香取隊の狙撃手   作:デスイーター

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総評/ROUND6

 

部隊得点生存点合計
香取隊426
玉狛第二03
王子隊20 2

 

「決着~っ! 弾幕の応酬による攻防を制したのは、香取隊っ! 空閑隊員の撃破で、6:3:2で香取隊の勝利ですっ!」

 

 桜子の試合終了宣言に、会場が沸き立つ。

 

 派手な弾幕の応酬に、ビルの壁面を舞台とした激しい戦闘。

 

 その果てに訪れた決着に、否が応でも盛り上がるのは当然と言える。

 

「見応えある攻防だったな。まさか、ビルの壁を駆け上がりながらの戦いが見られるとは思わなかったぜ」

「壁走りなら那須さんがよくやってるけど、それを二人とも、だもんね。トリオン体の膂力がなければ出来ない荒業だけど、確かに面白い戦闘だった」

 

 それは出水達も同じ感想のようで口々に賞賛している。

 

 ああいう派手な戦闘は二人の好むところであり、特に出水はテクニカルな戦闘を得手としているが、派手な演出が大好きという腕白な男の子らしい面もある。

 

 年齢不相応に成熟した精神の持ち主の多いボーダーといえど、そういう所はしっかりと年頃の少年をしているのだった。

 

「今の戦闘は、読み合いに勝った、っていうよりは玉狛が香取隊の戦術レベルを見誤った、或いは相手の性格を読み違えたところにポイントがあるな」

「ふむ、と言いますと?」

「まず、前提として玉狛、てか三雲くんはあの状況なら必ず香取隊が仕掛けて来るのは読んでた筈だ。実際、雨取ちゃんの攻撃を敢えて迎撃せずに攻勢をかけて来たワケだしこれは間違ってねー」

 

 けど、と出水は続ける。

 

「香取隊の、ていうか木岐坂の性格を読み違えたな。木岐坂はああ見えて、結構前のめりな性質をしてる。攻撃の為に平然とリスクを冒す奴って事を、分かってなかった感があるな」

「確かにそうかも。あそこで後ろに下がらずあの場でシールドを張って耐えるとか、一歩間違えればその時点で足場が崩れて宙に放り出される危険もあったのに、よくやるよね」

 

 玉狛第二の敗因の一つに、樹里の性格を読み間違えた、というものがある。

 

 修や遊真は敢えて千佳の攻撃を素通しして反撃のチャンスを掴む、といった所までは予想していただろう。

 

 だが、安全な場所に退避しつつの攻撃ではなく、その場に留まっての即時攻撃で仕掛けて来るとまでは読めなかったのだ。

 

 天羽の言う通り、それは一歩間違えればその時点で足場が吹き飛ばされた事により宙に放り出される危険と隣り合わせのハイリスクな選択肢だ。

 

 実際には着弾の瞬間多少後ろに下がりはしただろうが、それでも危険の大きい所業である。

 

 それを平然と取って来るあたり、樹里の胆力が伺える。

 

「どうにも、木岐坂の性格を掴み切れてなかった部分がそこかしこに見受けられるな。思うに、香取とはある程度為人を知る機会はあったけど、木岐坂はそうじゃなかったんじゃねーかな。まあ、あいつ自身あんまし他人と喋るタイプじゃねーから無理もねーが」

「実際、おれもどういう子なのかそんなに知らないしね。同じように感じてる人は多いんじゃないかな」

 

 出水の言うように、今回修は樹里の性格を掴み切れていなかった部分が散見された。

 

 千佳の攻撃をその場で防御して攻撃に移った件もそうであるし、最後の決め技に関してもああいう絡め手を使って来るタイプであると見抜けていなかった感はある。

 

 しかし、それも無理からぬ事だろう。

 

 修自身香取とはなんだかんだで話す機会はあったが、樹里本人とは直接話す機会というものが皆無であった。

 

 これは樹里自身が身内認定した人間以外との交流に関し異様なまでに消極的である為、無理からぬ事と言える。

 

 そこまで交友関係の広くない天羽は当然として、他の正隊員も基本は似たり寄ったりな筈だ。

 

 千佳と個人的な会話をする機会はあったが、そちらはそもそも彼女が修に内容を伝えていない為、判断材料には成り得ない。

 

 仮に伝えていたとしても人伝で聞いた会話内容だけでは、とてもではないが樹里の為人を知るのは無理があるだろう。

 

