(妙だな。幾ら何でも、攻めっ気が無さ過ぎる。やっぱ、こっちが隙を見せるまで待つつもりか?)
出水はハウンドを撃ち放ち、それをシールドで対処しながらアサルトライフルを撃ち返して来る嵐山の反撃に対処しながら眼を細める。
無論の事、片手間でやっているワケではない。
ただ、全力で戦闘をこなしながら次に繋がる思考を止めない程度の事など、彼には造作もなく出来るというだけだ。
そも、その程度が出来ずしてA級一位部隊の射手の地位にまで上り詰められる筈もない。
このレベルの
とはいえ彼と同レベルでそれがこなせるサポーターは数が限られており、筆頭は二宮隊の犬飼だろう。
彼は二宮隊の銃手であり、隊の中軸を支えるバランサーだ。
戦闘をこなしながら思考を止めず、常に相手の動きを観察しながら次の一手を考え続ける。
そしてその時その場に見合った最適な思考を導き出し、チームの有利になるよう速やかに動く。
それが出来るからこそ彼は最高のバランサーと称するに相応しい存在であり、職種こそ違うが実質銃手版の出水と言っても差し支えない存在だ。
無論隊の構成等も違う以上厳密な役割等は異なるが、戦場全体を俯瞰しコントロールする役目を持っている事に違いは無い。
どのような戦場であれ、彼のやる事に違いは無い。
だが、この場では少々事情が変わっていた。
この作戦全体の指揮は太刀川に委ねられているが、その彼は風間と共に迅と真っ向から戦闘中だ。
当然迅程の相手に戦闘をしながら他所の指揮をするなど出来る筈もなく、太刀川は大まかな指示を下した後は現場の判断に任せる決定を下している。
出水はその指示────────────────即ち、嵐山隊の対処をこの場で任されていた。
米屋を送り出してしまった以上、嵐山と時枝の対処はこの場に残る彼と三輪で行うしかない。
こうなると、米屋が残ってくれた方が良かったと思わなくもない。
勿論、三輪に不満があるワケではない。
彼は近界民関連では頭に血が上り易いという欠点はあるが、それでも優秀な万能手である事に変わりはない。
近接・中距離共に隙がなく、体術もかなりのレベルに達し状況判断力や決断力も高い。
機転の利かせ方も優秀であり、戦闘員としては文句の付け所もない。
レイジ、嵐山に並んで伊達に万能手トップスリーに名を連ねているワケではないのだ。
しかし、出水との連携と言う点では矢張り米屋には劣るのだ。
出水は米屋とは悪友と呼んで良い関係性を構築しており、連携のレベルも相応に高い。
だが、三輪の場合は米屋繋がりで関係があるだけで、彼程親しくはない。
これは三輪の一匹狼的な気質も関係しており、基本的に相手の意思を尊重する出水はそんな彼に敢えて踏み込もうとはしなかった。
勿論作戦上の共闘相手としては、申し分のない相手ではある。
されど、気心の知れた相手と異なり何もかも阿吽の呼吸で合わせる、とはいかない。
普通ならばそれでも出水のサポート能力と三輪の地力の高さ故に何とかなるだろうが、相手は嵐山達だ。
嵐山は、レイジに続く万能手ランキングのNO2。
つまり、数字の上で言えば三輪よりも上位の存在なのだ。
勿論ランキングで上位だからといって、三輪が嵐山に勝てない、という話ではない。
しかし同時に、この順位を完全に無視するのは愚行でしかない。
仮にも明確に序列が付いている以上、その過程に於いて彼がそれだけの功績を残しているのは紛れもない事実なのだから。
幸い三輪はそういった順位・序列に興味はないようだが、それでも嵐山の戦力評価を低く見積もるワケにはいかない。
自分と三輪の間の意思疎通の僅かな
(それを狙ってるのか…………? いや、嵐山さんの性格上相手のミスを期待する立ち回りはやらないよな)
故に連携のミスを期待して長期戦を狙っているのかとも思ったが、そういうやり方は嵐山らしくはない。
彼は王道的な立ち回りを得意としており、基本に忠実な戦術の極みとも言うべき存在だ。
