香取隊の狙撃手   作:デスイーター

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香取隊XXX

 

 

(来たか…………っ!)

 

 遊真は天から降って来る光の雨を見て、眼を細めた。

 

 こうなる事は、分かっていた。

 

 最良は香取がワイヤー陣に引っかかり隙を晒す事だったが、そう旨くはいかないらしい。

 

 香取は己の直感に従ってスパイダーによる罠を看破し、最適解を選んで来た。

 

 余程、戦闘勘が優れているのだろう。

 

 あれは恐らく、天性のものだ。

 

 人には、生まれつき向き不向きがある。

 

 そして、天賦の才と呼ぶものを持つ人間も中にはいるのだ。

 

 香取は、その選ばれた人種の類だろう。

 

 理性ではなく本能で最適解を導き出し、考える前に行動に移す。

 

 それが出来る才覚を、彼女は持っている。

 

 どうやらその才能が高過ぎた故に思考の言語化能力に難があり以前は隊長としてお世辞にも褒められた存在ではなかったようだが、今は違う。

 

 隊長としての責務と役割をしっかりと認識した上で、己の才覚を十全に振るっている。

 

 理性と合理を知った感覚派の天才は、強い。

 

 あれは、その体現と言えた。

 

(けど、思った以上にレスポンスが速い。こりゃ、生半可な策は通じないな)

 

 しかし、その対処が想定以上に速い。

 

 ワイヤーの罠を見切った直後、香取は即座に爆撃を実行して来た。

 

 実際、有効だ。

 

 網の目のように張り巡らされたワイヤー陣を正面から攻略する愚を犯さずとも、建物ごと吹き飛ばしてしまえばそれで良い。

 

 何も、敵に有利な場所で戦ってやる必要など欠片もないのだから。

 

(でも、行動自体は想定内だ。こっから、詰めていくぞ)

 

 

 

 

「…………!」

 

 ニヤリと、遊真が不敵な笑みを浮かべた瞬間。

 

 周囲に爆撃が着弾し、大爆発が巻き起こった。

 

 それを見ていた香取は、眼を細めた。

 

 みすみす爆発に巻き込まれた、とは考えない。

 

 アレは、その程度で倒れるような易しい相手ではない。

 

「────────!」

 

 案の定、遊真は無事だった。

 

 爆煙の向こう側に、跳び出す影が見えた。

 

 垣間見えた隊服の色からして、遊真である事は間違いない。

 

(けど…………っ!)

 

 だが、爆撃はまだ続く。

 

 降り注ぐ流星は、途切れる事はない。

 

 最初から、樹里には逐次弾幕を途切れさせないように撃つよう言ってある。

 

 射手としての腕は極みに届かない樹里だが、置き弾の順次発射のような芸当は当然行える。

 

 それを用いて、絶え間のない爆撃を敢行する。

 

 先程まで、千佳相手にもやっていた事だ。

 

 普通、此処までの威力の爆撃を実行され続ければまともに動く事が出来なくなる。

 

 あくまでも、()()()()

 

(あいつが、普通なワケない…………っ! 絶対、この程度は超えて来る…………っ!)

 

 だが、香取は遊真をそのカテゴリとは見做さなかった。

 

 彼ならば、この爆撃の中でも潜り抜けると。

 

 ある種、信頼すらしていた。

 

(やっぱり…………っ!)

 

 遊真は、爆撃をまるで気にする事なく動いていた。

 

 否、注意してはいるのだろう。

 

 しかし、あまりにもその移動速度が速過ぎて爆撃が追い付いていない。

 

 グラスホッパーだけではなく、既に張り巡らされているワイヤーを駆使し、縦横無尽の三次元機動で遊真は空を駆ける。

 

 一度も地に足を付ける事なく、ひたすらに前へ。

 

 その疾駆があまりにも速過ぎて、爆撃がスローモーションであるかのようだ。

 

 チューニングは既に相当弾速に振っているらしいというのに、それでも尚遊真の方が速い。

 

(負けて、堪るか…………っ!)

 

 香取もまた、それを黙って見ているような事はしない。

 

 グラスホッパーをフルに展開し、天空を駆ける。

 

 爆撃の雨の中、二人のデッドヒートが再開された。

 

 

 

 

「木岐坂隊員による、爆撃が開始! 両名は雨あられの爆発の中、デッドヒートを繰り広げておりますっ!」

「ワイヤー陣対策に、爆撃か。最適解だが、それでも遊真の方が速いな」

「そうね。ワイヤーに引っかかる前に気付けたのは流石だけど、移動面で後れを取っているわ」

 

 玉狛の二人は香取の行動を評し、眼を細めた。

 

 太刀川もそうだな、と頷く。

 

 彼もまた、現状を正しく認識していた。

 

「ワイヤー陣には、爆撃が有効。これは、当たり前に分かる事だ。まあ、ワイヤーに引っかかる前に気付けた時点で、香取の勘の良さは並外れてるって言えるけどな」

 

