香取隊の狙撃手   作:デスイーター

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総評/ROUND7

 

 

部隊得点生存点合計
香取隊527
影浦隊2 2
弓場隊2 2
東隊2 2

 

「決着。7:2:2:2で香取隊の勝利ね」

 

 草壁の宣告を合図に、歓声が爆発した。

 

 手に汗握る攻防に、鮮やかな終幕。

 

 この反応も、無理からぬ事と言えるだろう。

 

「グラスホッパーで弧月を飛ばす、っていう香取ちゃんの発想も驚いたけれど、それで片足を失って尚奮戦する影浦さんも流石だったね。マンティスって、ああいう使い方も出来るんだ」

「あの応用力が、スコーピオンの最大の武器ね。影浦先輩のは少し使用法が尖り過ぎだけれど、それでも使い方次第で幾らでも手札が増やせるのがスコーピオンの利点。その分扱いが難しい部分はあるけれど、使いこなせば強力だわ」

 

 木虎のように、という言葉が喉まで出かかったが、慌てて押し込める。

 

 嫌いだと言いながら常に木虎の事を強烈に意識している草壁にとって、こんな場所で彼女の固有名詞は出したくなかった。

 

 実際草壁がスコーピオンの名手として思い浮かべたのは他ならぬ木虎であった為、連想するのも止む無しではあるのだが。

 

「今回の香取隊は、戦術の組み方が光っていたわね。地形を利用して爆撃で追い込み、伏兵を使って影浦先輩の処理能力を圧迫。最後はグラスホッパーによる飛び道具で、不意を突いて撃破。全体の流れを見ると、かなり鮮やかだわ」

「最後の一撃が当たったのは、影浦さんが狙撃を警戒していたのもあるだろうね。あの時、影浦さんは片足が削れて回避能力が大幅に下がっていた。だからこそ普段は脅威にならない狙撃に対して警戒のリソースを割かざるを得なかったから、無力化したと思っていた三浦くんを意識の外に置いてしまった。それが、最後の隙に繋がったワケだね」

「狙撃が効かねーっても限度はあるし、マンティスで機動力をカバーするなんて頭おかしい事してたが、それでもいつもより動けなくなってたのは間違いねーからな。当然っちゃ当然だが」

 

 最終局面、影浦は片足が削れて機動力が削がれていた。

 

 マンティスを用いた機動力確保という彼にしか出来ないであろう芸当を行ってはいたが、それでも普段通りの動きが出来なくなっていた事に変わりはない。

 

 むしろ、本来は攻撃に用いるマンティスを移動に使わなければならなかった時点で影浦にとっては相当な負担になっていた筈だ。

 

 だからこそ、最後の一撃が通ったのだと言える。

 

「総括に入りましょうか。まず、東隊からね。東隊は展示場という得意MAPを選んで試合に臨んだけれど、イマイチそれを活かし切れていなかった印象ね。とはいえ、今回は相手が悪かったと言えるのかしら」

「そうだね。けど、逆に言えば厳しい相手であったにも関わらず二点を取れたのは展示場というMAPを選んだからこそ、と言えなくもないよ。選んだMAPはある程度活かせた、と言ってもいいかもしれないね」

 

 確かに今回、東隊は展示場というMAPだからこそポイントを得られたという面はあるだろう。

 

 正面から戦えば不利な相手ばかりだというのにしっかりと得点を得られたというのは、評価すべき事柄だろう。

 

「不利な戦いの中でも、最大限の成果は得られたと言ってもいいかもしれないね。追尾弾(ハウンド)っていう隠し玉の切り方も良かったし、今後ますます期待がかかるね」

 

 

 

 

「里見の言う通りだな。結果として中盤で全滅はしてしまったが、悪くない結果だったと思うぞ」

「けど、反省点も多いっすね。オレは序盤でいいトコなしで落ちちゃいましたし」

「あれはオレを庇ったからだろう。失点があるとすれば、オレの方だ。お前が庇ってくれなきゃ、あそこで落ちてたのはオレの方だったからな」

 

 奥寺はそう言って、小荒井をフォローする。

 

 確かにあの時置きメテオラの罠に引っかかったのは明確なミスであり、小荒井はそれにいち早く気付いて庇った為に隙が出来て落とされたに過ぎない。

 

 むしろあそこで小荒井が動いてくれなければ全滅も有り得ただけに、よくやったと言えるのは小荒井の方だと奥寺は認識していた。

 

