香取隊の狙撃手   作:デスイーター

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ククロセアトロ⑥

 

「それでは、お邪魔しました。今後、何かあれば連絡しますので」

「ええ、遠慮なく頼りなさい。じゃあレイジさん、あとよろしく」

「ああ、勿論だ。少し狭いかもしれんが、乗ってくれ」

 

 お世話になります、と言いながら香取隊の面々がレイジのジープに乗り込む。

 

 華が助手席に座り、香取を含む残り三名が後部座席に乗り込んだ形だ。

 

 女子二名男子二名の内約なので香取が「華に狭い思いはさせらんないわ」と自ら後ろに乗る事を言いだした為、このような形となっている。

 

 玉狛支部での用事が終わり、帰る段になって「もう遅いから送っていく」とレイジに言われ、今に至るワケだが香取の即断即決ぶりは変わらずだ。

 

 後部座席で遠慮なく若村と三浦の間に挟まる形で座る香取に、男子と密着する事に対する気負いは何もない。

 

 身内カウントしている相手、という事もあるだろうが少女の様子はあくまでも自然体のままだ。

 

 頬を緩ませている三浦や少々顔を赤くしている若村の事など知らないとばかりに、堂々と着席している。

 

 その様子はジープが走り始めても変わらず、男二人は帰途の最中悶々としながら過ごすのだった。

 

 

 

 

「ヒュース、お前ずっと難しい顔してたな。香取隊に協力する事になったのが不満か?」

 

 レイジのジープを見送った後、遊真はおもむろにヒュースに尋ねた。

 

 華の話を聞いている間中、否。

 

 それからずっと、ヒュースは険しい顔をしていたからだ。

 

 結局事情を聞かされて有事の際には協力を約束したが、その間もヒュースは表情を変えず無言のままだった。

 

 遊真としてはそれが気になっていたのだが、何も話さない事には彼の副作用(サイドエフェクト)も反応しない。

 

 だからこそ華達には聞かれたくない話かと判断して、彼女達が帰途に就くまで質問を控えていたのだ。

 

 ヒュースは遊真の質問に対し、いや、と首を振る。

 

「それ自体に否はない。ことがククロセアトロが関わる事であるならば、作戦参加を断る理由はないからな」

 

 だが、とヒュースは続ける。

 

「────────今の話を聞いて、確信した。矢張り、木岐坂が「ククロセアトロの遺物」なのだな」

 

 ────────その言葉に、場の空気が凝り固まったのを理解する。

 

 特に反応が顕著だったのは小南で、キッ、とヒュースを睨みつけた。

 

「アンタ、その不愉快な名称はなんなのよ? 何か知ってんだったら、白状しなさい。樹里ちゃんのあの姿について、なんか知ってるってーの?」

「…………成る程、小南(コナミ)()()()()の遺物と戦闘した経験があるという事か。それならば頷ける事も多い」

「いいから、話せって言ってんのっ! それともまさか、またダンマリを決め込むつもりじゃないでしょうねっ!?」

 

 怒気すら滲ませ、小南はヒュースに詰め寄った。

 

 一度()()()()()状態の樹里と戦った経験のある小南としては、何かを知っている素振りを見せたヒュースをこのまま解放する選択肢など有り得ない。

 

 此処でゴネるようであれば、何が何でも情報を聞き出す腹積もりであった。

 

「────────そうだな、これについてはリスクヘッジの観点からも話しておいた方が良いだろう。間違った知識を元に行動されるのも危険だしな」

 

 しかし、予想に反してヒュースは素直に情報開示に承諾した。

 

 まさかこうもあっさり了承を得られるとは思っていなかったのか、詰め寄っていた側の小南でさえキョトンとした顔をしている。

 

「何アンタ、変なものでも食べた?」

「今回の件に限り、情報開示しない方が本国にとって不利益になると感じたまでの話だ。勿論、ククロセアトロが関わらない範囲の話までする気はない」

「こなみ先輩、ヒュースは嘘言ってないよ。後半部分まで本心で言ってる」

「そう。ならいいけど」

 

