「こ、これは…………っ! ヒュース隊員の攻撃で、生駒隊長、南沢隊員が相次いで
「一気に状況が動いたな。やっぱり、最後に大きく仕事をしていったか」
ふむ、とレイジは腕組みしながら頷く。
息もつかせぬ攻防の直後とあって、会場の空気は盛り上がっている。
此処は一つ、この空気に乗ってやるべきだろう。
「最終的には落とされたヒュースだが、盛大な被害を撒き散らしていったな。流石に、ここまでやるとは思っていなかった」
「
ふふん、と自慢気に胸を張る小南。
どうやら身内が活躍した事で、大分ご満悦のようだ。
普段なら窘めるところだが、この空気感には彼女のノリの方が合っている。
なのでレイジはその言動を黙認し、話を続けた。
「旋空の連撃を放たれたヒュースは、それを躱した上で反撃に転身。エスクードで徹底的に相手の行動を封鎖した上で、仕留めにかかった」
「エスクードだけでほぼ全員の身動きを封じちまうんだもんな。トリオンがある奴がエスクードを連発すりゃ、あそこまでやべぇとはな」
迅と戦る時は気を付けないとなー、などという声が聴こえて来そうな太刀川だが、確かにそう言いたくなるのも分かるくらいのエスクード無双だっただけに無理は無い。
ヒュースはエスクードだけで犬飼、水上、南沢、生駒の四名の動きを事実上封じてみせた。
犬飼はストレートに四方を囲んで身動きを封じ、水上はエスクードカタパルトで上空に射出。
南沢と生駒に至っては前方以外の四方を封じ、行動に制限をかけた。
片腕両足を失っておきながら、エスクード一本で此処までの事が出来るというのは脅威以外の何物でもない。
改めて、燃費という最大の問題が解決したエスクードの
「しかし、南沢隊員と生駒隊長を犬飼隊員のように完全に閉じ込めなかったのは何故でしょうか? バイパーを使うのであれば、そちらの方が良かったように思うのですが」
「それをやると、持ち札がアステロイドではないとあからさまにバレるからな。あの時点ではアステロイドだと思わせていたのだから、それをわざわざ教えるのは愚策だ。そうしていたら恐らく、二人を討ち取る事は出来なかっただろうな」
「あれにゃあ驚いたからな。アステロイドだと思わせておいて、
ヒュースの用意していた隠し玉その1、
そのインパクトは、相応のものであった。
これまで、ヒュースは弾を直線にしか飛ばしておらず、殆どの者が彼のセットしているトリガーはアステロイドであると考えていた。
しかしそれはヒュースの
これは修がトリオンが低いが故にハウンドをアステロイドに偽装出来ていたのと同じく、トリオンが高いが為にアステロイドであるという偽装が成立していたのだ。
バイパーは基本、威力の低い弾丸だ。
その弾道の変幻自在さが武器ではあるのだが、アステロイドと比べれば威力は落ちる。
しかしヒュースは豊富なトリオンの持ち主であった為、バイパーをアステロイドに偽装して使っていても違和感を持たせなかったのだ。
注ぎ込まれていたトリオンが多かったが故に、多少威力が低くとも元の出力が高い為に露見を防ぐ役割を果たしていたワケだ。
結果として
完全に、ヒュースの作戦勝ちと言えるだろう。
仮にエスクードで四方を封鎖していれば、流石に持ち弾が
そうなっていれば、恐らく生駒は対応出来ていた。
種が分かった手品程、脆いものはない。
一見有効に見える行動であっても、初見殺しの強みを失ってしまえばその効力は半減する。
結果として、持ち札を隠し切ったヒュースの判断勝ちと言えるだろう。
「それから、驚いたのは弓場のリボルバーを使った事だな。流石に、あれは想定外だったぜ」
「弓場の銃はその性能故に誤解されがちだが、あくまでも通常のトリガーの範疇でカスタムトリガーではない。使おうと思えば誰でも使えるが、性能がピーキー過ぎて使い手がいなかっただけの話だ。だからこそ、初見殺しとして成立したワケだな」
そしてもう一つのヒュースの隠し札、弓場と同種の
射程と弾数を切り詰めて、極限まで威力と弾速に振った特殊な代物。
