香取隊の狙撃手   作:デスイーター

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生駒隊Ⅶ

 

 

『全部隊、転送完了』

 

 アナウンスが響き、同時に樹里はビルの上に降り立った。

 

 バッグワームを纏いつつ、少女は街を見渡す。

 

『MAP、市街地B。天候、晴天』

 

 街並みを照らすのは、雲一つない青空から照射する日光。

 

 最終戦、その舞台が白日の下に晒された。

 

『皆、始めるわよ』

「了解」

 

 香取の号令に樹里は頷きつつ、移動を開始する。

 

 ROUND8、その始まりの幕が上がった。

 

 

 

 

「さて、始まりましたROUND8! 気になるのは、晴天という天候でしょうか?」

「あまり選ばれる事のない天候だからな。説明しておいた方が良いだろう」

 

 レイジはそう言って、桜子に相槌を打った。

 

 玉狛支部としてランク戦から離れているとはいえ、情報収集は欠かしていない。

 

 この程度の説明は、特に問題はなかった。

 

「晴天は、見ての通り雲一つない青空、といった風情の天候だ。暴風雨や吹雪のような視界封鎖も、雪のような足場の悪化もない。そういう意味では、影響の少ない天候と言えるだろう」

「強いて言えば、()()()()()()()ってくらいかしら? とは言っても、直接空を見なければ大丈夫っぽいけど」

「成る程、ありがとうございました」

 

 桜子はそう言って、説明をしてくれた二者に礼を言う。

 

 こういった説明は、解説の隊員にやって貰った方が色々と都合が良い。

 

 レイジと小南は現在ではランク戦から離れているが、それでも戦闘員の一人だ。

 

 実際に戦う者が説明をした方が、隊員視点で話してくれるので聞き手としても受け入れ易いだろう。

 

 実況役のオペレーターはあくまでも全体の進行と都度のリアクション、必要に応じたシステム的な説明に集中するべきであり、戦術面やこういった所感に関しては解説役に振った方が良いのだ。

 

 ランク戦の実況解説の責任者として、そのあたりの機微は心得ている。

 

 伊達に一人で上層部にプレゼンし、実況解説システムを実現させた立役者ではない。

 

 貰った責任はきっちり果たすという自負くらいは、当然のように持ち合わせているのだから。

 

「では、生駒隊がこの天候を選んだ理由についてはどうでしょうか?」

「まだ分からないな。今言った通り、戦場に対する影響と言う観点から見れば低い天候だ。小南の言う通り()()()()()()()()()という点が気にはなるが、現段階ではどのような作戦なのかは憶測の域を出ないな」

 

 了解です、と桜子は頷く。

 

 まだ、試合は始まったばかり。

 

 天候の説明に割く時間は、このくらいで良いだろう。

 

「今のところ、静かな立ち上がりですね。全員、バッグワームを用いて潜伏しています」

「今回の試合では、開幕から目立つ必要がないからな。むしろ、位置特定をされた者から不利になると言っても過言じゃない。人数が多い上に、二宮隊以外の全チームには狙撃手が在籍しているからな。迂闊に動けば、それだけリスクが上がるだろう」

 

 二人の言う通り、現在全員がバッグワームを装着しレーダーから姿を消している。

 

 観戦側である為各々の隊員の位置は表示されているが、実際に戦っている者達のレーダーには何も反応が映っていない筈である。

 

 今回の試合は、四つ巴。

 

 しかも四部隊中三部隊には狙撃手が在籍し、ただ動くだけでも視認される危険は上がる。

 

 この展開は、ある意味当然と言えた。

 

「それに、参加してる四チーム中三チームが四人部隊だからね。人数が多い分、居場所が割れた時に囲まれる危険性が跳ね上がるわ。そういう意味でも、動き難いでしょうね」

 

 今回の参加チームの中で、玉狛第二、香取隊、生駒隊が四人チームである。

 

 人数が増えるという事はそれだけ囲い込む為の人員が増えるという事でもあり、転送場所によっては居場所が割れた時点でこの人数を一人で相手しなければならない。

 

 そういった意味でも、バッグワームを使うのは当然と言えた。

 

「けど、ただ潜伏を続けるだけだったら玉狛第二(ウチ)が有利ね。モタモタしてる間に、ワイヤーを仕掛け放題だわ」

「それは、香取隊にも言えるだろう。この二チームは、戦場に罠を仕掛けて状況構築を行っていく事に長けている。膠着状態が続けば、この二者の有利になるだろうな」

 

 とはいえ、とレイジは続ける。

 

「それは、このまま誰も見つからなければ、の話だ。生憎、そう都合良く進むとは限らないぞ」

 

 

 

 

