香取隊の狙撃手   作:デスイーター

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影浦隊Ⅳ

 

 

「北添先輩が適当メテオラで攪乱したところで、外岡先輩が狙撃。その外岡先輩はカウンター狙撃(スナイプ)で落ちて、東さんは撤退したわね」

「状況が大きく変わったねぇ。特に大きいのは、東さんが撤退した事かな」

 

 そうね、と草壁は首肯する。

 

 確かに今現在最も大きな変化は、東の撤退と見て間違いないだろう。

 

 それだけ。東の影響力というものは大きいのだから。

 

「この展示場MAPで爆撃を通すなら、屋根の上に登るのが一番効率的よ。だけどそれは同時に、無防備な状態で狙撃手に姿を晒す事を意味している」

「普通に考えれば自殺行為だけど、それでも北添くんはやった。自分の生存よりも、作戦目標を優先したワケだね」

 

 展示場MAPは博物館という建物の性質上、建物同士に高低差があり地上から爆撃をしても思うような場所に届く前に他の建物に着弾してしまうケースが多い。

 

 だから目標に正確に爆撃を届かせる為には、高い場所に陣取る必要があった。

 

 しかしこのMAPでそれは、遮蔽物のない場所へ自ら出る事と同義。

 

 狙撃手に無防備を晒す結果となり、事実北添は外岡に撃たれている。

 

 だがそれすらも承知の上で、北添は爆撃を実行に移した。

 

 理由は色々あるが、一番は東の撤退を促す為だ。

 

「東さんは普通にやったら、まず落とせない。それこそ、試合に参加した全部隊が一丸となって犠牲を顧みずに追い込んでようやく落とせる目が出て来るかどうか、って所だ」

「でも逆に、撤退に追い込むだけならどうにかなるわ。東さんは奥寺先輩と小荒井先輩が両方落ちた状態では、決して無理をしない。だから北添先輩はあの二人が落ちた段階で、作戦を決行したワケね」

 

 東は基本的に、「落とせない駒」として扱われる。

 

 異次元の生存能力を誇る東は、数名程度で追い込んだくらいでは易々と逃げ延びてしまう。

 

 本気で彼を落とそうと考えたら、それこそ試合に参加した全員が一丸となって追い詰めるくらいの気概がなければまず不可能だ。

 

 それも、その最中に出る犠牲を許容してようやく、といった所である。

 

 東を落とす、つまりは一点を取る為だけにそんな事をしては本末転倒である為、事実上この方法は不可能だ。

 

 誰を落としても得られる点は変わらないのだから、点取り合戦であるランク戦で一人を落とす為に大量失点をするようでは、リスクとリターンが釣り合っていない為である。

 

 しかもそれだけやっても逃げ切られる可能性があるので、ある程度の失点を許容しても格上殺し(ジャイアントキリング)の経験を積んでおきたい等、余程の事がない限りまずやらないだろう。

 

 但しそれは、あくまでも東を()()()事を考えた場合だ。

 

 東を()退()()()()だけなら、どうにかならなくもない。

 

 基本的に東は奥寺と小荒井の指導教官としてランク戦に参加しており、二人が落ちた場合は試合の続行にそこまで頓着しない。

 

 その上で無差別爆撃を実行に移せば、彼は撤退の判断を下すだろう。

 

 事実、北添の爆撃が続いた事で東は自ら緊急脱出(ベイルアウト)している。

 

 この結果こそ、北添が的になる事を承知で爆撃を実行した理由である。

 

「東さんは下手に雲隠れされると、まず見付けられない。だから、その東さんを撤退させるには物理的に隠れる場所をなくす無差別爆撃が一番手っ取り早いわ」

「今回の試合でそれが出来るのは、北添くんと木岐坂さん。だけど木岐坂さんは狙撃手だから、易々とは出て来れない。それに、東さんが生きてると何処で横槍を入れられるか分からないから、影浦隊としては早期に撤退して貰うのが理想的だった」

「それは他の部隊も一緒だな。どいつもこいつも、東さんにゃさっさといなくなって欲しかったってワケだ。だからこそ、外岡は北添を即死させるんじゃあなく痛打を与えるに留めたんだろーよ」

 

 そうね、と草壁は諏訪の意見を肯定した。

 

「外岡先輩は頭や心臓といった急所ではなく、胴体を狙った。致命打は与えたいけれど、即死して貰っては困る。あれはそういう意図でしょうね」

「だろーな。点は欲しいが、暫く爆撃は続行して貰わないと都合が悪い。だから、トリオン漏出での脱落は狙えてもすぐには死なない程度の場所を狙ったんだろーぜ」

 

 外岡、つまり弓場隊としては点は欲しいが爆撃そのものは暫く続けて欲しかった。

 

 爆撃が途切れれば、東がそのまま雲隠れしてしまう可能性が高いからである。

 

 だからこそ即死はしないが時間経過で脱落には繋がる程度の、丁度良いダメージを与えられる個所を狙ったワケだ。

 

 作戦目標としてはそれで充分、という判断である。

 

