香取隊の狙撃手   作:デスイーター

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玉狛支部②

 

 

若村(ワカムラ)の事は、以前の戦闘の件もあって警戒していた。事実、あの時即応出来る中距離火力持ちの若村の存在は厄介で、こちらにとって面倒な動きをしていた。事実として、若村がいなければもう少し動き易かっただろう」

「お、おう。そうか」

 

 実直な物言いをするヒュースに対し、若村は何処か複雑な表情を浮かべていた。

 

 玉狛支部に来てから話し合いには一切参加せず、置物となっていた若村は同じく経緯を見守っていた三浦と共にこうして玉狛第二の面子と話す機会を得る事になったのだが、意外にも真っ先に反応を返して来たのはヒュースだった。

 

 若村にとってヒュースは大規模侵攻で戦った近界民という印象が強く今でも彼の姿が当時のものとダブる事がある。

 

 あの時は排除しなければならない敵、くらいに考えていた分、こうして真っ当に人間として向かい合うのは少々以上に驚きがある。

 

 しかもその内容が若村の活躍に対する素直な称賛というのだから、世の中分からないものだと思う。

 

(こうして見りゃ、マジでフツーの人間だよな。なんか独特のオーラはあっけど、これが近界民とか言われなきゃわかんねーし)

 

 ヒュースのそんな姿に、若村は常々抱いていた疑問を思う。

 

 人型近界民、というワードに関して当時は「とにかく強いトリガー使いの外敵」という認識しか持っていなかった若村であるが、こうしてヒュースが真っ当に意思疎通の出来る存在であると知った今となっては色々思うところもある。

 

 考えてみれば、自分達は近界民について何も知らない。

 

 三門市民にとって近界民とは即ちトリオン兵の事であるが、どうにもボーダーという組織は彼等人型近界民こそを真の近界民として認識している節がある。

 

 確かにトリオン兵は固有の名称があり、近界()と呼ぶには少々違和感があるのは確かだが、そうなると人型近界民と称される彼等の存在は一体何なのか。

 

 意思疎通が出来、場合によっては協力も出来る事はヒュースの存在が証明している。

 

 つまり、人型近界民というのは────────。

 

(────────ヤメだヤメ。こういうの考えるのは性に合わねぇ。ヒュースはヒュース、っつう事でいいだろ)

 

 そこまで考えて、若村は思考を打ち切った。

 

 こういう裏を考えるのは、自分の性分ではない。

 

 自分は香取や遊真といった人種と比べれば、悲しい程に凡庸だ。

 

 それなら、自分に出来るのは下手に頭を使って立ち回るよりも、自分の出来る事を小さな事でもこなしつつ、誠実である事だろう。

 

 どうせ自分の出来る事はたかが知れているのだし、余計な事に頭を使っても碌な結果にならないのは眼に見えている。

 

 それよりも、折角ヒュースが反応を返してくれたのだから会話を続けるべきだろう。

 

 何を言うべきか迷う中思考が脱線したが、今は面と向かって話している最中だ。

 

 いい加減黙るのは止めるべきだろうし、相手にだけ言わせて自分が無反応では誠意がない。

 

 以前ならばこう考える余裕すらなかったが、最近は何度も香取から肯定的な言葉をかけられて来た為か、若村には前にはなかった自信がついていた。

 

 樹里の件の前は自分が前向きな言葉を、しかもあの香取から叱咤激励のような事を言われる事になるとは想像もしていなかっただけに、それによる自己肯定感の増加は大きい。

 

 前のままの若村であれば、黙ったままで終わっていただろう。

 

 なんだかんだ、彼もランク戦の中で成長しているのだ。

 

 それを自覚していないのは、彼自身くらいのものであるのだが。

 

「そういえばヒュースは、なんであのデリンジャーを選んだんだ? 確かに奇襲性はあっけど、お前のトリオンなら突撃銃型(アサルトライフル)でもかなり有効に使えただろ?」

「あの試合は、オレがランク戦に初参加するタイミングだった。だから、初見殺しが最も有効で尚且つ成功し易い場面でもある。だからこそ、オレが銃手トリガーを扱うという情報が出回る前に使う武器としては最適だと考えた。一点でもあれで取れれば充分だし、事実そうなったからな」

「な、成る程」

 

 やべぇこいつ頭の回転メッチャ滑らかだ、と若村は感心しつつ頷いた。

 

 若村の思考では折角高いトリオンがあるのだから分かり易くそれを活かせる突撃銃型(アサルトライフル)タイプの方を選んでしまいそうになるが、確かにヒュースの言う通りではある。

