香取隊の狙撃手   作:デスイーター

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選抜

 

 

『というワケで、今から三時間後に(ゲート)が開いて捕食型トリオン兵の大群がやって来る、ってのが現状かな。今の所はね』

「…………そうか」

 

 ボーダー、司令室。

 

 そこで迅から通信を受けていたのは、誰あろう城戸司令だった。

 

 流石に此処まで事が大きくなってしまった以上、何の報告もなしとは言わない。

 

 何せ、ある意味でこれまで経験が無い程に膨大な数のトリオン兵の群れだ。

 

 しかも現在進行形で増え続けているのだから、どれだけの物量かは想像もつかない。

 

 大規模侵攻の時にもトリオン兵の大群は相手取っているが、あくまでも軍勢として有限の相手であったあの時と比べ、今回のそれはほぼ無尽蔵と言える上に「捕食」という厄介な特性まで持っている。

 

 加えてこれまでに悪い意味で予想の斜め上を突き進み続けているククロセアトロ、という最悪の近界国家まで絡んでいるのだ。

 

 警戒して、し過ぎる事はないだろう。

 

「…………想像以上に、厄介な事になっているようですね」

「…………」

 

 共に聞いていた根付は頭を抱えており、鬼怒田は無言でじっと城戸司令を見据えている。

 

 二人共それぞれ思うところはありそうだが、現時点では積極的に意見を言うつもりはないようだ。

 

 しかし、彼は違う。

 

 彼は、忍田はすっと顔を上げ城戸の姿を見据えた。

 

「城戸司令、どうするおつもりですか? 矢張り、住民に避難を?」

「それは早計だ。今の所、街に被害が出ると決まったワケではない。加えて、ガロプラの時同様大規模侵攻から日が浅い。どういった反応が出るか未知数である以上、推奨は出来ないな」

 

 迅、と城戸司令は通信画面に向き直った。

 

「現時点で、街の住民が例のトリオン兵に襲われる未来はあるか?」

『あくまで今のところは、という注釈が付くけれどないかな。でも、これからどうなって来るかは分からない。とだけ言っておくよ』

「…………ふむ」

 

 その報告を聞き、城戸は思案する様子を見せる。

 

 何を考えているかは、分からない。

 

 そこへ、忍田がすっと立ち上がった。

 

「迅、つまりそれは現時点では防衛が成功する確率が高い、という意味で解釈して構わないか?」

『断言は出来ないけれど、街の防衛、という点に限って言えば答えはイエスかな。あれが市街地に溢れ出せばとんでもない被害が出るだろうし、そういう未来が視えないって事はその確率は高いと思う』

 

 ただ、と迅は続ける。

 

『────────樹里ちゃんの未来は、まだ殆ど視えていない。この一件が終わった後どうなるかは、まだ全く分かっていない状態にある』

「「…………っ!」」

 

 その一言に、忍田と共に鬼怒田が明確に反応した。

 

 前者は瞠目し、後者は苦渋に満ちた表情を浮かべている。

 

 そう、今回の件で最大の問題はそこだ。

 

 樹里が、無事に帰還出来るのか。

 

 そこに焦点を絞って考えている者達にとって、今の迅の言葉は決して無視出来ないものであった。

 

「…………では、最悪の事態も有り得ると?」

『悪いけど、そこも断言出来ない。けど、今の所明確に彼女が無事に生還している未来がほぼ視えないって事は、そういう事だと思って貰った方が良いかもしれないですね』

 

 でも、と迅は続ける。

 

『逆に言えば、彼女が帰って来なかった、っていう未来も視えていない。或いは、現状どうなるか全くの未知数、と考えてもいいかもしれない』

「…………むぅ」

 

 迅の言葉を聞き、鬼怒田は難しい表情を浮かべた。

 

 未帰還が確定した、というワケではないのは救いだが、しかし決して楽観して良い現状とも言えない。

 

 要するに何も分かっていないに等しいのだから、そういった表情にもなろう。

 

「現時点での、方針を伝える」

 

 出せる情報は出揃ったと判断し、城戸はそう口火を切った。

 

 全員が彼の方を向き、次の言葉を待つ。

 

 城戸は各々に眼を向けた後、静かに言葉を発した。

 

「部外秘の状態は、継続する。また、(ゲート)からトリオン兵が出て来た場合は追加の人員を送る事を検討する」

 

 但し、と城戸は付け加える。

 

()()()()()へ向かう人員は、厳選させて貰う。加えて可能な限り、緊急脱出(ベイルアウト)可能な圏内での戦闘を前提とする。文句はないな?」

『ええ。その人員の選出は、こちらで行っても?』

「構わん。但し、報告は怠るな。お前の未来視を活用し、未帰還の可能性がある隊員は圏外へ出さないようにしろ」

 

 了解、と通信越しに迅は返答する。

 

 確かに迅の未来視という保険があれば、緊急脱出(ベイルアウト)圏外に出て危ない隊員は誰なのか、というのはある程度選別が出来る。

 

