「三浦隊員、雨取隊員の狙撃により
「見事だ。お互いの思惑を巧く利用したな」
レイジはそう言って、称賛の言葉を口にする。
隣の太刀川もニヤリと不敵な笑みを浮かべており、小南は喜色満面で手を叩いている。
玉狛の二人は小南はともかくとして、レイジもまた嬉しさが隠し切れていない様子だった。
「何が起きたか、整理するか。まず、雨取がエスクードで辻を包囲した。この時点で辻、加えて三浦はROUND7での出来事を想起した筈だ」
「生駒さんがエスクードで囲まれて、そのまま壁ごと千佳に撃ち抜かれたやつね」
「そうだ。エスクードで囲まれた瞬間、辻は狙撃が来ると確信した筈だ。当然、それを見ていた三浦もだ。これは、間違いなく両者の共通認識だったろう。現に、この試合でも二宮が一度その手を喰らいかけているからな」
レイジの言う通り、辻がエスクードで囲まれた瞬間その場にいた全員は想起した筈だ。
ROUND7でに生駒の撃破シーン、そしてこの試合で二宮がエスクードで囲まれ、狙撃されかかった場面を。
エスクードで囲まれる事が、イコール狙撃を受ける合図と認識されていた。
それは、間違いないだろう。
何せ、実際にそれをログも合わせれば二度も目撃しているのだ。
想像するな、という方が難しいだろう。
「そして、エスクードは単に刀を振るうだけでは突破出来ない。必ず、旋空が必要になる。だが、悠長に壁を斬っていては狙撃の到達に間に合わない。だから、辻はこう考えた筈だ。
「まあ、あの場面じゃそれがベターだよな。上に跳んで三浦を視認しちまえば、そのまま旋空を撃てる。壁越しで軌道が分からない旋空を喰らえば、三浦が落ちる可能性は高かっただろうぜ」
「勿論、反撃も見込んだ上ででしょうね。辻ちゃんは、自分が生き残る事をほぼ考えてなかった。だから、相打ちでも構わないと思ったんでしょう」
三人の言うように、辻はエスクードで囲まれた時点で自らの生存よりも得点を最優先した。
小南は口には出さなかったが、女性恐怖症の辻にとって残っている香取隊二名はどちらも女性なので、手の出しようがない。
相対した時点で終わり、と言っても過言ではなく、あの場で生き残っても更に得点を重ねる事は不可能に近しかっただろう。
男性である遊真や修は前者は単純に個人としての実力が高い上に彼がいる戦場には必ず香取がいるであろう事を考えれば厳しく、修はそもそも位置が分かっていない。
故に無理に生存を狙うよりは、あの場面に全てを懸けて生存を度外視してでも点を取る事を優先したとしても無理はない。
「ちなみに太刀川、アンタならどうしたの?」
「勿論、エスクードが出て来た瞬間に旋空を連射して三浦を斬ってたな。というより、1対1になった時点で押し切れるぞ。三浦は弱くねぇけど、単独での格上喰いが得意なワケでもねぇからな」
なお、太刀川は自身の剣腕を前提とした想定を堂々と口にしたが小南もそれに異論はない様子だった。
なんなら彼女も同じ質問をされれば似たような答えを返したであろうし、それが不可能とも思っていないからだ。
NO1とNO3、共に最高位の
サポート特化の辻よりも単騎掛けが得意な二人であれば、辻と一騎打ちになった時点で実力で押し切れただろう事は言うまでも無い。
三浦や辻が弱いワケではなく、二人が強過ぎるのだ。
こればかりは、文字通りにレベルが違うと評価するべきだろう。
「話を戻すぞ。辻は勿論、三浦も相打ちで構わないと思って旋空の準備をしていた。辻側は点が取れればそれで良いし、三浦も二宮隊相手の失点をそこまで気にする理由はなかったからな」
「二宮隊は辻ちゃんで最後だったから、辻ちゃんが倒れればそれ以上得点を重ねられる恐れはないからね。香取隊としちゃ、逃げ切れればそれで良いって認識でしょ」
