香取隊の狙撃手   作:デスイーター

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第十三幕~B級ランク戦ROUND7/Seven Rank Battle of White Girl
第七試合、到来


 

 

「試合前の最後の打ち合わせを始めるわよ」

 

 香取はそう言って、全員の顔を見回した。

 

 今日は、3月1日。

 

 ランク戦第七ラウンド、当日である。

 

 第六ラウンドのあった2月22日からの一週間で色々あったが、遂にこの日がやって来たのだ。

 

「まず、東隊に関しては展示場MAPで仕掛けて来る可能性が高い。そういう話だったわね?」

 

 香取はそう言って、華を見据える。

 

 華はこくり、と頷いた。

 

「ええ、恐らくはそう来ると考えているわ。今回の組み合わせを考えると、東隊は少しでも自分達に有利な地形で戦いたい筈。そうなるとやっぱり、展示場MAPが一番可能性が高いと考えられるわ」

「あんましあそこで戦った事はないけど、確かおっきな博物館みたいなMAPだったわよね?」

「そうね。その認識で問題ないわ。屋内MAPではあるけれど、市街地Dや市街地Eと違ってそれなりに広い上に、前者二つと違って見た目よりずっと射線が通り易いのが特徴よ」

 

 展示場MAPというのは、つまるところ巨大な博物館を舞台とした地形だ。

 

 内部には恐竜の化石等も展示されているので天井が高く、加えて景観を重視して壁も硝子張りの場所が多い。

 

 展示物も多種多様であり、隠れる場所には事欠かない上に射線自体は非常に通り易い。

 

 何せ、硝子張りの場所がとにかく多いのだ。

 

 ある程度離れた場所からでも射線が通ってしまう上、内部が入り組んでいるので逃走ルートも多く狙撃手にとってかなり有利な地形となっている。

 

「ただその分、MAPが広くて相手がどの道を通るのか把握し難いから、三人がかりでターゲットを追い込む戦術を取る荒船隊なんかは選ばないMAPでもあるわ。あくまでも、一人の突出した狙撃手にとって相性の良い地形と考えた方が良いでしょうね」

「一応聞くけど、樹里に建物ごと吹っ飛ばさせちゃ駄目なの?」

「選択肢の一つではあるけど、開幕でやるのはお勧めしないわ。位置の分からない狙撃手という優位を自分から切り崩す事になるし、何より敵は東隊だけじゃない。利用出来る障害物の無い場所で影浦先輩や弓場さんと戦り合うのは、少し考え物だわ」

 

 そう言って、華は香取の提案を窘めた。

 

 確かに地形そのものを破壊してしまえば東隊の優位は消え去るが、そうなると影浦と弓場という強力なエースを障害物なしで相手取る事になってしまう。

 

 影浦はマンティスの殺傷圏を越えていくのが相当に骨だし、弓場に至っては障害物を利用出来なければ近付く事すらままならない。

 

 彼の早撃ちは相当な脅威であり、前回は猛吹雪という凶悪な悪天候のお陰で何とかなった部分があるが、流石に今回の相手はそんな極端な天候は選んでは来ないだろう。

 

 屋内戦である以上、天候はあまり関係ないのだから。

 

「だから基本は、雄太と麓郎くんに仕掛けを張って貰いながら奇襲での逐次撃破を狙う事になるわね。雄太、あのトリガーの使い方は覚えられた?」

「うん、大丈夫だと思う。流石に数が多いと少し難しいかもしれないけど」

「その時は制御をこっちに振ってくれればいいわ。狙いから考えても、最低限起動出来ればそれで済むんだしね」

 

 分かった、と三浦は頷いた。

 

 その様子を見て問題ないと判断した香取は、よし、と胸を張る。

 

「いけそうね。あとは、他の部隊がどう動いて来るかよね。影浦隊も気になるけど、弓場隊はどうするのかしら?」

 

 

 

 

「今回は転送運次第だが、他の部隊の動きに合わせて仕掛ける。勿論、チャンスがあればその限りじゃねーがな」

 

 弓場は集まった面子に向かって、そう宣告した。

 

 それを聞いて外岡はこくりと頷き、帯島ははい、と手を挙げた。

 

「それじゃあ、基本的には姿を隠して他の部隊が動くのを待つ、って事ですか?」

「そうだ。今回は四つ巴な上、厄介な奴が多い。派手に動けば、その分的をかけられるからなァ。勿論、消極的過ぎても点は取れねーから臨機応変にはなるがな」

 

 成る程、と帯島は得心した。

 

 今回は四つ巴で敵の数が多く、尚且つどの部隊も一筋縄ではいかない相手ばかりだ。

 

 B級上位の試合は得てしてそんなものであるが、今回はよりにもよって東隊がMAP選択権を持っている上に、最近破竹の勢いでランキングを駆け上がっている香取隊もいる。

 

 派手に動けば、その分他から横槍を入れられる可能性が高まる。

 

 加えてその横槍の凶悪さが今回は群を抜いており、油断すればあっという間に駒を掻っ攫われるだろう。

 