 未だに何処か訝し気な表情をしつつも、遊真のお墨付きを貰えた事で小南は一先ず納得を見せる。

 

 ヒュースはそんな小南の様子は気にせず、まず、と言って話し始めた。

 

「オレ達アフトクラトルがククロセアトロに攻め込んだ事については、エネドラから情報を得ていると認識している。そこで、オレが途中から単独行動をしていた事は聞いているか?」

「そういや、そんな事も言ってたな。一人だけ別行動してたって」

 

 遊真はエネドラの話を思い出しながら、そう答えた。

 

 確かにあの時、エネドラはヒュースは途中で別行動を命じられていたと話していた。

 

 その後すぐにエネドラは首脳部を殲滅すべく潜入行動を開始していたので、ヒュースがどのような行動をしたのかについては知らない様子だった。

 

 この言い方だと、その時に何かがあったようだ。

 

 それも、頑なに本国に関連する情報を話そうとしないヒュースが、情報提供を決断するに至る何かの切っ掛けが。

 

 そこで行われたのは、間違いないだろう。

 

「オレはハイレイン隊長に命じられ、敵の脱出を防ぐべく遠征艇の破壊任務に就いていた。そして、そこで見た。あの国の、悍ましい本性をな」

 

 

 

 

「遠征艇を発見。これより破壊する」

『ええ、気を付けてね』

 

 ヒュースは「窓」超しにミラに報告しつつ、視界の先に鎮座する遠征艇を見据えた。

 

 此処は、ククロセアトロの格納庫。

 

 地上での戦闘の最中、ハイレインに遠征艇の破壊を命じられたヒュースは別動隊を率いて此処にやって来ていた。

 

 現在、連れて来た別動隊には他にも遠征艇が隠されていないか捜索させている。

 

 無いとは思うが、万が一脱出用の遠征艇が隠されでもしていたら事だ。

 

 その為ヒュースは部隊を分け、最小限の人数のみを伴ってこの場へやって来ていた。

 

「遠征艇を破壊しろ。迅速にだ」

「了解致しました」

 

 ヒュースに命じられた属国、トリュボスの兵士は数名の仲間と共に銃を構え、遠征艇に近付く。

 

 遠征艇には基本的に戦闘機能は付与されない事が多く、表向きは医療国家であったククロセアトロでもそれは変わらないだろう。

 

 基本的に遠征艇同士で戦り合うのは相手の鹵獲も出来ず勝つにしろ負けるにしろ損害しか出さないので、資源の奪い合いの為に戦争をする近界では「無益な戦闘」として忌避される傾向にあるのだ。

 

 近界で戦争が多いのはトリガーで全ての資源を賄っている関係上自国のみで国民の生活を支える事が困難であり、他国との関係性が砲艦外交になりがちである為だ。

 

 人の命が軽い近界では、戦争行為というものは基本利益を得る為に行われる。

 

 故に戦果の得られない戦いは忌避される傾向にあり、それが遠征艇には滅多な事では戦闘機能が付与される事はない理由となる。

 

 要人を護送する艦であればまた話は違って来るが、それでもレアケースと断じても良いレベルである。

 

 その為連れて来た属国の兵士だけで破壊は充分こなせると判断し、命じたまでだ。

 

 仮に何かしらの仕掛けがあった時も、属国の兵士数名程度であれば損失は補填出来るレベルに収まるといった事情もある。

 

 ヒュースは冷血ではないが、国益の為ならば非情な判断もこなせる軍人である。

 

 この程度のリスクヘッジは、当然の事と言えるだろう。

 

(オレは此処で周囲の警戒をした方が良いだろう。あの気味の悪い人形が出て来た時に対処出来るのは、この場ではオレだけだ)

 

 また、ヒュースが最初に属国の兵士に遠征艇破械を命じた理由はもう一つある。

 

 地上で戦った、不気味な兵士の存在だ。

 