「それでも、残ったお前がちゃんと得点してくれたじゃねーか。オレの犠牲は無駄じゃなかった、って事でいいだろ」

「ああ、ハウンドの切り方も悪くなかったし、しっかり得点はしているんだ。そこまで卑下する事はないぞ」

「…………ありがとうございます。これからも精進します」

 

 ああ、と東はにこりと笑って頷く。

 

 確かに課題がないとは言わないが、それでも二人が全力で臨んでいたのは理解している。

 

 指導には厳しい言葉も必要だが、そればかりではモチベーションが下がりかねない。

 

 こういう細かなフォローは、必要不可欠なのだ。

 

「あとは、地形から考えられる相手の手札やその切り方を想定する訓練も重ねていけばいい。何事も経験だ。今回の試合結果を踏まえて、次の作戦に活かしていこう」

「「はいっ!」」

 

 

 

 

「弓場隊は、今回モロに地形の被害を喰らっていたと言えるわね。エースの弓場さんが早々に他部隊のエースと三つ巴になった所為で帯島と組んでの連携が出来なくなってたし、射線の通り易い地形だったから外岡先輩も一度撃った後で東さんに撃たれていたしね」

「あそこに入っていくのは、帯島ちゃんだと少し厳しかったからね。けど、逆に言えばエースの弓場さんが他部隊のエースを足止めしていてくれたからこそ、他の二人が得点出来たとも言えるんじゃないかな」

「そーだな。弓場本人は得点出来なかったが、それでも他二人が点を得る為の時間を稼げたと考えりゃ悪くねーだろ」

 

 今回の試合で、弓場は早々に影浦・香取の両名と三つ巴の戦いになり、本人は得点を挙げる事が出来なかった。

 

 しかしそれは同時に他部隊のエースを長時間足止めする事が出来たという事でもあり、一概に悪い結果であったとは言えないだろう。

 

「もしも初めから香取ちゃんと影浦さんの一騎打ちだった場合、早々に勝負が着いてしまう可能性もあったからね。三つ巴になった事で均衡が崩し難くなってたのは間違いないと思うよ」

「ただ、最初の奇襲で香取先輩を落とせていたらもう少し変わっていたかもしれないわね。彼女の妨害があったからこそ拮抗状態が中々崩せなかったけれど、弓場さんは元々攻撃手キラーと呼ばれる程攻撃手と相性が良い。影浦先輩と一騎打ちになっていれば、充分勝機はあったんじゃあないかしら」

「そーだな。影浦は簡単に落ちるタマじゃねーが、それでも勝ちの目は充分あったと思うぜ。けど、香取も香取で簡単に仕留められる相手じゃねーからな。むしろ片腕を奪えた分、充分結果にゃ貢献してたと思うぜ」

 

 弓場は最初の奇襲で香取の左腕を奪ったが、仕留めるには至らなかった。

 

 もしもあそこで香取が落ちていれば、試合の結果は全く違うものになったであろう事は予想出来る。

 

 そういう意味でも、あの場での戦いは今回の試合の重要な分岐点であったと言えるだろう。

 

「ともあれ、弓場隊は東隊同様不利を強いられた中でもやれる事は全部やれていたと思うわ。ただ、以前指揮を担っていた神田先輩の穴は埋め切れていない印象ね。そのあたりは、隊長の采配次第で今後変わって来るんじゃないかしら」

 

 

 

 

「草壁の奴の言う通りだな。神田の奴に合わせる顔がねェ」

「いえ! 弓場さんは頑張ってくれてますっ! 結果が出せないのは、自分の力不足もありますし」

「草壁も、弓場さんを責めてるワケじゃないと思いますよ。単に、神田さんがいない部隊の動かし方についてまだやり様がある、と言ってるんだと思います」

 

 自省する弓場に対し、すかさずチームメイト二人からフォローに入る。

 

 その様子を見ていた藤丸は、はぁ、とため息をついてバシン、と弓場の背を叩いた。

 

「なーに柄にもなく落ち込んでんだよ。草壁の言葉がキツイのはいつもの事だろーが。それに、トノの言う通り草壁はおめーを責めてんじゃなくてアドバイスしてるつもりなんだよ。年下が気ィ利かせてんのに、年長のおめーがそれを汲み取れなくてどうするよ」

「…………そうだな。確かに、テメェの言う通りだ」

「なら、やるべき事は分かんだろ。シャキっとしろシャキっと」

 

 はん、と笑う藤丸を見て弓場は背中を叩かれた衝撃でズレた眼鏡をかけ直す。

 

 そうして、弓場は二人に向き直った。

 