王道戦術というものは読まれ易いという欠点はあるが、同時に安定感があるという見逃せないメリットがある。
その極地の一つである二宮隊の実力を思えば、それが馬鹿に出来るものでは決して無い事は誰でも分かる。
それ故に、ただ無暗に戦いを長引かせてミスを狙うというのは、彼らしくない戦術と言えた。
(残る可能性は、樹里ちゃんが狙撃位置に着くまでの時間稼ぎって線か? こっちの方が可能性としちゃ高そうだし、警戒はしとかなきゃな)
出水としては、こっちの方が本命と考えている。
この戦場で、未だ姿を現していない敵の駒は一つ。
もう一人の、姿を隠したままの狙撃手────────────────推定、木岐坂樹里だ。
彼女は戦場へいる事が確定した状態で姿を潜ませるだけでも充分以上にこちらの枷となる人物ではあるが、いくら何でもずっと潜伏させていては宝の持ち腐れにも程がある。
彼女の超々遠距離の狙撃能力や出水と同等のトリオンを用いての高火力射撃はA級トップチームとしても無視出来ない戦力であり、勝つつもりがあるのならば伏せ札だけで終わらせるには勿体なさ過ぎる。
自分なら、ギリギリまで伏せた上でここぞというタイミングで切るだろう。
それだけの価値が樹里にはあり、それを嵐山が分かっていないとは思えない。
この戦場の敵側の主軸は迅だが、指揮そのものは嵐山が担っている筈だ。
迅はただでさえ未来視による映像を見続けながら戦闘を行う為、彼一人にかかる処理能力の負担が尋常ではない。
その上で指揮までこなす余裕は彼には無いだろうというのが、太刀川の推論だった。
彼の好敵手として鎬を削り続けた太刀川がそう断言するのだから、迅が前線に出た状態で指揮までこなす、という最悪の事態にだけはなってはいないだろう。
未来を視る事の出来る迅がリアルタイムで指揮などしていては、まず以て戦力的に圧倒的な差が無い限りは勝ちようがない。
その可能性が無いという事を聞いて安堵した出水ではあったが、嵐山の指揮も侮れるものではない。
彼はA級五位部隊の隊長ではあるが、それは広報部隊という重責を担った上での順位である事を出水は承知している。
もしも順位について言及すれば木虎あたりはそう言い返して来そうだが、
嵐山がこうして長期戦狙いの挙動をしている以上、近々樹里が介入して来る可能性は非常に高いと言える。
(嵐山さんはメテオラを民家に当てたがらねーから、十中八九狙撃を狙って来るだろうな。その場合、狙われるのは3:7でおれの方かね)
この場で三輪と出水のどっちがより厄介な駒かと言われれば、自分の方だろうと自負している。
確かに三輪は優秀な万能手ではあるが、出水の射程と火力は相手にとって無視出来るものではない。
自分の援護がなくなるだけで嵐山隊がどれだけ動き易くなるか等、他でも無い出水自身が充分に理解している。
故にこそ、狙われるのは自分の方だという確信が彼にはあった。
(三輪。多分そろそろ樹里ちゃんがおれを狙って来るだろうから、注意しとけ。可能性としちゃ低いが、そっちを狙うパターンもあるからな)
(…………! 了解した。ならば、対応し易くする為に少し攻め手を緩めるか?)
(いや、このまま攻め続ける。あっちの思惑がバレた事を勘付かれちゃ、動きが変わる可能性もあるからな)
(了解)
三輪は出水の指示を受け、拳銃を撃ち放ちながら鋭い動きで距離を詰め始めた。
樹里の狙撃を前提とするならば、攻め手を緩めて警戒度を挙げる手もある。
しかしそれをやると、向こうの作戦を看破した事を知られる可能性が高い。
そうなると樹里がこの場ではなく別の戦場への介入を検討する可能性も出て来る為、折角尻尾を掴めた彼女の影が遠ざかってしまう。
樹里の位置を明らかにするだけで一気にこちらに趨勢が傾くのだから、たとえリスクがあったとしてもこの機を逃すべきではない。
出水はそう判断し、攻めの継続を選択した。
(さあ、いつでも来な。何処から来ようが、対応してやっからよ。おれの首は、安くはないぜ?)