 

 あの試合はヒュースの初試合であり、誰も彼の手の内を知らない。

 

 自分達は大規模侵攻でヒュースと戦っているが、あの時彼は近界のトリガーを使用していたしボーダーのどのトリガーを使って戦うかは分かっていなかった。

 

 彼が個人戦をしていたお陰で弧月を使うという情報だけは入って来ていたが、実際にどんなトリガーセットで来るのかは誰も知らなかった。

 

 故にこそ、「ヒュースが銃手トリガーを使う」という前提情報がなかった試合でのデリンジャーによる奇襲があれ程鮮やかに決まったのである。

 

 事実として三浦はそれにしてやられているし、最初から合理的に考えてトリガーセットを準備しているのだな、と若村は感心する他なかった。

 

「そうだね。あれには驚いたよ。相打ちくらいには持っていけるつもりだったのに、まんまとやられちゃった」

「逆に言えば、あそこでデリンジャーという手札を切らなければ三浦(ミウラ)は落とせなかっただろうな。本来あれは香取(カトリ)相手に使うつもりで用意していたから、そういう意味では使()()()()()とも言える」

「あ、ありがと。そう言って貰えるとなんだか嬉しいね」

「…………? 事実を言っただけだが」

 

 ヒュースの素直な称賛には、三浦も何処かぎこちない反応を返していた。

 

 彼からすると自身の率直な感想を言っただけで、相手を過度に持ち上げるつもりなどないだけに、三浦の反応には疑問符を浮かべるだけだ。

 

 ヒュースは厳しい現実主義者だが、その分自分の考えはしっかり口にして評価には私情を挟まない。

 

 しかし若村も三浦もヒュースに関しては「かつて戦った近界民」というイメージが残っていた為、多少どころではなく面食らっているというワケだ。

 

 かつて外敵たる近界民として戦った間柄の相手とこういう関係になるとは夢にも思わなかっただけに、驚きも相応である。

 

「ヒュース、おれの事はボロクソに言うくせにわかむら先輩達には優しいんだな」

「事実を言ったまでだ。それに、お前とは協定の上での協力関係に過ぎん。過度に慣れ合うつもりはない」

「はいはい、分かってるって。これからもよろしくな」

「期待されている分の結果は出す。それだけだ」

 

 突然絡んで来た遊真に対しヒュースは素っ気なく対応するが、その言動の裏には確かな信頼があるのが見て取れる。

 

 身内部隊である香取隊とはまた違った関係性だが、実力を認め合った同僚という感じで関係性自体は悪くないように見て取れた。

 

 こういう関係もいいな、と若村が見ていると遊真と目が合った。

 

 遊真はにこり、と笑いかけるとそういえば、と話し始めた。

 

「わかむら先輩は、ヒュースと大規模侵攻の時に戦ったんだよな。あの時はしてやられた、って言ってたけど何やったんだ?」

「あ、えっと、アステロイドに見せかけて炸裂弾(メテオラ)を撃ち込んだんだ。あの時はまだボーダーのトリガーは知らなかったみたいだから、それで隙を作って木岐坂が仕留めたんだよ」

「ほぅほぅ、合理的ですな。初見殺しされたワケか」

「事実ではある。だが、次同じ手を食うつもりはない。とはいえ、木岐坂(キキサカ)の新種の合成弾は流石に想定外ではあったが」

 

 確かになー、と遊真は同意する。

 

 どうやらこの調子だと、樹里の誘導貫通弾(モスキート)は彼等にとって余程のインパクトがあったようだ。

 

 まあ、結果としてあれのお陰でヒュースを落とせたのは確かなのだから、無理もない話ではあるが。

 

「けど、近界(あっち)の戦闘じゃ初見殺しは日常茶飯事だろ? それは言い訳にならないんじゃないか?」

「言い訳ではない。単なる事実確認だ。確かに誘導貫通弾(モスキート)には意表を突かれたし対応し切れず落とされたが、性質とその存在は把握出来た。次はあれの存在を前提の上で対応を行う」

 

 しかし、とヒュースは続ける。

 

「恐らく、あの合成弾は他のチームの射手も使い始めるだろう。合成弾の技術自体は、出水(イズミ)の専売特許ではない。創始者ではあるという事だが、他にも合成弾を使う者がいる以上同じ事が出来ないとは思えん」

「確か、解説でもいずみ先輩が使用を促してたしな。有用な合成弾だし、広まるのは早そうだな」

「…………そうか。確かに、そうだよな」

 