「だろうな。辻と同じで、あそこで三浦が生き残ってもそこまで大きな役割を果たせたかどうかは少し怪しいしな。それよりは、後先考えず全賭けした方が良い結果になる可能性があっただろーからな」
三人の共通認識として、辻と三浦は双方共に相打ちで構わないと考えていたという事が挙げられる。
辻は得点出来ればそれで良いと考えて動いていたようであるし、三浦もまた失点をそこまで気にする立場でもなかった。
失点よりも得点が大事である事が基本なランク戦に於いては、至極自然な思考と言えるだろう。
「だが、玉狛はそれを利用した。或いは、そう考えるように誘導したと言うべきか」
「あの場面で雨取が狙うのは辻だってのは、誰もがそう思ってただろーからな。それまでのお膳立てもあったし、猶更だな」
「玉狛が今回の試合で対二宮隊にかなり注力してたのは、周知の事実だからな。当然あの場面でも、辻を狙うと誰もが思う筈だ。辻さえいなくなれば、二宮隊の得点は阻止出来るからな」
しかし、とレイジは続ける。
「
「言われてみりゃあ、あの場面で辻が狙えるのは三浦だけだったからな。その三浦を先に落としちまえば、辻が点にする相手がいなくなる。そうなりゃ、後はどうとでもなるわな」
先の場面で、誰しもが玉狛は辻を狙うと思われていた。
それまでの戦いでも玉狛が二宮隊へ向ける偏執的とも言って良い対策は、かなり目立っていたからだ。
チャンスがあれば、玉狛第二は二宮隊を潰しにかかる。
これは、全部隊の共通認識だったろう。
されど、玉狛第二は。
その認識こそを、利用した。
彼等が狙ったのは辻本人ではなく、彼が得点にしたいと思っていた相手である三浦だった。
旋空以外に中距離攻撃手段を持たない辻では、周囲に他の敵がいない状況では三浦が落ちれば撃破対象がいなくなる。
よって、三浦と辻の一騎打ちという介入が難しい状況での失点を恐れるよりも、より確実に二宮隊の得点を防ぐ事が出来る、という事だ。
「加えて言えば、三浦を撃破すればその隙に隠岐が辻を狙うだろうって算段もあったんだろうな。点が欲しい隠岐としちゃあ、辻が隙を見せたならそれを狙わない理由はねぇからな。正直、隠岐は空閑や香取の方じゃなく、こっちに張り付いてるだろーって予想もあったんだろ」
「そうね。機動力が高くて狙い難い遊真や香取ちゃんに比べれば、
小南の言う通り、遊真も香取も機動力が高く、グラスホッパーを装備している為いざ狙撃の的として狙っても回避されてしまう可能性が非常に高い。
勿論鍔迫り合いの最中であれば回避という一動作を強要するのは大きなアシストに成り得るが、生憎両者共に隠岐とは別の隊であり、どちらかを優勢にする事に意味はない。
最早隊内で自分一人しか生き残っていない隠岐が点を狙うには、無駄弾を撃つワケにはいかなかった。
だからこそ当て難いエース二人ではなく、地に足を付けて戦っている辻の方に狙いを定めていたのだ。
特に辻は、エスクードで閉じ込められ碌に身動きが取れない状況にあった。
千佳の狙撃によってエスクードの側面が削れた事で射線が通った瞬間、隠岐は碌に動けない攻撃手という格好の的を手に入れる事になり、躊躇いなく引き金を引いたワケだ。
自分一人になっても虎視眈々と得点チャンスを狙い続けた、隠岐の忍耐の賜物と言える。
「それでは、玉狛側は隠岐隊員の狙撃が自分達に来ない事を想定していたという事でしょうか? では、空閑隊員が香取隊長に追いつけていなかったのはこの状況を作り出す為、という事になるんですかね?」
「いや、全くないというワケではないだろうがそれはあって半々だろうな。隠岐が辻を狙うだろうというのは、あくまで予想の一つだ。逆張りで空閑の方が標的にされていた場合、無警戒に射線が通る場所を通過するのは自殺行為だ。それを確定出来ていなかった以上、余計なリスクは背負えなかっただろう」
「けど、追いつけなくても構わないくらいは思ってたかもだな。あそこで追いつけないって事は、「玉狛は隠岐が空閑を狙っていると考えている」ってアピールにもなるワケだし、そういう考えもあったろ」