『ぼくはこのままワイヤーを仕掛けて回る。ヒュース、そっちはどうだ?』

「千佳とは距離が離れ過ぎている。合流は現実的ではないな。そう動いても良いが、その場合居場所が割れた時に袋叩きされてそれに千佳を巻き込む恐れがある。恐らくだが、今のオレの場所は囲まれ易い場所だろうからな」

 

 ヒュースはそう言って、修の質問に答えた。

 

 彼の返事に修は通信越しになる程、と得心したように頷く気配を見せた。

 

『空閑を向かわせるか?』

「いや、遊真は遊撃でこそ活きる駒だ。現段階で居場所を晒すメリットがない。オレの位置は、恐らく遠くない段階で敵にバレる。そういう前提で動くべきだろう」

 

 そう言って、ヒュースはチラリと雲一つない青空を見据えた。

 

 直視はしていないまでも照りつく太陽の光が眩しく、思わず目を細める。

 

 その日差しの強さに、ヒュースは思うところがある様子だった。

 

「この天候を選んだ理由も、大体察しがついた。恐らくは────────」

 

 

 

 

「────────見付けました。ヒュースです」

『おう、他に誰かおるか?』

「今んトコヒュースだけですね。他は見当たりません」

 

 了解、と通信越しに水上の声を聴く。

 

 現在、隠岐は、開始早々グラスホッパーを多用して素早く高所に陣取り、周囲の状況を俯瞰していた。

 

 かなり大胆にグラスホッパーを使ったのだが、今のところ他からの反応はない。

 

 ()()()()()()()、この天候を選んだ理由は機能しているようだった。

 

『始めるで。ヒュースが40メートル圏内に入ったら、教えろや』

「了解」

 

 

 

 

(そろそろか)

 

 ヒュースは路地を走りながら、周囲へ警戒を続ける。

 

 彼の予想通りであれば、もう間もなく。

 

 開戦の狼煙が、挙げられる筈だからだ。

 

『ヒュースくん!』

「…………!」

 

 千佳の通信を受け、ヒュースは即座に動いた。

 

 その場で大きく跳躍し、次の瞬間。

 

 家屋の向こう側から振るわれた斬撃が、ヒュースのいた場所を横に薙ぎ払った。

 

 神速の抜刀、拡張斬撃。

 

 生駒旋空。

 

 それが振るわれ、ヒュースは間一髪でそれを回避する事に成功した。

 

「…………!」

 

 だが、これで終わりではない。

 

 物陰から飛び出した南沢が振るった弧月を、ヒュースは自身の刃で受け止める。

 

 南沢は受け太刀をされた瞬間即座に後ろに飛び退き、着地。

 

 数メートルの距離を空けて、ヒュースと対峙した。

 

「────────!」

 

 そこへすかさず、無数の弾丸が叩き込まれる。

 

 咄嗟にシールドを張り、ヒュースはそれを防御。

 

 水上によるハウンドを、難なく防ぎ切った。

 

「…………!」

 

 されど、これで終わる筈もない。

 

 そこへ再び、南沢が斬りかかる。

 

 その逆方向からは、水上が光弾を無数に従えて襲い来る。

 

 射出。

 

 南沢の斬撃を刀で受けたヒュースはそのまま力を受け流し柔術の要領で互いの位置を入れ替え、離脱。

 

 ヒュースの身体を追い越す形になってしまった南沢は味方の射撃(フレンドリーファイア)の脅威に晒され、慌ててシールドを張り防御。

 

 バランスを崩した南沢に対しヒュースは追撃を────────しない。

 

 即座にその場から左へ飛び退き、上段から振り下ろされた旋空を回避する。

 

 拡張斬撃を撃ち放ったのは無論、瓦礫の向こうにいた生駒である。

 

 もしも南沢への追撃を優先していれば、今の攻撃を避け切れずに被弾していただろう。

 

 この場に生駒がいる事は最初の攻撃で知っていたのだから、当然の判断ではある。

 

 されど、点を取るチャンスというものはそういった前後の情報を一瞬忘却してしまうだけの誘因力がある。

 

 分かっていた筈なのに、思わず手を伸ばしてしまう。

 

 点取り合戦であるランク戦に慣れた者程陥り易い、試合故の陥穽。

 

 されど、ヒュースは元々軍人。

 

 生きて帰るまでが仕事である以上、深追いは厳禁という鉄則は心得ている。

 

 兵士は死を恐れてはならないが、徒に兵という資源を消耗するのは愚の骨頂だ。

 

 それを理解出来ない兵は重用されないし、信頼もされない。

 

 便利に使って貰ってこそ、兵士は真価を発揮出来る。

 

 その事を理解しているが故に、ヒュースは間違わなかったのだ。

 

「…………」

 

 だが、これでヒュースは生駒隊の三人に囲まれる形となった。

 

 ヒュース個人の実力は非常に高いが、生駒隊の三人は誰も彼も一筋縄で行く相手ではない。

 

 幾らヒュースとて、多対1の状況ではどちらが有利かは言うまでもない。

 

