(────────まだ、見つからないか)
奥寺は小荒井と共に通路を駆けながら、他の隊員を探していた。
現在、各部隊の主力は展示室で戦いを繰り広げている。
故に残る人員は小荒井と二人がかりでやれば充分勝ち目がある相手であり、2対1を仕掛けた上で倒せなければ東に狙撃して貰う手筈になっている。
(今の状況なら恐らく、他の部隊の隊員はそれぞれ単独行動を取っている筈だ。というよりも、そうする他にないと言った方が正しいか。帯島さんと北添先輩は残る一人が狙撃手だから言うまでもないし、三浦先輩と若村先輩は多分スパイダーを仕掛けて回っているから手分けして動いているだろうし)
現状、位置の分かっていない隊員は狙撃手を除けば四名。
弓場隊の帯島、影浦隊の北添、そして香取隊の三浦・若村である。
帯島と北添は位置の分かっていないチームメイトのもう一人が狙撃手なので、確実に単独行動をしていると予想出来る。
三浦と若村の場合は恐らく、スパイダーを仕掛けて回っているだろうと考えている。
より多くの場所にそれを仕掛けるのならば、手分けをした方が効率的だ。
狙撃手がそれぞれのチームに在籍している以上、いつまでも居場所が露見しないとは考えていないだろう。
ならば、見つかる前により多くの仕掛けを張りたいと考えるのが自然だ。
故に三浦と若村は単独で動いていると予想出来るので、今は一刻も早く見付け出す事が先決だ。
(スパイダーを張られ終えると、流石に分が悪いからな。ワイヤー陣の中じゃ、オレと小荒井の連携も旨く機能しない。だから最優先で、少なくともどちらか一人は落としておきたい)
香取隊のワイヤー戦術がどれだけ厄介かは、これまでの試合が証明している。
連携を主軸とする自分達にとっても、下手に動けばワイヤーに当たって動きを止めてしまうので天敵と言って良い。
特に三浦は機動力評価値が自分達と同じ8であり、ワイヤーでそれが強化された場合二人がかりでも手こずる展開が考えられる。
相手が若村であったとしても、そもそも彼は銃手でありワイヤーで機動力が鈍ったところを銃撃されれば苦戦は必至である。
故に、彼等の準備が終わる前に何としてでも見つけ出す必要があるのだ。
各部隊のエース級という、2対1でも厳しい相手が足止めされている今が最大のチャンスなのだから。
(MAPの構造は、頭に入ってる。けど、このMAPを選んで来るのが予測されてたなら相手もそれは同じ筈だ。だから当然、待ち構えるのに最適な場所なんかも割れてる)
けど、と奥寺は思考を進める。
(逆に言えば、それを前提とすれば相手がいそうな場所も見当が付き易い筈だ。きっと香取隊の二人は、随所にワイヤーに仕掛けながら移動してる筈。その分移動スペースは落ちる筈だから、虱潰しにそういう場所を探せば見付けられるだろう)
自分達がこのMAPを選ぶであろう事は、既に相手チームには看破されていると考えている。
この試合で東隊が勝つ為にはそれが必須条件である以上、9割がたバレていると見るべきだ。
ならば、それを前提にして考えれば相手の行動も予測し易い。
MAP情報は事前に頭に叩き込んでいるし、当然ワイヤーを仕掛けて有効になる場所も押さえている。
故にそういった場所を虱潰しに探せば、必ず二人に行き当たる筈だ。
ワイヤーを仕掛けながらでは移動速度が落ちる事は必至であり、追いつく事は不可能ではないだろう。
(それに、向こうはこっちの攻撃手段が弧月しかないと思っている筈。だからそこを突いて、攻撃を届かせる。やってやれない事はないだろう)
加えて、まだ見せていないサブトリガーの存在もある。
それを加味すれば、充分相手を仕留められる可能性はある筈だ。
(万が一仕留め損ねても、東さんの狙撃がある。東さんなら、位置バレしても大した問題にはならない。駒としてしか動いてくれないけど、逆に言えば駒としてなら最大限その力を使ってくれる。これを利用しない手はない)