唯一無二の性能故に勘違いされる事が多いが、これはカスタムトリガーではない。
あくまでも通常のトリガーに許された範囲の性能であり、使おうと思えば誰でも使う事が出来る。
ただ、あまりにも性能が尖り過ぎている為に誰も使おうとしなかっただけなのだから。
「
「普通の銃手と同じ感覚じゃ、まず使いこなせないもんね。独自の強みはあるけど、それを活かすには特殊な戦法が必要だし。けど、だからこそ初見殺しにはうってつけだってってワケ。エスクードと同じでね」
だからこそ、初見殺し性能が高かった。
エスクードと同じく使用者が殆どいない為に、他のトリガーを用いるよりも初見殺しとしての威力はずば抜けていたと言える。
こちらの場合は弓場が使っている為ある意味有名だが、それが逆に「弓場以外が使う事はないだろう」という暗黙の共通認識を生んでいた。
そこを突く形で、ヒュースはリボルバーによる奇襲を成功させたワケだ。
あのリボルバーはただでさえ凄まじい弾速とイーグレット級の威力があるのに加えて、ヒュースのトリオンによるブーストが加算される。
南沢は恐らく、実際に撃たれるまで何が起きたか分からなかっただろう。
今回初めて使うトリガーの筈だが、ヒュースは難なく使いこなせてみせた。
このあたりの器用さも、彼の強みと言える。
「それから、最後はエスクードで撃ち出された生駒が犬飼を斬った流れも驚いたな。あれ、生駒を即死させなかったのわざとか?」
「恐らくは、そうなっても良いように考えていた、と言うべきだろうな。手温い攻撃で致命傷を与えられる程生駒は甘くはないし、落とすつもりで攻撃したのは間違いないだろう」
だが、とレイジは続ける。
「仮にそれで即死させられなかった場合、生駒をどう
ヒュースは生駒に致命傷を与えた後、彼をエスクードで撃ち出している。
これはレイジの言う通り、彼を利用して犬飼を落とす為だ。
その証拠に、生駒は犬飼が狙い易い位置に撃ち出されていた。
あの時、犬飼はエスクードで四方を囲まれ碌に身動きが取れない状態にあった。
しかし、上空に撃ち出されればその光景を死角となる空から見る事が出来る。
そしてエスクードから抜け出す為に跳躍をしていた犬飼に、神速の生駒旋空を避ける術はなかった。
結果、犬飼は死に際の生駒の一撃で仕留められたワケである。
「ですが、自隊の点となるワケでもないのに犬飼先輩を生駒さんに落とさせた理由はなんでしょう?」
「単純に、犬飼が生きて居ては困るからだ。というよりも、二宮隊が得点を得るという展開だけは可能な限り避けたい、というのが前提の思惑としてあるからな」
「試合開始時点で玉狛が38点で三位、二宮隊が40点で二位だからな。B級二位以内っていう目標を目指す上で、何よりも二宮隊の得点だけは阻止したい、ってのが本音だろ。それこそ、他の部隊に得点をさせてでもな」
ヒュースがそのような行動に移ったのは、偏に二宮隊の戦力を削り彼等の得点の機会を減らす為だ。
玉狛第二の目標は、B級二位以内で今期のランク戦を終える事。
その為には、現在B級二位である二宮隊の得点を超えなければならない。
故に、何が何でも彼等の得点は阻止したい、というのが正直なところだ。
だからこそ、ヒュースは生駒隊に得点を与えてでも犬飼を落とした。
偏に、自隊の目標を達成する為に。
障害となる人物を、排除したワケだ。
「犬飼が生きてるかどうかで、二宮隊の脅威度は結構変わって来るからな。実際、アイツが終盤まで生きてた試合っていうのは大体二宮隊が優勢になってたしよ」
「そうだな。犬飼は盤面の調整能力が抜群に巧いから、いるだけでチームが有利になるよう動いて来る。此処で犬飼を落とせたのは、かなり大きいと言うべきだろう。その隙を突かれてヒュースは落ちたが、それでも充分仕事はこなした」
だから、とレイジは続ける。
「アイツは、
(────────どんだけ吹っ飛ばしてんねん。限度いうモンがあるやろ)
上空。
