香取隊の狙撃手   作:デスイーター

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第十四幕~B級ランク戦ROUND8/Last Rank Battle of White Girl
第八試合、到来


 

 

「最終ミーティングを開始するわ」

 

 3月5日、水曜日。

 

 ランク戦ROUND8、その当日。

 

 香取は隊室に揃った面々を見回し、そう切り出した。

 

 各員はそれぞれ、その眼差しに熱い闘志を秘めている。

 

 覚悟は、とっくに終わっている。

 

 言外に、誰もがそう訴えていた。

 

「今回の相手は生駒隊に、二宮隊、そして玉狛第二よ。今回はこれまでと比べて、香取隊(ウチ)が明確に不利な要素があるわ。それは勿論、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()事よ」

「二宮さんと、雨取だな。後者に至っては、真面目に桁が違うもんな」

 

 ええ、と香取は頷く。

 

 これまでチームを勝利に導いて来たトリオン12から成る樹里の火力が、今回は通用し難い。

 

 何故ならば、彼女以上のトリオンの持ち主が敵に二人もいるからだ。

 

 二宮匡貴、そして雨取千佳。

 

 この二名は、樹里以上の火力を以てこちらに矛先を向けて来る。

 

 だからこそ、これまでは通じた「火力でのごり押し」による勝ちは難しい、と言えるだろう。

 

「これまでは状況を整えてから樹里に暴れて貰う事で優位を取って、格上殺しも出来たわ。けれど、今回考え無しに樹里に暴れさせても正面から迎え撃たれるだけよ」

「ん、悔しいけどトリオンはあっちが上。真正面からだと、ちょっと厳しい」

 

 樹里は本当に、悔しそうにそうぼやいた。

 

 これまでの試合での香取隊の勝ちパターンは樹里の脅威となる存在を排除してから彼女にトリオン量に任せた暴れ方をして貰う事で盤面を支配し、そのまま大駒を打ち倒す、といった流れが多かった。

 

 香取隊は典型的なエース偏重型の部隊であり、玉狛と同じく「チーム全体でエースをサポートし、その長所を徹底的に活かす形で勝ちを奪う」というのが基本戦略である。

 

 二宮隊と同じくエースをどれだけ瑕疵なく暴れさせるかが試合の鍵となっており、樹里の火力と香取の突破力を活かせる盤面を構築するのが彼女達の最も重要視する部分である。

 

 香取と樹里は共にピーキーな駒であり、爆発力は凄まじいが欠点もハッキリとしている。

 

 まず香取は格上との戦闘経験不足が挙げられ、最近は改善して来ているが積み重ねがない分はどうしても細かい所に粗として出てしまう。

 

 それを直感や生来の戦闘センスでどうにかしているのは大したものだが、いつ如何なる盤面でも十全に力を発揮出来る、というタイプでもない。

 

 勿論強引に突破を狙う事自体は可能だが、矢張りそれでは博打になってしまう。

 

 香取の強みを活かすのであれば、盤面を攪乱した上で彼女が憂いなく敵に突っ込める状況を整えるのが肝要なのだ。

 

 そしてその為に一番効果的なのが、樹里の火力による盤面攪乱である。

 

 樹里はそのトリオンにあかせた爆撃で、戦場を混乱に陥れる能力に長ける。

 

 射程もMAP全域と言っても過言ではなく、今では二種類の厄介な合成弾を撃ち分けられる事から、狙撃等の不意打ちの危険がない状態での彼女の脅威度がどれ程かは言うまでもない。

 

 火力任せの蹂躙は単純であるからこそ対応が難しく、事実これまで樹里が暴れ始めた段階で試合の趨勢は香取隊に傾く事が多かった。

 

 しかし、今回同じ手は通用しない。

 

 二宮は樹里以上の火力と、卓越した技巧によって正面からでも樹里を充分以上に迎撃出来る。

 

 樹里は火力一辺倒で技術はそこまで高くはないので、パワーで押し負けた上で技巧勝負に持ち込まれれば勝ち目はない。

 

 一方、千佳は単純に火力が高過ぎて勝負にならない。

 

 彼女のメテオラの威力は周知の通りであるし、今や解禁されている防御不可の狙撃も脅威極まりない。

 

 これまでは直接人を撃てないという縛りがあった為にそこまでの脅威ではなかったのだが、それはもう過去の話だ。

 

 どういう過程があったとしても、現在の彼女が人を撃てる事に変わりはない。

 

 故に、ある意味では今回で最大の脅威として彼女の名を挙げればならないだろう。

 

 それだけ、千佳の狙撃というのは特級の脅威足り得るのだから。

 

「けど、やりようはあるわ。今の雨取がどれだけヤバいかは、他の部隊も知ってる筈。なら、それを利用しない手はないわね」

 

 

 

 

