香取隊の狙撃手   作:デスイーター

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第八試合、開始

 

 

「さあ、やって参りましたB級ランク戦ROUND8! 解説は私、武富桜子がお送りします!」

 

 テンションMAXでマイクを握っているのは、ランク戦実況解説システム運営主任、武富桜子。

 

 本業はどうしたと言わんばかりに板についた実況ぶりの彼女だが、今回は特にテンションが高いように思われる。

 

 それはそうだろう。

 

 今回の試合は今期初参加ながら破竹の勢いで順位を伸ばし、遂にB級二位以内という目標を圏内に収めた玉狛第二。

 

 前回の試合まではB級一位に君臨していた二宮隊に加え、今期特に注目株と言って良い香取隊まで参加しているのだ。

 

 ランク戦実況解説の立役者として、これ程遣り甲斐のある仕事はないだろう。

 

「解説には太刀川隊より太刀川隊長、更に玉狛支部より木崎隊長と小南隊員に来て頂いております!」

「よろしく頼むぜ」

「よろしく頼む」

「よろしくね」

 

 加えて、解説の人員も豪華だった。

 

 A級一位の太刀川隊の隊長であり、個人総合一位でもある太刀川。

 

 ボーダー最強と謳われる玉狛第一の隊長にして唯一無二の完璧万能手(パーフェクトオールラウンダー)であるレイジに、その部隊のエースである小南。

 

 戦力的にも知名度的にも、文句なしの人員であった。

 

 なお、今回に限り解説が三人なのは小南だけでは玉狛(みうち)贔屓の発言が横行すると思われるので、その抑えの意味もある。

 

 太刀川はそういう時にストッパーになるタイプではないし、小南の側も現行の一位である彼に対し対抗心が強いので、制止役となれるメンバーが必要となったのだ。

 

 小南の身内贔屓発言連呼(しゅうたい)を視た迅による進言により実現した、実情はちょっと情けない選出であったりする。

 

 とはいえ、外野にとってはそんな事は関係ない。

 

 これだけのビッグネームが揃ってて、盛り上がらない方がどうかしている。

 

 元々、試合自体の注目度も高いのだ。

 

 そこに実力的にも知名度的にも猛者揃の面子が集まれば、否が応でも熱気が高まるというものだろう。

 

「さて、では改めて現在のランキングを確認しましょう。なお、昼の部のポイントを加算するとややこしい事になるので、あくまでもROUND7終了時点でのランキングである事を留意して下さい」

 

部隊順位得点
香取隊 1位45Pt 
二宮隊 2位40Pt 
玉狛第二 3位38Pt 
影浦隊 4位34Pt 
弓場隊 5位28Pt 
生駒隊 6位27Pt 
王子隊 7位27Pt 
東隊 8位27Pt 
鈴鳴第一 9位27Pt 
諏訪隊 12位25Pt 
漆間隊 11位20Pt 
那須隊 12位18Pt 
荒船隊 13位17Pt 
柿崎隊 14位15Pt

 

 桜子の説明と共に表示された順位表を、観戦者の面々は食い入るように眺めている。

 

 それだけ、前回の結果というものは注目に値するものであったのだから。

 

「前回の試合結果により、なんと香取隊が一位に繰り上げとなっています。二宮隊は二位、そして玉狛第二が三位となっておりますね」

玉狛(ウチ)の子達のポイントも、二宮隊と二点差になってるわ! 何せ、前回で完勝したからね!」

「とはいえ、二点のリードをされている事に変わりはない。どの部隊にとっても、今回の試合が勝負どころだろうな」

 

 早速身内贔屓発言を行った小南に対し、レイジがすかさず公平な視点からのフォローを入れる。

 

 それでも若干身内寄りに見えなくもない発言だが、あまり小南を刺激し過ぎるとヒートアップして発言がどんどんエスカレートしかねないので、良い塩梅ではある。

 

