香取隊の狙撃手   作:デスイーター

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弓場隊Ⅳ

 

『雄太、予定通り葉子が影浦先輩と接敵したわ。弓場さんも加わって苦戦してるみたいだけど、貴方達のやる事は変わらないからお願いね』

「了解。オレはオレの仕事をやるよ」

 

 三浦は博物館を駆けながら、華の通信にそう返答する。

 

 未だ、彼は誰とも遭遇していない。

 

 隠密能力はそこまで高いというワケではないが、今までは影浦の存在から各部隊の狙撃手が索敵を控えていた為だろう。

 

 だが、その影浦の位置が露見した今狙撃手が索敵を躊躇う理由は存在しない。

 

 今頃はどの部隊の狙撃手も、索敵を解禁している筈だ。

 

 射線が通り易い、即ち視界が通り易いこのMAPではいつまでも隠れて居られるとは限られない。

 

 今回は特に、どの部隊にも狙撃手が在籍しているのだ。

 

 三浦が見つかるのは、そう遠い話ではないだろう。

 

(けど、その前にやれる事はやっておく。今は注目が主戦場に集まってる筈だから、その隙に出来る事はある筈だ)

 

 しかし、今は幸いと言うべきか香取達が戦っている主戦場へ注目が集まっているだろう。

 

 何せ、各部隊のエースが揃い踏みで戦っているのだ。

 

 三人ものB級上位のエース級が揃っているとなれば、迂闊に手を出せば瞬殺される空間である事は間違いない。

 

 或いは他の部隊は、何とかしてその主戦場に介入し盤面を乱そうと狙っている事だろう。

 

 未だエース以外の隊員の位置が露見していないのも、その可能性に拍車をかけていた。

 

 だから、今動く。

 

 華やかなエースと比べて地味な仕事かもしれないが、これも立派な役割の一つだ。

 

 三浦はそう信じて、広い博物館を仕掛けを張りながら駆けていた。

 

(オレはオレの出来る事をしよう。それが一番、チームの為になるんだから)

 

 

 

 

「うし、合流出来たな」

「そうだな。転送位置が良かった。影浦先輩の位置が分かる前に合流出来たのは、幸先が良い」

 

 小荒井と奥寺はそう言って、合流に成功した幸運を噛み締めた。

 

 二人共転送位置が近く、尚且つ道中に目立った妨害もなかった為難なく合流する事が出来たのだ。

 

 前回香取隊と戦った時は合流前に各個撃破されてしまっていただけに、この早期合流の成功は大きい筈である。

 

「東さん、影浦先輩のトコは動きありますか?」

『今の所はないな。弓場も加わって、膠着状態だ。ちなみに、他の隊員はまだ発見出来ていないぞ。皆、かなり慎重に動いているようだ』

「了解しました」

 

 奥寺は東からの報告を聞き、ふむ、と考え込む。

 

 主戦場が膠着状態になっているのは予想通りだが、あの東をして未だ他の隊員を発見出来ていないというのは、少々気掛かりではある。

 

 影浦の位置が分からない間は迂闊な索敵は出来なかったとはいえ、東の索敵能力は決して低くない。

 

 というよりも、東は影浦を視認してもそこに殺気や敵意が乗らない為に索敵に関する制限が存在しない。

 

 これは他の部隊の面子も失念しているかもしれないが、攻撃の際であっても感情が一切乗らないという事は、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()のだ。

 

 東であれば影浦の位置が分からない状態でも、索敵自体は自由に行える。

 

 だというのに、未だに一人も発見を出来ていないというのは、他の部隊の面々が相当に慎重に動いている事を意味していた。

 

「イメージしてた動きと少し違うな。何かしら読み間違えたか?」

「そうかー? 影浦先輩を警戒して他の狙撃手は索敵を控えてただろーけど、ユズルは別だろ? だからその分を警戒してたと思えば、割と自然なんじゃねーの?」

「だといいがな」

 

 奥寺は小荒井の言う事にも一理あるが、と思案した。

 

 確かにユズルはとうの影浦隊所属である為、東と同様索敵に関する制限が存在しない。

 

 だからこそ影浦の位置が分からない序盤であっても最大限警戒をしていたというのは、頷ける話だ。

 

 しかし逆に言えば、影浦の位置が露見する前にこそ何かをする余地はある筈なのだ。

 

 何せ、影浦の位置が分かってしまえば強化視覚の副作用(サイドエフェクト)を持つ樹里の索敵が解禁されてしまう。

 

 射線さえ通っていればどれだけ離れていようがスコープ無しでの索敵が行える彼女は、このMAPである意味最大の脅威であると言っても過言ではない。

 

 その索敵能力の高さ故に今までは動きを抑えていただろうが、影浦の位置が分かった今その行動を縛る枷は存在しない。

 

 樹里の索敵能力は、ハッキリ言ってユズルの比ではないのだ。

 

 ユズルはあくまでも常識的な範囲としての索敵能力の高さだが、樹里はそういったレベルとは桁が違う。

 

 MAPの端にいても四方の全てをカバー可能な程彼女の索敵範囲は広い上に、スコープを使わない為索敵中の隙が存在しない。

 

