香取隊の狙撃手   作:デスイーター

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二宮隊Ⅵ

 

「千佳にエスクードを使わせる。これが、今回ぼくが用意した作戦の一つだ」

 

 ROUND8、前日。

 

 修はチームメイトの前で、改めて作戦の説明を行っていた。

 

 遊真はふむ、と頷き顎に手を当てた。

 

「つまりそれは、ヒュースがやられた時のサブプランって事か?」

「そういう側面もある。けれど、ヒュースには悪いけど()()()()()()()()()()()()()()考えた作戦でもあるんだ」

「修の言う通りだろう。今回オレは、真っ先に狙われるだろうからな」

 

 ヒュースはそう言って、修の考えに同意を示した。

 

 暗に「自分が落とされる可能性が高い」と言われているのに、ヒュースは気分を害した様子はない。

 

 どころか、むしろ得心したような風に話していた。

 

「ROUND7ではオレのエスクードと千佳の狙撃の連携がどれだけ脅威的かは、嫌でも伝わった筈だ。ならば、敵はこう考えるだろう。なんとしてもヒュース(オレ)()()()落としておきたいとな」

「ヒュースの言う通り、前回の試合でヒュースは()()()()()()。当然相手としてもヒュースは最優先の排除対象になるだろうし、下手をすれば全部隊が総がかりで潰しに来てもおかしくない。何が何でもヒュースと千佳の連携だけは防ぎたい、と考える筈だからな」

 

 二人の言う通り、ROUND7でヒュースは千佳と組んで暴れ過ぎた。

 

 ヒュースのエスクードで相手を閉じ込め、防御不能の千佳の狙撃で仕留める。

 

 単純明快であるが故に防ぎようがないこの連携(コンボ)は、やられた側からすれば堪ったものではない。

 

 何せ、回避が殆ど不可能なのだ。

 

 エスクードは高速で地面から出現する為、封鎖を避ける事が非常に難しい。

 

 下手に触れてしまえば空高くに打ち上げられてしまい、格好の隙を晒す事にもなってしまう。

 

 グラスホッパーもテレポーターもない隊員が空に跳ばされてしまえば、碌に身動きの出来ない空中で敵の攻撃を受ける羽目になる。

 

 何もない地面から突如として人一人を空に打ち上げるだけの加速で出現するエスクードを避けるのは現実的ではないし、万一にでも接触してしまえば目も当てられない。

 

 しかもその硬度はレイガストのスラスター斬りや旋空でもない限り破壊不能な代物であり、それ以外となると千佳のアイビスのような規格外の火力がなければ障害物として出現したエスクードはほぼ排除不能だ。

 

 そのエスクードを突然周囲に展開されて移動を封じられた上で、遠方から飛来する狙撃によって壁ごと粉砕される。

 

 この凶悪極まりない連携で、ヒュースと千佳はROUND7で多大な戦果を挙げている。

 

 当然他チームはROUND7の再来だけは阻止しに動くであろうし、その為にヒュースを狙うというのは分かる話だ。

 

「千佳は狙撃手だ。間違っても前に出るポジションではないし、総合的な能力はともかく隠密能力にはそこそこ長けている。なら、前に出るであろうオレを狙った方が良いと考える者は多い筈だ」

「ああ、ある程度盤面が片付くまで千佳を動かさずにいれば、より一層ヒュースを狙う相手は多くなる筈だ。()()()、それを利用する」

「利用、か」

 

 ああ、と修は頷く。

 

「ヒュースが狙われる事は、どう足掻いても避けられない。でも、最初からそうだと分かっているならやりようはある、って事だ」

「やるなら徹底的に、というやつだ。転送位置にも依るが、敢えてオレに可能な限りの敵戦力を集中させ、その上で出来る限りの被害をばら撒いて落ちる。こうする事で、相手は「エスクードの脅威は去った」と強く認識する筈だ」

「ランク戦であそこまでエスクード連打するのは、これまでなかったからねぇ。だからきっと、ヒュースくん=エスクード使い、くらいの印象は植え付け成功してると思うよー」

 

 宇佐美の言うように、これまでヒュースはエスクードを用いて散々暴れ回って来た。

 

 所詮のROUND6に始まり、ROUND7では特にその脅威性を見せつけている。

 