「その意図は、他の部隊にも伝わったでしょうね。こうなった以上、北添先輩はトリオン漏出過多で脱落するまで放置される可能性が高い。だからこそ東さんは、外岡先輩の方を狙ったんでしょうね」

「東さんのいた場所的に、そっちのが狙い易かったってのもあるだろーがな。いつ爆撃で炙り出されるか分かんねー以上、下手に移動するよりもその場から狙える相手のが都合が良かったって事だろーぜ」

 

 東が潜伏していた場所からでは、北添を狙うにはある程度移動する必要があった。

 

 他の部隊に爆撃を止める意思がないのが明瞭である以上、移動の最中に爆撃で炙り出される可能性はある。

 

 だからこそ東はその場で狙える外岡を標的として撃破し、そのまま撤退したのである。

 

 あの時点で東には無理をして試合を続行する理由はなくなっていたので、当然の判断ではある。

 

「ともかく、これで東さんはいなくなった。となれば、これ以上北添先輩を放置する理由もなくなったわね」

「でも今自由に動けて北添先輩を狙える人員ってなると、若村くんと木岐坂さんの二人だよね。若村くん単独だと流石に厳しそうだし、脱落が確定した相手に木岐坂さんっていう手札を切るかは少し疑問だよね」

「そうね。でも、香取隊は選択を迫られると思うわ。三浦先輩が、容易には脱出出来ない状況に追い込まれてるもの」

 

 草壁はそう言うと、スクリーンに映る三浦の姿を見据えた。

 

 現在三浦のいる土器の展示室は全ての出入り口が瓦礫で塞がれており、歩いて出る事は出来なくなっている。

 

 そしてこの状況を作った側がこれを放置するとは、どうしても思えなかった。

 

「多分、影浦隊が動くわ。標的は、言うまでもないわよね」

 

 

 

 

『雄太、出れそう?』

「普通にやったんじゃ無理かな。少なくとも旋空で壁を壊すか、上から出る必要があるよ」

 

 三浦は華の問いかけに、簡潔に自身の状況を答えた。

 

 現在彼は、土器の展示室に閉じ込められた状態にある。

 

 出入口は全て爆撃による瓦礫の崩落で塞がれているので、此処から出るには旋空で壁を斬るか、天井の穴から出るしかない。

 

 しかし、三浦は太刀川や生駒といった旋空の名手と比べてその扱いはまだ未熟だ。

 

 彼等なら一息で的確に壁をくりぬいて見せるのだろうが、三浦にそのような芸当は出来ない。

 

「多分出た所をユズルくんに狙われるだろうね。もしくは、北添先輩の爆撃がまた飛んで来る場合もあるかな」

 

 更に問題なのは、そうやって出た瞬間に狙撃の的になる可能性がある事だ。

 

 的確に出入り口を潰した以上、影浦隊側が三浦をこの場に閉じ込める意図を持っていたのは明瞭だ。

 

 そこまでした相手を、此処でみすみす逃す筈がない。

 

 恐らく、三浦がこの展示室から出た瞬間に狙い撃ちにするつもりだろう。

 

 この場はユズルによって監視されていると、そう思った方が良さそうだった。

 

「…………!」

 

 そしてその予想は、すぐさま現実のものとなる。

 

 ひゅるるるる、という特徴的な風切り音。

 

 それは、再びこの場に向かって爆撃が飛来した合図であった。

 

「くっ!」

 

 想定していた攻撃である為、対処の心構えは事前に出来ていた。

 

 三浦は即座に、広げたシールドを遠隔で展開した。

 

 展示室の外に展開されたシールドに爆撃が着弾し、轟音と共に爆発が発生する。

 

 しかし、それで止められるのは一つだけだ。

 

 残る爆撃はそのまま展示室に着弾し、爆発で壁を破壊する。

 

「…………っ!」

 

 瞬間、爆煙を突っ切って斜め上から飛来した弾丸が三浦の左腕を貫いた。

 

 爆撃を陽動とした、視界の利かない中での強引な狙撃。

 

 ユズルによる攻撃が、始まったのだ。

 

 分かっていたとはいえ、厄介極まりない連携だ。

 

 片腕を失いはしたが、まだ戦えはする。

 

 だがこの状況では、やられるのは時間の問題と言えた。

 

 今の爆撃で、お誂え向きに壁に大きな穴が空いている。

 

 あそこから出られなくはないが、逆に言えばそれは影浦隊の側からしても承知の上という事だ。

 

 出た瞬間撃たれるのが目に見えている以上、迂闊に行動するワケにはいかない。

 

 されど、このまま座していてもやられるだけだ。

 

 北添の爆撃と、ユズルの狙撃。

 

 三浦は影浦隊二人の連携によって、追い込まれようとしていた。

 

 

 

 

「やっぱり、こうなったわね。まあ、分かっていた事ではあるけど」

「そうだねー。どうやら影浦隊は、此処で確実に三浦くんを仕留めるハラだね。こうなると、北添先輩を放置するかどうかって話にも関わって来る」

 

 里見の言う通り、現状のままでは三浦がやられるのは時間の問題だ。

 

