香取隊の狙撃手   作:デスイーター

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決戦の夜、集う者達

 

 

「来たか。二宮」

「風間さん、ご無沙汰しています。今回は、よろしくお願いします」

 

 警戒区域、その一角。

 

 そこで待機していた風間達の下に、二宮隊が合流した。

 

 オペレーターの氷見を除く三名は、この場に集った面々を眺めて各々の反応を示している。

 

 二宮はチラリと千佳の方に視線を向け、眼を細めた。

 

 犬飼はそんな二宮と共に千佳を含む玉狛の面子を眺め、興味深そうにしていた。

 

 辻は直立不動で待機しているように見えるが、女子隊員の方を向かないように頑張っているのはご愛敬と言える。

 

「ああ、よろしく頼む。俺は別行動で動く為、お前達と同じ場所で戦う事は出来ない。代わりの指揮を頼めるか?」

「了解しました」

 

 二宮はそう言って、風間に頭を下げた。

 

 普段の言動はアレだがきちんとTPOは弁えている二宮なので、必要な時にはしっかりと目上に敬意は示す。

 

 とはいえ鳩原がいなくなった当時追撃に出た風間隊には色々思うところはあるようで、心中は複雑だろう。

 

 しかしそれを良くも悪くも態度に出さないのが二宮なので、この場は普段通りの対応で終わった。

 

 犬飼もまた、このような衆人環視の場で上司の顔に泥を塗るような真似をする筈もない。

 

 隊室での行動がどれだけイレギュラーであったかは、このやり取りだけでも分かる。

 

 彼が心乱すとするならば、個人的にも相性が悪い相手が気に喰わない動きをした、等の原因がある時くらいだろう。

 

「しかし、お前が来るとは思わなかったな。()()

「…………ユズルが行くってんだ。俺等がシカトこけるかよ」

 

 そして、この場には当初予定していなかった闖入者もいた。

 

 誰あろう、影浦を始めとした影浦隊の面々だ。

 

 彼等はユズルが今回の作戦に参加するにあたり佐鳥が話をしに行った結果、全員が参戦表明をして今に至る。

 

 一応佐鳥から迅の方へと確認の連絡を入れてOKが出た為、この臨時の助っ人が成り立ったのだ。

 

 彼等は二宮隊と異なり、上層部への隔意はない。

 

 根付アッパー事件での降格の件も今では自分にも悪いところはあったと影浦は考えているし、そもそも彼はその事でユズルが鳩原の事を諦める切っ掛けを作ってしまったという負い目もある。

 

 そもそもの話、ユズルを一人で近界という危険な場に送る事を情深い影浦隊が了承する筈がない。

 

 行くのであれば自分達の参戦が前提だと話し、それを通しただけである。

 

(多分、迅さんは此処まで視えてたんだろうなぁ。だから、おれと香取ちゃんに二宮さんの所へ行かせたんだろうし。最善手なのは分かるからいいけど、ね)

 

 そして、この状況が成立した裏には間違いなく迅の干渉があった。

 

 彼が佐鳥と香取という「年下で尚且つ二宮が無下にしない相手」の組み合わせで突撃させなければ、こうはならなかったろう。

 

 迅もしくは上層部から直接の指示が下れば二宮は命令だけは受諾しただろうが、そこからのユズル参戦等には行き付かなかっただろうと推測出来る。

 

 恐らくは当たっているであろう推論により迅の胸中を慮ろうとするが、それは栓なき事だと思い留まる。

 

 今は、別途に気に掛けるべき事があったからだ。

 

(それよりも問題は────────あの二人の関係、かな)

 

 

 

 

「ユズルくんの為にこんな非公式の作戦に参加するなんて、流石に過保護じゃない? カゲ」

「ああ?」

 

 影浦は不意に話しかけて来た犬飼に対し、胡乱な眼を向けた。

 

 犬飼が影浦限定で喧嘩腰とも言える態度を取るのは、いつもの事だ。

 

