「香取隊員が二宮隊長に接敵! 木岐坂隊員の援護を受け、2対1で挑む形となります!」
「矢張り香取が来たか。予想通りだな」
レイジはうむ、と頷く。
そうだな、と太刀川もそれに同意した。
「まあ、この状況で二宮にかかってくのが誰か、っつったら香取だろうからな。空閑は位置的にまだ時間がかかるし、妥当だろ」
「消去法よね。射手や銃手だと、二宮さんとの撃ち合いには勝てない。だったらいっそ、強い攻撃手が突っ込んだ方が勝算があるもの。弾幕は潜り抜ければ良いしね」
ふふん、と小南は当たり前のように話す。
彼女の言は自分なら出来る、と言いたげだが事実として小南ならば可能だろう。
小南は突破力の高い攻撃手であり、並大抵の相手では彼女を止める事は敵わない。
自分であれば二宮相手でも正面から戦り合えると本気で思っており、その自負に偽りはないだろう。
それだけの実力を持っているのは確かであるし、彼女はこう見えて慎重な部分もある。
生来の危機感知能力によって安易な死地には絶対に踏み込まないし、そもそも突破力が高いので大抵の障害は粉砕出来る。
それは彼女が教導していた遊真にも通じる性質であり、言外に誰を褒めているかは明らかだ。
自分の強さに絶対の自負がある分、小南が誰かを正直に褒める事は稀だ。
負けず嫌いな性格もあり、基本的に常に自分が上であるという立場を崩さない。
それでも彼女自身が生来の陽キャであり嫌みの一切ない人間である為、不思議な愛嬌となっている。
隣に座っているのが愛想のない二人でなければ、もっと和気藹々とした雰囲気となっていただろう。
それはそれで小南の
「しかし、てっきり木岐坂は潜伏を継続して狙撃を狙うもんだと思ってたが、此処で切って来るとはな。二宮の居場所は割れてたんだし、狙撃のが可能性高そうに見えるけどよ」
「だからこそ、二宮は狙撃を警戒していた。事実なるだけ射線を切って動いていたし、いざ狙撃された場合直撃を受けた可能性は低いだろう。それよりは味方との連携で撃破を狙った方が良い、と結論したんだろうな」
樹里には潜伏を継続し、ここぞという時に狙撃を実行するという選択肢があった。
実際樹里の超々遠距離狙撃は厄介だし、MAP全域が射程内なので逃げようがない。
しかし、あくまでも狙撃は狙撃である。
単発の攻撃である事に違いはなく、真っ直ぐにしか弾が飛ばないので位置を隠す事も出来ない。
加えてこうまで警戒されていれば、まず当たらない。
狙撃というのは相手の意識の陥穽を突く為の手段であり、警戒を緩めない相手に撃っても早々当たるものではないのだ。
それよりは今のように味方との連携で打倒を狙った方が、可能性がある。
樹里、ひいては香取隊はそう結論したのだろう。
それが正解かどうかはさておき、樹里の使い方としては悪くはない。
樹里という駒は狙撃と射撃、両方の手札を持っている。
保有する豊富なトリオンもあってどちらも強力極まりなく、大抵の相手ならばごり押しで勝てるだけの
しかし、相手は二宮だ。
射手時代の樹里を教導した張本人であるし、射撃トリガーの使い手としての腕前など比べるべくもない。
基本的に樹里は力押しで動く傾向があるので、技巧も併せ持つ二宮相手には分が悪いのだ。
単体の性能ではどうしても下位互換になる以上、部隊で勝つ事を模索するしかない。
昔の個人の力のみを頼りとする樹里であれば有り得なかった結論であり、それだけ彼女が香取隊というチームを大事にしている事の証左でもある。
「しかし、現時点で未だ玉狛の狙撃手である雨取隊員の位置が割れていません。そちらからの攻撃は警戒されているんでしょうか?」
「あくまで現時点での話ではあるが、玉狛が打倒二宮を邪魔する理由が薄い────────というよりも皆無だから、そもそも今は妨害が入る理由がないんだ」
ふむ、と桜子はレイジの話を聞き、頷く。
