香取隊の狙撃手   作:デスイーター

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第七試合、開始

 

 

「ROUND7開始、間もなくよ。実況はわたし、草壁が担当するわ」

 

 涼やかな声でそう告げたのは、小柄なツインテールの少女。

 

 草壁早紀。

 

 A級四位部隊草壁隊の隊長であるオペレーターであり、その可愛らしい容姿とは裏腹な棘の多い言動が特徴的な少女である。

 

 彼女がこうして実況席に座る事は滅多にないので、会場に集まった正隊員達は物珍しそうに眺めていた。

 

「解説はうちの一馬と、諏訪さんが担当するわ」

「よろしくー」

「よろしく頼むぜ」

 

 解析席に座るのは、彼女の部隊の一員である里見一馬ともう一人。

 

 草壁が昔銃手だった頃に世話になったという経歴のある人物、諏訪である。

 

 実のところ、今回彼女が実況を引き受けたのは諏訪を解説として呼ぶから、と桜子から伝えられていた為だった。

 

 草壁は趣味が諏訪と同じ推理小説になっているくらいには眼に見えて彼の影響を受けており、口では毒を吐きつつも今も尚慕っているのである。

 

 その諏訪と並んで実況出来るという事で、内心ウキウキになってこの場に訪れた次第である。

 

 なお、草壁にどう実況を依頼するか悩む桜子にそうするよう告げ口(リーク)したのは以前に彼女が諏訪の事を慕っている事を何処からか聞きつけた緑川である事を此処に追記しておく。

 

 その事がバレて彼は後日酷い目に遭う事になるのだが、それは別の話である。

 

「今回は影浦隊、東隊、香取隊に弓場隊かぁ。どこもかしこも見どころばかりな試合になりそうだね」

 

 にこり、とそう言って里見が笑う。

 

 彼は熱心な弓場の信者(ファン)であり、里見が今回解説を引き受けたのも草壁の見守り任務という理由の他に弓場が出る試合であるが為だ。

 

 里見は二宮と弓場というB級上位の隊長格二名を心から尊敬しており、二人への好感度はほぼ天元突破している。

 

 その敬愛する一人の出る試合という事で、一も二も無く引き受けた次第である。

 

「そーだな。どの部隊にも一筋縄じゃいかねぇ奴等がいるし、荒れる試合になんのは間違いねーだろ」

 

 なお、諏訪は桜子にお願いされて特に断る理由もなかった為に引き受けた形だ。

 

 ぶっきらぼうでガサツに見える諏訪であるがその実かなり面倒見が良く、基本的に年下からの頼みは断らない。

 

 その理想の上司ぶりは彼の下で隊員をしている笹森曰く彼の下で働けるのは「超ラッキー」、同じく堤曰く「当たり物件」と言わしめる程のものである。

 

 これは身内贔屓でもなんでもなく、諏訪の上に立つ者としての適性や人格がそれだけ優れているという事でもある。

 

 普段彼と関わる事の少ない者でも、一度諏訪の世話になればその有難みは分かる筈だ。

 

 素直ではない性格が極まっている草壁がトコトンまで懐いているのも、頷ける話である。

 

「MAP選択権を持っている東隊が選んだのは、展示場。東さんが得意とする事で有名な地形ね」

「今回はホント、割とストレートな所を選んで来たよね。東隊はMAP選択権を得ていても市街地Aや市街地Bを選ぶ事が多いのに、今回はこれを選んで来たって事は少しでも地形で有利を取ろうって考えかな」

「だろーな。今回の相手はどいつもこいつも癖が強ぇし、純粋に大駒が多いかんな。せめて地形で少しでもアドバンテージを取りたいって考えるのも頷ける話だ」

 

 今回選ばれたMAP、展示場は東が得意とする事で知られているMAPである。

 

 但し、だからといって東隊がMAP選択権を得た時に必ずこのMAPを選ぶというワケではない。

 

 むしろ自分からこの地形を選ぶ事は少ないまであり、その理由としては()()()()()()()()()というものが挙げられる。

 