 副作用(サイドエフェクト)により裏に隠した本心を自動的に見抜いてしまう影浦にとって、飄々とした様子で本心を隠し巧みに立ち回る犬飼は水と油だ。

 

 影浦も理屈の上ではそれが犬飼なりの処世術だと理解してはいるが、それを生理的に受け付けるかは別の話だ。

 

 相手の感情を肌で感じてしまう影浦にとって、表情と本心がまるで一致しない犬飼の姿はとても不快に映ってしまうのである。

 

 だからこそ犬飼は影浦に対しては本心のまま、オブラートに一切包まない発言と態度で接する事に決めている。

 

 それが彼なりの影浦への誠意であり、以前と異なり会話の成立までは漕ぎ付けている為全くの無意味というワケではない。

 

 しかし幾ら本心でぶつかって来るとはいえ元来の性格的な相性は最悪な部類である事には変わらず、結果として二人が揃うと険悪な空気が充満してしまう。

 

「佐鳥から今回の作戦が真っ当なものじゃない、って説明は受けたよね? 幾らユズルくんの狙撃が腕が良くても、それだけじゃどうにもならない事もあるでしょ。参加自体、止めた方が良かったんじゃない? 時には厳しくする事も優しさだよ」

「…………ハッ、そんな顔してる奴に言われるような事じゃねーよ。随分不機嫌そうじゃねーか、犬飼」

「なんだって…………?」

 

 ジロリ、と犬飼は思わずといった風に影浦を睨みつけた。

 

 その表情は、普段の彼とは比べ物にならない程感情的なものだった。

 

 しかし一瞬後にはっとなり自身がどんな顔をしていたかに気付き表情を元に戻そうとするが、その様子を見て影浦はため息を吐いた。

 

「おめーのトコの隊長がユズルに構うのがそんなに嫌かよ? それならそうと、二宮に直接言ってやったらどーだ?」

「…………何の…………」

「言っとくが、さっきからガチでテメーのそういう感情が刺さってっからな。言い逃れ出来っと思ってんじゃねーぞ」

 

 反論しようとした犬飼を、影浦は一括で封じた。

 

 常であれば口で勝つのは犬飼の方である筈なのだが、今日はどうにも彼の言葉のキレが悪い。

 

 影浦に詰められている犬飼は、事実何も反論を口に出来ずにいた。

 

 確かに、性格的には犬飼の方が圧倒的に要領が良いし、対人能力では圧勝している。

 

 しかし、影浦には相手の感情を自動的に受信する副作用(サイドエフェクト)がある。

 

 仮に相手が無意識の内に発した感情であろうとも、影浦のそれは正確に読み取ってしまう。

 

 故に、今この場に於いては影浦が犬飼に対し優位に立つ結果となっているのだ。

 

「正直、テメーがなんでユズルをそんなに嫌ってんのかは知らねーよ。あの狙撃手の女絡みなのは想像つくけどよ。幾ら何でもしつこ過ぎじゃねーか」

「…………それ、カゲに関係ある?」

「あるに決まってんだろ。今から危険な場所に行って、ガチで戦闘する(バト)んだろーが。だってのに、つまらねー事で連携出来ねーってなったら誰が困んだって話だよ」

「…………!」

 

 犬飼は、瞠目した。

 

 確かに、影浦の言う通りではある。

 

 これから行く場所は、近界。

 

 話によればすぐに行ける場所で尚且つ緊急脱出(ベイルアウト)も可能であるらしいが、それでも未知の場所である事に変わりはない。

 

 しかも相当に厄介な敵が待ち構えている風であり、そんな場所に行く以上個人的な感情を理由に連携が崩れる事などあってはならない。

 

 理屈では、勿論分かっている。

 

 だがそれをあろう事か影浦に指摘された事で、犬飼は今自分がどれだけ心乱れていたのか漸く理解する事になったのだ。

 

「今回、俺は詳しい事は何も知らねー。ただあいつが玉狛のチビの為に戦いに行きたいっつーから付いて来ただけだ。けど、やるからには徹底的だ。アイツの一世一代の舞台に、年上の俺等が泥塗ってやるワケにはいかねーだろーが」