また、仕留め切れずともそこは東の狙撃でカタを付けて貰えば良い。
東はポジションとしては真っ当な狙撃手なのだが、その技量と生存能力が逸脱している。
一度居場所がバレた状態からでも雲隠れする事が可能であり、なんなら攻撃手に近寄られてからでも何度も逃げ切った実績がある。
彼を仕留める事はほぼ不可能と言っても過言ではないレベルであり、その存在が自分達をB級上位に押し上げている最大の要因と言っても過言ではない。
東は隊長というよりも自分達の教導官に近く、駒としては動いても指揮の類は奥寺達に任せている。
要は部隊には在籍している採点者のような立ち位置であり、彼は勝敗よりも自分達への指導に重きを置いている。
だからこそ指示がなければ独断で動いたりはしないし、指揮を代わってくれるという事もない。
あくまでも自分達がランク戦でどう動くかを駒の一人に徹しつつ、採点しているだけなのだ。
だが、逆に言えば指示さえすればこちらの思惑通りに動いてくれる。
その力を利用しなければ、この試合を勝ち抜く事はまず出来ない。
東も「自分の力を使うな」とは一度も言った事はないし、そもそも東とはそういう前提の下で隊長を引き受けて貰っているのだ。
だから彼の力を当てにするのは間違った事ではないし、丸投げでもなければ東も咎めはしないだろう。
(とにかく、今は相手を見付ける事が先決だ。三浦先輩か若村先輩を見付けて、準備が終わる前に仕留め切る…………! それが、この試合に勝つ為の第一歩だ!)
「────────なんて、考えているのでしょうね。残念だけど、それは予測済みよ」
華は機器を操作しながらそう呟き、眼を細めた。
画面には仲間の位置と逐次入って来る情報が表示されており、彼女の思考は加速している。
並列処理能力が5とそこまで高くない評価をされている染井だが、逆に情報分析や機器操作、指揮能力には高い評価が示されている。
事実彼女の作戦立案、及び指揮能力は相応のものがあるのだが、以前は香取が半ば隊長としての仕事を放棄していた為負担が大きくその真価を発揮出来てはいなかった。
しかし今は香取が隊長としての仕事を十全にこなしている上、三浦や若村といった面々もちゃんとチームの一員として動いてくれている。
よって華にかかる負担も軽減し、彼女は本来のパフォーマンスを発揮出来るようになっている。
彼女は咄嗟の判断力こそ香取には及ばないが、逆に時間をかけて長考出来る準備段階や相手の思惑を事前に見抜く類の能力は高く、今回もまた例に漏れなかった。
(東隊の二人は、こちらのワイヤー陣が完成する前に何としてでも雄太か若村くんを倒そうと考えている筈。でも、そうと分かっていればこちらから罠を張る事も可能なのよ)
そして、と華は思考を続ける。
(ワイヤー陣が張られている前提で行動しているのなら、雄太達を見付けた場合に取る行動は一択。即ち────────)
(…………! 見付けた!)
奥寺は土器の展示室の端にいる三浦を発見し、腰の弧月に手をかけた。
主戦場となっている恐竜の展示室と異なり天井はあまり高くはなく、広さに関してもそこまでではない。
だからこそ、此処からでも旋空を撃てば届く。
無論それは相手も同じだが、向こうがこの部屋から出る直前の位置にいる事から考えても室内にはワイヤーが張り巡らせてある筈だ。
ならば旋空によってワイヤーを切断する事を三浦は躊躇う筈であり、反撃の危険は低いと考えられる。
「奥寺」
「おう」
付いて来ている奥寺に対し、アイコンタクトで意思疎通を行う。
こういった時、二人の間に言葉は必要ない。
ただ視線で合わせるだけで、意思の共有は完遂される。
阿吽の呼吸、比翼連理。
それを体現した二人だからこそ、余計な言葉は必要ない。
(旋空でワイヤーを切断しつつ、相手に回避行動を取らせる。そこを狙えば、少なくとも手傷は与えられるだろう。まずは先手を取って、こちらの優位を取る!)