「イコさん、今回は基本的に玉狛に的かけさせて貰うつもりで行きますんでよろしくお願いします」

「わかった。水上がそう言うんならそれでええで」

 

 生駒隊、隊室。

 

 そこでは進言する水上に対し、常と変わらぬ表情でゴーサインを出す生駒の姿があった。

 

 勿論、視線はカメラ目線。

 

 それは、いつでも変わりはない。

 

「玉狛、ヤバかったですもんねぇ。流石に前回の二の舞はアカンですし、仕方ないですわ」

「うーん、大勢で一人を囲むのはあんまし好きじゃないですけど、そうも言ってられないですかねー」

「そや。今回、玉狛を好きに暴れさせたら勝ち目なんてないんや。これはどの部隊も必ず共通認識で持ってる筈やと思うし、疑似的な共闘が成立する土壌はある。というか、それ前提でないと話にならんレベルやな」

 

 水上の言う通り、前回玉狛は()()()()()

 

 その結果として大量得点を獲得したのは事実だが、代償として全チームに最重要警戒対象として睨まれたのは否めない。

 

 今回水上はそこを利用して、玉狛に対する包囲網を構築しようと言っているのだ。

 

「ついでに言うんやったら、玉狛の脅威は雨取だけやない。ヒュースのエスクードをどうするか、いう問題もあるんや。それについては、策がないワケやないんやけどな」

 

 

 

 

「今回、ヒュースのエスクードは対策されると思うか?」

「何かしらの策は使って来るだろう。むしろ、その前提で行くべきだ。だが、そこまで問題とは考えていないな」

 

 ヒュースはそう言って、修の問いかけに答えを返した。

 

 前回の試合で、ヒュースはエスクードを用いて千佳の狙撃をサポートした。

 

 エスクードによる隔離及び視界封鎖に、防御不可の千佳の狙撃。

 

 その凶悪極まりない連携(コンボ)で敵を葬り去っているので、当然警戒はされているだろう。

 

 今回のミーティングでその点が気になった為修はヒュースに問いかけてみたのだが、結果はこの通りである。

 

「理由として、有効な対策というのが対処療法でしかないからだ。まず、大前提としてエスクードを使われると致命的な狭い場所に入り込まない、或いは開けた場所で戦う、等のやり方はあるだろう。だが逆に言えば、相手にそう思わせた時点で行動を誘導出来ている事になる。それだけでも、充分に効果はある」

「そうだな。相手の行動を操れれば、後はこっちで罠を仕掛けて釣れば良いからな。それに、ヒュースのエスクードは分かっていても引っかかる時は引っかかる。あれは、()()()()()()()()()()()()()()()類の代物だからな」

 

 二人の言う通り、ヒュースのエスクードは性能としては凶悪だ。

 

 何せ、強固な硬度と何処からでも生やせる高い汎用性を誇るエスクードが、その唯一の欠点であるトリオン消費の荒さを高いトリオン量でゴリ押す事で解決したヒュースが使って来るのだ。

 

 あまりにも燃費が悪過ぎる為に使用者が限られているエスクードであるが、ヒュースはそのトリオンが高過ぎる為にその問題を力づくで解決してしまっている。

 

 実際、凄まじい速度で地面から生えて来るエスクードをどうにかするのは至難の業だ。

 

 分かっていても引っかかってしまう事は、十二分に有り得る。

 

 ならば、注意は必要だが使っていく事に関しては問題ないと見るべきだろう。

 

「分かった。じゃあ、次の試合でもエスクードは必要に応じて使っていこう。ただ、相手の動きを見て不味そうならヒュースの判断で使うかどうか決めてくれて構わない。ヒュースなら、判断は間違わないだろう」

「了解した。その際の報告は良いな?」

「必要だと思ったらぼくから連絡する。逆に、伝えておくべきと思った事があったら遠慮なく言ってくれ」

 

 分かった、とヒュースは頷く。

 

 彼の判断能力の高さは、これまでの試合で十二分に眼にしている。

 

 任せても大丈夫だろうという信頼があるし、状況判断能力で言えば彼の方が自分より上だろうなという考えもある。

 

 修はあくまでも元一般人の戦闘訓練などボーダーに入るまで碌に経験がない身上に過ぎず、対してヒュースは近界の軍事国家の兵士だ。

 

 遠征部隊という精鋭に抜擢されていた事やこれまでの戦いぶりを見るに、踏んだ場数は圧倒的に彼の方が上だろう。

 

 何よりも修にはない戦争経験というものがヒュースにはあり、そこは大きいと踏んでいる。

 

 現代日本に於いては、戦争とは基本的に対岸の火事に等しい。

 

 周辺国家がきな臭くなる事はあるものの、日本人の中で「自分が戦争に巻き込まれるかも」なんて危惧する者は殆どいない。

 

 戦争は外国で起きる者で、自分は無関係。

 

 そういう意識の者が、大半である筈だ。

 

