香取隊の狙撃手   作:デスイーター

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出水公平④

 

 

「…………ここまでとはな」

「凄まじいですね。まさか、雨取さんが制限なく撃てるようになっただけでこうまで変わるとは思いませんでした」

 

 ログの映像を見ながら、歌川はそう言って風間に相槌を打った。

 

 彼等は防衛任務のシフト後、試合の結果を聞いてこうして隊室でROUND7のログを見ていた。

 

 流石に玉狛があの二宮隊に完勝したとあっては、その内容を確かめずにはいられないのも無理は無い。

 

 風間の見立てでは現状ではヒュースが加入したとしても二宮隊相手は相当厳しい戦いになるだろうと思っていただけに、この結果は予想外に過ぎたのだ。

 

 善戦、或いは接戦ならばともかくとして、完勝。

 

 流石の風間といえど、これは予測出来なかった。

 

「…………まあ、要は木岐坂の超強化版みたいなモンなんだし、こうなるのも当然じゃない? 戦闘経験は足りてないけど、火力正義っぷりはあの子が証明してるんだしさ」

 

 対して、菊地原は二人程驚いた様子はなかった。

 

 むしろこのくらい当然であると、受容もしくは諦観している様子でもあった。

 

「驚いてないんだな。予想してたのか?」

「別に。ただ、木岐坂が何かを雨取に吹き込んだ、ってのを偶然()()()だけだから。なんかあるだろうなって思ってたのは確かだけど、流石に此処までってのは予想してなかったよ」

 

 そう言って、菊地原はため息を吐く。

 

 実のところ、彼も彼で驚いてはいる。

 

 しかし事前に「千佳に対し樹里が何かを吹き込んだ」という事を聞いてしまっており、何か変化があるのではないかと思ってはいたのだ。

 

 加えて言えば試合前に修に会った時に妙に心音が落ち着いていたので、何かしら二宮隊を打倒する策があるのではないかと考えていたワケだ。

 

 結果としては想定以上の光景が広がっていたワケだが、事前に心構えがある程度出来ていた分表に出る程の動揺はなかった、というだけの話である。

 

「そうか。確かお前は試合前に三雲の所に激励に行っていたんだったな」

「別に激励とかじゃないですよ。ただ、変に緊張とかしてないか気になったから見に行っただけです」

「そういう事にしておこう」

 

 むぅ、とそっぽを向く菊地原だが、そんな彼を二人は微笑まし気に見守っている。

 

 菊地原が修の事をかなり気にかけているのは瞭然であり、その結果として今回の試合内容に対しある程度心構えが出来る切っ掛けを得られたと考えればこういう顔にもなる。

 

 基本的に菊地原は言葉をオブラートに包む事をせず、積極的に交友関係を広げるタイプでもないので隊の人員以外との交流が少ない事を風間は気にしていたのだ。

 

 その菊地原が自分から修に関わっているので、変化を歓迎する気持ちが大きいのだろう。

 

 完全に保護者目線だが、風間隊での彼の扱いは基本こんなものだ。

 

 風間も歌川も年上のお兄さん気質なので、無理もない話であるが。

 

「けど、こうなると最終戦でも雨取が暴れそうですね。二宮さん相手でもどうにかなる事は今回で証明されましたし、かなり玉狛第二が有利じゃないですか?」

「そうとも言えない。何故なら、今回は二宮隊も生駒隊も、()()()()()()()()()という前提で試合に臨んでいた。だからこそ、虚を突かれた形で戦略が崩壊し玉狛の完勝を許した」

 

 だが、と風間は続ける。

 

「既に、雨取が人を撃てる事は証明された。ならば、その前提で戦略を組み試合に臨むだけだろう。強い駒を揃えただけで勝てる程、B級上位の戦いは甘くはないからな」

 

 

 

 

「おいおい、凄いな。チカ子が撃てるようになったらマジ無法だなこりゃ」

「まあ、当初の想定通りになったとは言えるな。あんだけのトリオンがあるなら、普通に暴れればこうもなるだろ」

 

 映像を見て驚く当真に対し、冬島はため息交じりにそう答えた。

 

 確かに、考えて見れば彼の言う通りROUND7の地獄絵図は千佳がランク戦に参戦した際に誰しもが思い浮かべた光景だろう。

 

 トリオン強者が好き放題にその力を振るえばどうなるかは、二宮が実証している。

 

 彼以上のトリオンの持ち主、というだけでも話題性抜群だったのだ。

 

 見る人が見れば彼女が人を撃てない事はすぐに分かったので評価は据え置きになったものの、枷が一度外れればこうなるのは最早自明の理。

 

 当初の想定通り、という冬島の言は決して間違ってはいないだろう。

 

