香取隊の狙撃手   作:デスイーター

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酷薄な天使のテーゼ④

 

 

 

(速い…………っ!)

 

 風間は天に上った赤黒い流れ星を見上げ、舌打ちをした。

 

 敵によって放たれた、禍々しい色合いに染まった弾幕。

 

 それは、紛れもない合成弾そのものだった。

 

 二つの射撃トリガーを合成し、それぞれの機能を併せ持った弾を生成する射手の高等技術。

 

 それこそが合成弾であり、通常気軽には扱えない技術でもある。

 

 何故ならば二つのトリガーを合成する以上必然的に両攻撃(フルアタック)の状態となり、しかもただでさえキューブの展開・分割と射出という手間のかかる射撃トリガーに新たに合成という工程(プロセス)を加えるのだ。

 

 当然ながらそれを行っている間は何も出来ず無防備となり、大きな隙を晒してしまう事になる。

 

 確かに撃てれば強力ではあるものの、生じてしまう隙が大きい為に気軽には扱えない技術でもあった。

 

 しかしそれを、敵は絶対の硬度を持つ障壁に包まれた安全地帯で悠々と行ってしまった。

 

 後に残されたのは、合成弾という強力な手札をノーリスクで行使する敵の姿のみである。

 

 合成弾が使い難いのはあくまでも使用の際に生じる隙の為であり、性能そのものは強力無比。

 

 二つの弾丸の特性を併せ持つ弾を撃てるのだから、弱いワケがないのである。

 

(問題は、()()()()()()だ…………っ! この場面、先程までの戦況を鑑みれば誘爆によって迎撃され易い誘導炸裂弾(サラマンダー)である可能性は低い。加えて────────)

 

 風間は迫り来る弾幕のスピード、弾速を確認する。

 

 明らかにそれは先程よりも速く、かなりの速度を以て墜ちて来ていた。

 

 相当、弾速にトリオンを振っているであろう事は間違いない。

 

(あそこまで弾速を強化している以上、こちらに回避を許さないようにする意図が見える。ならば、あの弾の正体は…………っ!)

 

 速度を上げたという事は、即ちこちらに回避をして欲しくない事の証左。

 

 威力よりも弾速を優先し、尚且つ誘導炸裂弾(サラマンダー)の可能性が低い以上。

 

 答えは、一つしかない。

 

誘導貫通弾(モスキート)だ…………っ! まともに受けるな、躱せっ!」

 

 誘導貫通弾(モスキート)

 

 アステロイドとハウンドを合成した、公式戦では樹里が初めて披露した合成弾。

 

 あの赤黒い弾頭の正体は、それに違いない。

 

 風間の言葉を聞き、或いは同様の判断をした者達が散っていく。

 

 貫通力と誘導性能を併せ持つ誘導貫通弾(モスキート)を相手にする以上、生半可な防御では凌ぎ切れない。

 

 対処するには先んじた迎撃か回避、どちらかしか有り得ない。

 

「…………!」

 

 そんな中、レイジは先程と同じようにガトリングで弾丸を撃ち落としにかかる。

 

 確かに弾速は増しているが、それでもガトリングの面制圧攻撃であればある程度は撃墜出来る。

 

 どちらにせよ、こちらを狙っている事に変わりはないのだ。

 

 ならばその射線の中に弾を斉射すれば、おのずと当てる事は出来るだろう。

 

 加えて、レイジは今この場にいる面子の中ではそこまで機動力が高いタイプではない。

 

 勿論動けないワケではないが、流石に小南や風間といった最上位の攻撃手や木虎や香取のような機動力特化型の隊員と比べれば大柄故の的の大きさもあって回避能力はやや劣る。

 

 ならば、ガトリングで自分に向かう弾丸を排除した方が、相対的にダメージを受ける確率は低くなるというワケだ。

 

 そうする事によって味方の被弾率も同時に下げる事が出来るし、彼がこの場で出来る最も効率的な振る舞いと言っても過言ではないだろう。

 

「…………!」

 

 また、それは小南も変わらない。

 

 彼女は全速力で駆けながら、極小に分割したメテオラで弾幕の迎撃にかかっていた。

 

 大きく分割した方が巻き込める範囲は広くなるが、爆煙で視界を塞ぎ弾の軌道が見えなくなっては本末転倒。

 

 故に、爆発をしても左程の規模にはならない程度にまでキューブを分割し、ほぼ通常弾(アステロイド)と同じような運用が出来る形に調整して撃っているのだ。

 

 小南には、レイジ程の面制圧力はない。

 

 彼女の強みはあくまでも乱戦に於いての蹂躙能力、一点突破の爆発力にあり、レイジのように継続的な火力を振るう事の出来るタイプではない。

 

 小南の使用する炸裂弾(メテオラ)は対トリオン兵に特化した運用が主であるが、それでもこの状況で徒に爆煙を撒き散らすのは悪手である事は瞭然。

 