 東隊自体は得点能力がそこまで突出していない事もあり、そこそこの順位に留まっているが、隊長の東の規格外ぶりは誰しもが知るところである。

 

 始まりの狙撃手、東春秋。

 

 その勇名と実績を知らない者は正隊員にはおらず、相手にした時の厄介さはB級上位の面子であれば十二分に思い知っている。

 

 ただでさえ面倒な東という大駒が、より厄介になるのがこの展示場というMAPなのだ。

 

 そうなると他の部隊は過剰なまでに東隊の動きを警戒するようになり、東隊側が得点するチャンスが目に見えて減るケースが多い。

 

 故に少しでも点が欲しい東隊としては、有利は取れるが得点する機会が少なくなるこの地形は中々選ばない傾向があるのである。

 

 にも関わらず今回これを選んだのは、単純にそうしないと勝ちの目がないからであろう。

 

 今回の相手はどの部隊にも突出したエース級が在籍しており、香取隊に至っては香取と樹里という二枚看板がある。

 

 特に樹里の大暴れぶりは今期で香取隊と戦った相手には強く印象に残っており、前回の試合で敗北を喫した東隊の面々もそれは承知している。

 

 だからこそ、警戒されて得点の機会が減ろうが得意なMAPを選ばなければそもそも得点する機会すらなくなると危惧して、この地形を選んだのであろう。

 

「わたしも同意見ね。東隊は今回、警戒されてでも有利な地形で戦う事を選んだ。当然、無策というワケではないのでしょうね」

 

 

 

 

「作戦を確認するぞ。まず、第一にオレと小荒井は合流を優先。それまでは接敵を避けるが、見つかった場合はそのまま釣り出して仕留める。序盤の動きとしてはこんな所だな」

 

 奥寺はそう言って、改めて作戦の確認を行った。

 

 小荒井は頷き、東と人見はその様子を見守っている。

 

 傍から見ると完全に子供二人と保護者二名の図だが、この場に突っ込む者は誰もいなかった。

 

「今回は他の部隊にも全部狙撃手がいるから、合流まで見つからねーのは難しいんじゃねーか?」

「そうでもない。今回は、影浦先輩がいるからな。他の部隊の狙撃手は、影浦先輩を視認してしまう事を恐れて積極的な索敵はしない筈だ。迂闊に影浦先輩を見てしまったら、その時点で居場所がバレて終わりだからな」

 

 奥寺の言う通り、今回参加している影浦は狙撃手キラーの性質を持っている。

 

 その副作用(サイドエフェクト)によって自分が見られただけでそれを察知する影浦は、スコープを用いて索敵を行う役目を持つ狙撃手にとって見ただけで爆発する地雷のようなものだ。

 

 何せ、索敵中に影浦を視認してしまうだけで位置が露見し、狙撃が通用しない影浦が突っ込んで来るのだ。

 

 基本的には狙撃手は攻撃手に寄られたら為す術がなく、そのまま落とされる。

 

 しかも影浦は攻撃手の中でもトップランクの上位者なので、狙われたらまず助からない。

 

 なお、以前その影浦と弓場に寄られた上で逃げ切った東春秋(れいがい)の事は此処では考えないようにする。

 

 この場合は東がおかしいのであって、常識的に考えれば高い実力を誇る攻撃手に接近を許した時点で詰みなのだから。

 

「だから影浦先輩の位置が特定されるまでは、他の部隊の狙撃手は索敵を控える筈だ。特に今回は、射線の通る場所が多いMAPだからな。普通の市街地MAPよりも、影浦先輩を視認してしまう危険性が高い。このMAPを選んだのは、そういう理由もあるんだからな」

 

 加えて、今回選んだ展示場MAPは射線の通る場所が多い。

 

 それは即ち視界が通る個所が多い事と同義であり、迂闊に索敵を繰り返せば偶然影浦を見てしまう危険は高い。

 

 影浦という狙撃手キラーの性質を利用して、序盤の安全を確保する。

 

 それが、奥寺の思惑だった。

 

