香取隊の狙撃手   作:デスイーター

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二宮隊Ⅴ

 

 

「…………!」

 

 跳び出した影を見て、二宮は眼を細めた。

 

 そこにあったのは、スコーピオンを構えた遊真の姿。

 

 先程水上を仕留めた玉狛第二のもう一人のエースが、満を持してこの場に推参したのだった。

 

 元より、遊真のいた場所は此処と離れてはいたものの彼の足ならば数分とかからずに到着出来る距離だった。

 

 だからこそ、待った。

 

 時間を稼ぎ、遊真が到着するこの瞬間を。

 

 彼は敵だが、この状況下では疑似的ながら共闘出来る。

 

 何せ、遊真達玉狛第二にとって二宮隊は「一点たりとも与えたくない相手」なのだから。

 

 その得点阻止の為に手段を択ばないのは、ヒュースの行動を見れば瞭然だ。

 

 ヒュースもまた、生駒隊に得点を与えてまで犬飼排除に動いている。

 

 それくらいの事は平気でやるのだから、今この場での共闘くらい普通に選ぶだろう。

 

 勿論二宮を倒した瞬間矛先をこちらに向けて来るであろうが、逆に言えばそれまでの間は背中を刺される心配のない相手とも言える。

 

 信頼というよりも、単純な利害関係で繋がっている分相手の欲しがるものを分かっていればリスクをコントロール出来るという、そういう話だ。

 

 今この瞬間に限定すれば、遊真は心強い味方となる。

 

 それは膠着状態を打破する方策として、この上ない方法と言えた。

 

「────────」

 

 突如現れた遊真に対し、二宮は即座に対応した。

 

 驚いた様子はなく、むしろ得心したような気配すらある。

 

 恐らく、こういった展開も予想はしていたのだろう。

 

 この試合に於いて香取隊・玉狛第二にとって二宮隊がどれだけ排除対象としての優先度が高いかくらいは、既に理解している筈なのだから無理もない。

 

 二宮は用意していたキューブを細かく分割し、射出。

 

 香取と遊真、それぞれに向かって斉射した。

 

 使用した弾種は、追尾弾(ハウンド)ではなく通常弾(アステロイド)

 

 故に、両者は回避を余儀なくされた。

 

 素人が陥りがちな感覚として、射手は相手を追尾するハウンドだけをばら撒いていた方が良いと考えるケースがあるがこれは間違いだ。

 

 確かにハウンドは相手を追尾する弾なので便利そうに見えるが、威力が低いという欠点がある。

 

 ただ闇雲にハウンドを撃ちまくるだけでどうにかなるのは、精々C級時代の話だ。

 

 射手がランク戦で勝とうと思うのならば、アステロイドの扱いをこそ覚えるべきだろう。

 

 アステロイドの最大の利点は、その威力だ。

 

 火力に乏しい射手にとって、集中して叩き込めば相手のシールドを割り得るアステロイドは貴重な武器と成り得る。

 

 特に、二宮のトリオンであれば猶更だ。

 

 勿論一発二発程度でシールドを割る事は出来ないだろうが、何発も集中して叩き込まれれば当然突破される。

 

 それだけの威力が、アステロイドにはあるのだ。

 

 極論追尾弾(ハウンド)だけであれば、シールドを張って強引に突破する事も出来る。

 

 しかし、アステロイドだとそうはいかない。

 

 二宮のアステロイドの威力を考えれば、迂闊にシールドを張って一瞬でもその場を留まるのは自殺行為だ。

 

 だからこそ、取れる手段は回避一択となる。

 

 アステロイドである以上、直線にしか弾は飛ばない。

 

 放射線状にばら撒かれたアステロイドであるが、一端距離を取る事で回避は可能だ。

 

 香取と遊真は即座にバックステップを踏み、弾幕の隙間を縫う形で弾を避けた。

 

「…………!」

 

 されど、二宮と()()()()()()()()()()事に変わりはない。

 

 二宮は素早くキューブを生成し、分割。

 

 ハウンドを、二人に向けて掃射した。

 

 先程は両者が二宮に接近していた為アステロイドという択を取ったが、ある程度離れているのであればこちらの方が有効だ。

 

 何せ、相手の四方から弾が襲い掛かるのだから、アステロイドよりも回避は難しい。

 

 このくらいの距離があれば、シールドを張って強引に突破される心配も少ない。

 

 相手との距離によって弾を使い分けるのも、優れた射手の条件の一つだ。

 

 この程度の事は、二宮は当然理解している。

 

 彼は、射手の王。

 

 ボーダーの中に存在する射手の中でも、頂点に位置する存在なのだから。

 

 元より、優れた攻撃手が束になっただけでは二宮には届かない。

 

 彼の弾幕を抜けるのは容易い事ではなく、四方への攻撃等造作もなく行える二宮にとってただ突っ込んで来るだけの相手は脅威に値しない。

 