 ヒュースのエスクードがそれだけ厄介かは、文字通り骨身に染みている筈だ。

 

「だからこそ、これが効く。オレが落ちた後は、エスクードへの警戒は薄まる筈だ。ヒュース(オレ)が落ちたのだから、エスクードがいきなり出て来る心配をする必要はなくなったと、そう考えるだろう」

「そこを突く。一度警戒を外した以上、それをもう一度警戒するのは難しいからな」

 

 故に、ヒュースを倒せばエスクードへの警戒は外れる。

 

 彼を落とすのがどれだけの労力がかかるかは言うまでもなく、それこそ全霊を以て挑む筈だ。

 

 そしてその分、打倒が叶った後は「ヒュースが倒れた以上エスクードで盤面を引っ掻き回される危険はなくなる」という思考が生まれる。

 

 故にこそ、ヒュースは落ちる前提で戦い()()()に生まれるであろう隙を突く。

 

 これは、そういう作戦だ。

 

 遊真は成る程、と得心して頷く。

 

「確かに、それなら隙を作れそうだな」

「ああ、ヒュースには悪いけど、そういう可能性があるなら利用した方が良いと思うんだ」

「同感だ。論理的に考えても、オレが囲まれて落ちる確率は高い。無論タダで落ちるつもりはないが、楽観で作戦を組むワケにはいかない。常に最悪を考慮し、それを避けるもしくは利用する戦略を練るべきだ。ハイレイン隊長も、そうやっていたからな」

 

 ヒュースの言う通り、確かにハイレインも「最悪の展開」()()は回避するべく、リスクヘッジを最重要視して作戦を立てていた。

 

 その戦術思考は部下であったヒュースにもしっかりと刻まれており、己の糧としている。

 

 今は切り捨てた側と切り捨てられた側だが、だとしてもそれだけでかつての上司の評価を覆すようなヒュースではない。

 

 そも、相手の実力とその行動は別のものだ。

 

 どれだけ悪辣な行動を取ったとしても、その人物の有能さそれ自体は消えるワケではない。

 

 むしろ、それだけ頭が回る人物であるが故に綺麗にこちらを嵌められた、と考えるべきだ。

 

 成功も失敗も、忠誠も裏切りも、全て含めて自身の()()である。

 

 ならば、それを悔やんだり感情を燻らせる前に、望む結果を出す為の「糧」とするべきだろう。

 

 それがヒュースの思考であり、実のところ修も似たような思考傾向を持っている。

 

 利用出来るものは、何であっても利用する。

 

 そういった所では、地味に共通点のある二人であった。

 

「だから、最終ラウンドではヒュースが落ちる事を前提に作戦を組む。香取隊も必ず動くだろうから、その動きに合わせて千佳はエスクードを使ってくれ。タイミングは指示する」

 

 それから、と修は続ける。

 

「もしも失敗したとしても、気にするな。()の事は、ちゃんと考えてあるからな」

 

 

 

 

「────────」

 

 二宮の下に、一発の弾丸が飛来する。

 

 それは、彼には目視出来ない。

 

 今、二宮の四方は壁で囲われていた。

 

 (バリケード)トリガー、エスクード。

 

 先程までヒュースが散々用いて暴れていた、強固な装甲を持つオブジェクトを展開するトリガーだ。

 

 この壁は、生半可な事では破壊出来ない。

 

 確実に破壊出来るとされているのは旋空もしくはレイガストによるスラスター斬り程度であり、如何に二宮といえどこの壁を排除するのは時間がかかる。

 

 勿論耐久値は無限ではないので弾を撃ち込み続ければいずれは壊れるだろうが、即座にとはいかない。

 

 破壊し終える頃には、千佳の弾が到達している事だろう。

 

 エスクードの障壁すら破壊する、数値化するのが馬鹿らしくなる威力を持つのが千佳の狙撃だ。

 

 その攻撃は二宮のシールドであっても防げるものではなく、防御という択を取った瞬間即死が確定する。

 

 故に回避するしかないのだが、四方が壁に囲まれたこの状況下では逃げる場所が物理的に存在しない。

 

 しかも視界も塞がれている為、何処から弾が飛んで来ているかすら分からない。

 

 このままでは、ROUND7での生駒の二の舞を踏んでしまうだろう。

 

「舐めるな」

 

 だが。

 