 更に、門の向こうという事は死んだ星というイレギュラー極まりない場所とはいえ近界だ。

 

 そちらでの戦闘に慣れていない者には、厳しい戦いとなるだろう。

 

 こちらの世界での戦闘と、近界での戦闘は異なる部分が多い。

 

 最大の問題は、緊急脱出(ベイルアウト)が可能かどうかだ。

 

 戦場に出る時のリスクを極限まで減らす事を可能とした技術である緊急脱出であるが、近界では当然こちらの世界程万能とはいかない。

 

 帰還場所である遠征艇から離れ過ぎてしまえば、この機能は発揮されない。

 

 今回の場合はこちらの世界から直接門を通って近界の星へ向かう形となるので、その門から一定の距離が緊急脱出(ベイルアウト)可能な圏内となる。

 

 現状迅も明言はしていないが、樹里の今いる場所は明らかにその圏外へ当たる。

 

 星の奥地に位置している以上当然ではあるが、即ち彼女の下へ向かう人員は相当に厳選しなければならない、という事でもある。

 

 少なくとも、相応に実力のある者で尚且つ単独で高い生存能力を発揮出来る人材、というのは必須事項となるだろう。

 

 最低でもA級かそれに準ずる能力の持ち主に、限定されると考えるべきだ。

 

 例に挙げれば隊として実績は出しているが個人の能力では最弱に近い修等の隊員は、まず選ばれないと思った方が良い。

 

 圏外へ向かう、という事は即ちあの状態の樹里を直接相手取るメンバーであると考えても、選りすぐりの精鋭を送る事になるだろう。

 

「以上だ。人員が決まり次第、こちらへ報告しろ。何か要請があれば、都度行うように」

 

 

 

 

『そういうワケで、これから向こうへ向かうメンバーを選抜する。具体的に言えば、門を出てすぐの場所で件のトリオン兵を迎撃する人員と、直接樹里ちゃんの所へ向かう面々だね』

 

 通信で現状の一部始終を伝えた後、迅はそう告げた。

 

 その言葉に、現場にいた人員は揃って真剣な表情をしている。

 

 無理もない。

 

 此処に集った人員は、誰も彼もが樹里を救う為に戦う事に同意した者達だ。

 

 一様に彼女の安否を懸念しており、その意気も高い。

 

 特に香取と佐鳥は、内に秘める激情を使命感で何とか抑えつけている状態だ。

 

 これで救出メンバーから弾かれた、となればどういう反応をしてしまうかは自分でも分からない、といったところだろう。

 

『悪いけれど、メンバーはおれの独断で決めさせて貰った。これでも近界での戦闘経験は豊富だし、未来を視た結果でもあるから多少の不満は呑み込んで欲しい。その上で、まず前提を話すよ』

 

 迅はそう言って一呼吸置き、改めて話し始めた。

 

『まず、こちらに残れ、という隊員はいないよ。少なくともこの場にいる全員、門の向こうへ行って貰う。勿論、今から挙げる救出メンバー以外は緊急脱出(ベイルアウト)圏内で戦って貰うけどね』

 

 その一言に、ほっと無でを撫で下ろした者達が何名かいる。

 

 此処に来て事実上の戦力外通告をされるのではないかと考えていた者が、何人かいた為だ。

 

 誰とは言わないが、隊としてはともかく自分個人の実力に明確な自信を持っていない人物が筆頭である。

 

 他には自分なんかが行けるのかなぁ、と思っていた他人を気遣い過ぎる攻撃手や今更安全圏にいるつもりはないと覚悟を決めていたペンチメンタル等だ。

 

 少なくともこれからの戦いで蚊帳の外に置かれる事はないと聞き、一様に安堵した様子だった。

 

『じゃあ、救出メンバーを伝えるよ。まず、現場指揮官は風間さんにお願いしたい。補佐として、レイジさんも同行して貰いたいな』

「了解」

「了解した」

 

 当然、といった形で風間とレイジは了承する。

 

 これは、妥当な結果と言える。

 

 風間はこの場で最年長で尚且つ遠征経験も豊富であるし、レイジに関しては言うまでもない。

 

 どちらも近界での戦闘経験が充分にあり、判断能力も信頼が置ける。

 

 加えて個人の戦闘力も突出している為、生存能力も申し分ない。

 

 現場指揮官としては、ベストな選択と言えるだろう。

 

『それから菊地原、歌川も付いて行ってくれ。君達は、過去にああなった彼女との戦闘経験がある。そういった人間は、稀少だからね』

「当然ですね。というか、ぼくが行かずに誰が行くんだって感じ」

「まあ、風間さんが行くなら勿論行くつもりではいました。有難いです」

 

 ふん、といった風に唇を尖らせる菊地原に、歌川は苦笑する。

 

 どちらも風間が最前線に行くと聞いた時点で、自分達も向かう以外は有り得ないと考えていた点では同じだ。

 

 恐らく万一にも選考漏れしていれば菊地原は盛大に機嫌を損ねていただろう事は、想像に難くない。

 