「────────!」

 

 相手が攻撃手だけであれば、の話だが。

 

 空から降り注ぐ、無数の流星。

 

 それは当然、遠方からこの場を狙う樹里の弾幕であった。

 

 そう、前衛二人だけならばどうとでもなる。

 

 されど、この()()()()があるならば話は別だ。

 

 前提として、香取達だけでも樹里だけでも二宮には及ばない。

 

 香取は単独では弾幕を突破出来ず、遊真も余程の好条件が揃わなければ難しい。

 

 樹里はそもそも射手としては二宮の下位互換と言って良い性能なので、単騎で勝てる筈もない。

 

 だが、この三者が手を組むとなれば話は違って来る。

 

 確かに香取も遊真も単独での二宮の弾幕突破は厳しいが、それでも()()()()()()()()()()()その刃を届かせ得るだけの潜在能力(ポテンシャル)はある。

 

 遊真は当然として、香取も才能だけで語るならば十二分にA級に匹敵し得る。

 

 それは上位の実力者達からしてみれば周知の事実であり、当然二宮も同様の認識である。

 

 他の部隊は今期のランク戦で「前期までの香取隊」の記憶があるが故にその落差によって隙を突かれる場面も多かったが、こと二宮隊にそのような穴はない。

 

 何せ、彼等は香取隊が樹里と再戦するにあたって直々に教導を行っているのだ。

 

 その過程で当然彼等の成長スピードや成果は目の当たりにしており、()()()()()()の事を他のチームよりも深く理解している。

 

 停滞を止めた香取隊は、自分達に届き得る脅威であると。

 

 そう、認識していたのだ。

 

 口では辛辣な言葉を吐いたとしても、二宮が他者の実力についての評価で私情を交える事はない。

 

 若村などはその私情の所為で香取の評価を若干低く見積もっていたが、今はその認識も改めている。

 

 実力とは、「結果を出したか否か」で決まる。

 

 どれだけ鍛錬を積もうともそれが成果に繋がらなければ意味がなく、横道に逸れて間違った歩みを進んでしまえばそれは()()()となって無為の結果を齎す。

 

 そして今季で香取は、香取隊は、その「結果」をきちんと出し続けている。

 

 ROUND1では圧倒的な地力を以て蹂躙し、ROUND2では負けはしたものの出来る限りの爪痕は残した。

 

 ROUND3では玉狛第二というダークホース相手に勝利し、ROUND4では鈴鳴第一と生駒隊という強力なエースを擁する二部隊相手に勝っている。

 

 ROUND5ではあの東隊を撤退に追い込み、影浦隊に勝利。

 

 ROUND6では王子隊と疑似的な共闘の末にヒュースの加わった新生玉狛第二を下し、ROUND7では東隊・弓場隊・影浦隊との四つ巴を制した。

 

 これだけの結果を出して来た香取隊の「実力」に関して、最早疑う者は誰もいないだろう。

 

「────────」

 

 故に、二宮は慌てる事なく対処を行った。

 

 キューブを更に分割し、空へ向かって一斉に射出。

 

 誘導設定を微調整したハウンドの雨で、樹里のハウンドを迎撃した。

 

 これが出水相手であれば、こんな手は通用しない。

 

 しかし、樹里相手であれば成立する。

 

 二宮は、樹里の師匠である。

 

 樹里自身の自己認識が薄くとも、少なくとも二宮自身はそう認識している。

 

 だからこそ、彼女の弾幕の軌道は手に取るように分かる。

 

 もしも樹里が射手としての腕を磨き続けていればこうはならなかっただろうが、彼女はなまじトリオンが高い故に力押しで何とかなると考えて精密動作に関する修練には左程力を入れていなかった。

 

 これは樹里の強化視覚(サイドエフェクト)を以てしても狙撃手としてのスキルを学ぶのは容易くなかった事の証左であり、ハッキリ言ってしまえば技能習得(スキルツリー)に新たな項目を加えた事で元から持っていた技能に関しては修練する暇がなかったのだ。

 

 だからこそ、樹里の弾道は分かり易い。

 

 彼女は左程精密な弾道調整には長けておらず、その撃ち方の癖についても二宮は把握している。

 

 よって、樹里の弾幕に限れば二宮の弾幕での迎撃という離れ業が可能となるのだ。

 

 二宮はトリオンキューブを分割する際、菱形に分割している。

 

 これは伊達や見栄だけでやっているワケではなく、こうした方がより細かく分ける事が出来弾数を増やし易くなるのだ。

 

 そして、トリオンの弾同士がぶつかれば互いのトリオン差に関わらず弾丸は()()される。

 

 中空で吸い込まれるように樹里の弾幕に衝突した二宮の弾が炸裂し、空で無数の花火が上がる。

 

 火花を散らし、大量の弾幕は空の花となって消え失せる。

 