 けど、と太刀川は続ける。

 

「ワイヤーのある地上には降りられないから、グラスホッパーでの移動に終始してる。ワイヤーとグラスホッパーを両方使って移動してる空閑とは、移動スピードの差が出て当然だろ」

「ああ。グラスホッパーでの移動は確かに速いが、それのみに頼った移動と既に設置してあるワイヤーを併用している空閑とは、若干ながら移動スピードに差が出ている。そこまで大きな差異ではないが、元々機動力では空閑の方が上だ。どちらが有利かは、明白だろうな」

 

 二人の言う通り、香取はワイヤーに引っかからないようにする為に空中をグラスホッパーで駆けている。

 

 その移動スピードには眼を見張るものがあるが、遊真はそのさらに上を行く。

 

 同じようにグラスホッパーを使いつつ、それだけではなく既に設置してあるワイヤーを駆使して移動する。

 

 グラスホッパーを出す手間がない分、遊真の方が移動スピードはワンテンポ上だ。

 

 確かにグラスホッパーは直線的な移動での加速力は高いが、遊真はそれに加えてワイヤーを利用した三次元機動でスピードを底上げしている。

 

 元々、機動力では遊真の方が上だ。

 

 ボーダーの評価では香取の機動力が8で、遊真は10。

 

 身体が小柄な事もあり、瞬間的なスピードでは遊真に軍配が上がる。

 

 空を駆ける()()()()香取とあるもの全てを利用している遊真では、どちらが有利かは言うまでもない。

 

 追走劇は、遊真に天秤が傾きつつあった。

 

「勿論、香取隊もこのままで終わりはしないだろう。気になるのは、木岐坂が移動する素振りがない事だな」

「そうね。位置が露見しているんだし、逃げても良さそうなものだけど。機動力も低くないんだし、何かを狙っているのかしら?」

「どーだろーな。わざわざ誘導炸裂弾(サラマンダー)を使ってるんだし、何か目論見がありそうだよな。まあ案外、移動しながらの爆撃だと精度に不安があるとかかもしんねーが」

 

 そんな中、三人が気にしているのは樹里に逃げる素振りが見られない事だった。

 

 確かに、爆撃を実行中であるという事情はあるだろう。

 

 射手としての腕はマスターランクに届かない樹里では、移動しながらの爆撃では精度に不安があるというのは成る程頷ける話だ。

 

 合成弾はそもそも高等技術の類であり、誰にでも出来るものではない。

 

 B級中位以上の射手は当たり前のように使っているので感覚が麻痺しがちだが、これはボーダーの層が厚いのであって合成弾の難易度自体が簡単というワケではない。

 

 移動しながらの爆撃は難しい、というのも充分納得がいく話なのだ。

 

「とにかく、こっからはどんどん状況が変わってくだろーぜ。このまま何もしないでいるような連中じゃ、ないだろーからな」

 

 

 

 

(速い。これ、普通に突破されそうかも)

 

 樹里はビルの屋上で爆撃を続けながら、その眼でこちらに迫り来る遊真の姿を捉えていた。

 

 香取の要求通り、樹里は弾幕を順次発射する形で爆撃を継続している。

 

 先程まで千佳相手にやっていた事の焼き回しなので、既に慣れたものだ。

 

 しかし、遊真はそんな爆撃の雨の中まるで関係ないと言わんばかりの速度で疾駆している。

 

 建物の間に張り巡らされたワイヤーを手繰り、反動を付けて跳躍。

 

 時にはグラスホッパーを踏み込んで加速し、最大速度で街を駆ける。

 

 ワイヤーを警戒し空中をグラスホッパーで進んでいる香取よりも、そのスピードは上だ。

 

 このままでは遠からず香取を振り切り、この場に到達されてしまうだろう。

 

「葉子」

『いいわ、やっちゃいなさい』

「了解」

 

 無論、そのまま座して見ている選択肢はない。

 

 樹里は幼馴染に通信で許可を取り、合成弾を展開。

 

 既に設置してあったものを含め、その()()を発射。

 

 夥しい数の爆撃の雨が、市街に向かって降り注いだ。

 

 

 

 

「これは…………!」

 

 遊真は思わず、否。

 

 否応なく、足を止めた。

 

 先程に倍する数の、爆撃の雨。

 

 それが、遊真の進行方向を塞ぐように大量に着弾したのだ。

 

 直後、響き渡る轟音。

 

 遊真の進行ルートは、爆発で物理的に潰された。

 

 先程までは爆撃に先んじる形で突破出来ていたが、今度のそれは数もスピードも段違いだった。

 

 流石に遊真も爆発の中に身を投じるワケにはいかず、止む無く足を止めたというワケだ。

 

(待機させてあったものも含めて、一斉に撃って来たのか…………っ! おれの足を、止める為に)

 

 その絡繰りは、瞭然だった。

 

 先程まで樹里は、置き弾を順次撃つ形で絶え間のない爆撃を実行していた。

 