 その内容としても樹里の会話の組み立て方が下手くそ極まりない為に、支離滅裂な文章として映る筈だ。

 

 樹里は基本的に自分の思った事をそのまま言葉にする傾向があり、前後の文脈を無視して突拍子もない事を言いだす事がある。

 

 それは本人的には頭の中で繋がっている事柄なのだろうが、その内容を一切開示しない為傍から見ればいきなり妙な事を言っているように思えるのだ。

 

 加えてそれを訂正する事すらしない為、彼女に対するイメージは天然気味の不思議ちゃんに固定されがちだ。

 

 事実として出水も彼女を弟子に取る前は似たような印象を持っていた為、そういった切っ掛けがなければ樹里の性格を掴む事は無理難題に近い。

 

 これは修の落ち度というよりも、状況や環境が味方をした、という側面も大きい。

 

 樹里の人見知りな性格が天然の偽装として機能した、やや皮肉な結果とも言える。

 

「けど、最後のあれはどっちが勝ってもおかしくねー戦いだったな。読み違えで雨取ちゃんを獲られちまったのは確かだが、その雨取ちゃんも最後にビルの上層階を砲撃で吹き飛ばして木岐坂を宙に放り出してみせたしよ」

「この試合では爆撃は何度もやってたけど、思えば砲撃はあれが初だったよね。これまではむしろ砲撃の印象の方が強かったけど、炸裂弾(メテオラ)の解禁以降はそっちを使う事の方が多くなってたから、良い意味で意表を突かれたよね」

「ああ、砲撃は射撃と違って発射までのタイムラグがねーからな。連射出来ねーっつぅ欠点はあるが、あの場面で撃つなら最適解だったな」

 

 それでも尚最後の戦闘は、どちらが勝ってもおかしくはなかった。

 

 不意を撃って千佳を撃破出来た香取隊だったが、彼女は散る前に砲撃でビルを吹き飛ばし、樹里を空中に叩き出す事に成功している。

 

 最終的に勝てたとはいえ、あれは香取隊の予定にはなかったハプニングであった筈だ。

 

 或いはそうなる可能性自体は考えていたかもしれないが、空中という逃げ場のない場所へ追い込まれる事自体、狙撃手である樹里にとっては避けなければならない事だ。

 

 加えてあの時彼女がいたのは、地上20階建ての高層ビルの上層階。

 

 そこからの落下となれば、相応の時間滞空する事となってしまう。

 

 トリオン体故に落下死の危険こそないが、グラスホッパーを持たない樹里にとってその滞空時間は即ち回避の出来ない隙だらけの状態を意味する。

 

 あの時点で千佳が生き残りさえしていれば、そのまま飽和攻撃の連射で樹里は落ちていただろう。

 

 アイビスの一撃で千佳を脱落に追い込めた事は、不幸中の幸いであったと言える。

 

「しかし、空閑のグラスホッパーの利用法には驚いたな。まさか、相手にぶつけて遠くに弾き飛ばすなんて、今まで誰も考え付かなかったんじゃねーか?」

「そうだね。グラスホッパーといえば自分自身の機動の補助に使うもの、という考え方が一般的だからね。空閑がやったみたいに、相手の通り道に設置してああいう罠として使う、ってのは中々ない発想だと思うよ」

 

 次に話題になったのは、遊真のグラスホッパー(トラップ)についてだ。

 

 今回遊真は香取に対し、相手の軌道の先にグラスホッパーを設置する事でその身体を弾き飛ばす、という戦術を披露した。

 

 大多数の人間がグラスホッパーについて、「自分の機動力を底上げする為の足場」として認識している中、その固定観念を打ち破る使い方だったと言っても過言ではない。

 

 当然これは開発者も想定していなかったであろう使い方であり、合成弾のような事実上のバグ技とは別ベクトルの、正当な悪用方法と言える。

 

「総じて玉狛第二は、随所での読み違えはあったがそれを強引に個人技やごり押しでカバーする感じが目立ったな。そこは経験不足もあっから仕方ねー面もあっけど、今回の反省を活かす事が出来ればまた一皮剥けるだろーぜ」

 

 

 

 

「出水先輩の言う通りだな。今回は、ぼくの読みが甘かった。全体的に、反省点の多い試合だったと思うよ」

 

 修は出水の評を聞き、厳かに頷いた。

 

 師匠だけあって彼の指摘は的確であり、反論の余地はない。

 

 故に修は、粛々とその内容を受け入れるのであった。

 