 故に自分達がその横槍を入れる側に回るという方針は、成る程納得出来るものだ。

 

 そちらの方が効率的に点を取れるだろうし、何も序盤から前に出て的にされる所以はないだろう。

 

 とはいえ試合が膠着状態になればそうも言っていられないので、臨機応変という事にはなるのだが。

 

「まあ、恐らくカゲあたりが積極的に前に出て来るだろうって目算もあるがな。あいつは乱戦が得意だし奇襲が効かねーから、横槍どんと来いって構えてるだろーしよ」

「じゃあ、基本は影浦先輩が仕掛けた時に介入するって事っすか?」

「そうなるな。一番は、初っ端で影浦が仕掛けた相手を獲る事だ。難易度は高ェだろうが、やってやれねぇ事はねェ筈だ」

 

 影浦にゃ奇襲は効かねーからな、と弓場は念押しする。

 

 彼の言う通り、影浦には感情受信体質という副作用(サイドエフェクト)がある。

 

 これは自分に向けられた感情を肌感覚として受け取る事が出来るというものであり、その一環として敵意や殺意を感知し、攻撃の軌道を事前に知る事が出来るのだ。

 

 この能力がある為、影浦には狙撃や不意打ちが通用しない。

 

 如何に姿を隠しても影浦に意識を向けた瞬間、彼に察知されて逆に奇襲を喰らう事すら有り得る。

 

 これはスコープ越しに見た場合も同様であり、その性質上影浦は凶悪な狙撃手キラーとしての一面を持っている。

 

 隠密能力の高さが群を抜いている外岡でさえ、スコープで影浦を視認してしまえばその瞬間に居場所がバレてしまう。

 

 狙撃手を擁する部隊にとっては影浦は居るだけでも自分達の行動に縛りが付いてしまう、厄介極まりない駒なのだ。

 

 奇襲を仕掛けようとして影浦に感知され、逆に奇襲をかけられるようでは目も当てられない。

 

 だからこそ、こうして念押しをしているというワケだ。

 

「外岡、おめェーはカゲの居場所が分かるまでスコープを使う時は注意しろ。何かの間違いで居場所がバレちまえば、途端に的をかけられちまう。おめェーに限って滅多な事はねェだろうが、念の為にな」

「了解っす。けど、そうなると相手を見つけるのが難しくなりますが」

「それはこっちでやる。恐らくだが、そう長く待つ事にはならねーだろ。東隊がMAP選択だけで満足する筈がねェし、影浦隊はそもそも血の気が多い。香取隊の動きが気にかかる所だが、点が欲しいのは何処も同じな筈だからな。自然と、開戦の狼煙は上がるだろーぜ」

 

 弓場はそう言って、うし、と気合いを入れた。

 

「どいつもこいつも厳ちィ相手だが、俺等もB級上位としての意地がある。後で神田に笑われねェよう、気合い入れてくぞコラァ!」

 

 

 

 

「東隊が選んで来るMAPは、多分展示場だって話だったよね? 他の部隊は、どう動くと思う?」

「多分だけど、他の部隊の動きを待って漁夫の利を狙うんじゃないかな。弓場隊あたりは、そういう動きをしそうに見えるよ」

 

 ユズルはそう言って、北添の問いに答える。

 

 その話を聞き、成る程、と北添は頷いた。

 

「確かにそうなるかもね。弓場さん自身は1対1(タイマン)を好むけど、部隊として動く以上はクレバーにやる筈だろうし。神田くんがいた頃なんかは、それが顕著だったしね」

「神田かー。あいつがいた頃の弓場隊は、ホント面倒だったよなー。何度か嵌められて、漁夫られた事もあったっけな」

「でも、今その神田先輩はいないからね。弓場隊が弱体化してるのは事実だし、手段を選ぶ事はしないと思うよ」

 

 三人の言う通り、今の弓場隊はかつて在籍していた神田が抜けた事で以前より弱体化している。

 

 神田は隊のブレインを務めていた万能手であり、戦況の調整や随所の指揮が抜群に巧かった。

 

 他の部隊にたとえるなら犬飼や水上のようなポジションであり、エースである隊長を十全に動かす為に盤面を自在に調整する指揮者としての役割を担っていた。

 

 その神田が希望する大学への受験勉強に集中する為に前期終了を以て隊から抜けた為、現在の弓場隊はブレイン役が不在という状況にある。

 

 基本的に今の弓場隊は隊長である弓場が指揮を執っているが、それでも神田という優秀な指揮官がいた頃と比べれば戦術練度で粗が目立つのは言うまでもない。

 

 弓場も指揮が拙いというワケではないが、こればかりは適性の差なのである。

 

 むしろ見様見真似で指揮をやり始めてあれだけの戦術運用が出来ている香取は、例外中の例外なのだ。

 

 香取の学習能力(ラーニング)は最早天賦の才であり、誰にでも真似出来るようなものではない。

 

 その彼女が停滞を止めた以上、潜在能力(ポテンシャル)の面で香取を超えられる者は早々にいないだろう。

 

 ともあれ、ユズルの言葉通り今の弓場隊に手段を選んでいられる余裕はない。

 