 しかし、それでは遊真に突破されると考えて、爆撃の継続ではなく一斉に大量の弾を撃つ事での足止めを狙って来た。

 

 その判断の早さ、鋭さは流石と言える。

 

「────────!」

 

 そして。

 

 一度足を止めた以上、香取が追いつけない通理はない。

 

 背後から迫る香取の刃を、遊真は己の刃で受け止める。

 

 そのまま背後に跳び上がろうとした瞬間、遊真の身体が静止した。

 

「…………っ!?」

 

 否、正しくは何かに引っ張られるように引き戻された。

 

 気付く。

 

 遊真のスコーピオンを握る、右腕。

 

 それと香取の左腕の間に、一本の糸が伸びている。

 

 その正体は、瞭然。

 

 ワイヤートリガー、スパイダー。

 

 それが、遊真の右腕と香取の左腕を直接繋いでいたのだ。

 

「逃がさないわよ」

「…………っ!」

 

 香取がぐい、と左腕を引っ張る。

 

 それに吊られてワイヤーで繋がった遊真の右腕が、香取に引き寄せられる。

 

 そして香取は残る右腕にスコーピオンを握り締め、遊真の首を狙う。

 

「…………!」

 

 しかし、それを素直に喰らう遊真ではない。

 

 首から生やした三日月形のスコーピオンにより、香取の斬撃は受け止められた。

 

 直後、遊真は左腕からブレードを生やし繋がっていたワイヤーを切断。

 

 自由になった瞬間、白の傭兵は即座に逃げの一手を選ぶ。

 

「させない」

「…………!」

 

 否、選ぼうとした。

 

 だが、香取は再びスパイダーを起動。

 

 今度は香取の左足と遊真の右足がワイヤーによって接続され、遊真の身体は静止を余儀なくされる。

 

 すかさず、香取は膝撃ちの形でブレードを撃ち出し攻撃。

 

 遊真の腹を狙った一撃は、その腹部から生えたブレードによって受け止められる。

 

 直後、遊真がお互いの足を繋ぐワイヤーを右足から出したブレードで切断。

 

 動こうとした刹那、今度は香取の右足と遊真の左足がワイヤーで接続される。

 

 香取はニヤリ、と笑いながらスコーピオンを振るう。

 

「絶対、逃がさないわ。アンタは、此処で仕留めてやる」

 

 

 

 

「木岐坂隊員の一斉爆撃によって足を止めた空閑隊員、香取隊長と接敵…………っ! 地獄のワイヤーデスマッチが始まりましたっ!」

「おっかねぇなあ。ワイヤーで繋いで強制的に接近戦とか、度胸決まってんにも程があんだろ」

 

 香取のそんな立ち回りを見て、太刀川は若干引きつつも称賛していた。

 

 ワイヤーを用いた、接近戦の強制。

 

 あんな使い方をするのは彼女くらいだろうと、太刀川は肩を竦めた。

 

 有効なのは、分かる。

 

 しかし、相手と強制的に鍔迫り合いをするリスクを考えれば及び腰になるのが普通だろう。

 

 ただでさえ、スコーピオン使い同士の戦いは何処から攻撃が飛んで来るか分からないのだ。

 

 それを分かった上で実行出来るあたり、並の胆力ではないだろう。

 

「だが、この場面に於いてはこの上なく有効な手だ。単純な機動力で勝てない以上、至近距離での鍔迫り合いに勝機を見出すのは悪くない判断だ」

「あれ、良いわね。相手がチョコマカ動くんなら、逃げそのものを潰せば良いって考えは好感が持てるわ。今度やってみようかしら」

「お前がやればオーバーキルだと思うがな。それよりも、今のスタイルの方が堅実だろう」

「言ってみただけよ、もう」

 

 ぷんすか、と怒る小南だがレイジは何処吹く風だ。

 

 小南としては冗談半分のつもりだったのだが、レイジのマジレスに萎えたとも言う。

 

 もっとも、あくまでも冗談は半分なのでもう半分は本当に実行する気でいたあたり笑えないが。

 

「ともあれ、こうなった以上徒に長引く事はないだろう。そろそろ、決着が着く筈だ」

「ええ、今期のランク戦もこれが最後。もう他の試合は全部終わってるし、これで全部決まるわ」

「そうだな。最終順位はもう変わらねーが、この試合の勝敗はまだ決まってねぇ。最後まで、見逃せないよな」

 

 既に同時刻に開始していたもう片方の夜の部は、既に終了している。

 

 B級三位の影浦隊は6Pt獲得で40点であり、どちらにせよ順位は今更変わりはしない。

 

 正真正銘、これが最後。

 

 最終局面、その佳境である。

 

「泣いても笑っても、これが最後だ。どちらが勝つにせよ、もう時間はかからないだろうな」

 

 レイジはそう言って、スクリーンを見据える。

 

 そこではワイヤーで繋がった二人のエース同士が、お互いの刃を手に最後の決闘を行っていた。

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