香取隊の狙撃手   作:デスイーター

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影浦隊Ⅵ

 

 

「追い込まれた三浦先輩だったけど、ダミービーコンを使って包囲網を突破。成る程、こう来たか」

「巧いねー。これは流石に予想外だったよ」

 

 草壁と里見が、口々に称賛する。

 

 追い込まれた状態からの、形勢逆転。

 

 鮮やかな手並みは、いっそ感心する程だった。

 

「爆撃と狙撃の連携で逃げ場のなかった三浦先輩だけど、メテオラで爆撃を迎撃。視界を塞いだ隙にバッグワームを纏って囮のダミービーコンを入り口まで移動させた」

「結果、ユズルくん達は三浦くんがカメレオンを使って脱出を試みたと誤認。狙撃を実行した結果、その隙に三浦くんはバッグワームを解除してカメレオンを起動。別の出口からまんまと逃げられたワケだね」

 

 三浦の取った作戦は、言葉にしてみれば簡単だ。

 

 視界を塞いで姿を隠した隙にバッグワームを纏い、ダミービーコンを起動。

 

 ビーコンを出口に向かわせて、それを囮にしつつ自分は別の出口からカメレオンを使って逃げる。

 

 これだけだ。

 

 しかしダミービーコンの存在を知らなかったユズルはまんまとこれに引っかかり、結果として三浦を逃がしてしまったワケだ。

 

「こりゃあ、ユズルの腕の良さも加味しての作戦だな。ユズルからしてみりゃ、あの時三浦はカメレオンで姿を隠してたって認識だった筈だ。けど、自分の腕ならレーダー頼りの狙撃でも当てられると思ったから、撃っちまったワケだな」

「レーダー頼りで狙撃を当てるのって中々に難しいって聞くけど、ユズルくんにはそれが出来る自負があったんだろうね。実際、本当にあの出口から三浦くんが逃げていればきちんと当てられていたと思うよ」

「けれど、結果として三浦先輩にその自信を利用されて嵌められた。過大な自負が自分の首を絞めたってワケね」

 

 但し、これはユズルの狙撃の腕の高さを考慮に入れた作戦でもあった。

 

 あの時、ユズルの認識では三浦はカメレオンを使って姿を隠しつつ移動していた事になる。

 

 つまり、()()()()()()()()()()()()だと考えていたのだ。

 

 にも関わらず狙撃を実行したのは、レーダー頼りでも当てられる自信があったからである。

 

 実際、本当に三浦があの場所にいればユズルは狙撃を当ててのけていただろう。

 

 それだけの腕が彼にはあるし、そこに疑いを持つ者はいない。

 

 ()()()()()、三浦はその自負を利用したのだ。

 

 ユズルであれば、必ずこの誘いに乗って来ると。

 

 彼の腕と性格を考慮に入れた上で、作戦を実行に移したワケだ。

 

 草壁の言葉が多少刺々しいのは、自信に満ち溢れたユズルの行動が何処かの万能手の少女を想起させたからだろう。

 

 本人は気付いていないが、かつてとある少女に完膚なきまでに敗北し銃手からオペレーターに転向した経歴を持つ彼女は、実力ある天才に対してコンプレックスがある。

 

 なので天才らしい立ち回りをする相手を見ると、どうしても言葉が刺々しくなってしまう時があるのだ。

 

「ま、今回は相手の性格込みで巧く利用した三浦が上手だったってだけだろ。ユズルの行動も、自分の腕に自信があるなら、別段間違ってはいねーワケだしな」

「…………そうね。相手の性格も考慮に入れた作戦っていうのは少々不確定要素はあるけど、だからこそ成功した、とも言えるわね」

 

 草壁の言葉は普段から棘塗れなので気付かない者は多いが、隣で小さく溜め息を吐く諏訪はしっかりと看破していた。

 

 だからさり気なくフォローに回り、気を遣われたと気付いた草壁は小さな声でそれに乗る。

 

 何処か恥ずかし気にしているあたり、彼女の諏訪に対する感情が伺えるがそちらに関しては一切気付く様子はない。

 

 その様子を、里見は微笑ましそうに見守っていたのだった。

 

「さて、これでユズルくん、というか影浦隊は三浦くんを見失ったワケだけれど、その直後に香取隊はダミービーコンを一斉に起動した。これで、かなり香取隊が有利になったね」

「そうね。これだけの数のダミービーコンが起動している以上、何処かでカメレオンを使われてもビーコンの反応に紛れて気付き難い。影浦側からしてみれば、いつ姿を隠した三浦先輩に襲われるか分からないワケだしね」

 

 現在、香取隊は大量のダミービーコンを起動している。

 