 だからこそ、近界との疑似的な戦争状態にあると言える三門市を見て見ぬふり、或いは放置しているのだ。

 

 ボーダーは、あくまでも()()()()()である。

 

 国の承認はなく、支援もない。

 

 政府は近界民の襲撃自体は実際に三門市が壊滅する被害が起こったのだから認識はしているが、ボーダーと積極的に手を結ぼうとはしていない。

 

 或いは修が知らないだけで組織上層部とは取引や交渉があったのかもしれないが、現時点でボーダーは国にとって非公認の組織である事に違いはない。

 

 とにかく、修は例に漏れず日本で戦争を知らない世代として生まれた人間だ。

 

 戦争は外国で起こる事であるという認識はあったし、日本で戦争が起こるという考えもない。

 

 しかし、現実に近界民が侵攻して来ており、実害も出ている以上「自分は無関係である」とは考えていない。

 

 麟児の件もあり、修は「いつ何が起きたとしてもおかしくはない」という認識を根底に持っていた。

 

 だからこそ遊真と言う本来であればこの世界の異分子に当たる存在を抵抗なく受け入れられたし、ヒュースの懐柔という策に出る事も出来た。

 

 そして味方になった以上は、その能力を十全に活かしていくのが最大の返礼であると認識もしている。

 

 故に、修はヒュースを信じる事に躊躇いはない。

 

 彼の安全性については迅が担保してくれているし、目的を同じにする以上裏切りの心配もいらないだろう。

 

 今は、試合に勝つ事のみに全力を注ぐ。

 

 それだけだ。

 

「じゃあ、具体的な作戦をもう一度説明する。まずは前提として────────」

 

 

 

 

「三雲くん、気付いてますかね? この試合、どういう展開になるかって事」

「気付いていないようならそれまでだ。もっとも、その可能性について論じるのは時間の無駄だろうがな」

 

 二宮はそう言って、犬飼の問いかけに対しため息を吐いた。

 

 主語を省いた会話であるが、二人の意思疎通は十全に為されている。

 

 このあたりは流石に、主と側近の間柄と言えた。

 

「それ、最終戦は玉狛が的をかけられる、って事ですよね?」

「そーだよ。あんだけ暴れ回って、そうならないのが不自然でしょ。多分、今回の試合は玉狛の包囲戦になる確率がかなり高い。というか、それ以外に無いって言っても過言じゃないかな」

 

 辻に話した通り、二人が論じていたのは玉狛が全部隊に狙われる、という展開だ。

 

 ROUND7で、玉狛第二はあまりにも派手に暴れ過ぎた。

 

 挙句に二宮の撃破まで成し遂げているとあっては、警戒しない方がおかしいだろう。

 

 特に、徹底的に千佳とヒュースのコンビに蹂躙された生駒隊はより強く玉狛を注視している筈だ。

 

 あそこは基本的に隊員が臨機応変に動いてそれを水上がカバーする応用力の高い戦術が印象的だが、やろうと思えば筋道立てた作戦行動も行える。

 

(多分、水上はそういう風に動いて来るだろうねぇ。彼、イコさんをああいう手段で撃破された事を結構根に持ってそうだったし)

 

 特に、二宮が指揮官としての能力を認めている水上があれだけの大敗を喫して何も対策しないとは考えていない。

 

 水上は表情には出さないが隊長である生駒への感情が非常に重く、自分の瑕疵で生駒の脱落に繋がったと認識しているのならば、本気で作戦を練って来る筈だ。

 

 生駒は自分の役割をエースのものとして割り切っており、指揮は全て水上に丸投げしている。

 

 それは偏に生駒の彼への信頼の賜物であり、だからこそ水上はそれに応えて結果を出そうとするのだ。

 

(殆どないとは思うけど、市街地以外のMAPを選んで来る展開も考慮しても良いかもね。まあ、万に一つもないとは思うけど、頭の片隅には置いておかないと)

 

 犬飼は、水上が地形戦を仕掛けて来る可能性を捨てていない。

 

 正確には、何の細工もして来ないとは思っていない。

 

 大体9割9分の確率で市街地MAPを選んで来るだろうが確定ではないし、天候を弄って来る可能性は考えられる。

 

 生駒隊は基本に忠実な戦略を旨とする部隊だが、奇策が出来ないというワケではない。

 

 これはあくまでも今期のログを中心にしか目を通す時間がなかった修とは違い、実際に何度も戦った犬飼だからこそ知っている事だ。

 

 水上は、勝つ為ならば何でもする。

 

 それを本当の意味で理解している分、犬飼が彼に対する警戒を緩める理由は有りはしなかった。

 

「そろそろ時間よ」

「了解」

「了解しました」

「行くぞ」

 

 氷見の言葉に応じ、二宮隊の面々は席を立つ。

 

 ROUND8、最後の試合が始まろうとしていた。

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