「変に捻った事をする必要は無い。オレ達はいつも通り敵を釣り出して、東さんの狙撃が通るよう陽動に徹する。結局のところ、その動きが一番強いのは間違いないんだからな」

「そういう事なら、了解だぜ。厄介な奴が多いけど、やってやれねー事はねー筈だしな」

 

 そうだな、と奥寺は頷く。

 

 そして、東の方を振り返った。

 

「東さん、そういう事ですのでよろしくお願いします」

「ああ、特に言う事はない。俺も駒として、しっかり働くよ」

 

 

 

 

「ただ、それは他の部隊から見ても想定はし易いと思うわ。だから、予めこのMAPを選ぶ事を予想していた部隊は多いんじゃないかしら?」

「そうだねー。弓場さんトコは神田くんから戦術のノウハウは継承してるだろうし、気付いた上で利用するよう戦術を組むと思うな。弓場さん、そういう所は神田くんからしっかり学んでたみたいだしね」

 

 里見はそう言って、草壁の考えを肯定する。

 

 諏訪もそうだな、と言って頷いた。

 

「それだけ、今回の東隊の立ち位置が厳しいのは見りゃ分かるからな。どのチームにも大駒がいる上に、狙撃手殺しの影浦もいる。普通にやりゃあ勝ちが見えない以上、地形で有利を取って来ようとするのは自然な事だからな」

「そうね。今の東隊は東さんの存在がクローズアップされがちだけど、得点能力はそこまで高くない。東さんの生存能力の異常性はさておいて、部隊の性質上得点を稼ぐペースが遅いのは事実よ」

 

 まず、と、前置きして草壁は続ける。

 

「今の東隊は小荒井・奥寺の両名が敵を釣り出し、東さんがそれを仕留めるというのが基本戦法よ。だから必然的に、部隊総出で各個撃破、という形になる。だから一点を取るまでに相応の時間と手間を費やすし、その過程で攻撃手のどちらかが落とされてしまえばその後の作戦の成功率はぐっと下がるわ。あの二人は連携すれば脅威だけど、単独ではB級上位陣相手だと少し厳しいもの」

 

 草壁の指摘通り、今の東隊は小荒井と奥寺が連携で敵を釣り出しつつ、それを東が狙撃で仕留める、というのが基本戦術だ。

 

 東の隠密能力の高さと位置バレしてからでも何故か逃げ切ってしまう逃走能力の異常さがある為に戦術自体は厄介で強いのだが、如何せん部隊総出で一人のターゲットを追い詰めて倒す、というコンセプトである為に一点を取るまでに時間がかかり、尚且つ()()()()()()という事が出来ない。

 

 小荒井と奥寺は連携すればB級上位の攻撃手相手でも互角以上に戦えるが、単体で戦った場合はそれらと比べて少々見劣りするのは否めない。

 

 だからこそ別動隊を出して点を取る、という動きを行う事が難しく、結果的に点を取るペースが遅くならざるを得ない。

 

 それが今の東隊の弱みだと、草壁は指摘したのだ。

 

「他の部隊も、それは分かってるだろうからねー。特に弓場さんには、早撃ちがあるし。遭遇戦になれば、その時点でほぼ詰みだと思うよ」

 

 

 

 

「準備は良いか、おめェー等」

「はいっ!」

「勿論です」

 

 チームメイトの返事を聞き、弓場は鷹揚に頷く。

 

 眼鏡をギラリと光らせ、仁王立ちのまま口を開いた。

 

「作戦の基本骨子は前に言った通りだ。だが勿論、転送位置次第じゃ臨機応変に立ち回る必要もある。作戦に拘り過ぎず、その場での最善を常に考えろ。今期の香取隊と最近の影浦隊は、一味も二味も違うからなァ。気合い入れてくぞコラァ!」

 

 

 

 

「影浦隊は、いつも通りに動くと思うわ。屋内ステージだから北添先輩のメテオラ戦法は使えないけど、それでも攻撃手(アタッカー)の影浦先輩が狙撃が通用しないから一番自由に動き回れるチームなのは間違いないしね」

