の理由があるだろう。
「必ず、何かある筈よ。王子なら、何だってやりかねないもの」
「────────なんて風にカトリーヌは警戒してくれるだろうから、安易に爆撃で駅舎を破壊する、って展開には早々ならないと思う。これは勿論、オッサムも同様だね」
王子は淡々と、己の思惑を説明する。
彼の説明に蔵内は成る程、と頷いた。
「香取のお前への警戒度と、弟子である三雲くんのお前への信頼を逆手に取るワケか。考えたな」
「ああ、今のカトリーヌは中々の慎重さを備えているからね。こういう特殊な地形を選んだ以上は絶対に警戒するし、安易に駅舎を破壊しよう、なんて発想にはならない筈さ」
「そして三雲くんも王子先輩の事を知っているので、同じく地形破壊を軽々には仕掛けて来ない、というワケですねっ!」
「その通り。それもまた、このMAPを選んだ理由の一つだね」
王子の言う通り、香取や修は王子に対し最大限の警戒心を以てこの試合に臨んで来るだろう。
香取はROUND2でしてやられた経験から、修は弟子故に王子の性格を知っているが故に。
駅舎の破壊という安易な択を選ぶ事はないだろうというのが、王子の見解であった。
王子らしい、相手の心理を看破した上での読みと言える。
「だから、転送位置次第だけど駅舎を主戦場にするように動くよ。作戦はさっき伝えた通りだから、頼んだよ」
「了解」
「了解しましたっ!」
二人の返事を聞き、王子はにこやかに頷いた。
「さあ、色々と大変な試合だけど、頭の使い方次第でやりようは幾らでもある。ぼく等らしい戦いで、強敵から点を掻っ攫っていこう」
「そろそろ時間がやって参りました! 全部隊、転送開始っ!」
そして。
桜子の号令と共に、仮想空間への転送が開始された。
第六試合、その幕が上がる。