「しかも、ただ撃てるようになっただけじゃないね。その狙撃を通す為のサポートも、しっかりこなしてる」

「ついでに言やあ、チカ子の狙撃スキル自体も上がってんな。まだまだ拙いって言えるレベルじゃああるが、ROUND1の時とかと比べると大分上達が見えるぜ」

「エスクードと狙撃を組み合わせるなんて、あの子のトリオンじゃなきゃ出来ないだろうけどね。いや、それを考え付く頭自体中々のものだけどよ」

 

 そうだな、と当真は頷く。

 

「幾らトリオンが高いとはいえ、狙撃は狙撃だ。弾が一直線にしか飛ばねえ事に変わりはねぇし、位置バレすりゃあまず当たらねぇ。けど、あいつ等はそれをエスクードっていう手段で解決してやがる」

「ああ、エスクードで相手を閉じ込めて、その壁ごと粉砕する。あの規格外のトリオンあっての力技だけど、有効な事は間違いねーわな」

 

 想定外だったのは、その狙撃の()()()だ。

 

 確かに千佳の狙撃の威力は馬鹿高いが、狙撃である以上直線にしか飛ばないし、連射も利かない。

 

 更に位置バレした狙撃手の攻撃というものは通らないのが普通であり、次弾が来るまでには一度姿を隠し、再度狙撃位置を探すというタイムラグが生じる。

 

 しかし玉狛はそれを、エスクードという手札を以て解決した。

 

 戦術で相手を動かすのではなく、()()()()()

 

 エスクードを遠隔起動して相手の逃げ道を物理的に封じ込め、その壁ごとアイビスの狙撃で粉砕する。

 

 強固な硬度を誇るエスクードを軽々と貫通する千佳の火力あっての暴挙ではあるが、戦術として理に適っているのは間違いない。

 

 何せ、止める手段がないのだ。

 

 エスクードは防御タイプのトリガーの中でも最高の硬度を誇り、銃撃で破壊するには弓場のリボルバークラスの攻撃を何発も叩き込む必要がある。

 

 一撃で破壊出来るのはスラスター斬りか旋空弧月くらいであり、その二種共に隙が大きい攻撃である上に前者は加速するだけのスペースがなければそもそも出せない技だ。

 

 エスクードで四方を囲まれてしまえば脱出は容易ではない上に、視界も塞がれてしまう。

 

 そこに千佳の狙撃が来れば、最早為す術がない。

 

 千佳のトリオンを前提としているとはいえ、凶悪極まりない戦法であった。

 

「じゃあ、アンタは最終戦でも玉狛が無双して終わりになると思うかい?」

「いや、流石にそれはねーな。むしろ、一番動き難くなるんじゃねーかなって思ってるぜ」

「そうだね。私も同意見だ。流石にあいつ等は、今回()()()()()()からな」

 

 真木はそう言って、ふん、と鼻を鳴らす。

 

「仮にも二宮隊を撃破するという大戦果を挙げたんだ。次の試合では間違いなく、的をかけられる事だろうね」

 

 

 

 

「いやぁ、玉狛ヤバかったっすね。雨取さん、撃てるようになったんだ」

「三雲の奴もそのあたり、全然漏らさなかったからな。お前、信用されてねーんじゃねーの?」

「いやあ、師弟だからって何もかも情報共有するワケじゃないですし。むしろ、今回あの手札を切って来た事をおれとしちゃあ褒めてやりたいトコですね」

 

 出水はそう言って、はは、と笑いを漏らす。

 

 彼等もまた、玉狛第二の試合ログを眺めていた。

 

 仮にも出水は修の師匠をやっているので、当然の事ではあった。

 

 口では色々言いつつも面倒見はかなり良い方な出水なので、弟子の出る試合は当然全てチェックしている。

 

 今回もまた例に漏れずログを見ていたのだが、明かされた試合内容は圧巻であった。

 

 千佳が撃てるようになっただけではなく、二宮隊相手に完勝。

 

 修に対しそれなりの期待をかけていた出水としても、想定を遥かに超える大戦果を挙げていたのだから。

 

「雨取ちゃんが人を撃てない、ってのはおれ等からすればもう共通認識でした。だからこそ、二宮隊も生駒隊もその認識の上で試合に臨んでたでしょうからね。此処でその前提をひっくり返す事で、最高の形で初見殺しを決められる」

 

 でも、と出水は続ける。

 

「玉狛には、雨取ちゃんが人を撃てる事を最終戦まで隠すという選択肢もあった。最終戦であればバレた所で関係ないし、後に対策が取られる事もない。だから敢えて温存する手も()()あったように見えます」

「ま、それはあくまでも()()()()()()()()()()()()()()()だな。このタイミングが、ギリギリだったろ」

「ええ、ROUND6終了時点で玉狛第二のポイントは30、二位の香取隊とは8ポイントも開きがあった。流石にこれ以上離されると上位二位以内っていう目標は果たせなかったでしょうから、二宮隊の得点を抑えつつ自分達が大量得点するチャンスはあそこしかなかったと思います」

 

