香取隊の狙撃手   作:デスイーター

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ココロよ原始に還れ②

 

 

『■■■■────────!』

 

 突如、女神像から咆哮(こえ)が響く。

 

 それは足元を這う(むし)を患う声にも、何かを憤っている叫びのようにも聞こえた。

 

 そして、女神像の単眼がギョロリ、と蠢きレイジ達の姿を捉えた。

 

「来るぞ…………!」

 

 レイジの警告と同時、再び女神像の両腕に巨大なキューブが生成。

 

 それらが混じり合い、一つに統合される。

 

 合成弾。

 

 その発射準備が、安全な結界の中で完了した合図だった。

 

 展開が完了した合成弾が、分割し射出される。

 

 全弾、目標はレイジ達のグループ。

 

 弾速も更に増幅され、加えて。

 

「バラけさせて来たか…………っ!」

 

 ()()が、広い。

 

 先程までは愚直に最短距離でこちらを狙っていた弾幕の群れが、広範囲に散らばってから曲線を描き、複雑な軌道で墜ちて来る。

 

 追尾弾(ハウンド)は単に敵を追尾するだけではなく、誘導設定を調整する事で弾道をある程度変更する事が可能だ。

 

 その性質を内包させた合成弾である以上、同様に弾道の調整が利くのは当然。

 

 敵は機械故の演算能力をフルに用いて、より回避され難い攻撃をして来た、というワケだ。

 

「遊真、ヒュース!」

「了解」

「了解した」

 

 レイジは玉狛二人に声をかけ、自身もガトリングを斉射。

 

 続いて遊真は『射』印(ボルト)を、ヒュースは蝶の盾(ランビリス)を展開。

 

 全方位への斉射を実行し、迫り来る敵の弾を悉く撃ち落としにかかる。

 

 レイジのガトリング、遊真の黒弾、ヒュースの磁力弾が次から次へと合成弾を撃墜する。

 

 黒トリガーを含めた三名による射撃防御は、例外を許さず敵の弾を撃ち落としていく。

 

「機械が演算する以上、完全な無軌道(アトランダム)にする事は出来ない。規則性は、確実に存在する。なら、そこに弾を置いてやればそれで済む」

「ああ、完全な乱数を産み出せるのは生きた人間だけだ。これは、何処の世界でも変わらない」

 

 それを為し得た理屈は、言葉にしてみれば単純だ。

 

 単に、相手の弾道に弾を置いておけば良い。

 

 要するに相手の攻撃の軌道を見切り、確実に迎撃を成功させたというだけの話だ。

 

 勿論、言葉だけ見れば簡単だが実際に容易に出来る事ではない。

 

 だが、機械が相手なら話は別だ。

 

 如何に高い演算能力を持って複雑な軌道を一見ランダムに設定したとしても、機械が決める以上は何らかの法則性が生まれてしまう。

 

 また、機械である以上フェイントをかける、相手の思惑を見抜く、といった概念がそもそも存在しない。

 

 状況から得られたデータから相手の行動を推測する事は出来るだろうが、その時相手が何を考えているかまで読み取る事は出来ない。

 

 よって、弾道の法則性さえ解析出来てしまえばその経路を予測する事は難しくはないのだ。

 

 当然、その基準はボーダーの中でも優秀と謳われる各部隊のオペレーター陣によるものなので実際の難度はお察しだが、それでも不可能ではない。

 

 論理的に実行が可能である以上、精鋭ばかりを集めたこのメンバーで出来ない筈がない。

 

 敵の弾幕は、誰一人当たる事なく砕け散った。

 

「次だ」

 

 当然ながら、敵もそれで終わる筈もない。

 

 地面から伸びる巨大な蜘蛛脚を振るい、レイジ達を押し潰しにかかる。

 

 蜘蛛脚に依る攻撃は単純な質量の暴威、圧倒的なサイズを以て問答無用で敵を駆逐するものだ。

 

 ただ、巨大な脚を振り下ろす。

 

