香取隊の狙撃手   作:デスイーター

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二宮隊Ⅳ

 

 

「エスクードで空を舞っていた水上隊員、二宮隊長に狙われるも先んじて空閑隊員によって撃破! 玉狛に三点目が加算されます!」

「矢張りこうなったか。仕込みは、怠っていなかったようだな」

 

 レイジは当然、といった風に頷く。

 

 どうやら彼には、この顛末が予測出来ていたらしかった。

 

「ヒュースは水上をエスクードで射出する際、真上ではなく斜め上に飛ばしていた。この時点で、()()()に何かを仕込んでいたのは明瞭だ。実際、遊真が待ち構えていたワケだからな」

「確かにありゃあからさまだったな。エスクードで空中に飛ばして身動き出来ない水上を、グラスホッパーで上に上がった空閑が狩る。単純だが、効果的な策だ」

 

 けどよ、と太刀川が続ける。

 

「二宮はなんで、もっと上にいた時に狙わなかったんだ? 地面が近くなってから狙ったから、空閑に先を越されたワケだろ? 幾らグラスホッパーがあっても、上がれる高度にゃ限度があんだろ」

「理由は二つほど考えられる。一つは、エスクードによる加速が緩むのを待っていたんだろう。二宮のいる場所と水上の着地点は、相応に距離があった。加速がついたままだと、当てられない可能性があったからな」

 

 レイジの言う通り、エスクードの加速というのは相当なものだ。

 

 水上本人に身動き出来る術がない分、彼はエスクードの加速力をそのまま受けていた。

 

 よって、下手に加速が付いている時に狙っても空振りする危険があったのだ。

 

 それを嫌って加速が緩むのを待った可能性は、充分に考えられる。

 

「もう一つは、敢えて空閑が出て来るのを待った可能性だな。あの時点で、空閑の位置は不明だった。その位置を確認する為に、点を取られるリスクを冒してでもそれを確かめたかったのかもな」

「成る程、位置が割れてない空閑は結構おっかねぇからな。そういう意味なら、納得だ」

 

 そして、もう一つの思惑というのは遊真の位置を確認する事だ。

 

 玉狛の策はかなりあからさまであり、傍から見てもその意図は明瞭だった。

 

 だからこそ、敢えて攻撃タイミングを遅らせて遊真の姿を確認する事を優先した、とも取れる。

 

 遊真は奇襲性が非常に高い駒であり、バッグワームを用いた隠密攻撃でこれまで幾度も相手を葬っている。

 

 そんな彼が居場所が知れない状態というのは、中々に怖いものだ。

 

 故に点を取られるリスクを冒してでも、遊真を炙り出したという可能性は納得がいくものである。

 

 これはそれだけ二宮が玉狛を脅威と感じているという、証左でもあった。

 

「これで生駒隊は隠岐を残して全滅か。大方の予想通り、狙撃手は残すつもりだな」

「みたいね。玉狛(ウチ)としちゃあ狙撃手にはいなくなって貰いたかったけど、そう旨くはいかないか」

「居場所が割れた時に、誰も狙いにいかなかったからな。場所的に遠かった空閑はともかく、他のチームに一切動きがなかったってのはそういう事だろ」

 

 そして、ヒュース撃破の時に位置が割れた隠岐については三人全員が「敢えて放置した」という結論に達していた。

 

 隠岐が狙撃した場所は、遊真のいた場所からかなり離れている。

 

 その為彼が狙いにいけなかった事は当然だが、二宮隊や香取隊も一切動きがなかったのだ。

 

 これは()()()()()()()()()という、各隊の意識が透けて見えたと言うべきだろう。

 

「自由に動ける雨取ってのは、かなり脅威だからな。それを抑制する為に狙撃手を残しておく、ってのは選択肢の一つとしちゃあアリだろ」

「同時に自分達も狙撃の脅威に晒される事になるが、それでも尚雨取を自由にさせる事を嫌った、とも取れるな。実際、それをしたが為にROUND7は玉狛の独壇場になったから無理もないが」

「ウチの子に恐れを成した、って事よ! 千佳は凄いんだから!」

 

 えへん、と胸を張る小南はともあれ、敢えて狙撃手を残した意図は明瞭だ。

 

 狙撃手を残す事で、千佳の動きを抑制したかった、という事だろう。

 

 もしも狙撃手がいなければ、千佳がROUND7で見せたような大暴れをする可能性があった。

 

 遠距離から一撃で仕留められる狙撃手という脅威が存在しなければ、千佳は自由にそのトリオンを用いて暴威を振るう事が出来る。

 

 実際にそれを行ったROUND7の地獄絵図を思えば、この対応も当然と言えるだろう。

 

「気になるのは、ヒュースの両足がなくなった段階で戦線離脱した三浦だな。いつの間にかバッグワームを付けて、あの場から撤退してるしよ」

「三浦があそこにいたのは、ヒュースを逃がす可能性を削る為だ。両足を失った以上、脱出の可能性はないとして見切りをつけたんだろう。下手に残れば、ヒュース撃破後に自分が狙われる可能性があったワケだしな」

