香取隊の狙撃手   作:デスイーター

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生駒隊Ⅹ

 

「おおっと、ここでヒュース隊員左足に被弾! 両足を失い、万事休すか!?」

「むしろ良く保った方だな。というか、なんでアレで死んでないんだ?」

 

 ぐぬぬ、と太刀川の言葉に反応し小南がぷるぷると拳を握り締める。

 

 映像の中で片手両足を失い尚も戦い続けるヒュースを見て、小南は気が気でないようだった。

 

 感情移入能力が高く、身内贔屓全開な彼女にとって仲間が戦っているにも関わらず見ているだけしか出来ないこの状況は歯痒いのだろう。

 

 今も脳内で、「アタシが飛び込めれば解決出来るのに!」などと考えているに違いない。

 

 勿論感情的な妄想には違いないが、実際にそれだけの実力を持っているだけに至ってしまう思考なのだろう。

 

 レイジが隣にいなければ、きっと色々と口を滑らせてしまっていたに違いなかった。

 

「しかし、エスクードで車を飛ばして攻撃を妨害するってのは斬新だったな。ああいう使い方も出来たんだな、って感心したぜ」

「ヒュースの応用力の成せる技だな。元々、エスクードはその性質上出来る事の幅が多い。それを実戦の中で活用し、状況に応じた使い方が出来るのは明確な武器だ。アイツのトリオン量なら、燃費の問題も解決出来るしな」

 

 車をエスクードで飛ばす、という使い方は流石の太刀川も感心したらしい。

 

 レイジが言うように、エスクードは元々応用性の広いトリガーだ。

 

 これまでは最悪に過ぎる燃費の問題で使用者が皆無に近かったが、ヒュースは持ち前の豊富なトリオン量でそれを解決している。

 

 だからこそこれまで知られていなかったエスクードの脅威性が前面に出ているのであり、前ROUNDの千佳との連携などは最たるものだ。

 

 もっとも、その活躍が原因で此処まで徹底的に追い込まれているのだから、善し悪しではあるが。

 

「けど、吹っ飛ばされながら生駒旋空を決めた生駒も流石だな。着地や体勢の立て直しを全部捨てて攻撃に注ぎ込んだ判断は褒めるべきだろ」

「この状況下なら、着地後の隙はそこまで心配する程でもないしな。むしろ、あそこでヒュースに時間を与える方が問題だった。生駒は、そう判断したのだろう」

 

 だが、その奇策を以てしても生駒は揺るがなかった。

 

 彼は着地や体勢の立て直し等の一切を放棄し、ただ旋空を放つ事に全力を注いだ。

 

 車に衝突して吹っ飛ばされている最中という状態で、生駒旋空を放つ。

 

 その咄嗟の判断のお陰もあり、ヒュースに時間を与えるどころか彼の最大の隙を作る事に成功した。

 

 結果、二宮の弾幕と狙撃の二重攻撃により、彼の足を奪う事が出来たのだから。

 

「生駒旋空自体は回避出来たが、そこを二宮の弾幕に狙われた上でシールドの上から隠岐のアイビスを叩き込まれた。下手に牽制などをせず、此処まで忍んでいたのが役に立ったな」

「かなり忍んでたわよね、隠岐(おっきー)。いつもなら、とっくに撃って来ててもおかしくないのに」

「それだけヒュースを倒すチャンスを狙ってた、って事だろ。牽制用の人員は充分揃ってたし、狙撃手の使い方としてはベストじゃないか?」

 

 普段の隠岐であれば、生駒隊の波状攻撃に合わせる形でとっくに撃っていたとしてもおかしくなかった。

 

 それをしなかったのは、偏に狙撃という奇襲性の高い攻撃を最大限活用する為だ。

 

 隠岐はグラスホッパーを装備した機動型狙撃手であり、彼は基本的に見つかる事を恐れない。

 

 位置バレしたとしてもチームの利益となるのならばそれで良いと割り切っているし、グラスホッパーがあるのでいざとなれば逃げれば良いと思っている。

 

 むしろそれで相手の動きを誘導出来るのであれば御の字とも考えており、他の狙撃手よりも引き金は軽い方だ。

 

