香取隊の狙撃手   作:デスイーター

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少女達の総評⑥

 

 

「…………マジ?」

「どうやら本当みたいね。あっちの試合は8:1:0で玉狛の勝ち。本当に、二宮隊に勝っちゃったみたい」

 

 香取はもう一度「マジか」と繰り返し、宙を仰いだ。

 

 隊室には何とも言えない空気が充満しており、皆一様に絶句しているのが分かる。

 

 当然だ。

 

 ()()二宮隊に完勝としか言えない結果を残し、これまでポイント的にB級二位以内という目標は厳しいのではないかと思われていた玉狛が、一気に一位を狙える圏内まで食い込んで来たのだから。

 

 玉狛に対し複雑な想いを抱く香取を始め、思うところがあるのは当然だろう。

 

「葉子、気になるのは分かるけど先に今回の振り返りをやりましょう。玉狛に関する事は、それからでも遅くはないわ」

「…………そうね。じゃあ、そうしましょうか」

 

 華に促され、香取は渋々ながら頷いた。

 

 玉狛の問題は無視出来ないが、今はそれよりも今回の試合の総括が先だ。

 

 こちらは試合が終わった直後である今やらなければ意味がないので、当然と言えば当然である。

 

「取り敢えず、目論見は概ね旨くいったわね。苦戦はしたけれど、弓場さんも影浦先輩も何とか倒す事が出来た。麓郎、雄太、アンタ達の手柄よ」

「お、おう」

「あ、ありがとう」

 

 突然の香取からの賛辞に、男二人はしどろもどろになりながら謝辞を述べる。

 

 その様子を見て樹里はむぅ、と唇を尖らせた。

 

「…………葉子、わたしは?」

「勿論、アンタの活躍も褒めるに決まってんじゃない。よくやったわ、樹里」

「えへん」

 

 先に若村達が褒められたのが面白くなかった樹里であるが、香取の言葉に途端ににこりと笑い、豊かな胸を張ってご機嫌になった。

 

 やっぱチョロいわねこの子、と香取に思われているなどと露知らず、幼馴染に称賛を受けて樹里はご満悦である。

 

 若村達にふふん、と胸を張りながら優越感に満ちた視線を送っているが、胸を強調するポーズの為に男二人は樹里を直視出来ず視線を逸らす。

 

 そんな男心など露知らない樹里は、キョトンとして疑問符を浮かべるのであった。

 

「とにかく、今回でダミービーコンが想像以上に効果的だってのは分かったけど、どう? 今後も扱えそう?」

「オレは問題ないかな。多用しなきゃトリオンもそこまで消耗はしないし、元々弧月一本だからそこまで苦じゃないかな」

「…………オレはちょっと厳しいかもな。銃撃戦する事も考えっと、あのトリオン消費はあんまし無視出来ねー。セットして使うのは構わねーが、そこまで多用は出来ねーと思うぜ」

 

 成る程、と香取は頷く。

 

 三浦と若村で感想が分かれたのは、ある意味想定通りだ。

 

 若村の場合、ただでさえトリオンを食う銃手である為、ダミービーコンのトリオン消費は決して無視出来るものではない。

 

 それは銃手トリガーを扱う香取にしてみても違和感のない説明であり、納得のいく理由であった。

 

「じゃあ、次はそれを踏まえた上で作戦を組むわ。いいわね?」

「うん」

「ああ、問題ねぇ」

 

 よし、と香取はこの議題について答えが出たのを確認し、くるりと樹里の方を向いた。

 

「アンタの誘導貫通弾(モスキート)、想像以上に効果的ね。誘導炸裂弾(サラマンダー)との二択を迫るだけで、想定以上に相手にプレッシャーをかけられるみたい。本当、良い手札を得られたわね」

「えへん」

「けど、それだけに相手に使われた時が心配ね。今回は射手がいないから何とかなったけど、次はそうもいかないし」

 

 香取の指摘に樹里はむぅ、と唇を尖らせた。

 

 水を差した事に対する不満もそうだが、香取の指摘内容は樹里からしても懸念していた事だったのだから。

 

「樹里、二宮さんは誘導貫通弾(モスキート)を使って来ると思う?」

「状況に依るけど、使えない筈がないから警戒はするべきだと思う。悔しいけど、わたしが出来た以上二宮さんが出来ない筈もないから」

 

 即ち、樹里以上のトリオン量を持つ二宮が誘導貫通弾(モスキート)を使えるか否か。

 

 これに関しては樹里は迷いなく是と答え、香取は成る程、と頷く。

 

 射手としての技量は、完全に二宮が上なのだ。

 

 トリオン量もそうだが、そもそも射手としての年季が違う。

 

 技術の面では完全に負けており、樹里に有利な点があるとすれば狙撃という手札の存在と強化視覚を用いた特殊な立ち回りの面くらいだ。

 

 自分が出来た以上、二宮が誘導貫通弾(モスキート)を使えない筈がない。

 

 そういう意味での信頼は、しっかりあるのだった。

 

