香取隊の狙撃手   作:デスイーター

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玉狛第二⑪

 

 

『よくやった、空閑。千佳も言った通りに出来たな。えらいぞ』

「オサムが指示してくれたからな。そうじゃなきゃこううまくはいかなかったと思うぞ」

「う、うん。多分、言われてなきゃ出来なかったと思う」

 

 遊真と千佳は通信で修から労いの言葉を受け、それぞれ反応を返す。

 

 出水の予想通り、二人は予め修から「王子が千佳を狙って来るからその時は固定シールドで耐えてその隙を狙うようにしろ」という内容の指示を受けていた。

 

 だから二人はその指示のお陰と、修に返していたワケだ。

 

『王子先輩の性格と戦術傾向から予測しただけだよ。これでも一応、弟子だったワケだしね』

 

 修は王子の弟子として過ごす内に、彼の性格についてはある程度把握していた。

 

 王子は表面上は奇天烈な個性を持つ優等生に見えるが、その本質な負けず嫌いな戦略家だ。

 

 いつも飄々としているように見える裏で、彼は虎視眈々と常に上を狙うべく牙を研いでいる。

 

 たとえ周りに格上しかいなくとも、自分達なりのやり方で上を目指し喰らいついてみせる。

 

 そういう気概を内に秘めた、存外に熱い少年なのである。

 

 だからこそ戦いに臨む前には下調べを欠かさないし、誰が相手だろうと油断はしない。

 

 エースと呼べる程突出した強さを持つワケではないが、盤面次第では格上喰いも有り得る優秀な指揮官である。

 

 但し、彼には自身の分析を絶対視するという傾向が見受けられた。

 

 綿密な調査の上で王子本人が下した分析結果を、彼は確定事項の前提として扱う事が多い。

 

 これは彼自身の分析力の高さから来る経験則のようなもので、実際にその予測が外れた事は少ない為無理からぬ事と言える。

 

 相手の成長速度もある程度分析した上で行う考察なので、大抵の場合は正鵠を射る内容となる。

 

 しかしそれは、相手が自身の予想を上回る成長を見せた時呆気なく崩れ去る未来予測でもあった。

 

 今回の場合、確かに千佳個人だけならば王子への対処は不可能だったろう。

 

 だがそこに修の指示という変数が加わる事で、その予測は覆された。

 

 千佳は戦闘者としてはまだ未熟だが、指示を忠実にこなす能力は結構高い。

 

 言われた内容を疑問なく遂行するという兵士としての質の高さを、彼女は持っているのだ。

 

 だからこそ「王子先輩が来たら固定シールドで耐えろ」という分かり易い指示は、実行になんら問題はなかった。

 

 王子の千佳に対する評価は「トリオンが高く脅威だが戦闘経験が浅く未熟な駒」、というものだろう。

 

 実際にそれは間違っておらず、千佳自身の戦闘の拙さは否定し切れない。

 

 されど、王子は「早期に脱落し思考を回す事に集中した修」の分析力を過小評価していた。

 

 正しくは、「思考に集中した状態の修の洞察力」の高さが彼の想定を超えていたのだ。

 

 これまで修は彼本人の実力の低さとは裏腹に、試合終盤まで生き残る事が多かった。

 

 本来の実力であれば早期の脱落も普通に有り得た修であるが、王子から戦術の教導を受けていた事と遊真と千佳を十全に使いこなす策を使っていた事で自然と彼本人の生存力も上がっていたのだ。

 

 故に、あれだけ早く修が脱落した試合というのは他に例を見ない。

 

 だからこそ王子は、早期脱落した修の思考力に対する検証データが足りず、その成長性を見誤ったのだ。

 

 これは修がランク戦の期間中可能な限り王子との接触を避け、情報を与えないようにしていたのも大きいだろう。

 

 王子もそんな修の魂胆を見抜いて試合前に接触を試みたのだが、そこで得られた「修は何かしらの隠し玉を用意している」という情報の解析にリソースを注いでいた為、それ以外への警戒が後回しになっていた部分がある。

 