 出水の言う通り、ROUND6終了地点では玉狛第二の得点は30で順位は4位、二位の香取隊とは8点の開きがあった。

 

 一位の二宮隊も39ポイントと高得点であり、これ以上点差を広げずに大量得点を得るには二宮隊と直接対決する事になったROUND7が最も適当であった。

 

 勿論、あの二宮隊相手に向こうの得点を抑えつつ、自分達が多くの点を稼ぐのは相当に難易度が高いだろう。

 

 しかし、玉狛はそれをやってのけた。

 

 「千佳が人を撃てない」という大前提を覆す事で初見殺しに嵌め、見事点差を縮めてみせたのだ。

 

 彼等の目標である「B級二位以内」を達成する為には、今回こそが千佳という手札を解禁する最適解だったワケだ。

 

「けど、その代わりに負った代償は軽くないぞ。一度見せた以上、二宮は必ず対策して来るだろ」

「生駒隊もそうでしょうね。なんだかんだ言いつつも、水上先輩はかなり優秀な指揮官ですから」

「それに、香取隊も黙っちゃいないと思うよー。香取ちゃん、どうやら三雲くんにご執心みたいだから、容赦なんか微塵もしないだろうしねー」

 

 但し、それは玉狛が何のデメリットも負わなかった事を意味しない。

 

 ポイントを得る事は出来たが、「千佳が人を撃てる」という情報を晒したのは事実なのだ。

 

 当然次の試合はどの部隊もその前提で戦術を組んで来るだろうし、王者の座に固執する二宮隊や修を敵視する香取の所属する香取隊は、特にガンメタを張って来る事が予想される。

 

「あと、目立ち過ぎたな。ありゃあ冗談抜きで、玉狛をフクロにする展開も充分有り得るだろ」

「ないとは言えませんねー。転送運にも左右されるでしょうが、狙われるのは間違いないと思いますよ」

 

 加えて、玉狛は今回あまりにも大戦果を()()()()()

 

 その無法ぶりは相対する全部隊に伝わったに違いなく、割と高い確率で他部隊と共同して玉狛を狙う展開も十二分に有り得るだろう。

 

 それだけエスクードと千佳の狙撃のコンボは凶悪極まりなく、初見ではまず対処不能な代物だったのだから。

 

「二宮に対して使った追尾弾(ハウンド)も、完全に一発ネタだろうしな。次は通用しねーだろ」

「けど、個人的にあれは評価してあげたいですね。あの二宮さん相手に有効打を与えて、勝ちに繋げた事は事実ですから」

 

 出水はそう言って、修の戦果を称賛した。

 

 今回、二宮が倒された直接の原因は千佳ではなく修である。

 

 彼が放った弾丸を二宮がサイドステップで回避した直後、弾が曲がり直撃。

 

 隙が出来た二宮を、そのまま遊真が打ち倒した、という形だ。

 

 修はトリオンが尋常でない程に低く、余分なトリガーを積むスロットは存在しない。

 

 故にこれまでアステロイドを使い続けて来た彼が、別の射撃トリガーを使うという想定をしていた隊員はいなかった。

 

 だが、修はその認識を逆手に取った。

 

 トリオンが低過ぎる故に撃ったところでアステロイドとハウンドに大した威力差が存在しないが為に、アステロイドと偽りながらハウンドを持ち込み、それを以て二宮に致命打を与えた。

 

 それまでが千佳による力押し戦法だっただけに、修のこの意表の突き方には思わず内心で拍手をしたものだ。

 

 勿論、これは出水が仕込んだものではない。

 

 修が考え、彼が実行したものだ。

 

 トリオンが豊富であり、アステロイドかハウンドかは撃てば一発で分かる出水にとってトリオンの低さ故の威力の弱さを利用した戦術など、想定の遥か外にあったからだ。

 

 加えて、これは相手が二宮だからこそ通用した戦法である。

 

 仮に影浦が相手なら副作用(サイドエフェクト)で察知されて終わりだったであろうし、生駒であれば堅実にシールドで凌いで終わりだったろう。

 

 修の事を気にかけながらもその実力を正確に把握していた二宮だけに、この戦法は有効だったのだ。

 

 二宮はあれで面倒見の良い所があり、気にかけた相手の事はしっかりと見ている。

 

 だからこそ修の実力の低さを正確に把握していたのであり、彼が挑んで来るならば迎え撃つという矜持もあった。

 

 修はそんな二宮の思考を読み切り、ハウンドという一見予想出来そうで出来なかった隠し札を切って撃破に繋げたのである。

 

 師匠として、称賛の一つもあげたくなるのは当然と言えよう。

 

「どちらにしろ、次の試合は一筋縄じゃあいかないと思いますよ。色んな意味でね」

 

 そう言って、出水は笑みを浮かべる。 

 

 A級上位部隊の面々は玉狛の活躍を評価しながらも、次の激戦への期待を膨らませていた。

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