 

 だから、と影浦は続ける。

 

「────────今は全部、忘れろ。俺等が折り合い悪いのも、テメーがユズル嫌ってんのも、全部だ。まさか、出来ねーとか抜かすんじゃねーだろーな」

 

 ジロリ、と影浦はそこまで言って再度犬飼を睨みつける。

 

 その視線を真正面から受けた犬飼ははぁ、と大きく溜め息を吐いてかぶりを振った。

 

「…………そうだね。確かに、今回は完全に俺が悪い。了解だよ。確かに、私情を持ち込んで良い場面じゃなかった。それをカゲに指摘された、ってのはちょっと情けないにも程があるけどね」

「実際情けなかっただろーが。何言ってんだオメーは」

「否定はしないよ。確かに、言われてみれば俺はどうやら感情的になってたみたいだ。自分で気付かないあたり、どうかと思うけどね」

 

 でも、と犬飼は続けた。

 

「俺も、二宮さんの顔に泥を塗るワケにはいかないからね。言われた通り、今は作戦の成功だけを考えるよ。どうやら、指揮官は二宮さんになりそうだしね。カゲ、足引っ張んないでよ」

「ハッ、こっちの台詞だ」

 

 犬飼と影浦は、凄みを含んだ視線で睨み合う。

 

 しかしそこに先程までの険悪さはなく、何処となく楽し気にさえ映っていた。

 

 

 

 

「…………なんとかなったみたいで良かったー。こればっかりは、第三者が口出すワケにはいかないもんね」

 

 北添はそんな二人の様子を確認し、ほっと胸を撫で下ろした。

 

 影浦と犬飼の間で険悪な空気が流れるのは予想していたが、互いの繊細な部分に関わる話なのでどう切り込めば良いか分からず、止む無く成り行きを見守っていたのだ。

 

 隊のサポーターである北添は寛容な性格で人望に厚いが、反面決断力に欠ける部分がある。

 

 彼は優し過ぎるが故に、相手の意思を尊重し過ぎてしまう事があるのだ。

 

 今回もまた影浦と犬飼、双方の立場を慮るが為に口出しが出来ず、正直な所手詰まりに近かった。

 

 しかし影浦はどうやら犬飼との間柄を自力でどうにかしたらしく、今の二人には先程までの露骨な敵意の応酬は見えない。

 

 何がどうなったかは分からないが、取り敢えず問題はなさそうである。

 

『情けねーな、ゾエ。だから一発ガツンとやりゃ良い話だって言ったろーが』

「いやいや、そうするとお互いの立場がね。せめて全部ゾエさんの責任でやれれば良かったんだけど、そうもいかなくてね」

『今回はカゲが自力でどうにかしたみてーだからいいけどよ、次はちゃんとやれよなー』

 

 分かった、と北添は若干タジタジになりながら通信越しに光に返答した。

 

 確かに今回はどうにかなったが、毎回ただ見ていた、ではお話にならないのも事実。

 

 次はどうにかしようと、北添は気合いを入れ直した。

 

(悩むのは後にしよう。今は、ユズルの為に全力で戦わないとね)

 

 反省は必要だが、今は余分でしかない。

 

 重要なのは、これからの戦闘でどれだけ貢献出来るか否かだ。

 

 聞けば、今回は近界での戦闘を行うのだという。

 

 しかも相手は無尽蔵に近い数のトリオン兵であり、隠密能力まで備えているらしい。

 

 ならば、余計な事を考えている暇などない。

 

 培った経験を踏まえて、全力で皆のサポートをするだけだ。

 

(しかし、錚々たるメンバーだなぁ。二宮隊に、風間隊。玉狛の人達に、嵐山隊までいるなんてね)

 

 北添はこの場に集まった一級の実力者達を何気なく見回し、ふとその一角が目に留まる。

 