 言ってしまえばそれだけの攻撃ではあるが、だからこそ凌ぐには正攻法しかない。

 

 加えて、その大きさは尋常ではない。

 

 全長数百メートルにもなるかという蜘蛛脚の攻撃軌道から逃れるには、生半可な方法では難しい。

 

 如何に機動力の高い隊員であっても、一瞬で100メートル以上移動するにはただ走るだけでは難易度が高い。

 

 特に機動力は並程度で尚且つ大柄で誰かが抱えて移動するワケにはいかないレイジにとっては、特に有効な攻撃だろう。

 

 レイジのトリガーは広範囲への攻撃に適したものが過半であり、小南のような絶対的な攻撃力を持っているワケではない。

 

 小南であれば正面から蜘蛛脚を叩き斬るような芸当をしてもおかしくはないが、流石に同じ真似は出来ない。

 

「遊真、鎖だ」

「了解」

 

 故に、別の手段を取る。

 

 遊真は『鎖』印(チェイン)を発動し、鎖を蜘蛛脚に巻き付ける。

 

 巨大な蜘蛛脚に鎖を巻き付けるには相応の長さが必要だが、黒トリガーの出力があればどうとでもなる。

 

『弾』印(バウンド)

 

 更に遊真は、『弾』印(バウンド)で加速を付けて跳躍。

 

 それにより、鎖で繋がった蜘蛛脚も牽引される。

 

 結果、遊真が繋げた蜘蛛脚はその勢いのままに別の蜘蛛脚と衝突。

 

 轟音と共に、二つの蜘蛛脚が砕け散った。

 

「よし! 今だ、駆けろ!」

 

 それを確認したレイジの号令により、全員が一斉に疾駆した。

 

 眼に見えている妨害は、今破砕された巨大な蜘蛛脚のみ。

 

 合成弾も先程射出されたばかりで、次の発射までにはタイムラグがある。

 

 ボーダーの射撃トリガーを模倣している以上、敵の合成弾はそれと同じく発射までに時間がかかる。

 

 キューブを展開し、合成した上で分割・射出という工程(プロセス)は必ず踏まなければならない。

 

 よって、今この瞬間であれば合成弾に狙われる事はないのだ。

 

 ならば、機を逃がす手はない。

 

 柱との距離は、既に数十メートル。

 

 トリオン体の脚力ならば、数秒で走破出来る距離だ。

 

 特に、機動力に秀でた遊真や香取であれば更に時間は短縮される。

 

 故に、柱を破壊出来るだけの火力を有する遊真が突出し、先んじて柱へ目掛けて疾駆する。

 

「…………! 下っ!」

 

 その時、菊地原の警告が響いた。

 

 今更、全てを説明する必要はない。

 

 全員がその場から飛び退き、次の瞬間地面を割り無数の骸兵蟲(プロニムフィ)が出現した。

 

 この戦場に於いて、警戒しなければならない要素の一つに地下からの奇襲が挙げられる。

 

 骸兵蟲(プロニムフィ)はレーダーから姿を消した上で地下を穿孔する事が可能であり、言うなればカメレオンとバッグワームを併用した上で地面の下から奇襲を仕掛けて来るのだ。

 

 やっているのはレーダーからの反応をなくした上での奇襲だが、地下という不可視領域を経由してやって来るので実質姿を消しているも同然だ。

 

 この奇襲に対し、取れる対策は二つ。

 

 常に奇襲がある前提で対応するか、索敵能力を高めるかである。

 

 前者は風間達がやっており、限られた精鋭だからこそ可能な荒業である。

 

 常に地面に対し警戒を張り巡らせるのは想像以上に神経を使う為、生半可な者がやればそれだけで消耗し使い物にならなくなる。

 

 だからこそ、風間はあちらへ向かうメンバーを絞ったのだ。

 

 即ち、後者である索敵能力を高めた存在である菊地原のカバーを受けられない人員を減らす為に。

 

 副作用(サイドエフェクト)、強化聴覚。

 