 これで終わる程、射手の王は甘くはなかった。

 

 轟音が響き、()()()()()()()()

 

 それは、千佳の弾丸の着弾に依るものではない。

 

 二宮の弾丸、それが炸裂したのだ。

 

 分割すらしていない、アステロイドのキューブ。

 

 それを地面に叩きつけ、自身の身体をシールドで守りながら足場を破壊。

 

 度重なる射撃戦によって瓦礫の山となっていたその地面は、正確に言えば無数の瓦礫の折り重なった場所となっており、エスクードは崩れた瓦礫から展開されていた。

 

 そして、エスクード自体は強固であるがその展開に必要な()()は別だ。

 

 エスクードは一定以上の面積を持った「足場」から出現する代物であるが、通常の隔壁のように予めその場所に埋め込まれているワケではない。

 

 体感としては、その足場の上に直接()()する方式で実体化している。

 

 要は、その「足場」の中に()()()()()()()()()()()()()のだ。

 

 よって、エスクードに足場となる地面を守る効果はない。

 

 故に、足場そのものを吹き飛ばしてしまえば、エスクードもその巻き添えで吹き飛ばせる。

 

 二宮の射撃には、それだけの威力があった。

 

 地面だろうと吹き飛ばせる火力であるならば、瓦礫が積み重なっただけの地面を炸裂させる程度造作もない。

 

 そうしてエスクードによる包囲は力技で突破され、生じた隙間からスライドする形で二宮は隔壁から脱出した。

 

 一瞬遅れて、千佳の弾が着弾する。

 

 轟音と共に周囲が吹き飛ばされるが、二宮は当然それをシールドで防御。

 

 これまでは千佳の狙撃を警戒して行えなかったシールドでの防御が、今此処で活きて来る。

 

(位置は分かった。あの方角か)

 

 今回の狙撃で、千佳の大まかな方角は確定した。

 

 樹里のいる方向も分かっているので、少なくとも狙撃が()()()()飛んで来るかは把握出来た。

 

 位置の分かっている狙撃手の攻撃は、脅威度が激減する。

 

 今までは360度全方位に割いていた警戒を、数ヵ所に集中して行えるようになった。

 

 先程までとは、全く違う条件となる。

 

 どちらが有利かは、最早言うまでもないだろう。

 

 玉狛がヒュースを犠牲に練り上げた必殺の策は、これにて破れた。

 

 

 

 

(────────最初から、これで仕留められるとは思ってなかった。出来れば僥倖、くらいかな)

 

 しかし、修は一切動揺していなかった。

 

 彼は一人、バッグワームで潜伏しながら報告を聞いていた。

 

 千佳の狙撃が失敗に終わる事は、ある程度想定していたのだ。

 

 何せ、少し工夫をしたとはいえ手口自体はROUND7で既に見せている方法なのだ。

 

 二宮であれば、「そうなった時」に備えた策を考えていても不思議ではない。

 

 実際はかなりの力押しの突破であったが、結果的に防がれてしまったのであれば同じだ。

 

(けど、まだだ。ぼく等の勝利条件は、()()()()二宮隊を倒す事じゃない。重要なのは、可能な限り二宮隊に点を与えず退場して貰う事だ。なら、それを成し遂げるのが何もぼく等である必要はない)

 

 だから、と修は続ける。

 

(この状況を、香取隊(かのじょたち)なら必ず利用する。お膳立ては、充分出来たからな)

 

 

 

 

「…………!」

 

 二宮は、眼を細めた。

 

 物陰から飛び出して来た影、それを見たが故に。

 

 バッグワームを解除し、弧月を構えるその人物の名は三浦。

 

 彼は、香取隊は、この好機を見逃さなかった。

 

 今、二宮は千佳の狙撃によるダメージから身を護る為にシールドを展開し足を止めている。

 

 そして、旋空であれば二宮のシールドであろうと突破可能だ。

 

 元々、シールドはそこまで絶対視出来るものではない。

 

 特に、トリオンの殆どを威力に割いているブレードトリガーによる斬撃には脆弱性を見せる。

 

 加えて、絶対の切断能力を持つ旋空であるならば猶更だ。

 

 如何に二宮のトリオンで張られたシールドとはいえ、旋空は防げない。

 

 今此処で旋空を振り抜く事が出来れば、二宮は落ちるだろう。

 

