「奥寺先輩と帯島が同時に
「まさかあんな手で来るとはねぇ。奥寺くん、意地を見せたな」
里見はそう言って、素直に奥寺を称賛する。
今回の奥寺は追い詰められた状況から一点をもぎ取るまで至ったのだから、それだけの賛辞は受けて然るべきであろう。
「相方に加えて片腕まで失っていた奥寺先輩は、もう後がなかった。だからこそ、普通はあの場から撤退して仕切り直そうと考える」
「けど、香取隊はそれを読んでたみたいだね。多分、木岐坂さんの索敵かな? 帯島ちゃんが来たタイミングが良過ぎるし、前以てあの場へ来れるよう誘導していたんだろうね」
小荒井を失い、片手まで奪われた奥寺があの場から逃走を図るのは自然である。
だからこそ香取隊は予め帯島をあの場に来れるよう、仕込みを欠かさなかった。
事実、奥寺が逃げようとしたタイミングで帯島がやって来ていた事で、里見達もその事には気が付いていた。
あれは偶然などではなく、意図された伏兵であると。
「だけど、奥寺くんはそこまで読んでいた。彼は最初から逃げる事ではなく、己が身を捨ててでも点をもぎ取る事を画策していたワケだね」
「そーゆーこったな。堅実な性格の帯島なら、最初の一手はほぼ間違いなくハウンドで来る。ハウンドは確かに全部凌ぐにゃあシールドを広げるしかねーが、ダメージ覚悟で即死しない事だけを念頭に置くなら強引に突破も出来っからな。射撃トリガーなら近付いちまえば二撃目はねーし、一見して破れかぶれに見えるがしっかり考えてたってこった」
諏訪はそう言って、里見の説明を捕捉する。
確かにハウンドはその全てを凌ぎ切るには、シールドを張って防御に徹する他ない。
飛んで来る弾を自分の弾で撃ち落とすような芸当が出来るのは、出水のような一部の
故に一度放たれた
しかしあの展示室には土器の展示物はあったが全て硝子ケースで覆われた小さなものであり、とてもではないがハウンドの盾に使えるような代物はなかった。
最初の奥寺と小荒井の旋空によってワイヤーごと無数の展示物も一緒に切り裂かれていた為、少なくとも奥寺のいた場所の近辺には障害物はないに等しかった。
だからこそ帯島も三浦も奥寺はあの場でシールドを張る以外に無いと考えていたのだが、彼はその予測を裏切った。
グラスホッパーで突撃しつつ、最低限の防御を行いながら帯島へ肉薄。
旋空で天井を斬り裂き、三浦に狙撃を警戒させて足を止めさせ、その間に置き弾を使って帯島を仕留める。
一つでも失敗していれば成立しなかった、鮮やかな流れの戦術と言えた。
「ハウンドを持ってるのを隠してたのがえらいよねぇ。一度限りの採用、っていうのをする感じには思えないし、もしかして今回からサブトリガーの使用を解禁されたとかかな?」
「そうでしょうね。わたし自身は伝聞でしか知らないのだけど、東さんならそういうやり方をしていてもおかしくないでしょう。ともあれ、手に入れた武器をひけらかさず勝負所まで隠し通したのは、確かに褒められるべき所でしょうね」
今回、奥寺はハウンドを持ち込んでいた。
これまでの試合では使っていなかった事から、今回から使用が解禁されたものと思われる。
彼だけがそうであるとは思えないので、小荒井もまたハウンドをセットしていたのだろう事は言うまでも無い。
もしも三浦を見付けた時に旋空ではなくハウンドを使っていたのならば、帯島への不意打ちは成立しなかっただろう。
あれが決まったのは帯島が奥寺がハウンドを持っていた事を知らなかったが故であり、セットしていた事を知っていれば流石に警戒しただろうからだ。
使用が解禁されたばかりのハウンドを安易に使うのではなく、決め時まで温存した奥寺の判断は正しかったワケだ。
「ともあれ、これで三浦先輩が戦っていた相手は全員がいなくなった。点を取れなかったのは痛いけれど、このまま姿を隠す事も可能ね」
「三浦としちゃあ雲隠れしてワイヤー設置を続けてぇ所だろうし、そうなるだろうな。三浦と若村はカメレオンもセットしてっから、位置を隠すのは有効だしな」
現在、三浦は戦闘していた相手が悉く脱落した為、今彼を止められる人材がいない。
狙撃手であれば攻撃が届くだろうが、戦闘中であればともかく、警戒している状態で狙撃を当てるのは難しい。
現在居場所が分かっていないメンバーは北添を除き全員が狙撃手なので、当然三浦は狙撃を警戒している筈だ。