 北添の生存を許している限り、三浦は絶え間ない爆撃と狙撃の連携に晒され続ける。

 

 幾ら北添の脱落が確定しているとは言っても、向こうからすればどの程度でいなくなるのかは分からないのだ。

 

 北添のトリオンは9と、それなりに多い方だ。

 

 その分だけトリオン漏出過多による脱落までには時間がかかり、少なくとももう暫くは生存しているだろう。

 

 そこで、北添の生存を許容するかどうか、という話になって来るのだ。

 

「北添先輩は、放っておけばトリオン漏出過多で脱落する。けれど、その間に三浦先輩がやられてしまう可能性が非常に高いわ」

「狙撃だけなら凌ぐ手は幾らかあるけど、それに爆撃が組み合わさると凶悪だからね。ユズルくんは多少視界が利かない状況でも当てて来るし、三浦くんにかかるプレッシャーは相当なものだと思うよ」

 

 そして、その間に爆撃と狙撃の連携に晒され続ける三浦は相当に追い込まれた状態にある。

 

 ユズルは爆煙等で視界が利かない状況でも当てて来る、優秀な狙撃手だ。

 

 流石にそういった状況で狙った個所に正確に当てられるワケではないが、視界が利かない状況でいきなり飛んで来る弾丸は相当な脅威だ。

 

 このまま爆撃と狙撃の連携を許していては、三浦の脱落は確実なものになるだろう事は間違いない。

 

「そして、この状況で香取隊が取れる判断は二つに一つ。三浦先輩を見捨てるか、木岐坂先輩という手札を切るか。そのどちらかよ」

「難しいところだよね。香取隊としては、まだ主戦場が膠着状態にある以上木岐坂さんっていう手札は可能な限り温存したい。けれど、このまま放置すれば三浦くんの脱落は確実。どちらを優先するか、って話になって来る」

 

 今の状況を打開する為には、樹里という手札を切るのが最も確実だ。

 

 彼女ならば北添を一発で射抜けるだろうし、それで爆撃の脅威は止まる。

 

 しかしユズルは射線を意識しつつ動いているだろうから当てる事は難しいだろうし、そもそも狙撃手としての技量は彼の方が上だ。

 

 樹里は相手に弾を当てる能力は高いが、反面狙撃手としての立ち回りは拙い部分が目立つ。

 

 射手から転向してそこまで時間が経っていない樹里と最初から狙撃手として鍛錬を積んだユズルとは、どうしても熟練度に差が出るのだ。

 

 狙撃手は他のポジションとは異なる独自の立ち回りを要求されるものであり、だからこそ狙撃一本でやっていく者が大半だ。

 

 事実として狙撃手の面々は攻撃手から転向した荒船や完璧万能手(パーフェクトオールラウンダー)である木崎という例外を除き、他のポジションの攻撃トリガーをセットしている事は早々ない。

 

 射撃トリガーをセットしている樹里や千佳といった者達もあるが、共通してそれらの面々は狙撃手としての練度は低い。

 

 樹里は見ての通りであるし、千佳もまだまだ戦闘そのものに慣れていないので、拙い部分が散見される。

 

 そして、狙撃手同士の読み合いに於いてこの熟練度というものはかなり顕著に差が出て来る。

 

 相手の隠れそうな場所の推測や立ち回りの看破、その上でどう動くかを即断する判断力等、狙撃手に必要とされる技能は多い。

 

 今回の相手であるユズルはそれら全ての面で樹里を上回っており、隠れながらの読み合いで彼を上回るのは相当に難易度が高い。

 

 伊達にポイント1万超えの狙撃手として注目されているワケではなく、ユズルは評判相応の実力が備わっているのだ。

 

 狙撃をあくまで手段の一つとして割り切っている樹里とは、根本的な立ち回りの差が出てしまうワケである。

 

 今回は北添を放置してユズルを仕留めるのが最良であるが、それが難しい事は言うまでも無いだろう。

 

「そう決めつけるのは早ぇんじゃねえか? まだ、三浦が自力で脱出する、って手が残されてんだろ」

「ふぅん、諏訪さんにはそれが出来るって根拠があるのね。教えて貰えないかしら?」

 

 他の者の発言であれば一蹴していたであろう草壁だが、他ならぬ諏訪相手だからこそその意見を尊重する姿勢を取った。

 

 相変わらずだなー、と隣の里見から生暖かい視線を向けられているが、そこはそれだ。

 

 諏訪はいじましい少女の機微には気付かず、表情は変わらない。

 

 気遣いや配慮はトップクラスに出来るが、乙女心には疎い。

 

 そんな、諏訪洸太郎21歳であった。

 

「今バラすのは違ぇだろ。推測の多い話だし、合ってるかどうかもわかんねーよ」

 

 けど、と諏訪は続ける。

 

「多分、何かやるつもりなのは間違いねーだろーぜ。あの眼は、他人任せにして諦めた奴の眼じゃねーからな」

 

 そう言って、諏訪は画面に映る三浦を見据える。

 

 スクリーンの中に映し出される三浦の顔には、毅然とした表情が浮かんでいた。

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