旋空による、ワイヤー切断。
及び、回避の強要と隙の抽出。
それが奥寺達の狙いであり、意思を共有した二人はすぐさまそれに取り掛かる。
「「旋空弧月」」
(────────部屋に入らず、旋空でワイヤー切断を狙う。つまり、
それなら、と華は思考を続ける。
(そう来ると分かっていれば、その行動が引き金になるような罠を仕掛ければ嵌まる。簡単な理屈よね)
「────────え?」
旋空により部屋に張り巡らされたワイヤーを切断した、その直後。
猛烈に嫌な予感を感じて、足元を────────────────部屋に入ってすぐの、右側の床を見る。
そこには展示物に隠れるように一つのキューブが設置されており、眼を凝らせばそのキューブには一本の糸が繋がれていた。
そしてその糸が、ワイヤーが切断された事でキューブから外れ、
「やべぇ…………っ!」
その意味を理解した小荒井は、奥寺を押しのけて前に出た。
「な…………っ!?」
遅れて小荒井が気付いた「罠」の存在を奥寺も理解するが、一歩遅い。
設置されていた罠が、
入口付近に立っていた二人は、否応なくその爆発に巻き込まれた。
「あっぶねぇ…………っ!」
しかし、間一髪で小荒井はシールドを張る事に成功する。
あと一歩でも気付くのが遅れていれば、爆発をモロに受けて退場していただろう。
「小荒井!」
「…………っ!?」
────────だが。
そこで終わる程、罠を仕掛けた側は甘くはなかった。
爆発の隙を狙っていつの間にか接近していた三浦の旋空による一撃が、シールドごと小荒井を両断。
避ける間もなく、小荒井に致命傷を与えた。
『戦闘体活動限界。
機械音声が、小荒井の脱落を告げる。
小荒井のトリオン体は崩壊し、光の柱となって消え去った。
「三浦先輩を見付けた東隊の二人だけど、仕掛けられていたメテオラが起爆。その盾になった小荒井先輩が、隙を突かれて落とされたわね」
「うわ、えっぐいなぁ。これ、完全に香取隊の作戦勝ちだよね」
そう言って、里見は鮮やかな香取隊の手際に感心する。
置きメテオラという罠を仕掛け、それに対応した隙を狙って落とす。
単純な戦術だが、それ故に効果的だった。
「奥寺先輩と小荒井先輩は、部屋の中にワイヤーが仕掛けられていると考えて動いていた。ワイヤーが張られていると自慢の連携も巧く機能しないから、当然初手でそれを取り払おうと考える」
「けど、それを読み切ってワイヤーの先にメテオラを設置してたワケだね。加えて言えば、奥寺くん達は相手を逃がしたくないという心理もあったから自然足元への警戒よりも一刻も早く攻撃を仕掛ける事を優先したかっただろうから、そこを突いたとも言えるね」
あの場面、三浦は部屋の出口付近にいた為、場合によってはそのまま逃げ切られる可能性もあった。
だからこそ奥寺達は一刻も早い攻撃を優先し、周囲の警戒を後回しにしていた節がある。
モタモタしていれば折角見付けた相手に逃げられてしまう以上、急く気持ちもあっただろう。
香取隊はその心理こそを利用し、彼等を罠に嵌めたワケだ。
爆発から身を護る為にシールドを張れば、必然その場に留まる事になる。
加えて爆煙で室内の視界が利かなくなる為、三浦が近付いて来ても気付けない。
あの状況ではレーダーを見る暇もなかったであろうし、そもそも三浦の機動力は相当に高い。
爆発から身を護る事に手一杯だった彼等が三浦の奇襲に気付くのは、ほぼ不可能だったと言っても過言ではないだろう。
「とにかく、これで東隊の戦力は大幅にダウンしたと言っても過言じゃない。二人揃えば上位の攻撃手相手でも食える
「しかも、あの場にはまだワイヤーが残ってるからね。旋空と爆発である程度切断された事を考えても、地の利は向こうにある。連携が封じられて弱体化した奥寺くんを放置する理由はないし、此処から畳みかけるつもりだろうね」
そして、小荒井が落ちた事で奥寺は連携が封じられた。
これは相当不利な状況であり、ワイヤーも残っている中単独で三浦と戦り合うのはリスクが大きいのは言うまでも無い。
「けど、まだやりようはあんだろ。何かしら隠し玉がある気配もあったし、こっから逆転の目がねーとは言い切れねーんじゃねーか?」
諏訪も概ね同意見だが、彼はまだ奥寺に可能性を感じているようであった。
それを聞き、草壁と里見の二人もスクリーンを見る。
そこには、何処か消沈しながらも瞳の中の闘志を消していない奥寺の姿が映し出されていた。