「させないよ」

「…………!」

 

 しかし、その三浦の攻撃は同じく物陰から出て来た辻によって中断された。

 

 辻の攻撃を受け、三浦は止む無く防御を選択。

 

 振るわれた弧月を、己のブレードで受け止めた。

 

 一瞬の足止め、されど今はその刹那こそが惜しい。

 

 攻撃のタイミングは、完全に外された。

 

 加えて、剣の技量はどう考えても辻の方が上である。

 

 これまでは前衛が女性である香取と機動力に優れる遊真しかいなかった為に彼の出る幕はなかったが、三浦相手であれば別だ。

 

 彼は、二宮隊は、ここぞという時に旋空を使える三浦が出て来るであろう事を読んでいた。

 

 辻が香取に使えないのであれば、別の相手に使うだけ。

 

 その単純明快な解を以て、二宮隊は香取隊の奇襲を凌いだ。

 

 シールドを解除し、移動が可能になった二宮であれば旋空といえど絶殺には足り得ない。

 

 そもそも、三浦が辻を超えて二宮に剣を振るう事自体が困難だ。

 

 しかも、玉狛が潜ませていた切り札である「千佳のエスクード」による作戦という最大の好機を逃した以上、二宮が崩れる隙がこれからあるかさえ不明だ。

 

 数の差はあれど、射手の王は単純な物量では崩れない。

 

 それは誰が見ても明らかな真理であり、根性論で覆し得るものではない。

 

「ろっくん」

「…………!」

 

 ────────故に、明確な解答を此処に提示する。

 

 三浦の脇を何かが通り抜けた直後、それは空気から溶けるように出現した。

 

 若村だ。

 

 黒いアサルトライフルを構えた若村が、辻という前衛を抜いて二宮の前に躍り出た。

 

 三浦は、あくまでも囮。

 

 本命の狙いは、カメレオンで姿を隠した若村を二宮に接近させる隙を作る事だ。

 

 この距離であれば、銃手トリガーの速射力は射手に対して相当な有利となる。

 

 展開、分割、射出の三肯定を踏まなければならない射手と異なり、銃手は引き金を引くだけで弾を撃てる。

 

 だからこそ、この近距離であれば弾を連射し続けられる銃手が射手に対して明確な有利を取れるのだ。

 

 加えてこの場には、香取と遊真という突出した前衛がいる。

 

 遠距離からの樹里の援護も含めれば、二宮に不利を強いる事が出来る。

 

「甘い」

「…………!」

 

 されど。

 

 射手の王は、そんな若村にも対応した。

 

 若村が引き金を引く直前、二宮の足元から跳び出した無数の弾丸が若村の身体を貫いた。

 

 急所は避けているが、身体中に風穴が空き大量のトリオンが漏れ出ている。

 

 トリオン切れによる緊急脱出(ベイルアウト)は、時間の問題だろう。

 

 これでは、継続する斉射など出来よう筈もない。

 

 間違いなくあと数秒で、若村は落ちる。

 

「まだ…………!」

 

 しかし、若村は止まらなかった。

 

 全身穴だらけであるが、逆に言えば急所だけは外れている。

 

 否。

 

 急所()()()、守り切ったのだ。

 

 我が身を捨てて、攻撃に全てを懸けた。

 

 以前の若村であれば、有り得なかった。

 

 自らを駒と見做し、チームの為に身を捨てるその姿は。

 

 エース頼りの、口だけの存在ではなく。

 

 正しく、B級上位で戦う部隊の一員としての姿だった。

 

 その光景に二宮は瞠目し、若村は一切の躊躇いなくそのまま引き金を引いた。

 

 無数の黒い弾丸が、二宮へ迫る。

 

「…………!」

 

 その弾丸の正体に気付いた二宮だが、同時に遊真が投げ飛ばした手裏剣型のスコーピオンが視界に移る。

 

 大きく円を描く形で二宮に迫るそれに対し、回避しようとした刹那上空から迫る無数の流星を目撃する。

 

 樹里だ。

 

 彼女もまた、この好機に迷いなく弾丸を叩き込んで来たのだ。

 

 その範囲は広範で、弾幕で迎撃出来る量ではない。

 

