香取隊の狙撃手   作:デスイーター

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香取隊XXIX

 

 

「────────!」

 

 先手を打ったのは、香取だった。

 

 香取はホルスターから拳銃を抜き放ち、銃撃。

 

 無数の弾丸が、曲射を描いて遊真に襲い掛かる。

 

 香取にあって、遊真にはないもの。

 

 それは、中距離攻撃用の武器である銃手トリガーの存在である。

 

 トリガーセットが似通っている両者であるが、香取は一度銃手になってから万能手になった経歴の持ち主だ。

 

 しかも半年程度でマスタークラスになってしまった実力者であり、当然ながら銃手トリガーの扱いもこなれている。

 

 銃手トリガーには様々な種類があるが、その中で香取が選んだのは拳銃タイプであった。

 

 この拳銃タイプは連射性能や火力に乏しい代わり、高い携行性と隙の少なさが強みである。

 

 一度引き金を引けば全自動(フルオート)で弾が放たれ続ける突撃銃型(アサルトライフル)タイプと異なり、拳銃型は一発ごとに引き金を引く必要がある。

 

 この動作の違いは大きく、それがそのまま連射性能の差となっている。

 

 トリオン体の動体視力を以てしても、ただ引き金を引いた状態を維持すれば良いアサルトライフルに比べれば、一度に発射される弾丸の数はどうしても見劣りする。

 

 加えて弓場のリボルバータイプのように極端に威力や弾速に特化した調整はしていないので、火力もそこまで高くはない。

 

 弓場のように早撃ちを極めたり等もしていないので、単体で点を取るには色々と足りない部分が多いトリガーとなるだろう。

 

 しかし、それはあくまでも「単体で」見た場合の話だ。

 

 拳銃型の最大の利点は、その携行性である。

 

 嵩張らずに持ち歩く事が可能であり、撃った際の隙も銃身の長いアサルトライフルタイプと比べてかなり少ない。

 

 あちらは一度に発射される弾丸が多い分反動もそれなりであり、しかも銃そのものが大きい為スムーズに移動しながら撃つにはそれなりの修練が必要となる。

 

 加えてあちらは両腕で撃つのが普通であり、来馬のように両手それぞれにアサルトライフルを構えて撃てば確かに弾幕は厚くなるがその分隙も大きくなる。

 

 そもそも構造上基本的に突撃銃型(アサルトライフル)は片手で支えてもう片方の手で引き金を引くようになっており、片手撃ちではどうしても安定感に難が出て来る。

 

 よって、アサルトライフルタイプは使えば基本的に物理的に両腕が塞がってしまうが、拳銃型は見ての通り片手で扱う事が出来る。

 

 しかも殆ど嵩張らないので使わない時はホルスターに収納しておけば良く、撃つ時もほぼ隙が出来ない。

 

 よって、香取のように近距離用の武装を別に持つ近距離型万能手(ショートレンジオールラウンダー)にとって、この上ない中距離での牽制手段となるのだ。

 

 これはアサルトライフルタイプの銃手トリガーとブレードトリガーを使い分ける柿崎や嵐山といった中距離型万能手(ミドルレンジオールラウンダー)と異なり、両者の()()が可能という利点がある。

 

 中距離型万能手は相手との距離に応じて武装を「切り替えて」対応するのに対し、近距離型万能手は逐一状況に応じたトリガーを選び、その場で対処を変える事が可能だ。

 

 武装をブレードトリガーに切り替える際に一度持っているトリガーを破棄する必要がある中距離型万能手と異なり、拳銃を持つ近距離型万能手はホルスターに収納するだけで良い点も大きい。

 

 アサルトライフルは大型な分、所持したまま近接戦闘を行うには嵩張り過ぎて邪魔になる為、ブレードトリガーを扱う上では大きな足枷となる。

 

 よってブレードトリガーを使うには一度こちらを破棄する必要があり、その際のトリオン消費や手間は大きくはないが些事と無視出来る程でもない。

 