だからこそ安易な狙撃はないと考えても良く、このまま三浦が姿を隠すのを止められる者はいないだろう。
「とはいえ、今のところ狙撃手が誰一人として位置が判明していない状況よ。隠れ直しても、目視で見付けられる場合もあるでしょうね」
「そうであっても、隠れない理由もないからねー。目の前に戦う相手がいない以上、位置を晒していてもメリットはないんだしね」
ともあれ、このまま姿を晒す事にメリットがない以上は三浦の行動は一つだろう。
狙撃手に発見される可能性はあるが、だからと言って隠れない理由もない。
この後三浦が取り得る選択肢は、変わらない筈だ。
「問題は、それを素直に他のチームが許すかどうかだな。このまま三浦が雲隠れしたら厄介な事くらい、誰の眼から見ても分かる。なら、それを阻止したいと思うのも当然だよな」
だから、と諏訪は続ける。
「────────多分、あそこが動くだろ。向こうが三浦の位置を発見している、って前提の上の話だがよ」
「ごめん、点を逃がしちゃった」
『仕方ないわ。聞いた限り、流石に想定外だったもの』
華はそう言って、通信越しに三浦を労った。
今回の奥寺の行動は流石に予想外にも程があり、それを止められなかった三浦を責めるのは違うだろう。
『それよりも、早く姿を隠して。狙撃手に見付かる可能性はあるけど、目の前に敵がいない以上位置を晒し続ける理由もないわ』
「そうだね。じゃあオレはこのまま仕掛けを続行するって事でいいかな」
『ええ、それで問題ないわ』
ともあれ、今優先すべきは反省ではない。
一刻も早く姿を隠し、三浦を再び見えない駒に戻す事だ。
幸いと言うべきか、今彼の周囲に敵はいない。
今ならば誰に邪魔をされる事もなく、再び姿を隠す事も出来る筈だ。
指示を受けた三浦はバッグワームを纏い、その場から立ち去るべく動き出す。
『…………! 雄太、止まって!』
「…………っ!?」
瞬間。
大きな爆発音と共に、三浦が向かおうとした通路の入り口が崩落した。
それだけではない。
残されたもう片方、帯島がやって来た方の通路の入り口もまた、続け様の爆発で崩落した。
響く轟音と、破壊される建造物。
この現象を起こす相手に、三浦は心当たりがあった。
「北添先輩か…………!」
その解答を裏付けるかのように、展示室の天井が爆破される。
北添の得意技である
この現象の正体は、それに違いなかった。
「嘘でしょ。このMAPでそれは、自殺行為だってのに…………!」
『いいぞー、そんまま適当にぶち込み続けろ』
「おっけー。いつも通りやっとくね」
シュボ、シュボ、という発射音と共に北添は擲弾銃から絶え間なく弾丸を射出する。
放たれた弾は山なりの軌道を描き、離れた場所に着弾する。
瞬間、爆音と共に通路がまた一つ、破壊された。
四方八方に撃ち込まれたメテオラが、博物館を破壊していく。
北添はそれを、博物館の
現在彼のいる場所は、周囲に遮る物がない開けた場所だ。
通常上に登れる造りではないのだが、それを北添はトリオン体の膂力を活かして無理やり登って来たのだ。
そしてMAP内でも高い位置に存在するこの場所は、身を隠す為の遮蔽物が存在しない。
つまりそれは、何処から撃ってくるか分からない狙撃手に対する保険が存在しない事を意味している。
三浦が「自殺行為」と揶揄したのも、まさにそれが原因だ。
北添の適当メテオラは、一度行えば非常に目立つという欠点がある。
それは得てして彼にヘイトを集中させて敵の動きを誘導するメリットにも成り得るのだが、それはあくまでも北添がすぐに逃げられる場所にいてこそ成立するものでもある。
今北添が居る屋根の上には碌に隠れる場所もなく、逃げる為には飛び降りて館内に戻る他ない。
しかし飛び降りるという事は、その間回避の出来ない空中に身を置く事を意味している。
その隙を狙撃手が逃すとも思えないので、この場に立って爆撃を始めた時点で北添の生存はほぼ無いものと断言しても差し支えなかった。
「…………っ!」
それを証明するかのように、飛んで来た弾丸が北添の脇腹を射抜いた。
急所は、無事である。
しかし甚大なダメージである事に違いはなく、放置すれば数刻もしない内にトリオン漏出過多で
咄嗟に頭部を守るように張った集中シールドは意味を成さなかったが、それでも即死はしなかった。