 彼の想定する玉狛第二の脅威は結局のところ遊真とヒュースという二大エース、及び莫大なトリオンを持つ千佳の火力に集約されており、読みの鋭さでは修に負ける事はないという自負もあった。

 

 事実として読み合いでは修に勝利し実際に早期脱落まで追い込んでいるので、そう間違った分析ではない。

 

 しかし、修を読み合いで負かし自分の思い通りに試合を進めたという実績が、無自覚の侮りに繋がっていた事は否定出来ない。

 

 そこを修に突かれ、王子はまんまと踊らされた形となる。

 

 修も早期脱落して思考に集中するまでは王子の考えを予測し切れていなかったので、読み勝ちというよりは痛手の代価のようなものではある。

 

 だが、結果は結果だ。

 

 修は王子の策を読み切り、その思惑を防いで仕留めてみせた。

 

 その事実は、覆りはしないのだから。

 

『それより、()()ぞ』

「────────ああ」

「…………!」

 

 修の警告に、二人は気を引き締める。

 

 その、次の瞬間。

 

 天空から、無数の光弾が遊真達へ向かって降り注いだ。

 

 無論それは、樹里による弾幕。

 

 恐らくは、爆撃である。

 

「…………!」

 

 それを見た遊真は即座に千佳を抱きかかえ、いつでも動けるように身体を沈める。

 

 同時にスコーピオンを投擲し、飛来する弾を貫く。

 

 瞬間、刃に穿たれた弾が起爆。

 

 それに伴い周囲の弾丸も連鎖的に起爆し、周囲を轟音と共に爆発が席捲する。

 

 千佳が固定シールドで遊真ごと包み込み、その爆発から身を護る。

 

 強固な千佳のシールドを爆風が突破する事は叶わず、二人は無傷で生存した。

 

「────────!」

「来たか」

 

 だが無論、そんな事は相手も承知の上だ。

 

 追撃の為に、爆煙に紛れて香取が接近。

 

 ハウンドを撃ちながら肉薄せんとする香取に対し、千佳は外側に通常のシールドを張りながら固定シールドを解除。

 

 床下の障害がなくなった事で、遊真はもぐら爪(モールクロー)を使用。

 

 迫る香取に対し、下からの攻撃を試みた。

 

 香取は突如の床下からの刺突に一瞬目を見開くが、すぐさまその身のこなしを活かして身体を捻り、攻撃を回避。

 

 即座に展開したグラスホッパーを踏み込み、側面へと回り込んだ。

 

 更にそこへ、再び上空から無数の弾幕が降り注ぐ。

 

 香取を援護せんとする、樹里による再攻撃であった。

 

「チカ」

「うん」

 

 それに対し、遊真の一声で千佳は固定シールドを二重に展開。

 

 降り注いだ弾丸、誘導貫通弾(モスキート)は強固な二重の固定シールドを突破出来ず、弾かれた。

 

 確かに通常弾(アステロイド)の貫通力を付与したモスキートは脅威ではあるが、元の弾がそうであるように絶対の突破力を約束するものではない。

 

 広げたシールド程度であれば容易く貫通するであろうが、千佳の規格外のトリオンによって構成された二重の固定シールドともなれば突破は不可能だ。

 

 固定シールドはその場から動けなくなるという代償と引き換えに強度を上げた、シールドの発展技術である。

 

 文字通りの360度を覆う障壁を展開し、並の攻撃であれば問題なく防げるそれは緊急時の防御として重宝されている。

 

 勿論絶対の盾ではなくたとえば旋空やアイビス等には貫通されるのだが、それでも二重に展開すればアステロイド程度は防ぐ事が出来る。

 

 加えて今回は使用者の千佳が、規格外のトリオンを保持している。

 

 シールドの強度は持ち主のトリオン量に比例するので、その強度がどれ程のものかは言わずもがなだろう。

 

 結局のところトリオンの暴威によるごり押しではあるが、この場面ではそれが最も効率的だ。

 

 とはいえ、このまま足を止めていれば樹里がアイビスを持ち出して来た時点で終わりだ。

 