 菊地原の持つこの症状(のうりょく)は細かな音であろうと正確に聴き分ける事が可能であり、無論の事地面を掘り進む骸兵蟲(プロニムフィ)の稼働音も例外ではない。

 

 樹里の強化視覚と比較すると索敵可能な範囲こそ常識的な範疇であるが、それでも近距離で発せられる音であれば聴き逃がす筈もない。

 

 よって、菊地原がいる限り地下からの奇襲は全て察知可能。

 

 今もまた、その菊地原の能力によって事前の察知が行えたお陰で、全員が無傷で済んだというワケだ。

 

蝶の盾(ランビリス)

 

 出現した骸兵蟲(プロニムフィ)に、ヒュースの磁力弾が放たれる。

 

 磁力片を撃ち込まれた怪物達は各々が引き合い、一ヵ所へと強引に牽引される。

 

 そこに、レイジがメテオラを設置。

 

 キューブ目掛けて突っ込まされた骸兵蟲(プロニムフィ)の群れがそれに触れた瞬間、起爆。

 

 爆発により、現れた怪物は全て撃滅された。

 

「来るぞっ!」

 

 しかし、一連の迎撃行動で一手消費させられた事に変わりはない。

 

 その間に、敵は合成弾の発射準備を完了してしまった。

 

 女神像より、弾幕の雨が射出される。

 

 上空を経由して放たれた無数の合成弾が、突出して柱の近くにいる遊真へ向かい集中砲火が実行される。

 

 恐らく、誘導設定をかなり強めにしたのだろう。

 

 一直線に、遊真を狙う軌道で弾丸の雨が降って来ている。

 

 最も柱に近いが為に、優先順位を最上位に設定した結果なのだろう。

 

「────────!」

 

 それに対し遊真の取った行動は、直進だった。

 

 恐らくあれは、視線誘導ではなく遊真のトリオンを探知したトリオン誘導で軌道が決定されている。

 

 真っ直ぐ遊真を狙う軌道から鑑みても、それは間違いない。

 

 故に遊真は、迎撃ではなく前進を選んだ。

 

 それは何故か。

 

「カトリ先輩」

「了解」

 

 遊真からの指示に対し、すぐにその意味を察知した香取は彼の足元を中心にグラスホッパーを展開。

 

 設置された加速台を連続で踏み込み、柱の側面へ一気に移動する。

 

 何故、『弾』印(バウンド)ではなくわざわざ他者のトリガーを使うような真似をしてまでグラスホッパーを選択したのか。

 

 それは、『弾』印(バウンド)では出力が高過ぎて移動距離を稼ぎ過ぎてしまうからだ。

 

 今回に限り、移動は最小限でなければならなかった。

 

 その為に、現在黒トリガーを使用している為に自身のノーマルトリガーを併用出来ない遊真は香取に協力を願ったのだ。

 

 遊真の黒トリガーは一度解析したトリガーの能力を模倣し、出力を上げた上で使用する。

 

 一見ボーダーのトリガーと比較した黒トリガーの短所である手札の少なさをカバー出来る仕様であるが、出力調整が利かないという欠点がある。

 

 グラスホッパーと類似する能力を持った『弾』印(バウンド)であるが、黒トリガーである為にその出力は加減が利かず、加速が付き過ぎてしまうのだ。

 

 出力の強弱を設定する事で細かな軌道にも応用出来るグラスホッパーと異なり、どれだけ出力を絞っても『弾』印(バウンド)ではかなりの加速が付いてしまう。

 

 たとえるならグラスホッパーが輪ゴムで弾を撃ち出すパチンコであるならば、『弾』印(バウンド)はカタパルトだ。

 

 性質としては、エスクードを用いた大ジャンプに近い。

 

 強力無比な加速が得られる反面、融通が利かない部分が多い。

 

 だからこそ、この場でグラスホッパーを装備している香取に協力を願ったのだ。

 

 香取は思考の言語化は苦手だが、反面察しはかなり良い方だ。

 

 現在の状況を鑑みれば、遊真がやろうとしている事はすぐに察知出来る。

 