 だが今回はそれをせず、此処まで潜伏を続けた。

 

 それは前回の試合の結果もあり、普段通りの動きでは駄目だという考えだったのだろう。

 

 ヒュースはROUND7で千佳と連携を行い、文字通りの蹂躙を行った。

 

 その発端は隠岐という狙撃手がいなくなった事であり、彼はその光景をただ見ている事しか出来なかった。

 

 だからこそ、このヒュースを仕留める最大の好機を逃すワケにはいかない。

 

 そういう考えもあり、隠岐に潜伏を選択させたのだろう。

 

 彼は比較的引き金が軽いだけで、隠密能力が低いというワケではない。

 

 故に全力で潜伏に徹すれば身を隠す事は造作もなく、こうして結果に繋がったのだ。

 

「でも、あそこで仕留めるんじゃなくて足を狙ったのは何故かしら。やっぱり、急所だと凌がれると思ったのかしらね」

「恐らくそうだろうな。急所というのは、常に守るべく意識を向ける場所だ。当然他の部位への攻撃よりも警戒度は高く、ヒュースならあの状況であってもそこを狙われれば反応しただろう。だからこそ、隠岐は足を狙った。確実にヒュースの逃げ手を潰し、着実に追い込む為にな」

 

 今回、隠岐には足ではなく胸や頭等急所を狙う選択肢もあった。

 

 それをしなかったのは、ヒュースに万が一にも攻撃を無傷で凌がれる可能性を消す為だ。

 

 急所への攻撃は、基本的に成功し難い。

 

 一発で退場となる急所である頭部や胸部への攻撃は、常に警戒を配っている。

 

 それらの部位への攻撃に対する反応は当然過敏であり、あの状況下であっても凌がれる可能性があった。

 

 だからこそ隠岐は必殺の一撃ではなく機動力の要であるもう片方の足を奪う事に専念し、結果として成功した。

 

 B級上位らしい、クレバーな判断と言える。

 

「これでヒュースは両足を失った。脱出の可能性は消え、遠からず脱落するだろう」

 

 だが、とレイジは続ける。

 

「アイツは、ただで落ちるような奴じゃない。恐らく、何か仕掛けて来るだろうな」

 

 

 

 

(これで足は完全に奪った。ほぼ詰み、の筈やけど油断は出来へん)

 

 ヒュースは両足を失い、最早脱落は秒読みのように思える。

 

 しかし、だからといってそれが容易いなどとは口が裂けても言えない。

 

 何せ、これだけの数の手練れに囲まれながらも未だに生き延びているのだ。

 

 普通であれば、最初の生駒旋空後の波状攻撃で落ちている。

 

 にも関わらずそれを生き延び、あまつさえ二宮や三浦まで加わった現状でもなお耐える異様なしぶとさを見せている。

 

 最早常識外れと言って良い、凄まじいまでの生還能力。

 

 直にそれを見て来た水上としては、此処まで追い詰めてなお油断など欠片も出来ない相手であった。

 

(片腕と両足が欠けた言うても、アイツにゃ射撃トリガーがあるしエスクードも使える。移動出来へんようになっても、やれる事はまだあるんや。下手に隙見せたら、何人持ってかれるかわからへん。なるだけ犠牲を少なく、片付けるのが一番やな)

 

 此処まで追い込めば、流石に落とせはするだろう。

 

 だが問題は、それまでにどれだけ被害を撒き散らされるかだ。

 

 最早移動もままならないとはいえ、射撃トリガーやエスクードは問題なく使えるのだ。

 

 ヒュースは、エスクードを足でも起動出来る。

 

 両足を奪ったとはいえ地面にその断面が付いていれば、恐らく使えはするだろう。

 

 エスクードに関しては参考資料、というよりも情報が少ないので確かな事は言えないが、使用条件は恐らく「地面や壁に身体の何処かが接している事」だ。

 

 今まで代表的なエスクード使いだった烏丸は地面に手を突いて使用していたのでそれこそが起動モーションだと考えられていたが、先程ヒュースが足を使って展開した事でその前提が間違っていたのだと気付かされた。

 

 手を使うのはあくまでそれが最もやり易いだけであって、処理能力が足りてさえいれば足であっても使用に問題はないのだ。

 