 固定シールドは確かに強固な盾ではあるが、樹里クラスのアイビスならば突破される可能性がある。

 

 だからこそ誘導貫通弾(モスキート)を凌ぎ切った時点で遊真は千佳へ目配せし、固定シールドを解除させた。

 

 そして彼女を抱きかかえたまま、跳躍。

 

「ハウンド」

 

 同時に、千佳はトリオンキューブを生成。

 

 そのトリオン量に応じた巨大なキューブが展開され、即座に分割。

 

 香取と樹里、それぞれのいる方向へ向けて圧倒的物量を誇る弾幕が射出された。

 

「チッ」

 

 香取は目の前に迫る凄まじい量の弾幕を前に舌打ちし、グラスホッパーを展開。

 

 それを踏み込んで跳躍し、先程の爆撃で破壊された新幹線の瓦礫の向こうへ移動。

 

 瓦礫を盾にして身を隠しつつ、そのまま二階へ飛び降りる。

 

 次の瞬間千佳の追尾弾(ハウンド)が着弾し、新幹線の残骸は凄まじい物量の弾幕により粉砕。

 

 しかし香取本人への攻撃は届かず、二人は彼女を見失う。

 

 量が量とはいえ二方向に分割した為、この結果は当然と言えよう。

 

 だが、問題は無い。

 

 遊真は千佳が展望ビルへ向けて撃った弾幕が上層階から放たれた弾によって迎撃されるのを見据えながら、踵を返す。

 

 そして千佳を抱えたまま新幹線乗り場を出て、展望ビルへ繋がる通路へ降り立った。

 

「────────」

「…………!」

 

 着地と同時に、香取がスコーピオンを手に斬りかかる。

 

 しかしそれを予測していた遊真はスコーピオンで斬り返し、鈍い金属音と共に香取の刃が弾かれる。

 

 次の一手に移る前に香取は後退しつつ、ハンドガンを斉射。

 

 それに対し遊真はシールドを張りつつ、前方へ跳躍。

 

 同時に千佳は再びトリオンキューブを生成し、二方向へ向け斉射。

 

 遊真という翼を得た高火力砲台が、蹂躙を始めた瞬間だった。

 

 

 

 

「玉狛の二人を奇襲した香取隊長でしたが、雨取隊員の防御と弾幕により一時撤退っ! その後場所を移した戦闘で、再び雨取隊員の火力が火を噴いたっ!」

「成る程、この状況なら最適解だな。中々えぐい手を取りやがる」

 

 出水はスクリーンに映る光景を眺めながら、したり顔で頷く。

 

 画面の中では千佳の弾幕をシールドとグラスホッパーを駆使して凌ぐ香取と、展望ビルに迫る弾幕を同じく物量で迎撃する樹里の姿が映し出されていた。

 

「最適解というと、あの空閑隊員が雨取隊員を運びながら弾幕を張らせる戦法の事でよろしいですか?」

「ああ、そうだ。まず前提として、雨取ちゃんは戦闘者としちゃまだまだ未熟だ。トリオンが規格外でも、本人の戦闘経験の浅さがどうしても足を引っ張る。だから、幾らトリオンが高くてもそれなり以上の相手と直接対峙した時点で押し負ける可能性が高いんだ」

 

 香取クラスなら猶更だな、と出水は続ける。

 

 確かに千佳はトリオンは高いが、戦闘スキルはまだ未熟だ。

 

 距離さえ取れればその火力で圧倒出来るだろうが、ある程度近付かれた状態だと戦闘経験の浅さから来る判断の拙さが露呈する。

 

 故にB級上位のエース級が相手では、1対1で対峙した時点で何処かで隙を突かれて敗北するのがオチだろう。

 

「けど、空閑が一緒なら話は別だ。空閑には雨取ちゃんにはねぇ戦術眼と過剰なまでの戦闘に対する()()があるから、戦闘経験の浅さっつう雨取ちゃんの弱点をカバー出来る。しかも機動力も高くて機転も利くから、ああやって抱きかかえて運べば雨取ちゃんへ攻撃が通る事はほぼねぇと言っても過言じゃねーだろ」