 三浦を一度見失った以上、何処かで彼がカメレオンを使ってもビーコンの反応に紛れてまず見付けられない。

 

 射線が通る、即ちスコープでの視認が可能な場所を通過する時は、カメレオンを使って移動すればユズルの索敵を潜り抜ける事が出来る。

 

 その場合一瞬だけ反応が出たり消えたりするのだが、その挙動自体はビーコンの操作でも行える。

 

 ビーコンは設置した当人以外にも、オペレーターに操作を任せる事が出来る。

 

 なので三浦自身は隠密に集中し、オペレーターの華がビーコンの操作を担当すればスムーズに攪乱と移動を並行して行う事が可能なのだ。

 

 この状況下ではいつ三浦に奇襲をかけられるか分からない為、影浦隊の二人には相当なプレッシャーとなっている筈だ。

 

「ユズルは、一回撃ってっから位置バレしてっからな。三浦のいた場所からそう遠くねートコにいるし、気持ち的にゃあさっさと逃げてー筈だな」

 

 特に、狙撃を実行した直後で位置が割れているユズルにとっては猶更である。

 

 彼のいる場所は三浦を見失った地点からそこまで離れておらず、場合によってはすぐさま奇襲を受ける可能性があった。

 

 三浦の機動力は中々に高い為、多少距離があったとしても安心は出来ない。

 

 ユズルからすれば、すぐにでも奇襲を受けるかもしれない、というプレッシャーは中々に無視出来ない筈だ。

 

「というより、逃げる以外の選択肢はないよね。位置の割れた狙撃手は脅威が激減するし、客観的に見て逃げない理由がないんだから」

「けれど、それを香取隊が予測していないとは思えないわ。あれだけの立ち回りを見せた以上、絵馬が逃げた場合の方策も考えているでしょうね」

 

 というより、と草壁は続ける。

 

「今の香取隊から()()()()なんて事は、相当難しいんじゃないかしら。絵馬にとっての脅威は、三浦先輩だけじゃないんだしね」

 

 

 

 

(マズイ、早く逃げないと話にならない! 今の狙撃で、こっちの位置は割れてるっ! 三浦先輩の機動力なら、すぐにでもやって来てもおかしくないっ!)

 

 ユズルは焦りつつ、急いでその場から駆け出した。

 

 今の狙撃で、こちらの位置は割れた筈だ。

 

 現在、三浦の姿は見失っており、代わりに大量のダミービーコンの反応がフィールドを埋め尽くしている。

 

 てっきりスパイダーを設置して回っていたと思っていたのだが、このビーコンの数を見るにワイヤーよりもこちらを優先して設置していただろう事は間違いない。

 

 香取隊はワイヤーを張って回っている筈、というこちらの予想を見事に利用されたワケだ。

 

「ヒカリ、どの反応がビーコンなのか見分けられない?」

『時間かけりゃあ出来っけどよ、度々ビーコンの反応消して別の場所でまた起動させたりしてるし、ぶっちゃけ時間の無駄だぜ。こりゃあ、東さん程とはいかずとも相当ビーコンの扱いに関して練習して来てるみてーだな』

 

 駄目か、とユズルはため息を吐く。

 

 ダミービーコンは、正直に言って雑に使って強いトリガーではない。

 

 それならば多くの隊員が使用している筈であり、単純に強いトリガー、というワケでもないのだ。

 

 ダミービーコンを巧く扱うには、隠密能力とそれを利用した戦術の使用が必須である。

 

 幾らビーコンをバラ撒いても当人の隠密能力がおざなりでは意味がないし、攪乱としてもそこまで効果があるワケではない。

 

 ビーコンが真価を発揮するのは、盤面を俯瞰した上で適切に運用する技術が必要になる。

 

 今回の場合、カメレオンを扱う三浦が姿を隠した上でのビーコン起動、という最適解がまさにそれだ。

 

 これにより三浦がカメレオンを使用してもビーコンの反応に紛れて見付け難いし、その挙動を模倣するようにビーコンの反応を消した後で別の場所で再起動もしていたりするので、現状三浦がカメレオンを使ってもそれに気付ける余地がない。

 

 その上こちらの位置まで割れているとなれば、逃げる以外の選択肢が存在しない。

 

 ハッキリ言って、かなり厳しい状況に置かれているのは間違いなかった。

 

「ヒカリ、ビーコンでもなんでもいいから近付いて来る反応があったら言って。あと、三浦先輩の移動ルートの予測、出来る?」

『お前等ホント、ヒカリさんがいねーと何も出来ねーな。いいぜ、やったらぁ。間違ってても文句言うなよー』

 

 ユズルの視界に、光が示した三浦の移動ルート予測が表示される。

 