 ほぼ死に体の人間の身体の大部分を無機物に置換し、生体兵器として使っていたあの人形は国益の為であれば非情な行動も問わない軍人であるヒュースにとっても、眉を顰めるに充分な代物であった。

 

 今更人の命がとどうこうというつもりはないが、それにしてもあの技術は命の尊厳というものを軽く見るどころか嘲っているようにさえ見えた。

 

 あんな代物を作る国がまともな真似をするとは思えず、ヒュースの警戒は最高潮に高まっていた。

 

「────────貴方がアフトクラトルの兵士ですね。思っていたよりお若いですが」

蝶の盾(ランビリス)ッ!」

 

 なので、突然遠征艇の陰から出て来た白い仮面を被った白衣の男が話しかけて来た瞬間、ヒュースはノータイムで蝶の盾を用いて回転ブレードを形成し、遠征艇を真っ二つにした。

 

 余計な事をしたり話されたりする前に、脱出手段は潰しておく。

 

 何かしらの仕掛けが起動するリスクがあるが、相手が姿を見せた以上脱出手段の破壊の方が優先順位は上だ。

 

 この国の人間は碌な真似はしないと認識していたヒュースとしては、至極真っ当な行動であった。

 

「ふむ、舩が破壊されましたか。合理的ですね」

 

 しかし、己の脱出手段が破壊されたにも関わらず、白衣の男は動揺する素振りすらない。

 

 その様子に強烈な違和感を抱いたヒュースであったが、命令ではこの国の首脳部及び研究者は全員一人残らず生かして帰すなとなっている。

 

 遠征艇を破壊出来た以上、次はこいつの処分だと決めたヒュースは無言のまま円形ブレードの照準を定めた。

 

「そう急く事もないでしょう。私から他の遠征艇の場所を聞かずともよろしいのですか?」

「命乞いのつもりか? 予備の遠征艇がないかについては他の者に探させている。ならば、優先抹殺対象のお前の処分から入るのが最も効率的だ」

「ふむ、それもそうですね。合理的だ。ですが、それならばわたし共の研究成果を今一度ご覧になられては如何でしょう?」

 

 白衣の男はそう告げるとパチン、と指を鳴らす。

 

 すると破壊された遠征艇から一つの影が飛び出し、男の前に着地した。

 

「こいつは…………」

 

 それは、白い少年だった。

 

 簡素な白い手術衣を纏った、焦点の合わない眼をした子供。

 

 それがまるで、男を守るかのように立ち塞がっていた。

 

「そいつはなんだ?」

「我々の研究成果の一部、検体番号は94565。使用している機能代替(オルタナティブ)トリガーは飛蝗脚(アクリダ)となります」

「…………!」

 

 その言葉と共に、子供の脚部がいびつな変形を遂げていた。

 

 人間の関節では不可能な程に折り畳まれたそれは、まるで飛蝗の足だけを人に付属させたかのよう。

 

 そして次の瞬間、ヒュースの視界から子供が消えた。

 

 否。

 

 それは驚異的な脚力を以て突貫し、ヒュースの目前まで迫っていた。

 

「チッ」

 

 ヒュースは間一髪、目前に磁力片の盾を形成。

 

 凄まじいスピードで突撃して来た白い子供は黒い盾に激突し、その大部分を霧散させた。

 

 弾かれた無数の磁力の欠片が、宙を舞う。

 

蝶の盾(ランビリス)の盾を一撃で此処まで持って行くのか。凄まじい出力だ。早々に潰す)

 

 攻撃は止められたが、今の出力は侮れない。

 

 速やかに排除するしかない、とヒュースは蝶の盾(ランビリス)を使用。

 

 無数の磁力片を、白い少年に向かって撃ち込んだ。

 

『────────』

 

 再び足を折り畳み、跳躍の準備をしていた白の子供はそれをモロに喰らってしまう。

 

 そして、地面に撃ち込まれた磁力の鏃に引っ張られ、その場へ倒れ伏した。

 