「ただ、前にも言った気がするけど濫用はしないと思う。二宮さんなら、ハウンドとアステロイドを撃ち分けた方が基本は強いし」

「そうね。アンタがそう言うならそうなんでしょう。信じるわ」

「ん。けど、警戒はしておいて損はないかな。濫用はしないだけで、使わないワケじゃないから」

 

 そうね、と香取は頷く。

 

 確かに二宮は合成弾を連発するようなイメージはないが、それでも使う時はしっかりと使う。

 

 但しその場合、近くに犬飼等を護衛として侍らせている事が多い。

 

 基本が狙撃手である樹里と異なり、二宮は姿を隠さずに射撃を繰り返す事が多い。

 

 片手を空け、いつでもシールドを張れる状態でハウンドを連射し、相手を固めながら追い詰めてアステロイドでトドメを刺す。

 

 1対1、もしくは人数が減った段階で両攻撃(フルアタック)を解禁し、容赦なく蹂躙する。

 

 それが二宮の必勝パターンであり、単純であるが故に強い。

 

 彼が合成弾を使う時は防御役として犬飼もしくは辻を傍に置き、万全の状態で行う事が殆どだ。

 

 合成弾は強力だが、隙も多い。

 

 堅実な戦法を旨とする二宮にとって、濫用は出来るものではないのだ。

 

 なので今回の樹里のように、合成弾を連発するような戦術を使う事は殆どないだろう。

 

 無論、必要があればやるだろうが樹里程濫用はしない筈だ。

 

 ここぞという時の切り札、という位置づけが最も妥当だろう。

 

「ちなみに、雨取は使うと思う?」

「使わない。というか、使う必要が無い。あれだけのトリオンがあるなら普通に撃った方が強いし、わざわざ防御を捨てる意味がないから」

「…………それもそうか」

 

 千佳の場合、そもそも普通のハウンドが相応の威力があるので弾を集中させるだけで充分シールドを割る事が出来る。

 

 その為敢えて合成弾を使う意味が薄く、まず使って来ないだろうというのが樹里の見解だった。

 

 そもそも、樹里が軽く使っている所為で勘違いされがちだが合成弾は誰にでも使えるという技術ではない。

 

 使用にはある程度センスが必要であり、本職が射手ではない千佳が使えるとはとても思えない。

 

 私見だがそういったセンスがあるタイプには見えないし、そもそもアイビスだろうが貫けるか怪しい強固極まりないシールドを捨てるリスクをわざわざ背負う必要はないだろう。

 

 規格外のトリオンの持ち主である千佳は、ただ射撃を続けるだけでも相当な脅威なのだから。

 

「取り敢えず、今分かる事はこのくらいかしら。そろそろ、玉狛の試合ログを見るわよ。どうやって二宮隊に勝ったのか、確かめる必要があるわ」

「そうね。ある程度の推測は出来るけど、実際に見ない事には始まらないわ。早速、見てみましょうか」

 

 

 

 

「…………これは、なんというか…………」

「雨取さん、制限を取り払うと此処までの脅威だったんだね…………」

 

 玉狛の試合ログを見終えた香取達は、一様に絶句していた。

 

 無理もない。

 

 たった今見た試合ログは、それだけのものが映っていたのだから。

 

「自部隊以外の唯一の狙撃手である隠岐先輩が見つかるまでは、ひたすらに潜伏。隠岐先輩が落ちた段階で、ヒュースくんが射撃で相手を固める。そしてそこを、雨取さんが障害物無視のアイビスの一撃で葬る、か」

「その後はヒュースと合流して、射撃やエスクードで相手の動きを封じつつ、的確に狙撃で処理してってるわね。人を狙って撃てるようになると、こうも変わるものなのね…………」

「雨取を狙って近付いて来た相手は、三雲のワイヤー陣で足止めして空閑が処理してやがんな。ホント、徹底したやり方だぜ」

 

 玉狛の取った戦術は、言葉にしてみればそう難しいものではない。

 

 まず、自部隊以外で唯一の狙撃手であった隠岐が処理されるまではひたすらに潜伏。

 

 隠岐が落ちた段階でヒュースが射撃で相手を固め、そこを千佳がアイビスで撃ち貫く。

 

 単純明快だが、それが為に強い。

 

 何せ、千佳のアイビスはほぼガード不能だ。

 

 障害物すら構わず突き進んで来る砲撃は、集中シールドであろうがまず防げない。

 

 恐らく、通常のアイビスであれば辛うじて防げる二段構えの集中シールドであっても無駄だろう。

 

 トリオン量がダイレクトに威力に直結するアイビスを規格外のトリオンを持つ千佳が十全に扱った場合、回避以外の選択肢でそれを凌ぐ事は不可能だ。

 

 しかもヒュースというトリオン強者が射撃で固めてしまえば、相手は否応なく防御の選択肢を強要される事になる。

 

 ヒュースも千佳程ではないとはいえトリオンが高く、彼の操る弾丸は弾数も多い。

 

 それを回避し切るのは相当な手間であり、加えてエスクードで移動を制限して来るとなればその難易度は更に上がる。

 