 特に、遊真のように機動力の高い相手には武器を切り替えている隙を狙われる可能性が大きい。

 

 グラスホッパーを持っている相手にとって、中距離という射程は一瞬で詰め切れるものでしかないからだ。

 

 だからこそ、拳銃型を扱う利点が活きて来る。

 

 撃っても隙が殆ど生じず、相手との距離が縮まればホルスターに仕舞うだけで近接戦闘の邪魔にならない。

 

 また、連射性が低いとはいえそれはあくまでアサルトライフルタイプと比べての話である。

 

 中距離攻撃手段を持たない、或いは旋空しか所持していない攻撃手相手であれば、充分な牽制手段となる。

 

 立ち回りと剣の腕一本で相手に近付くしかない通常の攻撃手と異なり、近距離型万能手は拳銃で牽制しながら接近する事が出来る。

 

 また、いざとなればブレードトリガーと拳銃の両攻撃(フルアタック)も可能であり、手数そのものが攻撃手より上だ。

 

 よって、この距離での一手目として銃撃はベターな対応であり、何一つ間違ってはいない。

 

「…………!」

 

 だがそれは、あくまでも相手がまともに応じればの話だ。

 

 遊真は香取の銃撃とほぼ同時、グラスホッパーを起動。

 

 それを踏み込み、明後日の方向へ跳び出した。

 

「コイツ…………!」

 

 否、その方角には明確に意図があった。

 

 遊真が踏み出した方向、それは。

 

 樹里がいる、その方角である。

 

 先程までの千佳への攻撃により、樹里のいる位置はほぼ割れている。

 

 幾ら晴天の天候によって姿は見えないと言っても、弾幕が降って来た軌道からある程度居場所は絞れている。

 

 そして、樹里はこの戦場で生存している唯一の長距離射程の持ち主だ。

 

 玉狛が香取隊に勝つには避けて通れない障害であり、こちらを放置していては何をされるか分かったものではない。

 

 だからこそ遊真は香取隊と戦う上で真っ先に樹里を狙ったのだと、香取は瞬時に理解した。

 

「やらせないわ…………っ!」

 

 香取は即座にグラスホッパーを起動し、跳躍。

 

 追う側と追われる側、それが逆転した追走戦(デッドヒート)が開始された。

 

 

 

 

「空閑隊員、反転して木岐坂隊員の下を目指し香取隊長はそれを追う…………っ! 先程までとは立場が逆転したデッドヒートが始まりましたっ!」

「まあ、こうなるよな。玉狛が勝つなら、木岐坂は無視出来ねーだろ」

 

 太刀川はそう言って、スクリーンの中で追走劇を演じる両者を見据えた。

 

 そうだな、とレイジは頷き太刀川の言に肯定の意を示した。

 

「総合ポイントでは既にどうやっても香取隊には勝てないが、()()()()でのポイントに限れば上回る事は可能だ。現在、香取隊は二宮と雨取を撃破して二点、玉狛第二は生駒隊の三人と三浦を撃破して四点を得ている状態にある。既に両チーム共に大目的は達成している以上、今行っているのは個人的な意地の張り合いの範疇になる。ならば、勝ちを目指さない理由はない」

「玉狛はもうB級二位は確定してるし、香取隊もB級一位が確定してる。けど、どうせなら最終ラウンドで勝ちたいってのは人情だろ。そういうの、俺は好きだぜ」

「同感ね。やるなら徹底的にやらないと気が済まないってのは分かるわ。試合ってのは、どうせなら勝ちたいしね」

 

 三人の言う通り、玉狛第二と香取隊は共に今期のチームランク戦に於ける目標は達成している状態にある。

 

 現状、どう足掻こうがお互いの順位は変動しない。

 

 玉狛第二が総合点42ポイントに対し、香取隊は47ポイント。

 