 よって、小南はメテオラの利点を放棄し敢えてアステロイドと同様の運用をする事で、リスクを軽減した上でレイジのサポートをする事を選んだのである。

 

 二人の迎撃によって、天空より降り注ぐ弾丸は瞬く間に数を減らしていく。

 

 しかし、時間が足りない。

 

 弾速を上乗せして放たれた弾丸は、撃ち落としきれずに風間達のいる場所まで到達する。

 

 各所にバラけた光の雨が、隊員達に襲い掛かる。

 

「────────」

 

 迎撃を担っていたレイジと小南の取った対処は、単純だった。

 

 即ち、飛んで来た弾丸を薙ぎ払う。

 

 レイジはガトリング砲を投げ捨て、アサルトライフルを斉射。

 

 それにより、自身へ向かう弾丸を全て吹き飛ばした。

 

 小南はその両手に持つ双月を振るい、襲い来る弾丸を両断。

 

 四方から迫る弾丸を全て薙ぎ払い、自身への到達を許さなかった。

 

 香取、木虎、風間はそれぞれ限界まで弾丸を引き付けてから、サイドステップで跳躍。

 

 あくまでも追尾弾(ハウンド)程度の追尾性能しか持たない弾丸は空を切り、地面に当たって炸裂した。

 

 ヒュースは、蝶の盾(ランビリス)を展開。

 

 近くにいた歌川ごと磁力の盾で包み込み、弾丸を宙に跳ね返した。

 

 跳ね返した弾が別の弾に当たり、更に敵の弾数を減らす事にも成功する。

 

 遊真はすかさず、佐鳥を抱えているが故に機動力が低下している菊地原の下へ急行。

 

 『射』印(ボルト)を用いて、四方から襲い来る弾丸を全て撃ち落とした。

 

 よって、全員が無傷で合成弾を凌ぐ事に成功。

 

 しかし、風間の表情は優れない。

 

 当然だ。

 

 何故ならば、現状は全く改善されていないのだから。

 

(これを続けていれば、いずれは限界が来る。トリオンも、体力も無限ではない。消耗戦を続けるのは、不利だ)

 

 今回の攻撃は、あくまでもレイジと小南が大多数の弾丸を迎撃してくれたからこそ凌ぐ事が出来たのだ。

 

 あんなやり方を続けていればいずれはトリオンが尽きるし、幾らレイジのトリオンが潤沢とはいえ限度がある。

 

 対して、敵のリソースがどれ程なのかは見当もつかない。

 

 どれだけの生体電池(いけにえ)がいるかなど、分かったものではないのだ。

 

 よって、消耗戦はこちらの不利にしか働かない。

 

 その事が分かっているからこそ、風間の懸念は強かった。

 

(それに、防衛陣地(あちら)も無視は出来ん。あのデカブツが到達してしまえば、陣地は崩壊する。流石にあれが門を通過出来るとは思えんが、万が一がある。可能性がゼロではない以上、それは何としても防がなければならない)

 

 また、防衛陣地に迫る超巨大トリオン兵の存在も無視は出来ない。

 

 あれが陣地に到達した時点で防衛は失敗であり、二宮達は向こうへ撤退せざるを得なくなる。

 

 そうなれば自分達の帰還も危うくなるし、何よりあの巨体が向こうの世界へ現出する可能性が少しでも存在する以上は放置は出来なかった。

 

(とはいえ、あれを直接どうこうする手段は無い。こちらが木岐坂をどうにかする間、あちらは時間稼ぎに徹して貰うのがベストだろう。二宮が、その事に気付いていないとは思えん)

 

 風間はあちらの指揮を預けて来た男の事を思い出し、眼を細めた。

 

 少々感情的な面はあるものの、指揮官としての資質は優秀であると風間自身が太鼓判を押している相手だ。

 

 現状を正しく理解出来ていない筈はないと、そう思うだけの信頼はあった。

 

(そちらは任せたぞ、二宮。お前なら、やれる筈だ)

 

 

 

 

(現状、あの怪物を直接排除するのは不可能に近い。強力なシールドがある上に、あの巨体だ。少しダメージを与えただけでは、先程のように再生されて終わりだろう)

 

 二宮は遠方から迫り来る巨大なトリオン兵を見据え、高速で思考を回していた。

 

 ウダウダ迷っている時間は無い。

 

 今は一刻も早く、現状を少しでも改善する策を打ち出す事が必須だった。

 

(あそこまで攻撃を届かせる事が出来るのは、俺と雨取だけだ。ならば、今は俺達の手札だけで何らかの効果を引き出さねばならん。となれば────────)

 

 二宮はチラリ、と千佳を見据えた。

 

 千佳は黙ったまま、次の指示を待っている。

 

 少し顔を青冷めさせてはいるが、パニックにまではなっていない。

 

 これならば問題は無いだろうと、二宮は今度は影浦に視線を向けた。

 

「影浦、前に出ておけ」

「分かった」

 