 今期では中位落ちも経験しているし、それこそ死に物狂いで点を狙って来るだろうというのは誰しもが同意するところだろう。

 

「じゃあ、どうする? こっちも他の部隊が動くのを待つ?」

「それもいいけど、カゲさんには狙撃も不意打ちも効かないからね。相手がどう動いて来るのか分かってれば、それに対応する事は難しくないと思う」

 

 だから、とユズルは続ける。

 

「表面上は相手の思惑通り、こっちから仕掛けてみようよ。来るのが分かってるんだったら、逆にそれを利用する事も出来る筈だからね」

 

 

 

 

「ところでよー。オレ等が展示場を選ぶのって、他の部隊に予測はされっかな? なんか、弓場隊あたりはそういうの見破って来そうだけどよ」

「恐らく、看破されるだろうな。オレ達の立ち位置が厳しいのは分かってるだろうし、有利な地形を選んで来るだろうってのは予想されて然るべきだ」

 

 奥寺はそう言って、小荒井の懸念を肯定する。

 

 今のB級上位の面々が、それを見破れない程鈍いとは思えない。

 

 それが、奥寺の見解だった。

 

「それ、大丈夫なのかよ? 特に香取隊は今期、相手の選んで来るMAPを見破って逆に罠に嵌めたりしてるだろ? 同じ事をされる危険はねーのかよ?」

「当然、有り得るだろうな。けど、他に選択肢がないも同然なんだ。市街地Aや市街地Bは爆撃の乱打で乱戦に持ち込まれるだろうし、市街地Cは高所を取れればいいが転送運が絡み過ぎる。市街地Dや市街地Eは東さんが活かし難いから論外だし、市街地Fはわざわざ選ぶメリットが無い。他のMAPに関しては言うまでもないし、結果的に展示場が一番有利に動けるんだよ」

 

 奥寺の言う通り、今回の試合で少しでも点を取るチャンスを狙うには展示場を選ぶ他ない。

 

 スタンダードな市街地MAPは爆撃の危険があるし、屋内の閉所戦闘を強要される市街地Dや市街地Eは狙撃手である東を活かし難く、選ぶ理由がない。

 

 様々なギミックが仕込まれている市街地Fは敢えて選ぶメリットがないし、河川敷や工業地帯といったMAPも自分達が有利になれる要素がない。

 

 摩天楼は流石に広過ぎるし、隠れる場所がほぼない渓谷地帯なんて以ての外だ。

 

 故に展示場を選ぶのがベターなのだと、奥寺は判断したワケだ。

 

「だから、逆に相手にこっちが選ぶMAPを見抜かれてる前提で動くんだ。相手の動きはある程度予測出来るし、やってやれない事はないと思う。そうですよね? 東さん」

「ああ、お前の言う通り見破られているなら見破られているでやりようはある。勿論難易度は高いが、奥寺の言う通りやってやれない事はない筈だ。サブトリガーも解禁したし、持てる全力をぶつけてやれ」

「「はいっ!」」

 

 

 

 

「とにかく、基本的に最初は仕込みをしながら様子見ね。多分影浦隊か弓場隊が動いて来ると思うけど、それに合わせて動く事にしましょう。但し、小荒井か奥寺を見付けたら即座に潰すわ。あいつ等は、二人揃ってなきゃそこまで怖くないしね」

 

 香取はそう言って、隊に方針を伝えた。

 

 奇しくも弓場隊と同様、漁夫の利を狙う戦法。

 

 しかしそれに加えて、狙えるならば東隊の二人を狙う算段だった。

 

「転送運次第だけど、奥寺と小荒井の隠密能力はそこまで高いってワケじゃないし運良く遭遇出来るパターンはあってもおかしくないわ。二人揃う前に片っぽ片付けられればそれが一番だし、狙えるようなら狙っていきましょ」

「葉子、わたしは?」

「前と同じく、影浦先輩の位置が分かるまでは迂闊に周りを見ない事。今回は射線が通る場所が多いし、特に気を付けなさいよね」

 

 はぁい、と樹里は頷いた。

 

 樹里は強化視覚の副作用(サイドエフェクト)を持っている為、スコープなしでも遠方を裸眼で視認出来てしまう。

 

 故に普通に周囲を見回すだけで影浦を視認してしまう危険性が高く、影浦の位置が不明な間は迂闊に視線を向けるだけで位置バレする危険があるのだ。

 

 影浦が健在なだけで樹里は継続的なデバフを受けているに等しい状態であり、そういう意味でも厄介な相手である。

 

 今回もまた、影浦をどう処理するかが課題となるだろう。

 

 前回と同じ手は流石に通用しないであろうし、そこは今回持ち込んだ戦術が何処まで通用するかにかかっている。

 

「色々面倒な事だらけだけど、此処でしっかり点を取るわよ。うかうかしてると玉狛の連中に追い越されかねないんだし、気合い入れていくわよ」

 

 了解、という返事を聞き香取は満面の笑みで頷く。

 

 そして、試合の開始時刻が訪れようとしていた。

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