香取隊の狙撃手   作:デスイーター

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香取隊XVIII

 

 

『全部隊、転送完了』

 

 アナウンスが響き、隊員の転送が完了する。

 

 目の前に広がるは、市街地。

 

 視界の奥には、此処からでも見える巨大な駅舎とそれを背にする高層の展望タワー。

 

 それら独自のオブジェクトが、否応なくこのMAPの特殊性を実感させる。

 

『MAP、市街地F』

 

 転送された香取は建物の屋上に着地し、静かにバッグワームを纏う。

 

 そして鋭い目つきで街を見回しながら、ふぅ、と息を吐いた。

 

「皆、行くわよ。まずは、予定通りにやるわ」

『『『了解』』』

 

 チームメイトの返事を確認し、香取は建物から飛び降りて街を駆け出した。

 

 第五試合、その火蓋が切って落とされたのである。

 

 

 

 

「さあ、試合が始まりましたね。では、本格的な解説の前にこちらをご覧下さい」

 

部隊順位得点
二宮隊 1位36Pt 
香取隊 2位32Pt 
影浦隊 3位29Pt 
玉狛第二 4位27Pt 
生駒隊 5位25Pt 
弓場隊 6位24Pt 
王子隊 7位22Pt 
東隊 8位20Pt 
鈴鳴第一 9位20Pt 
諏訪隊 10位18Pt 
漆間隊 11位16Pt 
那須隊 12位14Pt 
荒船隊 13位13Pt 
柿崎隊 14位11Pt

 

 桜子の言葉と共に、スクリーンにランキングが表示される。

 

 改めて示されるその順位に、会場がどよめいた。

 

「前回のROUND5の結果により、香取隊は影浦隊を上回り二位に浮上しました。玉狛第二は変わらず四位、王子隊は東隊と入れ替わりで上位に戻った形となりますね」

「前の試合で香取隊が直接影浦隊を倒したのが響いてるな。東さんが緊急脱出を選んで生存点を取れたのも偉いし、頑張った成果ってこった」

「東隊がいると、生存点を得るのって結構難易度高かったりするもんね。タイムアウトでの試合終了も結構あったみたいだし、それを考えればよくやった方じゃない?」

 

 出水と天羽は、それぞれの言葉で前回の試合の戦果を称賛する。

 

 天羽の人格などほぼ知る由もない観客の中には「素直に褒めるキャラなんだ」と、意外そうに首を傾げる者もいた。

 

 普段S級隊員として人前に出る事の少ない天羽は、ただ喋るだけでも珍しがられる存在でもあった。

 

 まあ、雪丸など親交の深い者にとってはそうでもないのだが、良く知らない第三者にとってはそんなものだ。

 

 天羽自身孤立はしていないもののそこまで交友関係が広いというワケではないので、仕方のない結果と言える。

 

「玉狛第二は話によると遠征を目指しているとの事ですので、その条件であるB級二位以内に入るには現在二位の香取隊を上回る必要があります。そういう意味で、今回の試合は結構重要ですね」

「そーだな。玉狛としちゃ今回香取隊に点は与えたくねーし、なるべく直接倒して点を取りたいって思惑もある筈だ。その立場が、立ち回りにも影響して来るだろーぜ」

 

 遠征を目指す玉狛第二は、現在四位。

 

 二位の香取隊とは、5ポイントの開きがある。

 

 5点というのはランク戦に於いては一見大きな差に思えるが、試合の結果によっては充分下剋上を狙える状態でもある。

 

 特に今回のように直接対決の機会のある場合には、猶更だ。

 

 そういう意味でも、今回の試合の意味は大きい。

 

 この試合の結果次第で玉狛が目的を果たす上でのハードルが大きく上下するのだから、誰に取っても重要な試合なのは言うまでもない。

 

 遠征狙いの玉狛第二は勿論、そういった目的のない香取隊にとってもB級の頂点が垣間見えている今手を抜く理由はなく、王子隊も順位的に中位落ちのかかった試合でもあるので中々に厳しい立場にある。

 

 様々な意味で、熾烈な争いになるのが目に見えていた。

 

「さて、試合開始直後から全員がバッグワームを纏って潜伏していますね。狙撃手がいるチームが二つある試合でこれは、中々珍しいのではないでしょうか?」

「そーだな。狙撃手が複数いる試合だと、バッグワームを使うのはリスクがあっからな。咄嗟の両防御(フルガード)が出来ねーから、高所からの視認で見つかってアイビスで狙われた場合はシールドごとぶち抜かれる可能性があるしな」

 

 出水の言う通り、狙撃手が複数いる試合ではバッグワーム使用はリスクがある。

 

 バッグワームを使うという事はトリガーの片枠を常に使用中にするという事と同義であり、その場合咄嗟の両防御(フルガード)を行う事が出来なくなる。

 

 狙撃手にはレーダーに依らずとも高所からの直接視認という索敵手段がある為、バッグワームを纏っていても関係なしに発見されるケースがあるのだ。

 

 その場合、片枠だけのシールドではイーグレットならピンポイントでの防御を成功させる必要があるし、アイビスでは二枚重ねでなければ貫通される。

 

