香取隊の狙撃手   作:デスイーター

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影浦隊Ⅷ

 

 

「オラァ!」

 

 影浦は怒号と共に、マンティスを振るう。

 

 使用時には両攻撃(フルアタック)の状態になる為リスクの高い技だが、影浦は当たり前のように扱っている。

 

 副作用(サイドエフェクト)での回避が可能という事もあるが、そもそも弓場相手では足を止める方が危険である。

 

 弓場のリボルバーは射程と装弾数を切り詰めた代わりに威力と弾速が爆発的に上昇しており、広げたシールド程度では容易く貫いてしまう。

 

 一発一発がイーグレットと同程度の威力まで引き上げられている為、集中シールドでもなければ即座に破壊されてしまうのだ。

 

 故に、下手に足を止めてシールドを張るよりは回避に専念した方が結果的には安全なのである。

 

 回避技術に自信のある影浦にとっては、突破される可能性の高いシールドを張るくらいなら攻め続けて相手に攻撃の隙を与えない方が、遥かに効率的なのだ。

 

「…………!」

 

 マンティスを振るわれた側である弓場も、当然ただ待っている筈がない。

 

 バックステップで斬撃を回避すると、即座にリボルバーを抜き撃ち放つ。

 

 姿を隠した香取を警戒し、影浦に向けるのは片手の6発のみ。

 

 影浦との間にはそこそこ距離がある為、着弾までには多少時間がかかる。

 

 しかし元々の弾速がとんでもない為、普通であれば回避する暇すら与えない。

 

「────────!」

 

 だが、影浦は普通ではない。

 

 弾丸の軌道を感情受信体質(サイドエフェクト)で察知した影浦は、その場から飛び退き紙一重で弾を躱す。

 

 自身の副作用に裏打ちされた、高度な回避技術。

 

 最早条件反射の類になっているその身のこなしによって、神速の早撃ちを難なく躱してのける。

 

「「…………!」」

 

 されど、本命は此処からだ。

 

 空から、流星が降り注ぐ。

 

 誘導炸裂弾(サラマンダー)

 

 樹里が放った爆撃が、再度投下されたのだ。

 

 先程から続く、超々遠距離からの一方的な爆撃の雨。

 

 それは未だ止む気配を見せず、展示室に無惨な破壊痕を刻んでいた。

 

 最早身を隠す場所など殆どないが、ご丁寧に展示室の壁だけは瓦礫の山となって残されていた。

 

 通常の樹里の爆撃であれば壁ごと粉々にしていただろうが、今回樹里はトリオンキューブをかなり小さく分割しており、どうやら弾数も絞っている様子で破壊規模を抑えているらしかった。

 

 狙いは明白である。

 

 敢えて壁を残す事によって外の様子の確認を困難にさせ、爆煙に紛れての香取の奇襲をやり易くする算段だろう。

 

 先程から爆撃の直後には香取による銃撃が見舞われており、一方的に攻撃を受けるばかりとなっている。

 

 樹里のトリオン切れはまず望めない以上、攻撃されるばかりの現状が覆る余地はない。

 

 これまで、樹里は潜伏をひたすら続けていた。

 

 つまり、自分達と比べてトリオンをそれだけ温存出来ていたという事でもある。

 

 元から豊富なトリオンを持つ樹里が、自分達よりも先にガス欠になる可能性はまずないと見て良い。

 

 このままでは、不利は明白。

 

 ならば、どうするか。

 

 影浦は一瞬、弓場と視線を交わす。

 

 弓場はこくり、と頷き右側へと駆け出した。

 

 それを確認し、影浦は左の壁へと向かう。

 

 そして。

 

 二人は同時に、展示室の壁を蹴り破った。

 

 元々、樹里の爆撃でほぼ瓦礫の山と化していた壁である。

 

 格闘戦の得意な二人の蹴りで破壊出来ない筈もなく、呆気なく壁はぶち抜かれた。

 

 出口を強引に作った二人は、即座に展示室から抜け出て行った。

 

 一瞬の後、展示室に爆撃が着弾。

 

 轟音と共に、破壊の嵐が巻き起こる。

 

 それにより、周囲に爆煙が広がった。

 

 奇しくも爆煙は、二人の姿を隠すカーテンの役割を果たす。

 

 この瞬間、影浦と弓場は樹里による索敵から逃れ得た状態となった。

 

「────────」

「ハッ、そう来るよなぁ!」

 

 しかし、それを黙って見ている香取ではない。

 

 即座に影浦の下へ現れた香取は、銃撃を見舞う。

 

 影浦はそれをあろう事かマンティスを用い、斬り払った。

 

 無数の銃撃の中から自身に当たる軌道のもののみを選択し、マンティスで叩き斬ったのである。

 

 副作用(サイドエフェクト)によって弾丸の軌道を正確に知る事が出来るとはいえ、斬撃で弾丸を両断するなど普通にやって出来る事ではない。

 

 彼の技術がどれ程、高みにあるかが分かろうというものだ。

 