「けど、でみず先輩はまだまだ修には期待してるみたいな事も言ってるぞ。今回は勝てなかったけど、ランク戦はまだ終わりじゃないんだ。これからでも巻き返せると思うぞ」

「ああ、これで諦めるつもりは毛頭ないよ。まだ、二試合あるんだ。条件のB級二位以内達成は、潰えたワケじゃない。ヒュースの能力の高さも実感出来たし、まだまだやれる事はある筈だ」

 

 そこで挫けるのではなく、次への方策を淡々と練る事が出来るのは修の明確な強みと言える。

 

 確かに修の不備と言える要素はあったが、それを反省だけしても意味はない。

 

 重要なのはあくまで今回の失敗をどう次に繋げるかであり、そこを間違える修ではない。

 

 彼は少しでも可能性が残っている限り、否。

 

 可能性などなくとも、諦めるという選択肢は最初から存在しないのだから。

 

「そういえば、ヒュース。責めるワケじゃないけど、どうして今回は()()を使わなかったんだ? 最初の作戦では、そっちで点を取るみたいな事を話してたけど」

「今回、木岐坂が潜伏を続けていた事とお前が早期に落とされた事で、想定していたよりも点が伸ばせない可能性が高いと踏んだ。なら、次の試合の重要性が更に上がる。今回は別で点を取る算段もあったから、そちらを優先しただけだ」

「別? 別ってなんだ?」

「オレの、足が削られた事だ」

 

 ヒュースはまず、と前置きして話し始める。

 

「あの時点で、敵はオレを集中的に狙い撃ちにしているという確信が持てた。王子の介入を予測出来ていなかったのは痛恨ではあったが、オレ自身の囮としての価値が想定以上に高いと踏んで、オレという餌を撒いて点を取る方法が使えたからな。一発限りの隠し玉だったデリンジャーもあったから、そっちで点を取れる以上無理にもう一つの隠し玉を出す必要はないと考えたまでだ」

 

 発端は、ヒュースの足が削られた事だ。

 

 その時点で彼は自分が想定以上に敵に集中狙い(ターゲッティング)されている事に気付き、自分を囮にして点を取る方法を考え付いた。

 

 足が削られた以上どうしても機動力で劣る相手には不利になるし、ならばいっそそんな自分を囮にした方が効率的に点を取れると割り切ったのだ。

 

 隠し玉にしていた小型拳銃(デリンジャー)の存在もあった為、迷いなくそちらに踏み切り本命の隠し玉については切らない事を決めたワケだ。

 

 あくまでも合理的なヒュースの論理に成る程、と修は納得し頷くのだった。

 

「あのデリンジャーの奇襲は、一回見せた以上今後の試合では無意味だろう。次からは、別の銃手トリガーに変える事にする」

「了解だ。次も頼むよ、ヒュース」

「当然だ」

 

 

 

 

「王子隊に関しちゃ、作戦と読み合いは良かったが、それを三雲くんの成長で盤面をひっくり返された感じだな。王子先輩もまさか、三雲くんを早期に落としたのが裏目になるとは思ってなかっただろーぜ」

「確かに、最初は三雲を罠に嵌めたりしてたし、香取隊との共闘のドサクサで麓郎さんを落としもしてたからね。途中まで調子良かったのは確かだけど、最後で裏をかかれた感じだよね」

 

 次に二人は、王子隊について言及する。

 

 今回王子隊は特殊なMAPを選択して相手の行動を誘導し、修の早期撃破と疑似的な共闘の末の若村落としに成功している。

 

 しかし最後に修に裏をかかれ、追加点なく敗退する事になってしまった。

 

 それは明確に、修の成長を読み切れなかった王子の失態と言える。

 

「途中まで上手く行ってたのも、多分に響いてただろーぜ。誰だって、自分の思い通りになってりゃ気分が良くなるモンだからな。作戦がピタリとハマってたから、そこに油断が生じた可能性はゼロじゃねーだろーぜ」

「結局、今回王子隊の作戦ってなんだったのかな?」

「簡単に言やあ、特殊なMAPで思考を誘導しつつ駅舎に辿り着くまでの展開をコントロールして、未知数だったヒュースの対処をする事だな。何処で気が付いたのかは分かんねーけど、今回王子先輩はヒュースの存在を前提にして作戦を組んでた感があっからな」

 

 今回の王子隊の作戦は、市街地Fという特殊なMAPで相手の思考を誘導し、その上で相手を嵌め殺す事だ。

 