 若村はそう言いながら、先日のミーティングで「モスキートは他の射手も使い始めるだろう」という話が出た事を思い出していた。

 

 それはどうやら使われた側のヒュース達も同意見のようであり、こういうお墨付きがある以上信憑性はかなり高いだろう。

 

 二人共ボーダー歴は短いが、戦闘経験や戦闘勘は自分達とは比べ物にならない程卓越している。

 

 その二人がこう分析している以上、信憑性は高いように思えた。

 

「真っ先に使い始めるとしたら、誰だと思う?」

「多分だけど、二宮さんかな。多用はしないだろうけど、手札の一部としては取り入れると思うぞ」

「同感だ。濫用まではしないだろうが、二宮隊に一つ手札が増えたと考えた方が良いだろうな」

「やっぱ二宮さんか…………」

 

 そうだよな、と若村は頷く。

 

 確かに「貫通力を持った誘導弾」という誘導貫通弾(モスキート)の性質を活かすのであれば、トリオン強者である二宮が使った方が最も手っ取り早く結果を出せる。

 

 モスキートは誘導性能を付与したアステロイドである以上、その突破力は使用者のトリオンに依存する。

 

 仮に修が使ったとしても徒にトリオンと時間を浪費して隙を作るだけだが、トリオン強者である二宮が使った場合は誘導性能を備えた貫通弾が遠隔で降って来るのだから堪ったものではない。

 

 少なくとも、広げたシールド程度は貫通されると思った方が良いだろう。

 

 つくづく頭の痛い話だな、と若村は内心でぼやくのだった。

 

「とはいえ、二宮が合成弾を使う機会が多くなるというのは逆に言えばそれだけ隙を作る機会が多くなるという事でもある。場合によっては、誘導貫通弾(モスキート)を使うように仕向けてそこを狙うという戦術もアリだろうな」

「…………! 成る程、そう考えればそうなのか」

「無論、その場合狙われた側は相当なリスクを背負う事になるがな。二宮が使うモスキートが脅威である事は、何も変わらないのだから」

 

 そ、そうだよな、と若村はひたすらに感心しつつ同意する。

 

 矢張り、こいつは頭の回転の速さが違うと常々感じてしまう。

 

 自分ではただ「厄介だな」としか思わなかった事柄から、まさか相手の突破口を見付けるとは思わなかったのだ。

 

 強力な武器は、それだけ隙の多い大技である事も多い。

 

 合成弾はその極地であり、合成の手間とその瞬間に生じる隙は決して無視出来ないものだ。

 

 それでも尚脅威であるのは厄介だが、逆にそれを利用する事も出来ると考えれば悪い事ではない。

 

 改めて、ヒュースの戦闘者としての優秀さを身に染みた若村であった。

 

「────────そういえば、あの夜のガロプラ防衛戦以降木岐坂に異常はないのか? あの蜘蛛型のトリオン兵に、何かを撃ち込まれてしまっていたが」

「い、いや、眼に見える異常はないんだ。えっと、その…………」

 

 チラリと、若村は華の方を垣間見た。

 

 レイジ達との話し合いには若村も同席していたが、話には一切関わっていない上にこういう時にどう対応すれば良いか分からない。

 

 話して良い事なのか、というのも理解出来ず、思わず視線で華に助けを求めてしまっていた。

 

「話して大丈夫よ、麓郎くん。いえ、わたしから話した方がいいわね」

 

 その視線の意味を、すぐに理解したのだろう。

 

 華はすっと若村の前に出て、説明を変わる事を申し出た。

 

 いつもの事とはいえ年下の少女に頼ってしまった事を負い目に感じつつも、自分が下手に話して変な事になるよりは良いか、と思い直す。

 

 正直、華がやっていたような交渉は専門外なのだ。

 

 というよりも、あれだけの事が出来る華の方がおかしいとさえ言える。

 

 過去の経験の為なのか、華は年齢不相応に大人びている部分が多々存在する。

 

 こうした交渉ごとを得手とするのもその一環であり、感情の挟み込まないネゴシエーションならば隊内で最も優れているのは彼女だろう。

 

 此処は自分がでしゃばるべき場ではないと、若村は後で華さんにお礼を言わないとな、と思いつつ事の成り行きを見守る事にしたのだった。

 

「検査では、異常は見つからなかったわ。でも先日、天羽くんから────────」

 

 まず、と言って華は二人に対して説明を開始した。

 

 その内容を遊真は興味深そうに、そして。

 

 ヒュースは何処か険しい表情で、静かに傾聴していた。

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