「前回の試合は、本当に驚きでしたよね。まさか、二宮隊を倒してしまうなんて夢にも思って────────いえ、これは言い過ぎですね。想定外にも程がありました」

「ああ、雨取の派手さに目を奪われがちだったろうが、作戦もちゃんと練っていた。そうでなければ、二宮は倒せなかっただろうな」

「ありゃ確かに驚いたぜ。あんな方法、誰も想像してなかったもんな」

 

 出水も驚いてたぜ、と太刀川が補足する。

 

 彼等が言っているのは、修がアステロイドと見せかけたハウンドで二宮を打倒した件であろう。

 

 トリオンの少なさという致命的な弱点を武器に変え、最強の射手を打ち倒したあの手法は様々な意味で修にしか出来ないやり方だ。

 

 弱さを武器とする、という奇想天外なやり口は千佳の蹂躙に目を向けられがちだった試合の中で、一際異彩を放っていた。

 

「二宮が残ってれば、まだ試合がひっくり返る目があった。それを潰したのは、快挙って言っていいだろ」

 

 何せ、あの試合を決定付けたのは間違いなくこの二宮落としであったからだ。

 

 確かに試合の流れを掴んだのは、千佳の狙撃だろう。

 

 だが、二宮さえ生存していればそのトリオン量と技巧でひっくり返す可能性は有り得た。

 

 千佳はトリオン量こそ莫大だが、反面技術は拙い。

 

 それなりに成長して来てはいるが、射手トリガーの扱いは素人同然と言って良い。

 

 玉狛にいる射手は修だけだし、彼は人に教えられるような技術レベルではないので、レイジが一般的な知見から指導をしたに留まっている。

 

 一応小南は射手トリガーのメテオラを扱うが、彼女の指導方法は「とにかく身体で覚えろ」なので、間違っても射手トリガーの使い方の指導など担当させられない。

 

 なので、千佳に出来るのは普通にキューブを分割して撃つくらいであり、弾速や威力の調整を行おうとすれば相応に時間がかかってしまう。

 

 ちなみに狙撃手としての千佳はどうなのかというと、狙撃手というポジション自体が問題になる。

 

 狙撃手は基本的にバッグワームを纏い、居場所を隠しながら狙撃銃を構えるのが常だ。

 

 なので、狙撃の際にはスコープを覗く為に極端に視界が狭くなり、そこに攻撃が来るとシールドを張るか、即座に逃げるしかなくなる。

 

 千佳の機動力は優れているとは言い難く、遅くはないが素早く逃げられる程ではない。

 

 少なくとも、攻撃手と1対1の追いかけっこをした場合どちらが勝つかは明白だ。

 

 樹里であれば可能な寄られた場合の自衛も難しいので、近付かれた時点で詰みと言って良い。

 

 もっともヒュースが護衛として就いていたので実際はかなり強固な布陣ではあったが、彼は弾トリガーを片側にしか積んでいない。

 

 トリオン量こそ二宮の上を行くヒュースであるが、いざという時両攻撃(フルアタック)が出来るか否かは流石に雲泥の差がある。

 

 加えて、一度二宮の弾幕に捕まれば彼であっても削り殺される。

 

 二宮の攻撃を凌ぐには全力でシールドを張る他なく、幾ら強固なシールドであろうと高い威力の攻撃を受け続ければ流石に割れる。

 

 故に、二宮さえいれば逆転の目はあったのだ。

 

 それを修という一見して弱い駒が二宮という大駒を落とした事で、その目が完全に潰えたのだ。

 

 試合を決定付けたという意味では、修こそがMVPであると言っても過言ではないだろう。

 

 少なくともこの場に集った者達は、それを理解していた。

 

「さて、そういう経緯もあり、今回の試合で全てが決まると言っても過言ではありません。特にB級二位以内を目指しているという玉狛第二と、今回一位に躍り出た香取隊には期待したいところですね」

「ええ、存分に期待して頂戴。玉狛(ウチ)の子達は、凄いんだから」

 

 ふんす、と胸を張る小南だがレイジはそれをため息を吐きながら見ている。

 