 その彼女が自由になる前に何かを仕込んでおこう、もしくは可能な限り移動しておこうと考えるのは自然な事なので、てっきり影浦が出て来るまでに他部隊は積極的に移動をしていると考えていたのだ。

 

 にも関わらず、一切の音沙汰がない。

 

 これは何かあるのではないか、と勘繰るのは自然な事と言えた。

 

「東さん、索敵を引き続きお願いします。オレ達はこれから、二人でMAPを回っていくので」

『了解。何か考えがあるんだな?』

「ええ、他の部隊の動きに違和感があります。だから、それをこれから解明していくつもりです」

 

 ですので、と奥寺は続ける。

 

「他の誰かを見付けたら、行動を開始します。東さんは、いつでも撃てるように準備をお願いします」

 

 

 

 

「オラァ!」

 

 影浦は弓場に対し、躊躇いなくマンティスを振るう。

 

 三つ巴という状況下だが、両攻撃(フルアタック)が必要となるマンティスの使用を彼が躊躇する様子は微塵もない。

 

 否、出来ないと言うべきか。

 

 この場に集う三人はマンティスを扱う影浦を含め、全員が中距離での攻撃手段を持っている。

 

 特に弓場のリボルバーによる早撃ちは影浦をしても脅威極まりないものであり、彼に対抗するには単体のスコーピオンでは射程が短過ぎる。

 

 必然として射程を拡張可能なマンティスを使わざるを得ない為、こういう戦闘スタイルになっているワケだ。

 

「…………!」

 

 弓場は振り下ろされ、曲線を描くマンティスの刃をサイドステップで回避する。

 

 そして、すかさず影浦に向かって銃撃を撃ち込んだ。

 

 それを、影浦が来るのが分かっていたかのような挙動で回避した。

 

 他の者であれば有り得ない回避方法であるが、唯一影浦雅人だけは当たり前の光景ではあった。

 

 サイドエフェクト、感情受信体質。

 

 これによって攻撃の軌道を敵意や殺意の通り道として認識可能な影浦は、相手が攻撃を行うと意識した時点でどう攻撃が来るかが分かってしまうのだ。

 

 とはいえ、弓場のリボルバーは射程と装弾数を切り詰めた代償として極限まで威力と弾速が上がっている。

 

 至近距離ではないとはいえその早撃ちを苦も無く避けられるのは、サイドエフェクトに依る戦いに慣れ切った影浦なればこそと言えるだろう。

 

「────────」

 

 そして、その弓場に対し天井に張り付く香取からの銃撃が見舞われる。

 

 曲線を描くその弾道は、追尾弾(ハウンド)に相違ない。

 

 銃撃を行ったばかりの弓場はリボルバーをホルスターに装填し、バックステップを行いながらシールドで防御。

 

 香取の銃撃を、これまた難なく受け切った。

 

 現在、香取は弓場の奇襲によって左腕が失われている。

 

 よって銃撃は片腕でしか行えず、銃撃そのものはそこまで怖くはない。

 

 だが、弓場と異なり射程も装弾数も切り詰めていない為、射程そのものはこちらより上だ。

 

 その上一度に撃てる数がそこまで多くないとはいえ、連射性能自体はそこそこある。

 

 流石に一度に多くの弾を撃ち続けられる突撃銃型(アサルトライフル)タイプには及ばないが、無視出来ない牽制という意味で充分脅威となっていた。

 

(さっきのを生き残った事といい、いやらしい立ち回りをしやがる。戦うのはROUND3以降だが、中々の奴に仕上がってやがんじゃねェか)

 

 弓場はその状況を厄介だと思うと同時に、高揚感を覚えていた。

 

 1対1(タイマン)が好きであると豪語する弓場だが、こういった乱戦での駆け引きも嫌いではない。

 

 今は影浦と香取という極上の相手に巡り合えている事もあり、弓場のテンションは最高潮と言えた。

 

 特に、あの必殺の間合いから放たれた奇襲を片腕の犠牲で留めた香取には内心で多大な称賛を送っていた。

 

 あの攻撃は元々、香取を落とすつもりで行ったものだ。

 

 即死はせずとも少なくとも致命打を与える予定ではあったのだが、香取はそれを片腕の犠牲のみで留めてしまった。

 

 まさかあそこからほぼ完璧な対処をされるとは思っていなかっただけに、あの常人離れした対応力には舌を巻いたものである。

 

 至近距離ではなかったとはいえ弓場の早撃ちを難なく対処してみせた影浦といい、歯応えのあり過ぎる敵がこの場には集っていた。

 

(面白ェ。計算は大幅に狂ったが、それならそれでやる事をやるだけだ。帯島や外岡の為にも、俺は此処で盛大に暴れてやるよ)

 

 

 

 

「主戦場の戦況は未だ膠着状態ね。まあ、状況からして無理もないけれど」

 

 草壁はそう言って、画面の中で戦っている三者を眺めた。

 

 スクリーンの中では影浦が弓場へ攻撃を仕掛け、それを弓場が回避しつつ反撃。

 