「すまねェな。自分で(タマ)取れてなかった事もあって、弱気になってたのかもしれねェ。今後は改めて俺達なりの戦い方を模索してくから、協力してくれや」

「「了解」」

 

 

 

 

「次は、影浦隊ね。影浦隊は良くも悪くもいつも通りだったという印象ね。戦術というより、個人技で点を稼いでいたように思うわ」

「いつも通り、と言うよりは彼等の強みを生かしつつ戦略的な行動が出来るようになってたと思うよ。少なくとも、以前の影浦隊にはなかった動きを感じるね」

 

 そーだな、と諏訪は頷く。

 

「確かにパッと見じゃ個人技任せのやり方に見えるが、今回はきちっとそれぞれが最適な役割を果たせるように動いてたと思うぜ。ゾエが被弾覚悟でメテオラをバラ撒き続けて、ユズルの奴と巧く連携して相手を追い込んでたからな。以前のままだったら、それこそ屋外から適当に炸裂弾(メテオラ)を撃ち逃げするだけで終わってただろーぜ」

 

 諏訪の言う通り、今回影浦隊には北添を目立つ高所に配置するのではなく、展示場の外側に配置して適当にメテオラを撃って逃げる、という方策もあった。

 

 そうしなかったのは北添を囮に敵を釣り出す為でもあったが、それ以上にユズルとの連携を重視したが故だ。

 

 確かに個人技頼りな面はあるが、それでもユズルという駒の強みを最大限活かす為の戦略はきちんと練られていたと言えるだろう。

 

「ただ、良くも悪くも香取が序盤で左腕が削れてた影響が強かったと思うぜ。片腕が削れてる時点で影浦は1対1になりゃ有利と考えたろーし、どっちかっつーと香取よりも攻撃手キラーで厄介な弓場を落とす事を優先して考えてた筈だ」

「閉所の弓場さんは、脅威だからねー。あの場面なら確かに、香取ちゃんより弓場さんの方が排除の優先度は高かったと思うよ」

「けど、結果的に片腕の香取先輩を落とし切れずに香取隊総出で落とされている事に変わりはないわ。そのあたりは、少し目論見が甘かったんじゃないかしら」

 

 草壁の指摘に対し、いや、と諏訪は首を振った。

 

「単に、自分が活躍するよりも後輩のやりてー事を優先した、ってだけだろ。単純な勝ち負けよりも、大事なモンがあった、ってだけの話だ。勿論、自分ならどうとでもなるだろうって考えがあったのは事実だろーけどよ」

 

 諏訪はそう言って、影浦をフォローした。

 

 今回影浦が自分への援護を打ち切っていたのは、偏にユズルの活躍を支援する為だ。

 

 今期のランク戦ではA級昇格がない代わりに、B級二位まで以外のチームであっても個人で遠征に選ばれる可能性がある。

 

 どういう評価項目で選ばれるかは分かっていないが、その為にはランク戦での活躍は必須であると考えたのだろう。

 

 故に影浦は自分よりもまずユズルの活躍にスポットライトが当たるように、敢えてユズルのやりたい事を重視して作戦を組んだに違いない。

 

 また、今期では香取隊や玉狛第一の躍進が大きい事もあり、自分達がB級二位を維持出来ない可能性も考えたのだろうと諏訪は考えている。

 

 そう思えば、一概に悪い選択とは言えなかった。

 

「あいつは、そういう奴だからな。見た目や言動は荒っぽいけど、そこらの連中よりよっぽど後輩想いの良い奴だぜ」

 

 

 

 

「カゲさん、オレの為に…………」

「チッ、そんなんじゃねーよ。あんなん真に受けるな」

 

 影浦はそう言って、自分の采配に対して感極まっているユズルから眼を背けた。

 

 その様子を見ていた北添は微笑ましそうに笑っているし、光もゲラゲラ笑っている時点で真相は瞭然ではあるのだが。

 

 そっぽを向いた影浦の頬が微妙に紅潮している時点で、そもそも隠し切れてはいないのだった。

 

「…………遠征、行きてーんだろ。なら、残り一試合気合い入れてけ」

「…………! うん!」

 

 

 

 

「香取隊は、采配がとにかく巧みだったわね。木岐坂先輩っていう砲台を、最大限見せ札として活かし切った印象だわ」

「そうだねー。結局、今回木岐坂ちゃんは一回も狙撃をやってないし。固定砲台としての役割を果たしつつ、狙撃を見せ札として温存しきったのはえらいと思うよ」

 

 里見の言う通り、今回の試合では樹里は結局一度も狙撃は行わなかった。

 