 そこでは、佐鳥が嵐山隊のメンバーの前で真剣な表情で語りかけていた。

 

 

 

 

「すみません、こっちでどうにか出来れば良かったんですが。結局力を借りる事になってしまって」

「構わないぞ。むしろ、最初から手伝いたいくらいだったからな」

 

 嵐山は恐縮する佐鳥の前で、いつも通りの爽やかな笑みを浮かべた。

 

 そんな嵐山の隣で、はぁ、と木虎は大きく溜め息を吐いた。

 

「というか、頼る時はちゃんと頼るよう言いましたよね? なんで秘密裏に終わらせようとしてたんですか? そのあたり、誠意が足りていないと思いますが」

「ごめんね。当初の予定では、戦力は充分だった筈なんだ。けど、どちらにしろ失敗した事に変わりはないからね。そこは言い訳しないよ」

 

 だから、と佐鳥は続ける。

 

「今度は、ちゃんとお願いするよ。樹里ちゃんを助ける為に、皆の力を貸して欲しい。頼めるかな?」

「当然です。最初からそう言っていたつもりですから」

「勿論。全力で支援するぞ」

「うん。任せて」

『バックアップもちゃんとやるからねー。私の事も忘れないでよー』

 

 佐鳥の要請に、木虎を始めとした嵐山隊の面々と当然といった風にそれを受諾した。

 

 全員が全員、最初から彼の助けとなるつもりでいたのだ。

 

 今更、迷う事などあろう筈もない。

 

 その力強い返事に、佐鳥は笑みで返した。

 

「ありがとう。皆、よろしくね」

 

 

 

 

「来たか、ヒュース」

「ああ、予定にない者もいるようだが、迅からは問題ないと言われている。だから、この格好で来たワケだが」

 

 そして、ヒュースもまた現場に到着していた。

 

 彼の纏うのは、アフトクラトルの遠征部隊としてこの地にやって来た時と同様の姿。

 

 即ち、トリガー(ホーン)を露出させた彼本来のトリオン体である。

 

 今回ヒュースの事情を知らない影浦隊が参戦する事になったワケだが、迅からそれについては問題ないとお達しがあり、予定通りこうして近界のトリガーを装備してこの場にやって来たワケだ。

 

 事実影浦は一度ヒュースの恰好を確認して眼を細めたが、遊真が問題ないとアイコンタクトで伝えるとそれ以上何もアクションはなかった。

 

 影浦は直情傾向で喧嘩っ早いが、それでも親しい友人である遊真の事は信頼している。

 

 その遊真が太鼓判を押している以上、問題はないだろうと判断したワケだ。

 

 ユズルはそもそも気付いていないし、北添に関しては空気を読み過ぎる程読める方なので、当然の如く気付かない振りをしてくれている。

 

 結果として迅の「問題ない」という判断は、正解だったワケだ。

 

「ガロプラの方はどうなっている?」

「どうやら、もう少しで(ゲート)を開く準備が出来るらしいね。流石にあっちから門が開くのを待ってちゃ、例のトリオン兵にそのまま雪崩れ込まれちゃうからな。こっちから攻め込む必要があるんだとさ」

 

 成る程、とヒュースは得心して頷く。

 

 現在時刻は、22時半。

 

 門が開く予定時刻は0時となっているが、当然そこまで律儀に待つつもりはない。

 

 そんな時間帯になれば門の前はあの捕食型トリオン兵で溢れ返っているいるであろうし、流石にそうなればまともな防衛戦など出来る筈もない。

 

 だからこそ今、ガロプラの協力の下で門を開く準備を行っているのだ。

 

 具体的には桐山とヨミの合同でガロプラ遠征艇から門を開く為のトリオン兵をククロセアトロに送り込み、遠隔操作でそれを起動する事になっている。

 

 いざという時の緊急脱出(ベイルアウト)が可能なように調整を行っている為時間がかかっているが、それも23時で終了する。

 

 即ちそれが、決戦の開始時刻。

 

 その時まで、既に30分を切っていた。

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