 彼女の保護者役としてやって来たレイジであったが、この調子では案の定試合中は身内贔屓の発言塗れになりそうだ。

 

 分かっていた事ではあったが、この試合中で何度玉狛(ウチ)という発言を聞く事になるのだろうな、とレイジは一人思うのだった。

 

「さて、今回MAP選択権のある生駒隊の選んだMAPは市街地B。市街地Aと比べると射線が通ったり通らなかったりする地形ですけど、割とオーソドックスなMAPではありますね」

「生駒隊なら、そこまでMAP選択で奇はてらわないだろう。あそこはあくまでも基礎力、応用力で勝負する部隊だ。分かり易い奇策には走らないだろう」

 

 だが、とレイジは続ける。

 

「市街地AではなくBを選んだ以上、何かしら理由があってもおかしくない。もっとも、単に戦い慣れているから、という理由であっても驚きはしないがな」

 

 

 

 

「MAP、本当に市街地Bで良かったんです? もっと奇抜な地形じゃ駄目なんですか?」

「これでええんや。玉狛や香取隊相手に変な地形選ぶと碌な事にならんのは、これまでの試合が証明しとる。やからあくまでも、地形()()勝負はせん。やるのは、それ以外や」

 

 水上は南沢の疑問に対し、丁寧にそう答えた。

 

 成る程、と分かっているようで理解を放棄している南沢を他所に、隠岐は難しい顔をしていた。

 

「ですけど、そうなると玉狛を囲い込む、ってのも難しくなりません?」

「逆や。癖のあるMAPを選んでまうと、地形の把握に神経を使って疑似的な共闘がおざなりになりかねん。やからあくまでも慣れたMAPを使って、そっちに意識を集中させなあかんねん」

「やったら、市街地Aにせんかったのはなんでです? そっちの方が、皆慣れてるといえば慣れてるでしょ」

 

 隠岐の疑問は、ある意味当然だ。

 

 慣れたMAPを使って包囲網を作る事に神経を集中させるのならば、市街地Bより市街地Aの方が的確だろう。

 

 今期初参加の玉狛はともかくとして、他の面々は市街地Aでの戦闘など幾らでもやり慣れている。

 

 市街地Bは市街地Aと比べれば多少複雑な地形と言えなくもないので、そういう意味で前者を選ぶ意味に疑問を持つのはおかしい事ではない。

 

「雑念がなさ過ぎるのもアカンねん。試合は玉狛を囲って終わりやないんや。点を取らな意味がないんやから、追い込みに意識を向けつつ余計な事を考えさせないくらいが丁度良いんや」

 

 それにや、と水上は続ける。

 

「地形が平た過ぎると、爆撃の脅威度が跳ね上がってまう。今回は俺等以外の全チームに、えぐい威力の爆撃の使い手がおんねん。ROUND5では市街地Bやったけど、好き勝手やられたやろ? あれが市街地Aになると、障害物を使った逃げも全く通用しなくなんねん。やから、市街地Aだけはナシやな」

 

 水上が言っているのは、二宮と千佳が爆撃の撃ち合いを行いながら隠れている隊員を炙り出し、各個撃破していくという流れになったROUND5の話だ。

 

 あの試合で二者の爆撃の脅威を嫌という程味わった身だが、それでも市街地Bというある程度複雑な地形のお陰でそこそこ凌げた部分はあった。

 

 それが完全な平面に近い市街地Aになるとどうなるかは、自明の理だ。

 

 流石にそれだけは避けたいというのが、水上が市街地Aを選ばなかった理由である。

 

「まあ、そうは言うたけど今回は爆撃の撃ち合いになる可能性は低い思うとるで。流石に、リスクが大き過ぎるからな」

 

 

 

 

「これまでに大規模な爆撃や前回のような強力な狙撃で勝ちを奪って来た玉狛第二ですが、今回もそういった戦略を取るのでしょうか?」

「少なくとも、いきなりROUND5でやったような爆撃合戦になる可能性は低いだろう。むしろ序盤は、潜伏戦になって場が膠着する可能性が高いと見ている」

 