「────────!」
「おっと」
ガキン、という金属音が鳴り響く。
木虎は自身の振るったスコーピオンが米屋の弧月で受け止められた事を認識し、即座に後退。
米屋の反撃が来る前にバックステップで距離を取り、位置取りを変える。
同時に拳銃を撃ち放ち、米屋はそれを回避。
その隙に木虎が距離を詰め、再びスコーピオンを振るい刃が交錯。
二人は、互角の鍔迫り合いを続けていた。
(やるねぇ。自分の強みを分かってる相手ってのは、面倒だな)
米屋は木虎と刃を交わしながら、その戦い方の功名さに舌を巻く。
数値上のパラメーター評価では、機動力は木虎が8で米屋が9。
あくまでも数字の上では米屋の方に軍配が上がるが、単純な速力であれば木虎は米屋に勝るとも劣らない。
どころか、瞬間的な加速でいえば木虎の方に軍配が上がるのではないかとも米屋は見ている。
米屋の機動力評価は恐らく彼の立ち回りの巧さと動きの鋭さも加味したものである可能性が高く、言うなれば中距離走や長距離走では彼の方が成績は上だが、短距離走に限定すれば木虎の方が上に立つ、といったところか。
ともあれ、それだけの機動力を持つ木虎だが、男女の性差がある以上どうしてもリーチや体格の面で若干の違いが出て来る。
木虎は161㎝と女子としてはやや身長が高い方だが、対する米屋は175㎝と明らかに彼女よりも大きい。
その身長差はそのままリーチの差にも繋がり、米屋が槍弧月という長いリーチの獲物を使っている事もあって近距離武器の射程では米屋が上回る。
まともに正面から戦った場合、米屋の方が有利である事は否めない。
しかし木虎はそのハンデを、ヒット&アウェイの戦術を徹底する事でカバーしている。
米屋のリーチが長いというメリットは、得てして小回りが利かないというデメリットを内包している。
手足が長く、武器もリーチのある米屋にとっては懐に入り込んで来る相手程やり難いものは無い。
至近距離での格闘戦では、リーチの長さがそのまま取り回しの悪さに変わる。
故に懐に入り込んでの近接戦闘をし続ければ勝てる、という程米屋は甘くはない。
当然、米屋として槍という武器の利点欠点は熟知している。
だからこそ、A級特権の改造が施された彼の弧月には伸縮可能な独自のギミックが備わっている。
最初は懐に入り込んで来た木虎をそれで返り討ちにしようとしたのだが、その機巧を一目見た木虎はすぐさま方針を変更。
距離を詰めての奇襲と、即座に反転して後退してから行う攪乱。
この二つを軸としたヒット&アウェイ戦法に切り替え、米屋のペースを乱し始めたのだ。
米屋の槍弧月は、先述の通りリーチの長さが最大の武器だ。
内臓した伸縮機巧はあくまでも閉所での戦闘や懐に入り込まれた場合の緊急手段として備えている代物であり、当然ながら武器の長さを変更する際にはその為の一手間がかかる。
数瞬で切り替える事が出来る為隙とも言えない間隙ではあるが、木虎はそこを突いた。
常に距離を変えて対応し続ける事により、米屋に常時変動する射程の調整を強要させたのだ。
通常の柄の長さのままであれば中距離には対応出来るが、格闘戦には向かない。
逆に伸縮機能を発動させた状態では近距離に対応出来るが、逆に射程は短くなる為射程外から一方的に拳銃を撃たれ続けてしまう。
この二律背反を利用する事で、木虎は米屋に守勢に回る事を強いていた。
狙撃手の脅威を認識した上で、木虎は隙を作らずに米屋を抑え続ける事に成功したワケである。
(けど、このままじゃ千日手だ。となると、そろそろ仕掛けて来るよな?
だが、それはあくまで膠着状態を作り出しただけで、勝利の為にはこれだけでは足りない。
米屋は必要とあれば幾らでもこの状態を維持出来るし、こちらの集中力が先に乱れるのを期待する程木虎は楽観的ではない筈だ。
故に、この戦場の外側からの介入を狙っていると考えるのが自然だ。
それを成し得る中で介入を狙って来る可能性が高いのは、既に大まかな位置が知られ再度狙撃したところで痛手の少ないこの先にいる狙撃手────────────────恐らくは佐鳥である可能性が、最も高い。
「────────旋空弧月」
ならば、やる事は簡単。
敢えて隙を作り、狙って
米屋は、敢えて大ぶりの旋空を使用。
木虎に跳躍を強要し、ついでに周囲の建物を斬って射線を通らせる。
同時に、二発目の旋空の発射態勢に入った。
今の木虎は最低限の跳躍で済ませたとはいえ、足が地面から離れている。
故に二発目の旋空を躱すのは困難であり、回避出来たのであればそこに幻踊を含めた追撃を見舞うだけだ。
木虎が三次元機動を行うのに必要な足場は今の旋空で斬り払った以上、最早攻撃を凌ぎ切る事は困難。
介入がなければ、このまま攻め落とすのみ。
(…………! 来たか)
そして、気付く。
狙撃手のいるであろう方向から飛来する、一発の弾丸に。
その弾丸は狙い過たず米屋の頭部を狙っており、ツイン狙撃ではないにせよ方角からして佐鳥が撃ったものである弾に違いあるまい。
米屋は即座に身体を捻り、その弾丸を回避。
そのまま、木虎への追撃を続行した。
(正直にツイン狙撃にしときゃ良かったのに、慎重さが仇になったな。貰ったぜ)
ツイン狙撃であれば回避は難しい為
これは明らかに佐鳥のミスであり、同時に米屋のこの上ない勝機でもある。
米屋は不敵な笑みを浮かべ、槍弧月を振るい木虎に追撃を仕掛けた。
(え…………?)
そして。
その瞬間、木虎が浮かべた笑みに気付き。
同時に、自分が躱した弾丸の
そこには、建物の陰に隠された
(しま…………っ!?)
時、既に遅し。
狙撃の弾は狙い過たずキューブに着弾し、起爆。