 映像ではエスクードでその場に閉じ込めた上でアイビスで壁ごと粉砕する、といった手段も用いており、千佳の超威力の砲撃を前提とした滅茶苦茶な戦術が罷り通っていた。

 

 通常、アイビスではエスクードは貫通出来ない。

 

 エスクードは旋空やスラスター斬り等線の攻撃には脆い反面、点の攻撃には滅法強い。

 

 並のトリオンの持ち主による単発のアイビスでは貫通する事は難しく、銃撃で破壊するのであれば弓場のリボルバー並みの威力の攻撃を複数回叩き込む必要がある。

 

 だが、千佳のアイビスだけは別だ。

 

 あまりにも威力が高過ぎるので、防壁が防壁として機能しないのである。

 

 故に一端エスクードで閉じ込めてしまえば、その上からアイビスを叩き込むだけで相手は詰む。

 

 千佳の火力を前提とした、他では有り得ない戦法だった。

 

 加えて、千佳を直接仕留めようと近付けば修のワイヤー陣で強化された遊真が待っている。

 

 攻防共に強力で、力任せ故に隙が無い。

 

 玉狛が取ったのは、そういった戦法だった。

 

「相手との距離によっては、雨取さんがハウンドで固めてからアイビスで仕留めてるね。前の試合の時に空閑くんがやったようにヒュースくんが雨取さんを抱えて移動して姿を隠して、不意打ちで狙撃を通す、なんて事もやってるし」

「狙撃手がいないからって、やりたい放題だな。生駒さんも空閑が接近戦を仕掛けて気を引いた隙にエスクードで閉じ込めて、そこを狙撃で仕留めてやがる。あんな距離でも、エスクードを出せるのかよ」

「ヒュースくんのトリオンあっての暴挙ね。これだけエスクードを連発してもトリオン切れしないあたり、相当なものだわ」

 

 そして、玉狛は決してワンパターンな戦法を繰り返していたワケではない。

 

 時には固める役目を千佳が担い、そのまま狙撃で仕留めたり、或いは一度姿を隠してからの不意打ちで落とす事もあった。

 

 更に普通ならば燃費が劣悪で濫用出来ないエスクードをフルに用いて相手の動きを封じ、その上から狙撃で貫いている。

 

 エスクードはトリオン消費は激しくなるものの、相応に離れた場所にも出現させる事が出来る。

 

 ヒュースのトリオンであればかなり離れた場所にもエスクードを展開する事が可能であり、これにより千佳を安全圏に置いたまま無慈悲な蹂躙を繰り返す事が可能となっていた。

 

「二宮さんが建物ごとワイヤー陣の破壊に動いたけど、そこに三雲と空閑が出て来て足止めしてるわね。二宮さんは雨取とハウンドの撃ち合いを始めつつ二人の相手をしてるけど、エスクードを警戒してる所為でかなり動き難そうだったわ」

「それでもかなり粘ってたけど、最後はエスクードによる封鎖を避けて雨取さんの攻撃を凌いだ直後の隙を三雲くんに狙われて、回避したと思った瞬間に弾が曲がったわね」

「三雲くんのセットしてたの、アステロイドじゃなくてハウンドだったんだね。それまでにも射撃はやってたけど、威力が低くて判別出来てなかったのか…………」

 

 また、二宮撃破の方法もこれで判明した。

 

 千佳が潜むワイヤー陣に侵攻するべく建物破壊に動いた二宮だが、それを黙って見ている筈もなく修と遊真が組んで足止めに現れた。

 

 それでも尚二宮は前進するが、すぐに千佳とハウンドの撃ち合いになり余裕が削れていった。

 

 最後にはエスクードによる封鎖と千佳の攻撃から逃れた直後の隙を修が狙い、サイドステップで回避。

 

 しかし修の弾は横に曲がり、その直撃を受けてしまう。

 

 そこに遊真が特攻を仕掛け、何とか落とす事に成功したワケだ。

 

 それまでも修は射撃を用いていたが、あまりにもトリオンが低過ぎる為にアステロイドから追尾弾(ハウンド)に変えられていた事に誰も気付けていなかった。

 

 アステロイドであろうと修のそれはシールドを貫通する事などまず不可能な威力しか出せず、防いだ側も気付く余地がなかったのだ。

 

 まさしく、自分の弱みを最大限武器とした戦術と言える。

 

「雨取に注意を向けておいて、決め手は三雲が務めてるあたりいやらしさ全開ね。やっぱメガネはメガネだわ」

「他ならぬ彼だからこそ出来た戦術だしね。ともあれ、これでどうやって玉狛が二宮隊に勝ったかは理解出来たわ。後はこれを参考に、次の作戦を練りましょう」

「ええ、制限解除された雨取は脅威だけど、それでも負けるワケにはいかないわ。今度もまた、打ち破ってやる」

 

 香取はそう言って息巻き、鼻息荒く自身の見解を述べ始めた。

 

 姦しい少女達の総評は、思いも寄らぬ情報を切っ掛けに白熱していく。

 

 最終戦に向けた熱は、着実に高まっていた。

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