 仮に香取と樹里の両名を下して生存点を得たとしても、46点とギリギリ届かない。

 

 よって、全体の成績は既に決定している状態にある。

 

 しかし、玉狛第二の目的はあくまでもB級二位以内に食い込む事。

 

 それ自体は達成しているので、敢えてこの試合に拘る意義は無い。

 

 同じように香取隊はB級一位という当座の目標を果たしている状態にあるので、これ以上試合を継続する意味自体は存在しない。

 

 だが、()()()()の勝敗に限定すれば別だ。

 

 現在玉狛は4点、香取隊は2点というのがROUND8の戦績だ。

 

 このまま玉狛が緊急脱出(ベイルアウト)を選べば香取隊に生存点二点が入って同点になってしまうし、香取隊側が撤退を選べばそのままこの試合は負けの扱いとなる。

 

 勿論、総合得点で上回っている以上大勢は決しているという見方も出来る。

 

 されど、このROUND8の勝敗に限って言えば、この試合での得点のみが換算されて宣告される事になる。

 

 そして、此処まで来た以上は試合そのものにも「勝ちたい」と思うのは何らおかしい事ではない。

 

 ランク戦は実戦を想定した訓練であると同時に、他者と鎬を削り高め合う一種の競技の場でもある。

 

 ならば、最終戦は気持ち良く勝って終わらせたいと思うのも当然だろう。

 

 太刀川は勿論、レイジや小南もそれは否定していない。

 

 合理を知る者達ではあるが、そういった感情面も考慮するだけの理解はある。

 

 それに、戦って勝つのが楽しいという感情は、誰しもが持っているものなのだから。

 

「話を戻すぞ。この試合で玉狛が勝つには、どうしたって木岐坂の存在は無視出来ない。現在最も高い位置にいる上に、雨取がいない今その弾幕をどうにか出来る手段は無いからな。勿論防御不能の狙撃も脅威であるし、彼女が健在である限り空閑は香取との戦いに集中し切る事は出来ないだろう」

「あと、残ってるのが空閑の他は三雲だけだからな。三雲単独じゃあ木岐坂の相手は厳しいだろうし、空閑が向かうのも通理だわな。もしかすると、木岐坂対策も何か練ってたかもしれねぇが」

「…………むぅ、こんな事なら作戦会議に強引にでも乱入すれば良かったわ。解説だからってハブってくれちゃって、もう」

 

 ぷんすか、と怒りを示す小南に物哀しい内情を知った桜子は微妙な顔になり、レイジは無表情。

 

 太刀川はどう煽ろうかという悪戯心が顔を出したようだったが、それを察知した小南に睨まれて黙るしかなかった。

 

 まあ、小南に作戦を教えていれば解説の最中に口を滑らす可能性が高かったので、無理もないのだが。

 

「ともあれ、鍵を握るのは木岐坂の動向と、未だ位置が露見していない修になるだろうな」

「三雲じゃ脅威にはならねぇ、とは言えねぇな。総合力じゃ、香取より空閑のが上だからな。その上で、三雲には実際に二宮を討ち取った功績と今回の試合でのえげつない立ち回りって実績がある。もう結果を出してる以上、三雲の実力に関しちゃ誰も文句は言えねぇだろ」

 

 鍵を握るのは、位置がバレていない修。

 

 これは、太刀川も否定しなかった。

 

 確かに修個人の能力は、良くてB級下位とそう変わらない程度でしかない。

 

 だが、指揮官としての能力は別だ。

 

 彼には東のような卓越した指揮能力も、香取のような即断で最善を判断する対処能力も存在しない。

 

 しかし、修は迷う事だけはせず、決断力という面では他の追随を許さない。

 

 B級二位以内に入るという目標を達成する為にあらゆる手段に手を伸ばした修には、常に余裕がなかった。

 

 余裕がないからこそ即興で結果に結びつかない自己鍛錬ではなく、作戦のアイディア立案と奇策を積極活用する戦術指揮という面にこそ力を注いだ。

 