 樫尾という囮を使ってまで指揮官である修を落として玉狛の弱体化を狙い、その上でヒュースという大駒の対処の最適解を導き出していった。

 

 要するに駅舎という特殊な環境はあくまでもそれをカモフラージュする為のいわば囮であり、駅舎を利用した作戦というよりはそちらに意識を散らせて点を取る為の方策だったと言える。

 

 出水が知る由もないが王子は試合前にヒュースの存在に気付いていた事もあり、彼への警戒も多分に含まれていた筈だ。

 

「作戦は良かったし、読み合いも大体勝ってた。けど、それだけで絶対勝てるってワケでもねー。おれから言えるのは、それだけだな」

 

 

 

 

「イズイズの言葉が耳に痛いね。けど、確かに彼の言う通りだ。今回ぼくは、オッサムの成長性を見誤った。そこは、本当にぼくのミスだよ」

 

 王子は隊室にて出水の話を聞き、そう告げた。

 

 蔵内もそうだな、と頷く。

 

「確かに作戦は上手く行っていたが、だからこそ三雲くんの成長に気付けなかった事が痛いな。今まで可愛い後輩として接して来た分、過小評価をしていた部分は否定出来ないだろう」

「ああ、最初からそういう期待をしていなかったと言えば嘘になるが、それが結実するのはもう少し後だと踏んでいたんだ。それを乗り越えて来たのは、素直に褒めなきゃいけないね」

 

 ふふ、と王子は何処か嬉しそうに笑った。

 

 確かに修には最終的に裏をかかれたが、弟子の成長を喜ばない師匠はいない。

 

 王子は隊長としてではなく一人の師として、修の成長を歓迎した。

 

「今回は負けたけど、次回はこうはいかない。まだまだ、師匠としての看板を下ろすつもりはないからね。オッサム」

 

 

 

 

「香取隊は、中々にクレバーな判断が目立った試合だったな。リスクを負う選択も所々見受けられたけど、見事に結果を残してる以上正解だったとしか言えねーな」

 

 そうだね、と天羽は頷く。

 

「エースの二人以外も、しっかり活躍してたのは大きいよね。麓郎さんはヒュースの足を削るって大役を全うしたし、三浦さんも落とされはしたけどヒュースの気を逸らす事には成功してる。全体的に、ミスらしいミスはなかったんじゃないかな。相応の失点はあったけど、必要経費でしょ」

 

 天羽はそう言って、香取隊を称賛する。

 

 彼にとっては若村を褒めるついででしかないのだが、それでも間違った事は言っていない。

 

 四人全員がしっかりと活躍したのは事実であるし、二人落とされはしているが仕事はしている以上文句はない。

 

 むしろその犠牲のお陰で勝てたとも言えるのだから、天羽の言う通り必要経費と言って差し支えないだろう。

 

「それから、今回は何と言っても木岐坂隊員の誘導貫通弾(モスキート)がインパクト抜群でしたね。あれには皆、驚いたと思います」

「ああ、説明が必要だと思って解説を引き受けて正解だったぜ。今回の決め技にもなったし、他の合成弾が使えてるなら問題なく使えるだろーから、是非とも射手の面々にはチャレンジして貰いてーもんだ」

 

 出水はそう言って、あからさまに誘導貫通弾(モスキート)を広めるよう促した。

 

 彼からしてみれば自身の開発した技とはいえ、別に特許を主張するつもりも情報流出を規制するつもりもない。

 

 覚えたいならやってみれば良い、くらいのノリだ。

 

 むしろ誘導貫通弾(モスキート)を披露した事での反応見たさに今回この席に座っていた部分も多分にあるので、予定通りとすら言える。

 

「今後に期待、という事ですね。では、この辺で総評を終わりたいと思います。皆さま、お疲れ様でしたっ!」

 

 桜子の宣言と共に、ROUND6が正式に終わりを告げる。

 

 大きな盛り上がりの中、第六試合は幕を閉じたのであった。





 「────────アリステラが侵攻を受けている」

「盟約の通り、援軍に向かおう」


「────────宮殿が。父様、母様…………!」
「逃げましょう、姫様。弟君と共に」

「ここは我々が死守する」
「境界防衛組織ボーダーの名の下に、同盟国の盾となろう」

「────────最上さんっ!」
「迅、すまん。あとは頼んだぞ」

 
 『ワールドトリガー/ゼロ~追憶のアリステラ~』今夏連載開始





 ウソです。エイプリルフールなので乗ってみました。少し遅いが。
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