 そして地に足が着いているという条件は、その足が移動に使えない状態であっても恐らくは満たされる。

 

 よって、エスクードの脅威は未だ健在。

 

 ヒュースを倒す上で最も障害となるのが、このエスクードである事に違いはないだろう。

 

(けど、移動が出来へんようになったいう事は旋空が一番効果的な筈や。とは言うても、さっきの曲芸で凌がれる可能性はある。ただ旋空を撃ったとしても、対処されて終わりそうやな)

 

 現在、ヒュースは両足を奪われほぼ移動出来ない状態にある。

 

 ならば防御不可の攻撃である旋空を用いれば必殺出来るように思えるが、彼には先程見せた曲芸じみた剣術がある。

 

 まさか生駒旋空を「ズラす」などという芸当が出来ようとは流石に思っていなかっただけに、あの光景には度胆を抜かれた。

 

 強いとは聞いていたが、あんな真似が出来るとは思ってもみなかったのだ。

 

 純粋な技術による、生駒旋空への対処。

 

 避けるのではなく、攻撃の軌道を僅かにズラす事での対応。

 

 様々な実力者を見て来た水上にとっても、あの技巧が最高峰(ハイエンド)に位置するであろう事は見れば分かった。

 

(なんや、大規模侵攻ん時を思い出すな。あん時も馬鹿みたいに強い相手に、こうして総がかりで挑んだんやったな。二宮隊の指揮権を預かる、なんて良い経験が出来たいうのもあって印象深いわ)

 

 水上はヒュースの圧倒的な実力を見て、大規模侵攻の時を思い返していた。

 

 あの時も一人や一部隊だけでは絶対に勝てないであろう強者相手に、他部隊との連携を組んで対処したものだ。

 

 まさか二宮隊の指揮権を丸々預かる事になるとは思わなかったし、二宮にそこまで評価して貰っているとも思わなかった。

 

 ともあれ、あの時の敵はそれだけの事をしなければ勝てない相手だったのだ。

 

 ヒュースからは、その大規模侵攻の敵と同じような圧を感じる。

 

 事実として複数部隊が合同でかからなければ此処まで追い込めなかった事を考えると、全く洒落になっていない。

 

(あん時の泥男とは厄介さくらいしか共通点はないやろうけど、嫌でも思い返すくらいにはアイツは強いんや。ただ旋空を撃っても対処される以上、やる事は一つ。波状攻撃で処理能力を圧迫して、そこに必殺の一撃を叩き込む。これで仕舞いや)

 

 そしてそれだけの強さを持つ相手を仕留めるには、相応のやり方が必要だ。

 

 とはいえ、そこまで難しい事をやるつもりはない。

 

 これまでと同じく、波状攻撃で処理能力を圧迫しそこに必殺の一撃────────即ち、生駒旋空を叩き込む。

 

 ある意味では普段と同じであり、それに加えて今は二宮と犬飼、三浦という疑似的な共闘相手がいる。

 

 大規模侵攻の時とは異なりあくまでも一時の共闘関係ではあるが、ヒュースを倒す()()は味方でいてくれるだろう。

 

 勿論ヒュースを倒した瞬間矛先はこちらに向くだろうが、そんな事は百も承知なので問題はない。

 

(こっちの意図は、多分犬飼なら伝わるやろ。モタモタしてると、他の玉狛が合流しかねん。万が一空閑がやって来てヒュースを持ち帰られると、それこそ最悪や。そろそろ、決めるで)

 

 

 

 

(来たか)

 

 ヒュースは水上が己に向かってハウンドを撃って来た事で、最後の攻防が始まったのを理解した。

 

 この足では、最早移動は望めない。

 

 エスクードで空に逃げようにも、その瞬間二宮の弾幕や隠岐の狙撃が飛んで来て終わりだろう。

 

 己は、此処で落ちる。

 

 それは最早、確定した事実であると言って良い。

 

 どう足掻いても、この場からの脱出は不可能。

 

 それが、ヒュースの結論だった。

 

(弾は上から山なりか。エスクードで対処し切れないようにしている)

 