水上はエスクードに撃ち出された勢いがようやく緩まり、地面に落下している最中だった。
先程、水上はヒュースのエスクードによって空高くに打ち上げられた。
グラスホッパーは勿論、テレポーター等の移動用トリガーの一切を持たない水上がこんな空の上で出来る事など基本的に何もない。
彼は生粋の射手である為、そもそも機動力が高くないのだ。
勿論遅いという程ではないが、前線で戦う攻撃手等と比べれば雲泥だろう。
彼の本領は、頭脳戦。
要するに、今後起き得る状況に関する考察と対策が本分だ。
思考を切り替える。
次に何が起こるか、そしてどう対処すべきか。
それを、考える時だ。
(ただ俺を空に打ち上げた、ってだけやないわな。あんだけの大立ち回りをやらかした奴が、一時的に戦線から排除するだけの為にあんな真似するとは思えん。それならそれで、犬飼みたいにエスクードで身動き取れんくするって方法もあるからな)
水上をこのように上空に打ち上げたのには、必ず意図がある。
彼は、そう確信していた。
ただ自分の邪魔をさせない為であれば、犬飼のように四方をエスクードで封鎖すれば事足りる。
ハウンドであればエスクードに塞がれていない上から撃つ事は出来るが、当てずっぽうで撃ったところでたかが知れている。
幾ら仲間の観測情報があると言っても、肉眼で視認しているかどうかでは大分状況が変わるのだ。
だというのに、ヒュースはわざわざ水上を上空へと撃ち出した。
しかも真上ではなく、斜め上へと。
実際、既に水上は先程いた場所からかなり離れた所へ飛ばされており、この射出角度に何らかの意図があるのは明瞭である。
(雨取に狙わせる、ってのは無いわな。雨取の狙撃の腕は、まだ
上空で回避の出来ない状態、となると狙撃の危険が真っ先に思い浮かぶが、現在水上はエスクードの加速によってかなりのスピードで飛んでいる。
今は自由落下中とはいえ、高さが高さなのでかなりのスピードが出ている。
こんな状態の標的に当てられるのは、狙撃手の中でも当真や奈良坂、東といった一部の上澄みだけだろう。
少なくとも狙撃手になって日が浅い千佳や、転向して時間が左程経過しておらず技量を
なので、この場で狙撃手の脅威というのは無視しても構わないもの、と考えられる。
(あとは────────!)
そこで、気付く。
水上は既に地面にかなり近くなっており、既に立ち並ぶビルが目と鼻の先だ。
そんな状況で、上空から降り注ぐ流星があった。
間違いない。
二宮の、合成弾だ。
現在、水上は上空にいて回避が出来ない状態にある。
ならば、あの弾は間違いなく
この状況下で樹里という
水上の少ないトリオンでは、二宮の合成弾を防ぐ事は出来ないだろう。
かといって、出水のように自分の弾を当てて相手の弾を撃ち落とすような
隊のブレインである水上の頭脳はかなりの回転数を誇るが、それはあくまでも頭が回る、といったニュアンスであり、出水のような馬鹿げた
あれは生まれ持っての
樹里ならばトリオン量にあかせた力技で似たような事は出来るだろうが、それも自分には無理な話だ。
故に、自分は此処で落ちる。
その未来は、確定した。
「あれは…………っ!?」
だが。
それに、待ったをかける者がいた。
救援か。
否。
それは、救いの手などでは断じてない。
その獲物は自分のモノだと、牙を剥く狩人がいた。
人影が、ビルの屋上に足をかけて跳び上がる。
その人影は、遊真は。
スコーピオンを手に、光る足場を階段のように駆け上がり標的を狙う。
「く…………っ!」
水上は咄嗟にトリオンキューブを生成し、それを射出。
無数のハウンドが、遊真へと襲い掛かる。
「遅い」
されど、遊真はその包囲網が完成する前にグラスホッパーを以て加速。
弾幕の間をすり抜け、水上の下へ到達。
スコーピオンを一閃し、水上の首を斬り落とした。
「やられたわ」
『トリオン体活動限界。
首を断たれた水上のトリオン体が崩壊し、機械音声が彼の敗退を告げる。
生駒隊の射手は。地に届かぬまま光の柱となって消え去った。