「そうだねー。他の部隊と違って、狙撃手が索敵に慎重になる理由がないし。索敵能力で考えれば、今回一番警戒しなきゃならないトコだと思うよ」

 

 二人の言う通り、影浦隊は他の部隊と違って狙撃手が索敵を躊躇う理由が存在しない。

 

 それ故にユズルは自由に索敵を行う事が出来る為、敵の位置を把握する能力に関しては今回の試合で最も突出していると言える。

 

「変に捻らずに、自分の得意な戦法を押し通す。これが一番シンプルに強い事は、二宮隊の例を見れば分かるものだしね」

 

 

 

 

「今回、オレは序盤は索敵に集中するよ。場合によってはゾエさんに攪乱して貰う事になるけど、よろしく」

「任せてー。カゲもそれで良い?」

「構わねーよ。要はいつも通りだろうが」

 

 そう言って、影浦隊の面々は笑い合う。

 

 そこに気負いはなく、純粋に勝利の為にチームが纏まっている姿が見受けられる。

 

 それを見ていた光はうんうんと後方理解者面で頷いているが、それは全員がスルー。

 

 相変わらず、様子の変わらない面々であった。

 

「折角ユズルが、やる気になってんだ。これで手ェ抜くような奴は、ここにゃあいねーだろ」

「そうだね。遠征目指したいってなら、ちゃんと活躍しないとだし。頑張ろうね、ユズル」

「うん」

 

 ユズルは何処か恥ずかし気に、しかし確たる決意を込めて顔を上げた。

 

「オレ、頑張るよ。前よりもっと、いつもよりずっと。だから、協力して欲しい。鳩原先輩に恥じないオレになる為にも、前を向くようにするからさ」

 

 

 

 

「香取隊は、今期で一番躍進したチームと言っても過言ではないわね。それだけ、木岐坂先輩の加入が大きかったのかしら」

「それだけじゃないと思うぜ。香取も前と比べれば段違いに成長してるし、何よりちゃんと()()をしてる。部隊そのものが前期までとは別物、と言っても過言じゃねーだろーな」

 

 成る程、と草壁は素直に頷いた。

 

 他の人物相手であれば反論の一つもしただろうが、相手が諏訪なので聞き入れる事に抵抗はない。

 

 まあ、それを正面から認める事はまずやらないのが草壁という少女ではあるのだが。

 

「昔の香取隊とは違って、部隊全員がチームの勝利の為に動いてやがる。元々潜在能力(ポテンシャル)が高かった香取が、チームとして動けるようになったんだ。むしろこれくらいは、当然だと思うぜ」

「そうだねー。香取ちゃんは突破力の高いエースだし、脇を固める層が厚くなれば自然とこれまで以上に暴れられるようになるからね。丁度、木虎ちゃんが入った後の嵐山隊みたいな感じじゃないのかな」

「………………………………………………………………そうね。同意するわ」

 

 木虎の名前が出た事で若干どころではなく顔を顰めた草壁だが、気を取り直していつもの無表情に戻った。

 

「エースが二人いる、ってのもポイントね。遠近両方に特化した二人のエースが何処まで盤面をかき乱せるかも、重要な部分だと思うわ」

 

 

 

 

「やっぱ、展示場で来たわね。用意してた戦術が無駄にならずに何よりだわ」

 

 香取はそう言って、ニヤリと不敵な笑みを浮かべた。

 

 樹里はいつも通りの眠そうな表情だが、その瞳の奥の闘志は隠し切れていない。

 

 若村や三浦も気合い充分といった風体で、それを見守る華も心なしか笑っているように見える。

 

「得意なMAPで嵌めてやろうって連中を、真正面から見返してやりましょう。それが出来るだけの準備は、やって来たつもりだしね」

 

 

 

 

「そろそろ時間ね。全部隊、転送開始」

 

 草壁の宣告により、仮想空間への転送が始まる。

 

 第七試合の火蓋が、切られようとしていた。

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