 あれがもしこの場に着弾していれば、二宮とて防御を余儀なくされる。

 

 即ちそれは強力な前衛二人に狙われている状態でシールドを張り、片手を塞いでしまうという事であり、それは死刑宣告も同義だ。

 

 幾ら強力な射手である二宮とて、射手である以上攻撃までのタイムラグという構造上の弱点までは消えない。

 

 弾幕を切り抜けられ、肉薄を許せば落ちるのは二宮の方だ。

 

 だからこそ、二宮は樹里の弾幕に対し弾幕で迎撃という手段を取った。

 

 防御という択を取る事なく、次の攻撃へ繋げる為に。

 

「────────!」

 

 二宮は再び、アステロイドを斉射。

 

 彼が樹里の攻撃を対処している隙に近付こうとしていた二者に対し、強力な弾幕を見舞う。

 

 正面から二宮のアステロイドを受ける愚を犯すワケにはいかず、香取と遊真は共にバックステップで回避行動を取る。

 

 それによりアステロイドの隙間を縫う形で回避に成功するが、再び二宮と距離を取ってしまった。

 

 香取と遊真の突撃は弾幕によっていなされ、樹里の遠隔攻撃は追尾弾(ハウンド)で迎撃される。

 

 このままでは千日手となり、決め手に欠ける展開が続く事になる。

 

「…………!」

 

 だが。

 

 それに、待ったをかける光景が見えた。

 

 空の向こう。

 

 そこには、先程に倍する速度を備えた流星がこちらへ迫って来ていたのだから。

 

「成る程、予め()を用意していたか」

 

 二宮は射手として、その絡繰りをひと目で見抜いた。

 

 恐らく樹里は先程弾を撃つ前に、予めもう一束弾を用意していたのだろう。

 

 いわゆる、置き弾というやつだ。

 

 射撃トリガーは一度展開した後、制御を離す事でトリガーの枠を空ける事が出来る。

 

 制御から離れた弾はその場に留まり、何らかの衝撃でカバーが外れない限りは設置されたオブジェクトと化す。

 

 カバーが外れた瞬間に起爆する性質を利用したメテオラをこうして設置する事を置きメテオラと呼び罠や仕掛けとして利用されるが、他の射撃トリガーの場合も当然使い道がある。

 

 それが置き弾と呼ばれる技術であり、一度制御を離した弾ともう一度接続し直し、改めて発射するものだ。

 

 この技術の利点は、キューブの生成と分割という二工程を省けるところにある。

 

 通常、射手が攻撃を行う為にはトリオンキューブを生成し、それを分割、更に射出するという三肯定が必要となる。

 

 しかしこの置き弾の技術を使えば前者二つの工程を省く事が出来、疑似的な()()を行う事が出来るようになる、という事だ。

 

 置き弾は見え難い場所に設置し罠のように使うのが一般的と思われがちだが、離れた場所でもこうした使い道があるのだ。

 

 また、今回の弾はかなり弾速重視にチューニングをされている。

 

 先程のようにハウンドでその全てを迎撃するのは、流石に難しいだろう。

 

「詰めが甘いな」

 

 されど、射手の王はこの程度では崩れない。

 

 二宮は再びトリオンキューブを分割し、射出。

 

 それらの弾は中空で樹里の弾に触れた瞬間、()()した。

 

 トリオンの弾頭は、カバーが外れればその場で炸裂する。

 

 そしてそのカバーを外すだけならば、炸裂弾(メテオラ)で充分可能だ。

 

 もしも樹里が誘導設定を弱めて弾幕を広範囲に散らしていれば全てを爆破に巻き込まれる事はなかっただろうが、相手への到達速度を重視して誘導設定を強めていたのが裏目に出た形だ。

 

 こうした所でも、射手としての経験の差が大きく出てしまっているというワケだ。

 

「無駄だ」

「…………!」

 

 そして、前衛二人への対処も抜かりない。

 

 空いていた片手でアステロイドを生成した二宮は、それを斉射。

 

 近付こうとしていた二人に弾幕を見舞い、回避を強要した。

 

 これで、振り出し。

 

 二宮の牙城は、未だ崩されず。

 

「…………っ!?」

 

 ────────だが。

 

 地面から出現した四つの(バリケード)が彼の周囲を覆った事で、二宮が初めて目を見開いた。

 

「エスクード…………!」

 

 二宮の四方に出現した、分厚い壁。

 

 それは間違いなく、エスクードであった。

 

 ヒュースが退場し、なくなった筈の脅威。

 

 その壁が現実の障壁となり、二宮を囲う檻となった。

 

 

 

 

(今…………!)

 

 スコープ越しに二宮を閉じ込めたエスクードの壁を視認し、千佳が引き金に手をかける。

 

 一発の弾丸が、檻の中の射手の王に向かって放たれた。

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