 影浦が攻撃を回避した直後、香取の銃撃に弓場が対応する。

 

 その繰り返しを、ひたすらに行い続けていた。

 

 ハッキリと、戦場が膠着している。

 

 それは、誰が見ても明らかであった。

 

「香取ちゃんが、良い動きをしてるねー。あれじゃあ、弓場さんも影浦さんも迂闊に距離を詰めれないよ」

「そうね。あの中で最大の射程を持っているのは、香取先輩よ。弓場さんは射程を切り詰めているから当然として、影浦先輩のマンティスも流石に銃撃を上回る程の射程は持っていないわ。それに」

「香取にゃ、三次元機動に加えてグラスホッパーがあるからな。天井近くを跳び回りながら銃撃してんだから、地上にいる二人にゃあいつは中々狙えねぇだろ」

 

 諏訪はそう言って、草壁の説明を捕捉した。

 

 現在、主戦場にいる三人の中で最も長い射程を持っているのは香取である。

 

 彼女が使用しているのは拳銃タイプのトリガーである為一度に多くの弾を撃ちづづけられる突撃銃型(アサルトライフル)タイプと比べて連射性能は低いが、それでも6発ずつしか装填出来ない弓場のリボルバーと比べれば弾数は雲泥の差である。

 

 加えて香取は天井近くを跳び回りながら銃撃を敢行している為、地上で戦闘を行っている二者には彼女に攻撃を届かせる術がない。

 

 香取はそれをいい事に自由に動き回り、牽制に徹しているワケだ。

 

「こうなると、やっぱり最初の奇襲で弓場さんが香取先輩を仕留められなかったのが結構響いているわね。というか、なんであれを凌ぎ切ったのか意味不明だわ」

「あれ、普通は即死だからねー。弓場さんの銃撃を至近距離で受けておいて、片腕の被害で済んでるのはマジで奇跡だよ。ホント、香取ちゃんの反射神経ってとんでもないよね」

 

 それというのも、弓場が最初の奇襲で香取を仕留められなかった事が大きい。

 

 弓場隊の想定では恐らく、あの奇襲によって香取を仕留める、もしくは致命打を与える予定だった筈だ。

 

 しかし実際には香取は片腕を失ったのみに被害を留めており、その両足による機動力も健在でトリオン漏出に依る敗退も遠いレベルの損傷しか与えられていない。

 

 普通であれば、至近距離で弓場の銃撃を受けた時点で大抵の相手は即死する。

 

 にも関わらず平然と攻撃を凌ぎ、最低限の被害で押し留めた香取の方がおかしいのだ。

 

 断言するが、あの状態で生き残れる人間はボーダーの中でもそう多くはない。

 

 回避能力が抜群に高い影浦や未来予知を持つ迅、或いは防御に長けた村上であれば或いは、という所だろう。

 

 それでも迅という例外を除けば確実に凌ぎ切れるとは言えず、彼等のような副作用(サイドエフェクト)を持たない香取がそれを成し遂げたというのは確かな偉業ではある。

 

 そう言える程にあの時の香取の反応は神がかっており、誰にでも出来る事ではないのは瞭然だ。

 

 実際に弓場隊の計算を大きく狂わせたのは言うまでも無く、彼女があれで死ななかった事で盤面へ大きな影響を齎している事は間違いない。

 

 草壁の言う通り、主戦場でキーとなっているのは香取の存在である事は事実だった。

 

「元々、あれだけの潜在能力(ポテンシャル)はあったんだ。部隊として成長出来たんなら、まああれくらいはやれんだろ」

 

 驚いている二人とは対照的に、諏訪は冷静にそう告げた。

 

 元々香取の持つ潜在能力の高さに目を付けていた諏訪としては、彼女ならばこれくらいはやれるだろう、と看破していたのである。

 

 香取はチームとして香取隊が機能していなかった頃でさえ、実質一人で部隊をB級上位まで引き上げた化け物じみた能力を有していた。

 

 今は足を引っ張っていたチームメイト全員が成長した上、入隊を熱望していた幼馴染の樹里まで加わった事から精神面でも香取は今絶好調の筈である。

 

 そういう時の香取がどれ程怖いかは、諏訪も以前に香取隊と戦った時に嫌と言う程思い知っている。

 

 だからこそ、驚きはない。

 

 今の香取ならばこれくらい当然、と言っても過言ではないだろう。

 

「…………そうですか。諏訪さんがそう言うのであれば、そうなんでしょう」

 

 無論、諏訪を慕う草壁からしてみれば彼が他の女子隊員を評価しているのは面白くない。

 

 面白くないのだが、今は実況の場である。

 

 まさか此処で嫉妬を滲ませるワケにはいかず、口を尖らせて拗ねるに留める草壁であった。

 

 そんな草壁の内心は露知らず、諏訪は画面を見据えてニカリと笑う。

 

「まだまだ、この試合は荒れそーだな。他の連中も何かしようとしてやがるし、色々楽しめそうだぜ」

 

 諏訪はそう言って、画面の中を目まぐるしく動く隊員達を見据える。

 

 試合は、まだ序盤。

 

 荒れるのは、此処からである。

 

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