 

 二人の言うように、三浦はヒュースの両足が奪われた段階で密かにあの場から撤退していた。

 

 ヒュースは当然気付いていたようだが、あのギリギリの状況下ではそちらに意識を割く事は出来なかったと考えられる。

 

 何せ、片腕両足を失った状態で最大限の戦果を挙げる必要があったのだ。

 

 自らいなくなった者にまで意識を割くのは、とてもではないが出来なかった筈である。

 

「生駒隊がほぼ全滅し、位置が割れている者は限定された。となれば。次どうなるかは明瞭だ」

「そうだな。香取隊はほぼ全員が潜伏状態だし、位置が割れてるのは空閑と二宮だけだ。となれば────────」

 

 ああ、とレイジが続ける。

 

「次は、二宮を狙った戦闘が開始される。そう考えて、間違いないだろうな」

 

 

 

 

「あれは…………!」

 

 遊真はグラスホッパーによって二宮の弾丸の射程範囲から逃れつつ、()()を見た。

 

 空に撃ち上がる、無数の流星。

 

 発射地点から言って、二宮とは真逆。

 

 明らかにたった今水上を狙った二宮をこそ標的とした、光弾の群れ。

 

 これの意味するところは、明らかだ。

 

「────────始まったか」

 

 

 

 

「来たか」

 

 二宮は自身に向かって落ちて来る流星群を見て、眼を細めた。

 

 無論、それだけではない。

 

 王者は、自身を狙う挑戦者を座して待つ事などしない。

 

 全霊を以て、その意思を挫くべく射手の王は動く。

 

追尾弾(ハウンド)

 

 片手にトリオンキューブを生成し、分割。

 

 菱形に割られた無数の弾丸が、一斉に空に向かって落ちていく。

 

 そして、二つの流星がぶつかり合う。

 

 中空で、無数の炸裂音が木霊する。

 

 二宮の放った弾丸は狙い過たず空の星に直撃し、相殺。

 

 その大部分を、着弾前に撃ち落とした。

 

 自由に軌道を設定出来る変化弾(バイパー)であればともかく、二宮が使ったのは追尾弾(ハウンド)である。

 

 にも関わらず、二宮は落ちて来る弾幕に正確に自身の弾を当ててみせた。

 

 それを可能としたのは、二宮の卓越した弾丸制御能力だ。

 

 ハウンドは誘導設定の強弱により、軌道を調整する事が出来る。

 

 この性質を応用すれば、ある程度は自身の望む弾道を描く事が可能なのだ。

 

 無論限度はあるが、誘導設定の扱いが習熟した者であるならば相応に使い方の幅が広くなるのがハウンドである。

 

 勿論、二宮はNO1射手として追尾弾(ハウンド)を操る能力は卓越している。

 

 頭を下げてまで出水に弟子入りした経緯もあり、その技量はたった今自分を狙った者とは比べるべくもない。

 

(弾道が分かり易過ぎる。途中で狙撃手になどならなければ、もう少しマシになっていただろうが)

 

 今自分を狙ったのは、間違いなく樹里である。

 

 それは、向こうの弾数と弾道の()を見れば瞭然だ。

 

 二宮は以前、樹里を教導した事がある。

 

 樹里の側は合成弾を教えて欲しくて二宮に教えを請うたのだが、当然凝り性の彼がそれだけを教える筈がない。

 

 かつての自分のようにトリオン量にあかせて物量で押す以外の戦術を知らなかった樹里に射撃トリガーの基礎を教え、見様見真似ながらも射手としての戦闘スタイルを確立させる切っ掛けを作ってやったのは誰あろう二宮である。

 

 当然弟子である樹里の弾の扱い方の癖は知っているし、撃ち方を見れば誰の弾かはある程度判別出来るくらいには彼女の事を理解していた。

 

 最近出水に教えを受けているようだが、専らそれは戦術方面であり、弾撃ちの基礎を教えたのが自分である事に揺るぎはない。

 

 そもそも、二宮自身も出水から教導を受けているのだ。

 

 故に、当然樹里に教えた内容というのは出水から二宮が教わった内容と同一のものが多くなる。

 

 少なくとも、基礎的な部分の伝達で出水の手を煩わせるような教え方をした覚えはない。

 

 よって、師匠が増えたとしても樹里の射手としての戦闘スタイルに大きな変化はない筈だ。

 

 彼女が出水に教えを請うた理由は、あくまでも()()()()()()()()の為である。

 

「矢張りな」

 

 だからこそ、向こうも今の攻撃が迎撃されるのは承知の上の筈だった。

 

 二宮の視線の先には、先程とは別の場所から降って来る光の雨がある。

 

 最初の攻撃と比べて、発射地点が僅かに移動している。

 

 恐らくは移動を行いながら、弾幕を張っているのだろう。

 

 樹里は、機動力も相応に高い。

 

 グラスホッパー等の移動用トリガー等は装備した所を見た事はないが、それ抜きでもビルからビルへ渡る程度の真似(アクション)は軽々とやってのける。

 

