「こ、ここで二宮隊長が
「凄ぇな。本当に二宮を倒しちまいやがった」
「やったわね!」
桜子の実況と共に会場が沸き上がり、熱気が炸裂する。
数々の攻防の末の、二宮の撃破。
まさしく激戦と呼ぶべき戦いを制した者達への、正当な称賛であった。
「色々な事が起きたからな。時系列順に整理していこう」
「そうだな。まず、香取が木岐坂の援護で二宮に向かった後、空閑が現れて共闘したところからか」
「あの状況なら、共闘以外ないもの。当然ね」
レイジの一声で、まずは起きた事を整理する事となる。
最初は香取が樹里の援護を得て二宮に挑んだ後の、遊真の参戦だ。
遊真は香取との一時休戦、疑似的な共闘を選んだ。
それが利害の一致に依るものなのは、最早言うまでもない。
「二部隊、特に玉狛にとっては二宮隊が得点するか否かは死活問題だからな。共闘は妥当な判断だろう」
「玉狛の目的は、B級二位以内だったか。なら、その判断も当然だな」
玉狛第二には、何が何でもB級二位以内に入らなければならない理由があった。
故に、最優先事項は二宮隊の得点阻止になる。
その為であれば他の部隊との疑似的な共闘も、むしろ当然の判断と言えた。
「だが、それだけでは二宮は崩れなかった。三人がかりの猛攻を、巧く凌いでいたな」
「二宮は多対1の経験もかなり多いからな。幾らエース二人が相手でも、それだけで落ちる程ヤワじゃねーってこった」
けど、と太刀川は続ける。
「そこで、まさかのエスクードだもんな。アレにゃあ驚いたぜ」
「ふふん、慄いたわね。凄いでしょ」
「多分、三雲の指示か? となると、ヒュースが落ちる事まで最初から計算済みだったのか。怖ぇなあオイ」
聞きなさいよっ、とぷんすか怒る小南を尻目に太刀川は眼を細めた。
彼からしても、あの光景は驚いたのだ。
まさか、ヒュースが落ちた状況でエスクードが展開されるとは思いもしなかっただけに。
「ROUND7じゃあ、ヒュースのエスクードと雨取の狙撃のコンボが凶悪過ぎたからな。だからこそ、何がなんでもヒュースだけは落とそうと全部隊が結託してヒュースを囲んで、被害をばら撒かれながらもなんとか落としたワケだ」
「ああ、だが逆にあれで他の部隊はヒュースの最も象徴的なトリガーであったエスクードの脅威がなくなったと認識した。修は、そこを突いたワケだ」
「いつの間にか、ヒュースの事をエスクード使いとして強烈に認識させられてたからな。巧い手だと思うぜ」
ROUND7の試合にて、ヒュースはエスクードを用いて千佳と連携し、次々と敵を葬り去った。
その鮮やかな手並みは対戦相手は勿論、ログで試合を見た香取隊の心にも深く刻まれた。
結果としてヒュースは最優先排除対象となり囲まれて落とされたワケだが、その時点で「エスクードの脅威は去った」という認識を植え付けたのは否定出来ない。
玉狛は、修は、その認識こそを利用したワケだ。
「そうしてエスクードで閉じ込められた二宮を雨取が狙撃で狙ったが、二宮は足場を破壊して脱出。難を逃れたな」
「ありゃ多分、ヒュースとの連携の時にはなかったタイムラグを利用されたな。ヒュースと一緒にやった時はエスクードを出した次の瞬間には狙撃が着弾してたが、一人でどっちもやった分弾が届くまで少し時間があったからな」
「ああ、確かに雨取がエスクードを使う、という作戦の意外性は悪くなかった。だがその分、慣れないトリガーを使ってその上で続け様に狙撃、となるとどうしてもラグが生じてしまった。奇策の脆さを突かれた形だな」
しかし、奇策は意表を突く事には特化しているがその反面、普段と全く違う事をする分隙が生じやすいものでもある。
今回は千佳一人がエスクードでの封鎖と狙撃の両方を担当したが故に、そこに至るまでのタイムラグを利用されてしまった。
ROUND7ではヒュースがエスクードで封鎖した直後、刹那の間を置かずに千佳の狙撃が着弾していた。
だからこそあの生駒でもどうしようもなくそのまま落とされたのであり、ヒュースが最大限警戒される原因にもなった。
だが、ヒュースと異なり千佳はエスクードの扱いには慣れていない。
今回の作戦にあたって事前に練習はしたのだろうが、それでも実戦で経験を積めない分どうしても拙さは出て来る。
今回はそれがエスクードによる移動封鎖から狙撃までのタイムラグとして出てしまった、というワケだ。