 その結果として目的であるB級二位以内を達成したのは事実であり、実力を示すのは結果でしか有り得ない以上誰も彼の能力を否定する事は出来ないだろう。

 

 如何に個々の駒としては弱兵であっても、チームを勝利に導く事は出来る。

 

 彼は、その極地とも言うべき存在なのだから。

 

「そして、木岐坂を狙いに行った以上香取が追って来るのは自然な流れだ。その対策をしていないとは、思えないな」

 

 

 

 

(速い…………っ! 狙撃は警戒してるようだけど、大まかな方向はバレてるってのは痛いわね…………っ!)

 

 香取は先を行く遊真を追いながら、内心で舌打ちしていた。

 

 先程までとは、動きの鋭さが段違いだ。

 

 理由は明瞭。

 

 隠岐という、()()()()()()()()()()()()()()()()()()がいなくなったからだ。

 

 先の動きからして隠岐が自分達ではなく三浦と辻の側をマークしていたと予測していたようだが、それはあくまでも推測であり確定情報ではなかった。

 

 故に狙撃への警戒を切る事が出来ず、香取のように射線の通る場所を堂々と通る事が出来なかった。

 

 しかし、既に隠岐は自己緊急脱出(ベイルアウト)しており、この戦場にはいない。

 

 狙撃手という意味では樹里が残っているが、彼女の大まかな位置はこれまでの攻撃でほぼ露見している。

 

 ある程度来る方角が分かっていれば、狙撃は早々当たるものではない。

 

 アイビスを使われれば流石にシールドでの防御は難しいが、遊真の回避能力ならば避ける事は容易だ。

 

 狙撃というものは何処から撃って来るか分からないから怖いのであって、位置バレした狙撃手の脅威度は半減する。

 

 正確には樹里の姿自体は晴天の天候のお陰で視認されていないが、大体の位置が露見している時点で同じようなものだ。

 

 当真クラスであれば跳躍中の隙を狙う事も出来ただろうが、生憎樹里の狙撃手としての練度はそこまでの域には達していない。

 

 軌道が予測出来る落下中等であればともかく、グラスホッパーを装備している遊真相手は空中だからといって当たるとは限らない。

 

 それを加味した上で、遊真は最短距離を突っ切っている。

 

 丁寧に建物の影を繋ぐように移動しているのは、空から距離を取る事で狙撃の弾を見逃す事がないようにする為だろう。

 

 上を見上げれば太陽光で眼が眩んでしまうが、物陰であればその影響も減じる事が出来る。

 

 遊真が建物の上ではなく下を通っているのは、そういう理由からだろう。

 

「…………!」

 

 その遊真を追っていた香取は、急に嫌な予感を感じて足を止めた。

 

 それはある種の既視感であり、本能的な直感と言えるもの。

 

 これまで幾度となくその感覚に助けられて来た以上、今更それを疑う余地はない。

 

 香取は瞬時に過去の記憶を探り、その正体を引き当て眼を凝らす。

 

「ワイヤー…………ッ!」

 

 そして、気付く。

 

 香取が突っ込もうとした、路地の先。

 

 そこには、無数のワイヤーが蜘蛛の糸の如く張り巡らされていた。

 

 ワイヤートリガー、スパイダー。

 

 香取隊も用いている、設置型のオプショントリガー。

 

 既視感(嫌な予感)の正体は、これだったワケだ。

 

 もしもあのまま踏み込んでいれば、ワイヤーに引っかかり大きな隙を晒していた事だろう。

 

 樹里を狙うように見せかけて、ワイヤー地帯に引き込んで倒す。

 

 それが、向こうの目論見だったのだ。

 

「樹里…………ッ!」

『了解』

 

 されど、分かった以上はどうとでもなる。

 

 香取は樹里に命じ、爆撃を実行。

 

 無数の流星が、天から市街へ降り注いだ。

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