ある程度察しは付いているようだが、実況者根性により素直に続きを促した。
「それはどうしてでしょうか?」
「単純に、利害の一致だな。今回の試合では、どちらのチームも二宮隊
「B級二位以内を目指す玉狛第二にとっちゃ、
「香取隊も同じね。折角一位になってるんだから、逆転はされたくない。そういう意味で、二宮隊に点を取られたくないと思うわ」
三人の言う通り、今回の試合では玉狛・香取隊双方に二宮隊に得点して欲しくない理由がある。
玉狛の場合は単純に、彼等の目標である「B級二位以内」を目指す為には現時点でその地位にある二宮隊の得点は死活問題だ。
可能なら一点も取らせる事なく撃破したいのが本音であり、その為ならば手段を問わない。
生駒隊に得点させてでも犬飼撃破を優先したあたり、その魂胆は明瞭である。
また、香取隊としても状況が重なっていたとはいえ折角取れたB級一位を逃がす理由はない。
それを維持する為には現在二位であり過去の一位である二宮隊の得点は防ぎたいのが実情であり、そういう意味で玉狛と香取隊の利害は一致している。
即ち、どちらも二宮隊が最大の障害である、という意味では。
「だから、少なくとも二宮を撃破するまでは玉狛が香取隊の邪魔をする事はないだろう。そういう意味で、現在二部隊が警戒すべきはどちらかというと隠岐の方だな」
「生駒隊だけは、二宮隊を眼の仇にする理由がねーからな。生駒隊は、現在六位。三位の玉狛とでさえポイントが離れ過ぎてるし、今更一点二点取られたところであんま変わらねー。むしろ、自分達が何点取れるかの方が重要だからな」
そういった利害関係の外にあるのが、生駒隊だ。
彼等の順位は、試合開始時点で六位。
三位の玉狛とはポイントが11も離れているし、今更逆転出来るような差ではない。
なのでむしろこれ以上順位が下がらないよう、1ポイントでも多く取りたいというのが本音だろう。
故に、隠岐だけは現状の玉狛や香取隊を攻撃する理由があるのだ。
誰を落としても一点である以上、選り好みをする理由はないのだから。
「では、隠岐隊員を残したのは失策であったと?」
「いいや、
「そうだな。ヒュースが落ちたとはいえ、雨取を放置すればどうなるかは自明の理だ。その抑止力の意味でも、隠岐を残す選択は必要だったろう。これは単に、隠岐に狙撃されるリスクより雨取を暴れさせるリスクの方が大きいからそちらを取っただけの話だ」
そんな隠岐を敢えて誰も追撃せず盤面に残したのは、偏に千佳を牽制する為だ。
人を狙えるようになった千佳の脅威は、前ROUNDで散々思い知らされている。
彼女を自由にさせない為にも、隠岐を残すのは苦渋の選択とはいえ必要な事だったと言える。
たとえ自分達にその矛先が向かうとしても、千佳が暴れるよりはマシと判断したのだ。
「それから、忘れているかもしれないがこの晴天という天候下では誰であろうと上を見上げる事が難しい。木岐坂は隠岐よりも高所に陣取っているから、向こうから隠岐の位置を視認して掴んでいるだろう。そういう意味でも、隠岐への対策はしっかりしている筈だ」
また、今回選ばれた晴天という天候では上を見上げ難いという特徴がある。
その為、たとえ弾幕で大まかな発射地点は分かっていても、高所に陣取っている樹里の姿そのものを視認するのは非常に難しい。
ゴーグルを付けている生駒が生き残っていれば話は変わっただろうが、サンバイザーを付けているだけの隠岐では太陽光が邪魔となって旨く見えないだろう。
故に高所に陣取っている樹里を直接視認するのは困難であり、それは他チームにも同じ事が言える。
「現在、最も高い位置にいるのは木岐坂だ。今の攻撃で大まかな居場所はバレただろうが、それでも高所にいるというメリットは大きい。少なくとも、他チームからの横槍を心配する必要は今のところないだろうな」
「だから、狙い難い木岐坂よりも狙い易い二宮を標的にする可能性の方が高いっつー話だ。誰にとっても目のコブだし、妥当っちゃ妥当だろ」