「それから、二宮は多分ああなる事を読んでたよな。やっぱ、戦術としては一度見せたパターンだったからか?」
「それもあるが、二宮は玉狛第二を一切侮らなかった、というだけの話でもある。ヒュースがエスクードであそこまで戦えたのは、燃費の悪さを解決する豊富なトリオンがあったからだ。ならば、ヒュース以上のトリオンを持つ雨取が同じ事が出来ないとは考えていなかったのだろうな」
「確かにあれ、多分来るって分かってた反応だったわよね。そうでなきゃ、即断でああは出来ないでしょうし」
加えて二宮は、玉狛の策自体を看破していた節がある。
足場の破壊、という盲点を突いた策は、どうにもあの場で考えたものとは思えない程対応が早過ぎた。
あれは恐らく、予めあの状況に備えて準備しておいた策だろう。
二宮は玉狛第二を一切侮る事なく、むしろ「雨取ならやれるだろう」とまで考えて備えていた可能性が高いのだ。
でなければ、ああまでスピーディーな対応は難しかった筈である。
「二宮は一切の先入観に囚われず、能力的に可能かどうかだけを判断した。この点は、ROUND7で修にハウンドで倒された経緯も起因しているんだろうな」
「まがりなりにも一度自分を倒した相手だからな。そう考えりゃ、舐めてかからないのも当然か」
「そうね。あの時点で、二宮さんの
その理由として、ROUND7での敗退が挙げられる。
ROUND7で二宮は最大限警戒していた遊真でも密かに期待していた千佳でもなく、あの修によって敗北を喫している。
獅子博兎の信念を刻み込んでいる彼に限って修を侮っていたワケではないだろうが、実力を冷静に分析し妥当な評価を下していた筈だ。
しかし、その「妥当な実力評価」こそが修が利用していたものだったのだ。
修は自分の能力の低さを誰よりも理解しており、それ故に自分に対する戦力評価も正しく認識していた。
だからこそ彼はROUND7で
修のトリオンであれば新たなトリガーをセットする余裕はないだろう、という当たり前の戦力評価を、逆に利用したワケだ。
その時点で、恐らく二宮の修に対する認識は大きく上方修正されたに違いない。
それこそ、「修であれば何をやって来てもおかしくない」と思われるくらいには。
二宮は、修の事を評価していたのである。
だからこそ、今回の奇策にも気付けた。
修の実力を認めていたが故に、千佳によるエスクードという致命的な策に対して備えをする事が出来たワケである。
「だが、二宮がエスクードの対処を行う為に多少なりとも隙を晒した事は事実だ。香取隊は、そこを利用して仕掛けて来た」
「というより、ありゃ三雲がそこまでお膳立てを整えたように見えるな。多分、ああすりゃ香取隊が動くって予想出来てたんだろ」
「修ならそれくらいはやるわね。当然よ」
ふふん、と胸を張る小南はさておいて、二宮がエスクードへの対処を行った隙を香取隊は逃さなかった。
正しくは、そうなるように修が誘導した。
最初から彼は、千佳によるエスクード狙撃
むしろ、「対処されて当然」とまで思っていたに違いない。
だからこそ、「二の矢」を用意していた。
香取隊という、自分達以外の戦力を使って。
「香取隊にとっても、単騎で圧倒的な制圧力を持つ二宮は何が何でも倒しておきたかった相手だろーからな。その二宮が少しでも隙を晒したんなら、畳みかけない理由はねーわな」
「事実、エース二人がかりでも倒せなかったからな。少しでも好機があれば、その裏にどんな思惑があっても乗るしかないだろう」
「だな。目的達成と同時に剣先を翻すとはいえ、利用出来るんなら利用するに越した事はねーだろ。少なくとも、二宮撃破までは裏切りの心配はないワケだしな」
二宮に隙が生じれば、当然香取隊は乗って来るだろうと修は読んでいた。
香取隊としても、エース二名を投入しても尚倒せていなかった二宮を撃破するチャンスと踏めば、その裏にある思惑を察しても乗るしかなかっただろう。
生存を許せば、二宮一人に盤面をひっくり返されかねないのだ。
玉狛の思惑通りだとしても、むしろ乗らない理由を探す方が難しい。
だからこそ、この共闘は成立したのだ。
利害の一致という、この上なく合理的な理由によって。
「そこで三浦を投入したワケだが、ここは辻が抑えに回ったな」
「恐らく、二宮もまたあの状況で香取隊が動かない理由がない事くらいは分かっていたのだろうな。だからこそ、辻を伏兵として忍ばせていた。良い判断だ」