(全員、隙がないな。矢張り、前回暴れ過ぎた為か)

 

 加えて、前回の試合でヒュースに散々煮え湯を飲まされた生駒隊に、一切の油断はない。

 

 あの南沢でさえ、警戒した目つきでこちらを見据えている。

 

 生半可な手では、この包囲網を抜ける事は叶わないだろう。

 

(ある意味、想定内ではある。それにこれで、奴等がこの天候を選んだ理由も確定したと言って良い。恐らく────────)

 

 

 

 

「おおーっと、ヒュース隊員が生駒隊と接敵! 三人の生駒隊員に囲まれてしまった!」

「成る程、そういう事か」

 

 レイジはそう言って、得心したように頷く。

 

 小南もそうね、と同意するように頷いた。

 

「この晴天って天候は、()()()()()の為ね。正確に言えば、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()を作る事が目的だったみたい」

「あの天候では上を見上げると直射日光を視認してしまい、眼が眩んでしまう。だからこそ、()()()()()()()()()()()()()()()()()()んだ。つまり」

「────────グラスホッパーを装備した機動力特化の狙撃手は、その強みを最大限活かす事が出来る。そういう事ね」

 

 今回の天候、晴天は雲一つない青空だ。

 

 それはつまり、直射日光を遮る障害物が天空に存在しない事を意味している。

 

 そんな状況で空を見上げてしまえば、幾らトリオン体といえど目が眩むのは避けられない。

 

 トリオン体は膂力等は常人離れしたものを発揮出来るが、生身の肉体の生理反応や生体反射は忠実に再現されている。

 

 これはその再現を怠るとトリオン体に不具合が生じるケースが非常に多かったという経緯があり、再限度に関しては生身の身体とほぼ遜色ないレベルまで仕上がっている。

 

 だからこそ、「日光で目が眩む」という肉体の反射行動もそのままだ。

 

 そもそも、トリオン体は超人になれるワケではない。

 

 膂力が強化される為人間離れした真似も出来るが、強度に関しては画一的であり、日光を自動的に遮断するような機能は備わっていない。

 

 人間の生態反応がそのままである以上、戦闘中に目が眩むという大きな隙を晒す事は出来れば避けたいだろう。

 

 だからこそ、この天候下では「空を見上げ難い」。

 

 故に、高所を取った狙撃手が視認される可能性は低く、更にはグラスホッパーを装備し機動力を強化している隠岐はいつもよりずっと見付け難くなっている。

 

 高所に上がる時だけ見られないように気を付ければ、その後発見される可能性は低くなる。

 

「グラスホッパーを使って素早く高所を取り、そこからの俯瞰視点でヒュースを発見。その位置を伝達し、包囲戦に繋ぐ。やっている事は基本に忠実だが、この天候がそれを最大限にサポートしていると言える。空を見上げさえしなければ直射日光による目眩ましの被害は受けない以上、隠岐にデメリットはないからな」

 

 そして高所を取った以上、スコープで戦場を俯瞰し情報をチームメイトに伝える事が出来るようになる。

 

 そうしてヒュースを発見した隠岐はその位置を仲間と共有し、こうして包囲するに至ったのだ。

 

 上から下を見る分には、直射日光があっても関係が無い。

 

 晴天という天候の特徴を巧く使った、堅実だが有効な策であった。

 

「けど、玉狛第二(ウチ)の子達もそれに気付いていたみたい。だから千佳はさっさと高所に上がったし、結果的に生駒さんを発見出来てヒュースに警告も出来た。完全にしてやられてるワケじゃないわ」

 

 だが、状況から見るに玉狛側もその作戦には気付いていた節がある。

 

 初撃の生駒旋空は、そうでなければ回避出来ないからだ。

 

 あの時、MAP上では誰一人としてレーダーに映っておらず、相手の位置を判断出来る材料が殆どない状態であった。

 

 そんな中でバッグワームを纏ったまま生駒旋空を放たれれば、察知する間もなく斬られるだろう。

 

 されど、今回千佳が高所から生駒の姿を発見した事でヒュースへの警告が間に合い、事なきを得た。

 

 玉狛第二にとって虎の子である千佳を単独で高所に上げるという選択をした以上、彼等もまた晴天という天候の影響については理解していたと思われる。

 

 やられてばかりではない、という事だ。

 

「だが、生駒隊に囲まれた事には変わりがない。幾らヒュースとはいえ、手練れ三人相手では厳しいだろう」

 

 それに、とレイジは続けた。

 

「ヒュースは、前回の試合で十二分に脅威性を見せつけている。あいつを倒したい奴は、別段生駒隊だけってワケじゃあないだろうからな」

 

 レイジはそう言うと、スクリーンを見据えた。

 

 観戦用に全員の位置が表示されたその映像には、一ヵ所に向かって進む無数の光点が記されていた。

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