 水上の放ったハウンドは、大きく山なりの軌道を描いて上から降り注ぐような弾道をしている。

 

 最終的にはヒュースの真上に落ちるであろう計算であり、流石にそうなるとエスクードでは対処出来ない。

 

 エスクードは足場があればどこからでも生やす事が出来るが、逆に言えば何もない空中には展開出来ない。

 

 つまり、真上から落ちて来る軌道の弾丸には対応出来ないのだ。

 

 故に、この場であれを防ぐにはシールドを張るしかない。

 

(そして、シールドを張って動きを止めた瞬間旋空が飛んで来る。そういう手筈だろう。この場には、生駒を含め三人旋空を使える奴がいるからな。そう動くのが自然だ)

 

 だが、シールドを張るという事は動きを止めるという事だ。

 

 そうなれば当然、シールドごと両断可能な旋空が飛んで来る。

 

 恐らくは、そういう手筈になっている筈だ。

 

(ならば)

 

 ヒュースはそれを考慮に入れた上で、行動に移した。

 

 それは。

 

「────────は?」

「え?」

「嘘でしょっ!?」

 

 向こうから、水上達の驚愕の声が聴こえる。

 

 それはそうだろう。

 

 何せ、ヒュースが取った手段というのは。

 

 ()()()()()()()()()()()()()()()、その場から真横に跳ぶ、といった行動だったのだから。

 

 エスクードを生やすには、足場がなければならない。

 

 ならば、その()()の定義とは何なのか。

 

 その答えが、これだ。

 

 即ち、()()()()()()()()()()()()()である。

 

 そして、その条件が該当するなら()()()()()()()()()()()()()()

 

 その理屈に気付いていたヒュースは、己の背をその「足場」としてエスクードを展開したのだ。

 

 前のめりになってから展開したので、エスクードの加速力は上ではなく横へ向かう。

 

 些か不格好ではあるが、戦闘中にそんな些事に構っている暇はない。

 

 結果として、水上のハウンドは着弾地点からヒュースが消えた事で空振りに終わった。

 

 真上に落とす、という調整の為にトリオン探知ではなく視線誘導に切り替えていた事が、此処に来て仇となる。

 

 トリオン探知であればある程度相手を自動で追尾していく追尾弾(ハウンド)だが、視線誘導であれば自分で設定した軌道にしか飛ばない。

 

 その分軌道を調整出来るメリットはあるが、相手が想定外の動きをした場合は対応出来ない。

 

 水上の攻撃は、完全に失敗したと言えるだろう。

 

「────────」

 

 そして当然、ただ回避したワケではない。

 

 ヒュースは即座に、キューブを展開し射出。

 

 三方向、即ち旋空を使える三浦・南沢・生駒に向けて弾丸を撃ち放った。

 

 此処で隙を見せれば、間違いなく旋空が飛んで来る。

 

 ならば、それを使える者に対し攻撃ではなく防御もしくは回避の択を取らせれば良い。

 

 この弾丸は、威力を落とした代わりに弾速と射程に振ってある。

 

 最も遠い生駒のいる場所は、此処から凡そ38メートル。

 

 生駒旋空の届くギリギリの距離であるが、多少射程を伸ばせば問題なく攻撃を届かせる事は出来る。

 

 当然距離があるので直撃はしないだろうが、防御か回避のどちらかの行動を取らせるだけで充分。

 

「させへん」

「させないよ」

 

 だが、それは相手からしても瞭然だった。

 

 水上と犬飼が、それぞれ遠隔シールドを展開。

 

 三浦と生駒に向かう弾丸の軌道にそれを配置し、ヒュースの弾丸を止めた。

 

 弾速と射程に振った分、威力は相応に落ちている。

 

 故に当然それを貫く事は出来ず、三浦と生駒への攻撃は失敗に終わった。

 

 そして、唯一シールドを張られなかった南沢は自力で上に跳んで回避した。

 

 更に南沢はグラスホッパーを展開し、そのままこちらへ突っ込んで来る。

 

「旋空弧月」

「旋空弧月」

 

 同時、三浦と生駒から旋空が放たれる。

 

 二振りの拡張斬撃が、ヒュースへと襲い掛かった。

 

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