「実際、移動砲台というか戦闘機みたいなものだよね。あの状態だと」

「言い得て妙だな。確かに、表現としちゃそれが的確だろーぜ」

 

 だがそれは、あくまでも千佳が一人であった場合だ。

 

 遊真という戦闘巧者が付く事で、その弱点はカバーしてしまえる。

 

 現在千佳は遊真が抱きかかえる状態で移動しながら弾幕を張り続けており、香取はそれに逃げの一手を打つ事しか出来ず、樹里もまた迎撃で手一杯な様子だ。

 

 千佳を抱きかかえている為遊真自身の近接戦闘は封じられているに等しいが、それでも攻撃面は問題ない。

 

 抱きかかえている千佳が最強の移動砲台と化している為、わざわざ遊真が刃を振るわずとも充分以上の火力は確保出来ているからだ。

 

 防御は鉄壁な上、常に移動する高火力の砲台。

 

 それが、今の千佳と遊真の取っている強力極まりない布陣であった。

 

「幾ら雨取ちゃんのシールドとはいえ、木岐坂のアイビスならそれも突破しかねねぇ。けど、木岐坂に移動()()()()相手を正確に狙撃する程の腕はねぇから、ああやって常に動いてりゃアイビスで狙われる事はねぇしな」

「移動する相手に弾を当てるのって、かなり難しいって話だしね。腕の良い狙撃手は、相手の行動を予測してその軌道上に弾を()()って聞くけど」

「それに関しても、木岐坂のスキルじゃ空閑の移動ルートまで把握し切るのはかなり難しいだろーな。並の相手ならいけるかもしんねーが、空閑はとにかく戦闘慣れしてるみてーだかんな。当真先輩や佐鳥ならともかく、木岐坂の腕じゃ空閑が足を止めない限り狙うのは至難の業だろーぜ」

 

 相手が止まっているなら副作用(サイドエフェクト)頼りの精密狙撃でどうとでもなる樹里であったが、遊真が運んでいる状態の千佳を狙うのはかなり難しい。

 

 まず、移動中の相手に弾を当てる事自体がかなりの高等技術だ。

 

 当真や佐鳥といった面々が涼しい顔でこなすので感覚が麻痺しがちだが、動いている標的に弾を当てるというのは基本的に不可能に近い。

 

 狙撃はただでさえ対象との距離が遠く、着弾までにタイムラグがある。

 

 トリオン体の動体視力なら撃たれた瞬間反応する事も不可能ではなく、今回のようにそれなりの距離が開いている場合ならばほぼ確実に着弾までに察知されると考えた方が良いだろう。

 

 だからこそ腕の良い狙撃手は相手の移動ルートを予測し、その移動先に弾道を重ねる事が出来るが、樹里は純粋な狙撃手としての技量はそこまで高いワケではない。

 

 言うなれば強化視覚(サイドエフェクト)で強引に技術を補っているに過ぎず、そういった高位の狙撃手が扱うスキルについては未熟と言っても過言ではない。

 

 故に移動する標的に当てるという強化視覚の恩恵による補助を超えた動きを完璧にこなす事は出来ず、たとえやったとしても成功させるのは相当に難易度が高いだろう。

 

 そういう意味でも、遊真の行動は最適解と言えるのだ。

 

「かといって二人を放置したら、木岐坂を獲りに行くだろーからな。木岐坂を排除しちまえば空閑本人も動けるようになっから勝ち目がほぼなくなっちまうし、それは何としてでも阻止したいから香取はあそこで出るしかなかったワケだな」

「総じて、香取隊側が少し不利かな。千日手にも見えるけど、本当にそうならトリオン量の差で玉狛が勝つだろうし」

 

 ああ、と出水は頷く。

 

「それは、あっちも分かってるだろーからな。玉狛はこのまま物量で圧殺すればそれで勝てる。だから、此処からどう動くかが最後の分水嶺になるだろーぜ」

 

 出水はそう言って、スクリーンを見据える。

 

 画面に映る四者を眺めながら、佳境となった試合に誰もが注目していた。

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