 樹里は今回かなりの数に弾丸を分割しており、一つ一つの弾が小さい分、如何に二宮とはいえハウンドで迎え撃つ事は不可能だろう。

 

 しかも、弾速重視にチューニングして回避する暇を与えない事に注力している。

 

 その、創意工夫は。

 

 まだ粗くはあるが、以前は力押し一辺倒だった樹里の確かな成長の証だった。

 

「ちっ…………!」

 

 止む無く、二宮はブレードの軌道上に集中シールドを張り、同時に固定シールドを展開。

 

 張られた障壁は遊真の投擲スコーピオン、及び樹里の弾幕を受け止める。

 

 だがその代償として、黒い弾丸はシールドを透過して続け様に二宮に着弾した。

 

 瞬間、二宮の身体に無数の黒い重石が出現しその重量で彼はくず折れる。

 

 彼は、これを良く識っている。

 

 かつて二宮が在籍していた、旧東隊。

 

 そのチームメイトであった三輪が用いる、ダメージではなく特殊効果を与える弾頭。

 

 鉛弾(レッドバレット)

 

 通常のシールドや弾丸を透過し、着弾した対象に弾一つにつき100㎏の重石を付与するオプショントリガーである。

 

 欠点は重石の弾に非常に多くのトリオンを割く関係上射程が短く、弾速も遅くなる上に両攻撃(フルアタック)の状態でなければ撃てない為多くの隙を晒してしまう事だ。

 

 しかし若村はそれをギリギリまでカメレオンを用いて接近し、避けられない距離で撃つ事で解決した。

 

 勿論、普通に正面から撃って当たるようなものではない。

 

 されど今二宮はシールドを張って足を止めていた直後であり、遊真のスコーピオンの投擲もあって動く事が出来なかった。

 

 そのタイミングこそを狙い、若村は自身の身と引き換えに二宮に重石を付ける事に成功したのだ。

 

「やっ、た…………!」

『トリオン漏出過多。緊急脱出(ベイルアウト)

 

 機械音声が若村の脱落を告げ、仕事を終えた銃手は光の柱となって消え失せる。

 

 その、刹那。

 

 若村の緊急脱出(ベイルアウト)によって生じた粉塵に紛れ、香取が二宮へ接近した。

 

 現在、二宮は鉛弾(レッドバレット)の影響で碌な身動きが取れない。

 

 回避という択が最早許されない状態で、二宮は自身を狙う挑戦者を睨みつけた。

 

「────────!」

 

 しかし、射手であれば手足が動かずとも射撃を行う事は出来る。

 

 二宮は即座に展開したキューブを分割し、アステロイドを斉射した。

 

 重石によって地に伏せ、しかし尚も攻撃の手を緩めない。

 

 その攻撃の威力に翳りはなく、香取単体では突破は出来ないだろう。

 

「…………!」

 

 だが。

 

 あくまでそれは、香取が()()であればの話だ。

 

 二宮の弾幕の前に、無数のシールドが展開される。

 

 それを張ったのは、三浦と遊真だ。

 

 片やチームメイトを助けんと、片や敵を利用せんと。

 

 立場の違う者同士が、思惑の一致を以て協調した。

 

 その、結果だった。

 

 無数の二宮の弾幕の中に、シールドによる安全地帯が形成される。

 

 その好機を、香取は見逃さなかった。

 

 グラスホッパーを展開し、シールドを盾に突貫する。

 

 真っ直ぐ、されど被弾せぬようグラスホッパーで微細な移動を繰り返し、躍るように宙を駆ける。

 

 光弾はシールドに当たって炸裂し、無数の火花が散った。

 

 そんな中空を突き進む香取に、一切の減速は無い。

 

 己の技能(ちから)を信じ、生まれた好機を逃さんと、最大加速で走り切る。

 

 そして。

 

「────────!」

「────────届いた!」

 

 ────────香取の刃が、二宮の胸を貫いた。

 

 右足から生やした刃が、二宮の胸部に突き立っている。

 

 それは、無数の重石を経て尚地に伏せたままでいる事を許さなかった二宮が渾身の力を以て上体を起こしていた、その結果であった。

 

「…………良いだろう。及第点だ」

『戦闘体活動限界。緊急脱出(ベイルアウト)

 

 機械音声が、二宮の敗北を告げる。

 

 射手の王は最後まで誇り高く、戦場から散って行った。

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