彼にとっては、それで充分である。
『ゾエ、平気かー?』
「うん、これならあともうちょい頑張れると思う」
『おし、なら死ぬまで撃ち続けろ。後はユズルがやっからな』
了解、と言いつつ北添は腹から漏れるトリオンに構わず擲弾銃から弾丸を撃ち放つ。
再開された爆撃が、再び博物館の随所で崩落を引き起こし始めた。
「取り敢えず、即死はしませんが放置すれば脱落する程度のダメージは与えました。これでいいですよね?」
『ああ、問題ねぇ。折角東サンを炙り出そうとしてくれてんだ。点は譲れねェが、爆撃自体はやって貰った方が都合が良い。それがベストだ』
通信越しに弓場の返答を聞き、外岡は了解、と頷く。
今、北添を撃ったのは誰あろう外岡である。
北添が即死しなかったのは、意図しての事である。
あんな目立つ場所で爆撃を始めた以上、向こうは狙撃を受ける事は織り込み済の筈だ。
ならば急所となる頭部と心臓は徹底して守る筈だし、そこを避けてトリオン漏出による脱落に繋がる傷を狙ったのはベターな選択と言える。
『奥寺も小荒井も脱落した今、東サンを炙り出す、もしくは撤退を選ばせるにゃこれしかねーからな。それに、これで三浦の奴も自由に動けなくなった筈だし、若村も安全とは言えなくなった。何せ、文字通り何処に爆撃が飛んでくっか分かんねーんだからなァ』
加えて、爆撃自体はこのまま続けて貰った方が都合が良いという理由もあった。
奥寺と小荒井が退場した今、東を能動的に釣り出す方法は存在しない。
しかし、隠れる場所がなくなればいずれは撤退を選ぶ他なく、それにはこの無差別爆撃が最も有効である。
加えて爆撃が続けば隠れている若村も炙り出される可能性があり、三浦は事実として爆撃によって身動きを封じられた状態にある。
また、爆撃を止めるべく東もしくは樹里が撃って来たのならばそれこそ儲けものだ。
それで東の位置が分かれば間違いなく香取隊の集中攻撃が始まるであろうし、それで仕留められはしないだろうが撤退を選ばせる事は出来るだろう。
樹里が撃って来た場合は最大火力を持つ狙撃手の居場所が露呈する事になり、それはそれで都合が良い。
何せ、集中シールドすら貫通する樹里のアイビスが何処から飛んで来るか分からないというのは相当な脅威なのだ。
イーグレットを使えばMAP全域をカバー出来る超射程も厄介であるし、彼女の位置が分からないというのは心理的に相当な縛りを受けている状態に等しい。
北添の分の点は惜しいが、取引としては悪くないだろう。
『だが、香取隊としても東サンを炙り出して貰うのは歓迎の筈だ。だから、リスクを負ってでも北添は放置の方向を選ぶだろうぜ』
しかしその可能性は低いだろうと、弓場は判断していた。
香取隊からしても、樹里という手札を切る事なく東を炙り出せるのならばそれが最良であるからだ。
今北添を撃ったのが外岡である事は、他のチームにも伝わった筈だ。
影浦隊所属のユズルを除く狙撃手は東、外岡、樹里の三名であり、北添を即死させなかった事を考えれば東では有り得ない。
東の立場からすれば点を取っての離脱が最良であり、致命傷を狙わない理由がないからだ。
そして放置は出来ないが即死はして欲しくない陣営となれば、香取隊か弓場隊のどちらかである。
香取隊からしてみれば自分達が撃っていない以上、消去法で外岡だろう事はすぐに分かる。
ならば外岡がこれ以上の追撃を行うつもりがない意図は伝わった筈であり、香取隊としては東を炙り出すまでは放置を選択するだろう。
「────────参ったな。警戒はしてたつもりなんだけど」
────────だが。
その外岡を放置するかどうかは、また別の話だ。
咄嗟に張った集中シールドを貫通し、飛来した弾丸が外岡の胸部を貫いた。
『トリオン供給機関破損。
機械音声が、外岡の脱落を告げる。
外岡のトリオン体は崩壊し、光の柱となって消え失せた。
「頃合いだな」
それを成した人物、東はアイビスのスコープから顔を離しながら頷いた。
現在も尚爆撃は続いており、今狙撃をした事でこちらの位置も露見しただろう。
このまま雲隠れをしても、爆撃が継続する以上はいずれ炙り出される。
ならば、このあたりが潮時であると東は判断した。
「
東は小さくそう口にし、自ら撤退を選択。
仕事を果たした狙撃手は、自身の意思で戦場から離脱した。