 短時間でこれを算出出来るあたり、光の演算能力も大したものだろう。

 

 伊達に影浦隊を牽引するオペレーターはしていない、という事だ。

 

『…………! おい、近付いて来る反応があっぞ。右だ』

「了解。ビーコンかどうかは分かる?」

『なんとも言えねーな。それっぽくはあっけど、断言は出来ねー』

 

 そう、と言いつつユズルは左の通路へ駆け込んだ。

 

 ビーコンなのか三浦本人なのか見分けがつかない以上、反応があったらそれを避ける他にない。

 

 幸いと言うべきか、逃走技術には一日の長がある。

 

 反撃する事を考えず、完全に身を隠すまでひたすらに逃げ続ける技術は、狙撃手にとって必須技能だ。

 

 相手と鉢合わせても力技で吹き飛ばせる樹里とは異なり、ユズルは純粋な狙撃手なので寄られれば為す術がない。

 

 しかしそれでも過去にはMAPを破壊しながら追って来る二宮相手に時間稼ぎに成功した事もあり、ユズルの逃走技術は決して低くないどころか東という例外を除けば相当に高い部類に位置する。

 

 ビーコンによってこちらの移動ルートを誘導されている可能性はあるが、それならそれで誘導されている可能性を加味した上で行き先を決めれば良い。

 

 光の算出した相手の移動ルート予測と併せ、ユズルは適切な道筋を決定し即座に逸れに従い駆けて行く。

 

(このビーコンの動きから見るに、相手はオレを北東方面へ誘導したいように思える。なら、そこを避ける形で移動すれば問題ない。三浦先輩の移動予測ルートともかち合わないし、これならいける筈だ)

 

 それに、とユズルは思考を続ける。

 

(木岐坂先輩が炙り出しの為に爆撃してきたら、それこそチャンスだ。爆撃に巻き込まれてビーコンが消えるだろうし、爆撃を落とした場所近辺には敵がいないと分かる。木岐坂先輩の隠密能力はそこまで高くないし、位置が割れさえすれば狙撃で狙える筈だ)

 

 仮に樹里が炙り出しの為に爆撃を実行した場合、むしろ好都合である。

 

 爆撃を落とした場所には敵がいないという証明になるし、位置割れした彼女を狙撃で狙っても良い。

 

 カタログスペックでは樹里は相当な強者だが、狙撃手としての視点で見ればそこまで熟練度は高くない。

 

 特に隠密能力と言う点ではユズルの圧勝であり、逃げ隠れのエキスパートであるこちらと比して樹里には強者故の驕りがある。

 

 即ち、見つかっても迎撃出来るから大丈夫、という自負だ。

 

 樹里は基本的な隠密技能は備えているが、チャンスとみれば爆撃を実行する事に一切の躊躇いが無い。

 

 彼女の思考回路は基本的に射手時代のそれからあまり変わっておらず、香取隊という帰属意識の存在するストッパーがなければとうに爆撃等で暴れ回っていた筈だ。

 

 だから、炙り出しの為に安易に爆撃を行うようであれば、その隙を突く。

 

 それが出来るだけの自負が、ユズルにはあった。

 

(次は、左だな。向こうの通路の反応は出たり消えたりしてるけど、少し反応がわざとらしい。カメレオンの扱いに慣れた三浦先輩の反応としては少し違和感があるし、きっとビーコンだろう)

 

 次の分岐点の先には両方にビーコンの反応があったが、ユズルはその観察眼によって左の反応はビーコンだと判断した。

 

 先程レーダーで見た三浦の反応の様子から考えても、左の通路の反応は少々ぎこちなさが見える。

 

 三浦本人ならば、もう少し鮮やかに反応を消す筈だ。

 

 故にこちらの通路に敵はいないと判断し、ユズルは左を選んだ。

 

(やっぱり! ビーコンだ)

 

 案の定、通路の中には浮遊するビーコンが存在していた。

 

 先程の北添の爆撃で天井に穴が空いた通路内を確認し、敵がいない事を把握するとユズルはそのまま通路を駆け抜ける。

 

「…………っ!?」

 

 ────────だが。

 

 次の瞬間、視界の上の方に映った人影に反応し、ユズルは咄嗟にシールドを張った。

 

 それと同時に天井の穴から無数の銃撃が叩き込まれ、間一髪でシールドでの防御に成功する。

 

「…………! 若村先輩か…………っ!」

 

 天井を見る。

 

 そこには、バッグワームを纏い突撃銃型(アサルトライフル)を構えた若村の姿があった。

 

 ダメージはないが、銃手相手に寄られた事に変わりはない。

 

 嵌められたと理解したユズルは唇を噛み、若村と睨み合った。

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