だが、その機に投入された三浦は辻によって足止めを受けた。
正確には女性と戦えない辻を香取相手にぶつけられず温存していたところを適材適所として活用したワケだが、当然そこには言及しない。
辻が女性と戦えない事を知っているのは数える程しかいないが、彼が女性が苦手なのは少なくとも小南は知っているし、レイジと太刀川はそのあたりを察してもいる。
しかし個人のプライバシー的な部分の話になるので、こういった公の場で言及するのはタブーである。
その程度の配慮を欠かさないのも、彼等らしいと言える。
「だが、その三浦もまた陽動に過ぎなかった。本命は、カメレオンで姿を隠した若村を接近させる事だった」
「あれ、巧かったわよね。ギリギリまでバッグワームで忍んで、三浦が飛び出したと同時にカメレオンを使って駆け抜けたからね。三浦と殆ど並走していたし、レーダーじゃかなり分かり難かった筈よ。多分オペレーターは樹里ちゃんが合成弾を使って来ないかどうかの方を警戒してたでしょうし、他に動かせる隊員もいなかったから対応が遅れたのも無理ないわ」
辻によって三浦を止められたが、その状況こそ香取隊の待ち望んでいたものだった。
足止めされた三浦の傍を駆け抜ける形で、若村がカメレオンを使って辻という前衛を抜いて二宮に接敵した。
最初から三浦は陽動として配役されており、本命は若村の方だった、というワケだ。
あの時、二宮隊は樹里が合成弾を使って来ないか眼を光らせていたが、既に犬飼を欠いていた為に他に動かせる駒がなかった。
もしも犬飼が生きていれば、若村が出て来ても平然と対処されただろう。
されど彼は玉狛の策略で既に落とされており、最早いない。
この時点で、二宮隊の取れる手は大幅に制限されていたのである。
「けど、そんな若村にも二宮は冷静に対処したな。置き弾を使って、致命傷を与えやがった」
「だが、若村は最初からまともに攻撃を防ぐ気がなかった。急所の被弾だけは避けて、自分の攻撃を通す事だけに注力したんだ」
「ガッツあるわよねー。どっちにしろトリオン漏れで落ちるけど、即死だけはさせなかったもの。あれには素直に感心したわ」
されど、二宮はその若村にも対応してみせた。
彼の想定外だったのは、若村が身を捨ててまで攻撃に全てを懸けた事だ。
若村は急所の被弾だけは避け、他の攻撃は全て無視した。
何が何でも急所である頭と胸だけは守り、他所への攻撃は全て些事と割り切ったのだ。
その結果、若村は攻撃を実行する事が出来た。
何が何でも作戦を完遂するという、執念の結果であった。
「そこに空閑のスコーピオンの投擲と、木岐坂による弾幕が降って来た。二宮は止む無く防御を選んだが、そこに若村の攻撃が────────
「鉛弾は、シールドをすり抜けるからな。幾ら二宮のシールドが堅くても、これなら関係ない。弾速が遅くなるってデメリットも、接近して撃つ事で解決してたしな」
「最初から若村が、鉛弾を叩き込む事だけを考えていたんでしょうね。良い思い切りだわ」
その結果として、二宮に鉛弾が叩き込まれた。
扱い難い鉛弾というトリガーを、最大限の創意工夫と執念で倒すべき相手に撃ち込む事に成功した。
これは紛れもなく、若村の実力が成した結果と言えるだろう。
「重石を付けられて身動きを封じられた二宮を、そのまま香取が撃破。道中の弾幕は、空閑と三浦の二人がかりのシールドで対処したな」
「あそこの流れは鮮やかだったわよね。本当に迷いがなかったわ」
「一秒でも遅れてりゃ、二宮は対処しただろーからな。あそこで決められなきゃ、無理だったろーぜ」
重石を付けられたとはいえ、二宮は射手である。
トリオンがある限り射撃トリガーは使用可能であり、身動きが取れないままでも弾幕をバラ撒く事は出来る。
打倒は出来ただろうが、あのまま暴れさせては相応の被害が出ていた筈だ。
それを若村一人の犠牲で収めたのだから、大したものだと言えるだろう。
「ともかく、これで二宮隊は辻一人。生駒隊は隠岐一人を残すのみとなった。無論この二人を放置は出来ないだろうが、共闘関係が終わった以上どうなるかは目に見えている」
「次は、香取隊と玉狛第二の直接対決だな。まだまだ、盛り上げてくれそうだ」
レイジと太刀川は、片や無表情、片や不敵な笑みを浮かべてスクリーンを見据える。
そこには、二宮がいなくなった戦場で睨み合う二部隊のエースの姿があった。