 歌川はそこまで大袈裟な行動に出る事はないが、内心である程度の不満は持っただろう。

 

 勿論それを決して表に出さないだろうという信頼があるあたり、どちらが大人であるかは明白ではある。

 

 とある懸念事項はあるが、様々な意味で順当な人選だろう。

 

『そういう意味で、小南も行ってくれ。頼んだよ』

「当然! 行くなっても行ってやるわよ!」

 

 ふんす、と意気軒高に断言する小南。

 

 こちらは相手の離脱、という不完全燃焼で戦闘が中断した為、戦意が燻って仕方が無いらしい。

 

 近界での戦闘経験の豊富さを考えれば、彼女を外す選択肢は有り得ない。

 

 双月の突破力を考えても、必要な人材である事は確かだろう。

 

『それから遊真、ヒュース。行ってくれるか?』

「了解」

『了解した。今の人員を聞く限りなら、オレはあちらのトリガーを使っても構わないな?』

『構わない。今から伝える人員も、それが問題無い相手だと言っておくよ』

 

 加えて、近界民(ネイバー)の二人もその戦力を考えれば当然だろう。

 

 遊真は黒トリガーという大戦力持ちであるし、今選抜されているメンバーは全員ヒュースの素性を知っている。

 

 即ち、ボーダーのトリガーではなく表立って近界のトリガーを使う事が出来る、という事だ。

 

 先程の戦闘ではそういった懸念がある為いざという時の裏方として待機していたヒュースだが、彼の素性を知るメンバーだけの戦闘であるならば遠慮する必要などない。

 

 更に、ヒュースはこの中で唯一実際にククロセアトロに赴いた事のある人間である。

 

 案内役という意味でも、ある意味で必須の人材と言えるだろう。

 

『それから最後に、香取ちゃんと佐鳥、頼んだよ』

「当ったり前でしょっ! 任せなさいってのっ!」

「了解。最善を尽くします」

 

 そして、最も樹里救出に意欲的であった二名の選出である。

 

 これは迅としては、外せない人員だった。

 

 今まで、臨界状態となって無事に帰還出来た者はいなかったと聞く。

 

 ならば、その当人と関係の深い人員を直接事に当たらせるくらいの事はしなければただでさえ細い糸を手繰り寄せて最善の結果を得る事など夢のまた夢だろう。

 

 狙撃手である佐鳥は個人の戦闘力と言う点では今まで選出されたメンバーに劣るが、それでもA級隊員の一員であり遠征経験はないがその戦術眼は確かなものだ。

 

 何よりも、彼等抜きで樹里救出は有り得ないだろう、と迅は考えている。

 

 刹那に垣間見えた視えた明るい未来の道筋(ルート)へ進む為には、両者の存在が必須であると感じた為だ。

 

 根拠はない。

 

 しかし、迅はその感覚を信じる事にしたのである。

 

 奇跡を起こそうというのだから、そういったものに縋るくらいはして良いだろうと。

 

 そう、考えた(ねがった)が為に。

 

『以上が、樹里ちゃんの救出へ行くメンバーだ。今呼ばれた以外の皆は、門の近くでトリオン兵相手の防衛戦をして貰う事になる。だけど正直、どうにも敵の物量が想像以上でね。念には念を入れて、更に戦力を強化しておきたい』

 

 だから、と迅は続ける。

 

『追加で門の防衛に送りたい部隊が、まだあるんだ。まず、嵐山隊。これはおれの方でもう嵐山には了解を取っているし、今からそっちへ向かう事になっている』

「…………! そうですか」

 

 予想外の人選を伝えられ、佐鳥は瞠目しつつも何処か安心している自分に気付く。

 

 これまである意味で蚊帳の外に置いてしまっていた自分の仲間(チームメイト)が来ると言われ、若干複雑な胸中ではある。

 

 しかしとうの嵐山が了解したというのなら、佐鳥に何かを言う資格はない。

 

 いざという時は手を貸すとは言ってくれていたが、まさか此処まで直接的に来てくれるとは想定外も良いところだ。

 

 だが同時に嵐山さんなら来るだろうな、という信頼もある。

 

 自分は良い仲間を持ったと、改めて佐鳥は感じるのだった。

 

『それから、もう一つ増援として来て欲しい部隊がある。こちらは嵐山隊と違って樹里ちゃんの事情は欠片も知らないし、直接交渉しなきゃならないだろう。情報開示の許可は、一応貰っている。ただ、事が事だから直接行って了解を取って貰いたいんだ。おれが行ければ良いんだけど、ちょっと此処を離れる事が出来ないから別の人に頼みたいんだよね』

 

 そう言って、迅はその部隊の名を告げる。

 

()()()に、増援を頼みたい。二宮さんの力は、今後絶対必要になるからね』

 

 予想外の名を開示され、香取と佐鳥は眼を見開く。

 

 しかし、動揺は一瞬。

 

 両者は互いに眼を見合わせ、静かに頷くのだった。

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