 影浦は指示の内容を聞き返す事をせず、徐に千佳の前に立った。

 

 その意味は、既に知れている。

 

 即ち、攻撃の感知器として彼を活用する布陣だ。

 

 (現状あちらが直接手を出して来る可能性は低いが、万が一がある。影浦をこうして配置すれば、そうなった時でも対処出来る筈だ)

 

 敵の本体である女神像はその巨体故、こちらからでも視認出来ている。

 

 よって、本丸と千佳の間に影浦を配置すれば、向こうが何かしら仕掛けて来た時には影浦の副作用(サイドエフェクト)によってそれが瞬時に察知出来るという絡繰りだ。

 

 今からやろうとする事を考えれば、敵の介入の有無は死活問題。

 

 念には念を入れて、足りない事はないだろう。

 

「雨取、炸裂弾(メテオラ)で奴の足を────────いや、()()を狙え。出来るな?」

「…………! はいっ!」

 

 そして、千佳に指示を下す。

 

 指示の内容を、問う事はしない。

 

 これでも彼女は、嫌がらせ戦術を最も得意とする修の下で戦って来たのだ。

 

 二宮の指示を聞いた段階で、その意図を察する事くらいは出来る。

 

 今回はそれだけ、指示の内容が分かり易かったとも言えるが。

 

「メテオラ!」

 

 千佳は腕を掲げ、巨大なトリオンキューブを生成。

 

 それを分割し、即時射出。

 

 怪物の下へ、無数の光弾が放たれた。

 

 しかしそれは、巨体のトリオン兵へ直撃するルートではない。

 

 真っ直ぐの軌道で飛ぶそれは、怪物の手前で地面に落ちるルートを辿っている。

 

 皇骸煌鋼蟲(スカラヴェオス)は、動かない。

 

 今度はシールドを張る事なく、そのまま攻撃を素通しした。

 

『■■■■!?』

 

 だが、それが間違いだった。

 

 千佳の爆撃は、皇骸煌鋼蟲(スカラヴェオス)の足元に着弾。

 

 轟音と共に地面が爆砕し、それによって怪物の足が地割れに沈み込む形で沈降。

 

 巨体のトリオン兵は、一時的に身動きが取れなくなる結果となった。

 

『今度は張りませんでしたね。やっぱり、多大なエネルギーを使用するだけあってあれは怪物そのものを直接狙った時に自動生成されるものと見るべきでしょう』

「ああ、俺も同じ見解だ。そういう構造にしてあるという事は、あのシールドはあまり多用したくない代物であるのも確かなようだ」

 

 氷見の分析した通り、あのシールドは大量のトリオンを消費する。

 

 だからこそ巨大トリオン兵(スカラヴェオス)を狙った時に自動生成されるようプログラムされているのではないかと考えたのだが、どうやら正解だったようだ。

 

 幾ら敵が消費度外視の兵器を運用しているといえど、あの巨大なトリオン兵はあくまでも尖兵の類だ。

 

 それにばかり資源を消費すれば、今度は本体が立ち行かなくなっていく。

 

 あのシールドが本体からの供給で成り立っていると知った時点で、直接巨体を狙うのではなくその足場を狙う事を二宮は考えたのだ。

 

 規格外の巨体を支える脚部の力は驚異的ではあるが、それだけに小回りが利かない。

 

 だからこそこうして足元を爆破すれば、その分だけ敵の足止めが可能となる。

 

 無論そこまで時間を稼げるとは思えないが、これを繰り返す事で充分に遅滞戦術は可能。

 

 ならば、それで問題はなかった。

 

(こちらは、あくまでも耐え凌ぐ事を意識すれば良い。直接あのデカブツを排除出来ないのであれば、それが出来るようになるまで時間を稼ぐのみだ)

 

 時間を稼げば、風間達が木岐坂をどうにかしてくれるだろう。

 

 これは、希望的観測などではない。

 

 そうしなければ道が開ける事はないと、客観的な事実の上での判断だ。

 

 彼等に、懸ける他ない。

 

 だからこそ、自分達は自分達がやれる事に全力を尽くす。

 

 それだけの事だ。

 

「風間さん。こちらはなるだけ時間を稼ぎます。ですので、焦らずそちらに集中して下さい。お願いします」

 

 

 

 

「了解した。こちらも芳しい状況ではないが、必ず活路を見付ける。それまで、耐えてくれ」

 

 了解、という返答を聞き風間は微笑を浮かべる。

 

 矢張り、二宮を指揮官に任命した自身の眼に狂いはなかった。

 

 彼は正しく、今出来る最善を為している。

 

 ならば、こちらも応えなければ嘘というものだろう。

 

「全員、迎撃しながらで良い。聞け。これから、敵を攻略する為の作戦を伝える。問題点があるようなら、指摘して構わない。複数の視点からの知見を得るのは、重要な事だからな」

 

 風間は強い意志と共に、全員に通信を繋ぐ。

 

 そうして、戦場での攻略会議が開始された。

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