 何とか起き上がろうとしているが、どうやら磁力の縛りを解く事は叶わない様子だった。

 

 その光景を見た白衣の男は驚くでもなく、ふむ、と頷いた。

 

「成る程、磁力を操るトリガーですか。飛蝗脚(アクリダ)は飛躍的な跳躍力強化を行えますが、足を折り畳む必要があるというのが矢張りネックですね。検体番号9万代の作品では、矢張りこのあたりが限界でしょうか」

「…………こいつは、なんだ?」

「ですから、作品です。今より大分前に施術した検体ですが、素体が良かったのか検査では優秀な数値を出しておりました。実戦で使うのは久々でしたが、矢張りアフトクラトルの精鋭を相手にするのは荷が重かったようですね」

「そんな事を聞いているのではない。こいつは、この子供の()は我が国のトリガー(ホーン)だ…………っ! 貴様等、アフトクラトルの子供を攫っていたのかっ!?」

 

 ヒュースが激昂したのは、単に人道を無視した改造をされた子供が出て来たからではない。

 

 倒れ伏し、伸び放題だった髪の毛の合間から垣間見えた()

 

 即ち、アフトクラトルのトリガー(ホーン)の存在を視認した為だ。

 

 トリガー(ホーン)はアフトクラトルの専有技術であり、他国がそれを持っている事は有り得ない。

 

 故に、この少年はアフトクラトル出身である可能性が非常に高い。

 

 かつては孤児でありエリン家に拾われた身であるヒュースにとって、似た境遇であるであろうこの少年の事は看過する事は出来なかった。

 

 トリガー(ホーン)を埋め込まれているという事は、何処かの家が拾い、その素質を見出したという事だ。

 

 それを攫うばかりか、あまつさえこのような人道を無視した改造を施している。

 

 ヒュースの沸点を超えさせるには、充分な光景であった。

 

「それに対する解答は是ですね。以前アフトクラトルにお邪魔した時に丁度良い素体がありましたので、検体に命じて確保させた次第です。ああ、とは言っても貴方の領主の領地からではなく────────」

「────────もういい黙れ。いや、死ね」

 

 ────────それ以上の発言を、ヒュースは許さなかった。

 

 蝶の盾(ランビリス)の円形ブレードを生成したヒュースは、それを投擲。

 

 白衣の男の胴を、中央から両断した。

 

 トリオン体ではなく生身だったのか、大量の出血と共に胴が泣き別れになった男の上半身がその場に落下する。

 

 あまりにも呆気ない、外道一人の末路であった。

 

「…………この少年は、連れ帰れるか打診してみるか。叶わないのであればせめて、安らかに眠らせてやりたいものだが────────」

『ああ、ちなみにこの検体の自我は既に壊れていますので応答は出来ませんよ。成果の方もイマイチでしたので、連れ帰るのであれば他の検体の方をお勧めします』

「…………っ!?」

 

 だが。

 

 次の瞬間、ヒュースは総毛立ち瞠目した。

 

 倒れ伏している、白い少年。

 

 その口から、たった今殺した筈の男の声が聴こえて来たのだから。

 

「き、さま。なんだ、それは…………っ!?」

『ただのバックアッププログラムです。私の心肺機能が停止した場合、予め埋め込んでおいた疑似人格が起動するように仕込んでおりました。丁度自我の壊れた個体でしたので、再利用したまでですが』

 

 悍ましい事をあくまでも淡々と宣う男の声に、ヒュースはこれまでにない嫌悪感を覚えた。

 

 同じ人間とはとても思えない、外れた所業。

 

 それを何とも思っていない、破綻した精神性。

 

 そのどれもを取って、「こいつは絶対に生かしてはおけない」とヒュースに決意させるには充分な光景であった。

 

『上位管理者の生体反応の消失を確認しました。これより傀儡糸(クローステール)の臨界駆動を開始します』

 

 そして、同刻。

 

 奇しくもエネドラがククロセアトロの長を殺害し、破滅の宣告が通達される。

 

 星の滅びが、始まった。

 

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