 そしてマンティスは、勢いを殺さず香取へ襲い掛かる。

 

 それを見て、香取は即座にグラスホッパーを踏み込み後方へ跳び退いた。

 

 変幻自在の軌道を持つマンティス相手に、紙一重の回避は愚の骨頂。

 

 少しでも軌道を見誤れば、一撃で致命傷に成り得る。

 

 マンティスはいわばスコーピオン版の幻踊のような性質を持ち、鍔迫り合いにおいて軌道を読ませ難くするというのはかなりのアドバンテージとなる。

 

 斬撃の軌道が直線的ではなく曲線的である為、非常に攻撃を回避し難いのだ。

 

 故に、完全に回避するには射程外に出る他ない。

 

 香取はグラスホッパーを持っている為、それに頼るのは当然といえば当然だ。

 

 しかしそれは、影浦に次の行動の隙を与える結果となる。

 

「…………!」

 

 影浦はある方向へ向かい、駆け出した。

 

 その意味を理解する香取は、再び銃撃を見舞う。

 

 アステロイドではなく、ハウンド。

 

 回避は許さないとばかりに放たれたそれを、影浦は跳躍して回避した。

 

 上に跳んだ影浦は、通路の上に着地。

 

 そのまま、一点へ向かい駆け出した。

 

 狙うは、爆撃の発射地点。

 

 即ち、樹里の居場所である。

 

 影浦は一方的に爆撃され続ける現状を打開するべく、あの場に留まるのではなく爆撃手の排除に動いたのだ。

 

「────────!」

 

 その目的を理解する香取もまた、通路の上に跳び上がる。

 

 二人のスコーピオンの使い手による戦闘が、形を変えて再開された。

 

 

 

 

(さぁて、どうなるか)

 

 弓場もまた、同じ目的を持って通路を駆けていた。

 

 しかし、このまま目的が何の障害もなく果たされるとは思っていない。

 

 あのままでは埒が明かないと影浦の思惑に乗った弓場であるが、当然香取隊が自分を見逃す筈がない事も理解していた。

 

「…………!」

 

 そして、その予感は的中する。

 

 通路の先から放たれる、無数の弾丸。

 

 シールドを張ってそれを防御する弓場は、それを放った者の姿を視認する。

 

「若村ァ」

「────────!」

 

 通路の先に立つのは、若村。

 

 脇腹からトリオンが漏れ出ており、痛打を負っていた若村が弓場の行く手を塞ぐべく立ちはだかっていた。

 

 

 

 

「影浦隊長、弓場隊長は共に展示室から脱出。木岐坂先輩の下へ向かおうとしたけど、香取先輩と若村先輩がそれに対処すべく動いたわね」

「まあ、あのまま展示室にいても状況は好転しなかったからな。当然の判断だろーぜ」

 

 二人の言う通り、あのまま展示室にいては逆転の目は万に一つもなかった。

 

 一方的に攻撃され続ける状況であった以上、香取達の優位は揺るがない。

 

 あちらからしてみれば強力なエース二人が一ヵ所に固まっているあの状況は、爆撃をぶち込み続けるだけで足止めと削りを同時に行えるのだから願ったり叶ったりであったのだ。

 

 それを理解する二人が、やられっぱなしで終わる筈もない。

 

 互いの意図を察知した二名は、別々の場所から出る事を選択したワケだ。

 

「影浦さんと弓場さんの利害が、一致したからね。あのままあそこで戦っていても、勝ちの目はない。なら、別々の場所から出る事で香取隊に人を割かせ、得点のチャンスを得つつ木岐坂ちゃんの所へ向かう。合理的だね」

「ええ、敵同士ではあっても利害の一致を見たのならば、ある意味当然だわ。戦闘狂で有名な影浦先輩がそれに乗ったのは、少し意外だったけど」

「影浦も、チームとして勝ちたい欲があったって事だろ。別に不思議な話じゃねー。ああ見えて、仲間想いの奴だからな。何か理由でもあんだろ」

 

 戦闘狂として有名な影浦がこういった策に乗るのは、草壁からしたら意外ではあった。

 

 しかし影浦は戦闘狂ではあっても、考え無しではない。

 

 また、草壁たちが与り知らぬ事情として今の影浦はユズルを遠征に連れて行きたい、という思惑もあった。

 

 だからこそ目の前の強敵とのバトルを捨ててでも、勝つ為に動いたのだ。

 

 影浦の行動から何かしらの事情を察した諏訪は、そこをさり気なくフォローしたワケである。

 

「けど、二人の行動は対照的だね。影浦さんは通路の上、屋外に出たけど弓場さんは通路の中を走った。これは理由があるっぽいね」

「弓場が通路の中を選んだのは、壁越しに旋空で三浦に斬られるのを警戒したからだろーな。今、三浦の位置はあっちにゃ掴めてねー。上に上がれば木岐坂からは丸見えだから、奇襲の可能性は常に付いて回る。それを警戒して、通路の中を通ったんだろ」