 レイジはそう言って、桜子の問いに答えた。

 

 小南もそうね、と頷く。

 

「確かにあの戦術は強いには強いけど、隙があるもの。多分、狙撃手が生きてる間は派手な事はしないと思うわよ」

 

 身内贔屓発言が目立っているが、小南はこれでも本物の戦争を経験した猛者である。

 

 戦術の話になれば冷静になるし、公平な視点も持てる。

 

 但し、仲間の話になれば自然と(ナチュラルに)身内贔屓発言を連発するというだけだ。

 

 感情移入能力や感受性が高過ぎるのが、小南の難点と言える。

 

「ROUND7でも、狙撃手がいなくなるまではひたすら潜伏していたしな。今回の試合では、二宮隊以外の全てに狙撃手が在籍している。この狙撃手の使い方が、試合の趨勢を分けると言っても過言ではないだろうな」

 

 

 

 

「取り敢えず、当初の方針で良いです? 狙撃手はある程度残す、っていう」

「そうだ。少なくとも、隠岐か木岐坂のどちらかは残す。雨取をどうにか出来るまではな」

 

 二宮はそう言って、ふん、と鼻を鳴らした。

 

「雨取が強力な狙撃を使えると言っても、カウンター狙撃(スナイプ)だけはどうしようもない。今回も空閑かヒュースのどちらかを護衛にしている可能性が高いが、それも転送位置次第だ。あいつ等が、そこに気付かない馬鹿とは思えん」

「そこは同感ですね。まあ、欲を言えば樹里ちゃんは早めに片付けておきたいですけど」

「隠岐はさほど隠密を重視しないタイプの狙撃手だ。加えて、グラスホッパーを使って高所を取りに動く以上どうしても他チームの目に留まる機会は多くなる。どちらがより落とされ易いかで言えば、明瞭だろうな」

 

 今回の試合では、千佳に好き放題動かれないように狙撃手という抑止力を残すのは半ば必須である。

 

 問題は二宮隊に今は狙撃手がいない事だが、そこは他チームを利用すれば良い。

 

 だが、隠岐と樹里のうち前者はグラスホッパーで積極的に動き回って高所を取るのが常套手段である為、どうしても他者の目に留まり易い。

 

 生存力自体も自衛が出来る樹里と比べればどちらが上かは言うまでもなく、消去法で樹里を残さざるを得ないだろうというのが結論だった。

 

「犬飼、盤面の調整はお前に任せる。必要だと思ったのであれば、こちらでも動く。それだけだ」

「了解しました。辻ちゃん、協力よろしく」

「了解」

 

 

 

 

「樹里、例のトリガーは大丈夫?」

「問題ない。前も使ってた事あるし、扱いも思い出した」

 

 樹里はそう言って、ふんす、と胸を張って香取に答えた。

 

 それを見て本当でしょうね、と胡乱な眼をしつつも、香取ははぁ、とため息を吐いた。

 

「アンタがいけるって言うから許可したけど、本当に万一の時の為の隠し札なんだからね。そこは忘れないでよ」

「大丈夫。わたしは、ぶっ放す方が好き」

「それも自重しろって言ってんの。雨取の位置が分かるまでは、なるだけアンタの位置は隠しておきたいんだから。気を付けてよね」

 

 ん、と言いながら頷く樹里を見て香取は再度ため息を吐く。

 

 この幼馴染の火力狂い(トリガーハッピー)ぶりを考えると甚だ怪しいが、少なくとも自分達の指示には従うだろう。

 

 これが一時的な混成部隊とかなら勝手に独断専行しかねないんだろうな、と思いつつ香取は眼を細めて仲間を見回した。

 

「泣いても笑ってもこれがラスト。気合い入れてくわよ、皆」

 

 

 

 

「そろそろ開始時間となります。全部隊、転送開始!」

 

 桜子の宣言により、仮想空間への転送が開始される。

 

 ROUND8、今期最後の試合が始まろうとしていた。

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