また、それならば隠岐の狙撃を警戒して最短距離を走らず香取に追いつけなかった遊真の行動は演技だったのか、という問いに対してレイジ達はある程度の肯定を示した。
勿論最初から追いつく気がなかったのではなく、「追いつけなくても構わない」くらいは思っていたであろうと。
あの場で射線が通る場所を通過しなかったという事は、玉狛が隠岐が空閑を狙っていると考えているというアピールにもなる。
勿論リスクヘッジの面もあっただろうが、追いつけないという事実そのものが作戦を補強する材料になるくらいは思っていただろう。
そのくらいの計算が出来ずして、王子の弟子は名乗れないのだから。
「そして、目的を果たした隠岐はあれ以上の得点は望めないと判断して撤退。雨取は香取の
「隠岐は位置が全員にバレた上に、香取隊側から見てももう用済みだったからね。頭を押さえてた樹里ちゃんが既に見逃す理由がない以上、あそこで撤退した判断は良かったと思うわ」
隠岐は狙撃に成功した直後、自分の意思で
頭を樹里に押さえられている状況であり、尚且つ位置が玉狛側にもバレた以上香取隊側にとっても隠岐の存在は邪魔でしかない。
樹里に容赦する理由が皆無である以上、あそこで撤退したのは英断と言えるだろう。
「雨取のシールド対策も、バッチリだったな。シールドを迂回して
「戦闘経験が充分にあれば対処も出来たかもしれないが、それもたらればだな。仮定の話をしても意味はないが、結果は結果だ。これはこれで、受け入れるべきだろう」
また、千佳は香取の
如何に強固なシールドであろうと、地面の下まではカバー出来ない。
固定シールドであれば地面の下までカバー出来るが、あれは張った状態では攻撃に移れない。
狙撃で三浦を狙う必要があった千佳に固定シールドを使っている暇はなく、結果として
「堅いシールドをどうにかしつつ雨取を倒したのは良かったけど、玉狛としちゃああそこでの雨取は「取られても良い駒」だったワケだしな。香取的には、負けみたいなモンだろ」
「だが、あそこで落としておかなければ雨取に空閑と合流されかねなかった。そう考えれば、一つの戦果ではある筈だ。一度仲間と合流した雨取がどの程度厄介かは、身に染みているだろうからな」
一連の流れの中で玉狛が叩き出した戦果の所為で蛇足感のある千佳撃破となったが、それでも重要な一手なのは間違いない。
何せ、あそこで仕留めておかなければ千佳は遊真と合流に成功していたかもしれないのだ。
そう考えれば、香取の果たした役割は大きいと言える。
たとえその彼女が、敗北感に塗れていたとしても。
叩き出した成果は、消えないのだから。
「しかし、これで玉狛第二はB級二位以上が確定しましたね。目的達成と判断して、撤退する可能性もあるのでしょうか?」
「いや、それはないな。あいつ等は────────」
「…………」
香取は一人、千佳の
既に
「────────!」
そこに。
一つの影が現れ、香取に斬りかかる。
香取は即座に腕を振るい、スコーピオンを出して迎撃。
振るわれた刃を同じ刃で受け止め、ニヤリと凄絶な笑みを浮かべた。
「そうよね。そう来るわよねっ! 安心したわ、アンタ等がそうでっ! やる事やって勝ち逃げなんて、絶対許さないんだから…………っ!」
「────────確かに目的は達成した。けど、今後の事を考えれば戦闘経験は多い方が良いからな。修の指示だ」
そしてその相手、遊真は香取と同じように好戦的な笑みを浮かべ、鍔迫り合いの衝撃を利用して跳躍。
やや離れた所に着地し、香取と対峙した。
「この試合は、勝たせて貰うよ。これでも、負けず嫌いなもんでね」
「上等…………!」
そうして、二人の戦いが幕を開ける。
B級ランク戦ROUND8、その最終局面が開始された。