 彼女が行ったのはいずれも合成弾による超長距離での射撃であり、そのトリオンの暴威を以て思う存分盤面を荒らし続けた。

 

 更に彼女の狙撃の威力の程がどれ程かはこれまでの試合で思い知らされており、高威力の狙撃の脅威を見せ札として敵の行動を縛る事も出来ていた。

 

 他の狙撃手がいなくなった後は、彼女の独壇場であったと言えるだろう。

 

誘導貫通弾(モスキート)っつう新たな手札の存在も大きいだろうな。あれは初見殺し性能が高かった他に、それがあるっつうだけで誘導炸裂弾(サラマンダー)との二択を相手に突き付けられっからな。木岐坂に合成弾の使用を許した時点で、相当苦しい状況に追い込まれるのは確かだな」

 

 加えて、前回の試合で初めて披露した誘導貫通弾(モスキート)の存在も大きい。

 

 あれがあるというだけで、樹里の合成弾は爆撃と貫通弾の二択が生まれ防御側の選択肢を著しく狭めてしまう。

 

 初見殺し性能の高さが失われても、見せ札としても充分以上に機能するのは今回の試合の結果を分かれば瞭然だろう。

 

「三浦先輩と若村先輩のダミービーコンも、巧く活用していたと思うわ。けれど、攻撃手の三浦先輩はともかく銃手の若村先輩はトリオン消費が気になるところね」

「今回は初見殺しの意味も強かったし、次からは三浦くんだけがセットする、とか色々工夫は出来ると思うよ。誘導貫通弾(モスキート)と同じで、「こういう手札がある」ってだけで相手の行動は縛れるワケだし、そこは采配次第だと思うな」

 

 加えて、今回三浦達が使用したダミービーコンも中々の働きをしていた。

 

 里見の言う通りただでさえトリオン消費が激しい銃手である若村にとっては消耗も馬鹿にならないので継続して使い続けるかは不明だが、こういった手札があると見せつけられただけでも相手の行動を縛る枷となる。

 

 そういう意味でも、ダミービーコンの起用は正解だったと言えるだろう。

 

「このくらいかしら。じゃあ、総括も此処までね。丁度、向こうの試合も終わったみたい。今結果が────────────────え?」

 

 総評を終え、ランキングの変動について話そうとしていた草壁の表情が固まった。

 

 眼を見開き、明らかな驚きと共に手元の画面を見詰めている。

 

 ただ事ではない様子に諏訪が疑問符を浮かべるが、何かを言われる前に硬直が解けた草壁が慌てて顔を上げて機器を操作した。

 

「…………ランキングが変動したわ。今、結果を表示するわね」

 

部隊順位得点
香取隊 1位45Pt 
二宮隊 2位40Pt 
玉狛第二 3位38Pt 
影浦隊 4位34Pt 
弓場隊 5位28Pt 
生駒隊 6位27Pt 
王子隊 7位27Pt 
東隊 8位27Pt 
鈴鳴第一 9位27Pt 
諏訪隊 12位25Pt 
漆間隊 11位20Pt 
那須隊 12位18Pt 
荒船隊 13位17Pt 
柿崎隊 14位15Pt

 

「え?」

「マジかよ」

 

 その結果に、里見と諏訪は揃って眼を見開く。

 

 会場も大きくざわついており、予想通りの反応を見た草壁はため息交じりに話しだす。

 

「…………見ての通り、玉狛第ニが8点を獲得。二宮隊を一点に抑えた事で、一気に三位まで躍り出たわ。二宮隊が殆ど得点を得られなかったから、繰り上がりで香取隊がB級一位。他は、東隊が王子隊と入れ替わる形で中位落ちね」

「これ、玉狛が二宮隊に勝った、って事だよね。生存点まで得られてるみたいだし、ちょっとすぐにでも向こうのログを見たいなこれ」

「…………同感だが、順位が決まったって事は次の組み合わせも決まったろ。この場はそれを発表して仕舞いにしようぜ」

 

 そうですね、と草壁は当然と言えば当然の指摘に混乱から立ち直り、すっと前を向いた。

 

「次の対戦組み合わせは、二宮隊、香取隊、玉狛第二、生駒隊よ。もう一方が影浦隊、弓場隊、王子隊になるわね────────────────これで、B級ランク戦ROUND7を終了するわ。お疲れ様でした」

 

 草壁の宣告で、正式に第七試合が終わりを告げる。

 

 大き過ぎる波乱を残して、ROUND7は幕を閉じたのだった。

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