 伊達に、C級時代スコーピオン一本でB級に上がった経験があるワケではない。

 

 B級に上がって即座に射手に切り替えた変わり身の速さというか、割り切りの良さはあるものの、培った経験は嘘をつかない。

 

 一つの戦法に拘りがないが為に、自分の得て来た経験値を迷いなく戦闘に注ぎ込める。

 

 口には出さないが、決して出さないが、この節操の無さはある意味で樹里の長所だと二宮は考えている。

 

「────────」

 

 故に。

 

 樹里の弾幕に呼応して香取が奇襲を仕掛けて来るのも、彼は読んでいた。

 

 かつてと違い、今の樹里はチームで戦う事の意味を知っている。

 

 だからこそ、技量でもトリオン量でも自分の上位互換である二宮相手に弾幕戦を仕掛けたのは、決して正面から勝とうとしたワケではない。

 

 あくまでも部隊(チーム)戦術の一環として、二宮の対処能力を割く為の手法。

 

 樹里のトリオン量は二宮を下回るが、千佳とは異なり決して対応不可能な程の差ではない。

 

 そも、トリオンの弾丸の構成上ぶつかり合えば相殺以外の結果は訪れないので、片手の二宮相手であればある程度は戦り合える。

 

 だがそれはあくまでも膠着させられるというだけであって、単独で勝てる事を意味しない。

 

 そも、技量で上回られている時点で樹里単騎で二宮に勝つのは困難である。

 

 しかし、チームであれば別だ。

 

 自分一人で全てをやるワケではないので、単騎で勝てずとも関係ない。

 

 最終的に部隊で勝てればそれで良いのが集団戦の特性であり、単独の戦力が劣っていたとしてもやりようは幾らでもある。

 

 加えて、二宮は例外であるが射手は基本的に後衛であり、その真価は()()()()()()()事にある。

 

 そして、そのサポートをする前衛としてこれ以上ない素質を持った者が香取である。

 

 香取は経験不足による粗はあるが、突破力と潜在能力ではボーダー内でもトップクラスと言って良い。

 

 チームとして成立していなかった頃の香取隊を、単騎の実力のみで強引にB級上位まで押し上げたその潜在能力(ポテンシャル)は伊達ではないのだ。

 

 今は樹里の入隊を巡る騒動(あれこれ)によって現実を見て適切な対応をする事を知り、隊長としての自覚も出てきちんとリーダーとして隊を引っ張る事も覚えている。

 

 加えて樹里と幼馴染である彼女との間に、連携の不安などあろう筈もない。

 

 たとえ付け焼刃であろうと、彼女達の間には幼馴染として培った互いへの理解力がある。

 

 連携能力に不安がある樹里相手でも、学習能力が非常に高い香取ならば十二分に対応可能だ。

 

 少なくとも、全力で攻撃しても香取がそれに巻き込まれてやられる事はないだろうという信頼もある。

 

 幾ら二宮でも、樹里の弾幕を対応しながらでは避ける対処に限度がある。

 

 そこを狙って香取が突破を狙って来るのは、非常にやり難い。

 

 また、近接の対処をしようにも辻は女を斬れない。

 

 仮に辻が近くにいたとしても、彼に香取の対処を行う事は出来ないのだ。

 

 恐らくではあるが、香取はともかく華あたりには辻の()()の事は見抜かれているだろうとの推測もある。

 

 彼女とは交流は一切ないが、樹里からそれとなく伝え聞いた人柄を鑑みるにそういったリサーチを欠かすタイプには見えない。

 

 それに、これまで二宮隊は辻が女性隊員とぶつかる事がないよう犬飼が中心となって作戦上の配慮を行っていた。

 

 なるだけ不自然さは消したつもりではあるが、場合によっては辻を女性隊員の対処に向かわせるのが最善であるにも関わらず止む無く別の役割を任せた試合もある。

 

 そういうログを見られていれば、恐らく華は見抜くだろう。

 

 辻の事情、即ち「女を斬れない」という弱点を。

 

 ならば、それを利用しない筈がない。

 

 主戦力二名が女性隊員であるという香取隊の性質は、辻の相手をするには頗る都合が良い。

 

 何故なら、この瞬間辻が何処にいようとも、弾幕を張っている樹里を倒しに行く事も目の前の香取を斬る事も出来ないからだ。

 

 つまり、二宮は一人でこの二人を相手取らなければならない。

 

 もっとも、()()()()()()御の字だ。

 

 場合によっては遊真も此処に向かって来るだろうし、三浦も姿を消して久しい。

 

 他の居場所が知れていない面々も参戦して来る恐れはあるし、今回はその全員の利害が一致している。

 

「いいだろう。来い」

 

 だが、二宮はその挑戦者達を堂々と出迎える。

 

 射手の王はトリオンキューブを生成し、迎撃態勢を取る。

 

 孤独な王は不敵な笑みを浮かべ、向かって来る者達との戦闘を開始した。

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