 故に狙撃手が複数いて高低差のあるMAPで戦う場合には、バッグワーム使用はリスクが伴うのだ。

 

 勿論使わない場合位置が露見するという別のリスクはあるものの、その場合はいつ攻撃が来てもおかしくないと構える事が出来る為、不意打ちで落とされる確率は低くなる。

 

 無論人によってスタイルは異なるが、そういった危険性があるのは事実であった。

 

「けど、今回参加してる狙撃手はどっちもトリオンがかなり高いよね。雨取って子はなんか黒トリガー級のトリオンしてるらしいし、木岐坂って子も出水さんと同じくらいはあるんでしょ?」

「そーだな。だからアイビスの火力はかなり高いし、防御側のトリオン量によっちゃ下手すっと二枚重ねでも貫通される恐れがあんな。少なくとも、メガ────────────────三雲くんなら、確実にぶち抜かれるだろーな」

 

 但し、今回参加している狙撃手である千佳と樹里は双方共にトリオンがかなり高い。

 

 トリオンの高さはイコール火力の高さであり、トリオン量が威力に直結するアイビスではそれがより顕著だ。

 

 だからこそ両者の狙撃は両防御(フルガード)だろうと貫通する恐れがあり、少なくともトリオンが戦闘員としては最低値である修なら確実に貫かれるだろう。

 

 千佳の狙撃であれば二宮級のトリオンで両防御(フルガード)すれば漸く防げるかどうか、といった所だ。

 

 それも試した事はないので事実は分からないが、それだけトリオン量と火力の関係は密接なのだから。

 

「そういった理由から、全員がバッグワームを纏っているのでしょうか? どうせ防御しても貫かれるなら、発見される可能性を低くした方が得策であると」

「そういう面もあるだろーな。それに、今回戦う香取隊と玉狛第二にゃ共通点がある。()()()()()()()()()()()()()ってトコだ」

 

 出水はそう言うと、映像の中でバッグワームを纏い街を駆けるヒュースに視線を移した。

 

「今回、玉狛が一人増えてるだろ? この状況で投入して来たって事は、間違いなくエース級の切り札の類に違いねーと思うぜ」

「そうだね。今回の参加者の中でも空閑って子と同じくかなり良い実力(いろ)をしてるし、間違いないと思う。何処から引っ張って来たかは知らないけどさ」

「噂に依ると、玉狛のエンジニアの親戚らしーぜ? 本来は玉狛第一に入る筈だったけど、迅さんがS級じゃなくなってそっちに復帰したから三雲くん達の方に入ったらしーな」

「────────()()()()()()()()()()()、ね。成る程」

 

 天羽はそう呟き、眼を細めた。

 

 玉狛のエンジニアであるミカエル=クローニンは、実を言うと近界民(ネイバー)である。

 

 旧ボーダーの関係者はその事を知っているし、その初期メンバーである梅咲鉄弥の遺した黒トリガーの使い手である天羽も当然それは既知である。

 

 そのクローニンの親戚などこの世界にいる筈もないので、必然的にそれは近界の出身者という関係者にのみ分かる暗示でもあった。

 

 それを理解した為、天羽はヒュースの()()について見当が付いたのだろう。

 

 無論それはこの場で言う事ではないので、口を噤んだ、というワケである。

 

「とにかく、香取隊にゃ香取と木岐坂が、玉狛第二にゃ空閑とヒュースっていうエースの二枚看板があるワケだ。要はどっちも大駒を二つ抱えてるっつー事で、突出したエースのいない王子隊にとっちゃ正面切っての対決は避けたい組み合わせなのは間違いねーな」

「王子さんは弱くないけど、一人で戦局をひっくり返せるエース、ってワケじゃないからね。元々正面からやるより横から静かに点を掻っ攫ってくイメージだし、最初からバッグワームを使うのも違和感はないね」

「そういうこった。王子隊としちゃ、直接ぶつかるんじゃなくて機動力を活かして取れる駒を獲りたいってのが本音だろーからな。さっき言ったリスクもあるし、立ち回りとしちゃ不自然じゃねーよ」

 

 ともあれ、今回の試合では王子隊以外の二部隊はエースを二人抱えているという共通点がある。

 

 この場合のエースでは一人で戦局をひっくり返し得る突出した駒という意味であり、四名それぞれがその特徴に当て嵌まる。

 

 香取は爆発力が高く劣勢からでも格上を殺しかねない怖さがあるし、樹里はその火力と射程が純粋に強力極まりない。

 

 遊真はどんな状況からでも点が取れる安定したエースだし、ヒュースの実力は未知数だが天羽のサイドエフェクト(はんてい)を信じるなら同等の脅威である事は間違いない。

 

 そういう意味で、王子隊がバッグワームを使うのはむしろ自然と言えた。

 

 正面切っての戦いなら不利な以上、潜伏して隙を突くのが彼等の常套手段であるからだ。

 

 王子隊の戦術自体が遊撃に特化している事もあり、彼等がバッグワームを使う事になんら違和感はないのである。

 