 

 諏訪の言う通り、上に上がってしまえば樹里からは常に視認される事になる。

 

 その状態で通路の中から旋空を見舞われれば、回避は非常に難しい。

 

 何せ今の弓場には、自分以外の眼が存在しないのだ。

 

 しかもダミービーコンは未だに起動している為、カメレオンを使われていても分からない。

 

 故に、肉眼での視認が可能な通路内を移動ルートとして選択したワケだ。

 

「影浦の場合は、それをやられても回避出来る自信はあんだろーな。むしろ、自分の姿を晒す事で木岐坂の位置を掴んでおきたい、って思惑もあるだろーぜ。1対1なら腕の削れた香取の方が不利な以上、仲間の援護は必須だからな」

 

 対して、影浦には感情受信体質(サイドエフェクト)がある。

 

 仮に通路内から旋空を撃たれたとしても、それを察知し回避出来る。

 

 だからこそ通路の上に出て姿を晒し、自身を樹里に視認させる事で相手の位置を確認する術ともしたのだ。

 

 腕が片方削れている以上、鍔迫り合いで香取の不利は必至。

 

 先程までと違い屋外である為、影浦の射程範囲外へ逃げるにはグラスホッパーを駆使する他ない。

 

 しかし香取は片腕が削れている上にこれまでの戦闘でも銃撃を繰り返しトリオンを消耗していたので、無暗矢鱈にグラスホッパーを連発するワケにもいかない。

 

 香取のトリオン評価値は6と、ボーダー内では可もなく不可もなくといった程度のものだ。

 

 腕を削られたダメージに加え長時間の戦闘をこなしている今、決して余裕があるワケではない。

 

 だからこそ香取は残されたトリオンを節約しながら、影浦と戦り合う必要があった。

 

 流石に影浦に寄られては、樹里では対応し切れない可能性が高い。

 

 弾丸の雨相手だろうと、影浦ならば突破してしまいかねない。

 

 故に、香取が足止めをする必要があった。

 

 二人の移動経路の違いは、単純に二人の技能と立場の差であったワケだ。

 

「そんで、弓場の方にゃ若村が来たワケだ。ま、それ以外に選択肢はねーからな」

「三浦くんだと、射程が足りないからね。弓場さんの射程は、旋空の最大射程を上回る。だから、銃手としての射程を持つ若村くんが出張る必要があった」

「若村先輩の射程は、銃手として平均的なものよ。だけど腕前はともかく、射程で上回られている以上弓場さんも迂闊な事は出来ないからね」

 

 けど、と草壁は続ける。

 

「若村先輩と弓場さんとでは、実力に圧倒的な差があるわ。若村先輩単独では、足止めは難しいでしょう」

 

 草壁の言う通り、若村と弓場とでは実力にかなりの開きがある。

 

 若村があくまでも銃手として平均的な技量しか持っておらず、本質がサポーターであるのに対し弓場は1対1の戦闘に特化した銃を持った攻撃手といった性質の相手だ。

 

 幾ら射程で上回られているとはいえ、技量で劣る以上1対1で最終的にどちらが勝つかは言うまでもない。

 

「それは、向こうも分かってると思うぜ。確かに単騎同士じゃ若村のが分が悪ぃが、これはチーム戦だからな」

 

 諏訪はニヤリと、笑みを浮かべる。

 

「チームでかかれば、強敵相手でもやりようはある。それは、あいつ等が一番分かってんだろ」

 

 

 

 

「────────!」

 

 弓場は、地を蹴り通路を駆け出した。

 

 それを見た若村は、後退しつつ銃撃を見舞う。

 

 此処は、一本道の通路だ。

 

 横に回避する余裕はあまりなく、弾を散らせば回避はし切れない。

 

「…………!」

 

 しかし、弾を散らすという事は一ヵ所への弾丸の密度が薄まる事をも意味している。

 

 弓場は局所的にシールドを張って自身に当たる弾を弾き、そのまま若村に向かって直進して来た。

 

 機動力では、弓場に分がある。

 

 その健脚により、弓場は一気に若村との距離を詰めた。

 

 あと少しで、射程である22メートル内に到達する。

 

「────────!」

 

 だが。

 

 その刹那、轟音と共に通路が崩落した。

 

 同時に、爆煙の向こうから銃撃が見舞われた。

 

 それをシールドを張って凌ぐ弓場だが、爆煙が晴れた時そこには若村の姿はなかった。

 

 逃げたとは、思えない。

 

 ご丁寧に、通路の周囲に複数の反応があった。

 

 ダミービーコン。

 

 それがこんな形で配置されているという事は、若村自身はカメレオンで姿を隠しているのだろう。

 

 爆撃による煙を身を隠すカーテンとして、その隙に透明化を使用したワケだ。

 

「良い度胸(タマ)じゃねェか、若村ァ」

 

 連続するであろう爆撃の脅威と、姿を消した若村。

 

 二つの脅威を前に、弓場は好戦的な笑みを浮かべてみせた。

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