それを言うなら目の上のたん瘤では、というツッコミはない。
レイジや小南といった面々は太刀川のそういう発言には慣れている為、今更突っ込むまでもないのだ。
桜子はというと、彼女は彼女で実況に関係のない茶々は入れないプロ根性がある。
故に太刀川の発言はスルーされ、解説が続けられる。
「だから、二宮は先程のヒュース程ではないが四面楚歌の状況にある。だが、だからと言って易々と落とされる程二宮隊の壁は薄くはない」
「けど、それを香取隊が分かってない筈がないわ。きちんと、勝機を持って挑んでいる筈よ」
ああ、とレイジは頷く。
「彼女達には、二宮を倒す為の策があるのだろう。だが、だからといってそれが簡単に成就するものであるとは、限らないがな」
「────────」
向かって来る香取に対し、二宮はハウンドを放つ。
四方に散らばった弾丸は、途中で一気に反転し凄まじい速度で香取に迫る。
明らかな、弾速重視のチューニング。
それは香取の速度を警戒した、この状況では最適な一射。
「チッ」
香取は止む無く、グラスホッパーでその場から横へ跳んで逃げる。
一度でも捕まれば、そのまま固められて終わりだ。
二宮の弾の脅威は、嫌という程身に染みている。
シールドで受け切れると思って防御したが最後、畳みかけるような弾幕によって削り殺される。
そういう死に方をこれまでのランク戦で二宮隊と当たる度に何度も経験して来たので、今更その愚を犯す事はない。
幸い今回は速度重視のチューニングをしていたので、一気に加速すればそれに追い縋られる事はない。
しかし、そんな事は二宮とて承知の上。
香取を一時的に遠ざけた、というだけでこの攻撃の役割は果たしているのだから。
「来たな」
今の二宮を狙うのは、香取だけではない。
樹里が放った弾幕の第二射もまた、彼の下へ向かっていた。
二宮はすかさず、ハウンドを発射。
向かって来る光の流星を、悉く撃墜する。
まるで出水のような神業であるが、これは相手が樹里だからこそ出来る芸当でもある。
樹里は射撃トリガーを扱う上で力押しの運用をする事に慣れ切っており、技術方面はハッキリ言って拙いと言って良いレベルにある。
なので、二宮が教えた撃ち方の癖がそのまま残っているのだ。
故に、二宮は樹里相手であれば弾道を容易く予測出来る。
そして、弾道を予測出来るのであれば弾幕で迎撃するのは彼にとっては難しくない。
トリオンの暴威が目立つ二宮であるが、技術自体も出水には及ばずとも
だからこそ、こういった曲芸めいた芸当も可能となるのだ。
相手が自身が教導した経験のある樹里だから、という理由は大きいものの、ボーダー内でもこのような真似が出来る者は多くはないだろう。
多くはないだけで皆無ではないのが、ボーダーの層の厚さを表しているとも言えるが。
とはいえ、先程の反省もあるのか今回は弾数そのものが多い。
如何に二宮といえど、ハウンドでそれら全てを撃墜するのは難しい。
大部分は相殺出来たが、墜とし損ねた幾らかの弾が二宮の下へ降って来る。
二宮はそれを、サイドステップで回避。
充分に引き付けてからの回避である為、
樹里のハウンドはそのまま地面に突き刺さり、無為に終わる。
「────────」
だが、それでも役目は果たした。
再びグラスホッパーを展開し、加速を得た香取が二宮に突っ込んで来る。
最初から、樹里の弾幕だけで仕留めようとは考えていない。
そもそも、射手として二宮は樹里の完全な上位互換にあたる。
弾幕勝負をしたとしても、単純にトリオンも技術も上回っている二宮に軍配が上がるに決まっている。
されど、これはチーム戦。
一人で勝てずとも、
幸い、今は妨害の可能性が少ない展開。
この機を逃す理由はなく、香取隊は更に攻勢を強める。
両者、譲らず。
互いに闘志を燃やし、戦闘は更に激化していくのだった。