「王子隊としちゃ、他の二部隊が戦ってる隙を突きたいって感じだろーからな。三人全員が駅舎を目指してるみてーだし、何か作戦でもあるんだろーな」

「MAP選択したのは王子隊だしね。どういう作戦なのかは、未だに読めないけど」

 

 そーだな、と出水は頷く。

 

「いずれにせよ、無策じゃねーのは確実だな。このMAPを選んだ意味が、必ずあんだろ」

 

 

 

 

「樹里、誰か見付けられた?」

『今はまだ、誰も。もうちょっと上に行こうか?』

「お願い。出来ればさっさと見付けて試合を動かしたいしね」

 

 香取は通信で樹里に指示を出しながら、街を駆けていた。

 

 現在、レーダーには一つも反応が映っていない。

 

 樹里には早々に高所を取って貰い索敵をさせているが、それでもまだ誰も見付けてはいない。

 

 彼女の副作用(サイドエフェクト)なら距離関係なく遮蔽物さえなければ発見可能なので、より高い場所に移って貰い索敵範囲を広げた方が得策だろう。

 

「王子もメガネも、時間与えると碌な事にならないからね。アンタはそのまま、上から索敵してちょーだい。アタシ等は予定通り、駅舎に向かうわ」

『来るかな?』

「来るでしょ。玉狛は点が欲しい筈だし、王子隊もこのMAPを自分で選んだ以上駅舎でやりたい事が絶対にある筈よ。なら、そこに跳び込むのが手っ取り早いわ。アンタに爆撃して炙り出すって手もあるけど、例の隠し玉の事を考えたらアンタの位置はギリギリまで隠しておきたいしね」

 

 香取はそう言って、ふぅ、と息を吐いた。

 

「あのメガネは王子の弟子だし、アイツの碌でも無さは知ってるでしょ。だから同じように、チビ大砲の爆撃で炙り出しをしようって気は無い筈よ。王子の性格の悪さを知ってるなら、そんな軽弾みな真似は控える筈だしね」

『でもそれ、王子先輩なら読んでそうじゃない?』

「かもね。けど、最初から王子に読み合いのステージで勝とうってのがまず筋違いなのよ。悔しいけど、そういう面じゃあっちの方が上手だしね」

 

 そう言って、香取は癪だけど、と吐き捨てた。

 

 香取は王子の人間性はともかくとして、その頭脳の優秀さは認めているのだ。

 

 それがより一層「性格も気に食わないのに能力もあるなんてムカつく」という苛立ちに繋がっているのだが、彼の読みの優秀さを認めているのは間違いない。

 

 その上で、同じステージに立つべきではないと香取は判断しているのだ。

 

「読み合いで上を行かれるなら、こっちは下手にリスクのある行動を冒さずに確実に地力で圧倒してやった方がいいわ。幸い、正面戦闘なら王子よりアタシの方に分がある。ならアタシ等がやるべきは、軽弾みな行動を慎んで隙を見せずに確実に相手を倒す事よ。多分、メガネも似たような事は考えてるでしょーしね」

 

 読み合いで上を行かれるなら、そもそもの地力の高さを押し付ける戦法で圧倒してやれば良い。

 

 暴論のような開き直りだが、あながち間違ってはいない。

 

 奇策の類というのは、基本的に強者殺し(ジャイアントキリング)の為のものだ。

 

 一定の実力を持っているなら素直に正攻法をやった方が強いのは間違いないし、奇策というのは普通ならやらない行動を行う分、破られた時のリスクが高い。

 

 それでも状況が嵌まれば格上さえ喰いかねないのが奇策であるので、そういった策を使う相手に対峙した際に重要なのは突くべき隙を見せない事だ。

 

 そういう相手は基本的にあらゆる手段を使ってこちらの隙を探って来るので、そもそもブレるような隙を作らなければ盤石の態勢は揺るがない。

 

 その極地を行っているのが二宮隊であり、彼等は地力の高さを正攻法で押し付けるのが強い事を知っており、だからこそ奇策の類は基本的に使わず堅実に相手の勝ち筋を潰す戦術を取る。

 

 香取隊には彼等程の安定感はないし、場合によっては奇策も使うので盤石の安定感という意味では不足だ。

 

 しかしエースの二枚看板という強烈な手札がある分、王子隊に対して有利な面があるのは確かなのだ。

 

 ならばそれを活かさない手はなく、重要なのは隙を見せず確実に相手を潰す方策を打つ事だ。

 

 今回は樹里の「秘密兵器」もあるので、猶更である。

 

「ともかく、樹里は早く上に移動して何とか敵を見付けて頂戴。アタシ等は、予定通りに動くわ」

『了解。じゃあ、いざという時の準備もやっとくね』

「頼むわよ。大丈夫だと思うけど、周囲の警戒もしときなさいよね」

 

 了解、という返事を聞きながら香取は目的地へ向かって駆け出した。

 

 向かう先は無論、MAP北側の駅舎。

 

 彼女は今回の主戦場となるであろう場所へ向かうべく足を速め、街の中を駆けて行った。

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