 故に、少ない言葉でも的確に遊真の意図を読み取り実行に移す事が出来たのだ。

 

 何故、遊真がこの場で『弾』印(バウンド)ではなくグラスホッパーを選んだのか。

 

 その答えが、()()だ。

 

 遊真のトリオンを目印に放たれていた合成弾は、彼の移動に際しそれを追尾して動く。

 

 そう、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()である。

 

 結果、どうなるか。

 

 当然の如く、合成弾は遊真を追い切れずに柱に直撃する。

 

 射出された合成弾は、誘導貫通弾(モスキート)

 

 即ち、()()()()()()()()()()()()()()である。

 

 それらが、一斉に柱に着弾する事となった。

 

 無数の弾丸の雨に晒された柱は、その周囲に纏っていたシールドを破砕され穴だらけとなる。

 

 敵の防御を貫通する為に放たれた合成弾が、皮肉にも柱を護っていた防御機構を突破し、隙を作る助けとなった。

 

 これこそが、遊真がグラスホッパーを選んだ理由。

 

 即ち、最小限の軌道で柱の側面に回り込み、敵の弾を柱に誘導する為だったのである。

 

『弾』印(バウンド)────────三重(トリプル)

 

 そして今度こそ、遊真は『弾』印(パウンド)を使用。

 

 柱目掛けて、自身の身体を全力で撃ち出した。

 

 凄まじい加速を得た遊真の身体が、超速で柱へと向かう。

 

『強』印(ブースト)────────七重(セプタ)

 

 更に自身に強化の印を最大限に付与し、拳を振りかぶる。

 

 そして。

 

 遊真が、柱に接触。

 

 『弾』印(バウンド)で加速を得た遊真の身体は、一つの弾丸となって柱を撃ち抜いた。

 

 誘導貫通弾(モスキート)によって穴だらけとなっていた柱は、加速と強化の二重の補助効果(バフ)を受けていた遊真の攻撃を受け切れず、攻撃は貫通。

 

 遊真は柱をくり抜く形で向こう側へ到達し、その基底部に致命的な損傷を与えた。

 

 結果、ただでさえ合成弾で穴だらけになっていた柱は数百メートルに及ぶ高さを持つ全体の自重を支えきれず倒壊が始まる。

 

 同時に障壁発生機能が停止し、第一結柱との間に展開されていたシールドが消滅する。

 

蝶の盾(ランビリス)

 

 そこに、ヒュースが柱の側面に無数の磁力片を撃ち込んだ。

 

 シールドを破砕され、防御機構を無力化された柱は、磁力に引き寄せられる形である方向へ傾き始める。

 

 即ち、風間達が向かった二つ目の柱の方角へと。

 

「小南。今だ」

 

 

 

 

「了解! 接続器(コネクター)起動(オン)!」

 

 ヒュースからの通信を受けた小南は()()()()()()()()()()()()()()()()を柱に向かって投擲しつつ、二つの双月を連結。

 

 片手斧は巨大な両手斧へ変形し、彼女達を襲っていた無数の骸翅蟲(エフィメロプテラ)の相手を風間達へ任せ、小南は一気に柱に向かって疾駆する。

 

 レイジ達の方へ注力していた影響か、こちらに対する敵の攻勢はほぼ骸翅蟲(エフィメロプテラ)による波状攻撃だけだった。

 

 より戦力の集まっている向こう側を優先した結果とも取れるが、機械的に戦力を分析すればこの対応も止む無しではある。

 

 だが、だからこそ隙がある。

 

 敵は、一騎当千の実力を持つ精鋭の底力及び連携によるその能力の向上を計算に入れる事が出来なかった。

 

 機械的な判断に依存しているが故の、隙。

 

 そこに勝機を見出し、此処に結果は結実する。

 

 一閃。

 

 小南の双月の一撃が、シールドごと柱を両断する。

 

 斜めに斬り込みを入れられた柱だが、それだけでは倒れない。

 

 自重に従って滑落しようとする柱を、咄嗟に出現した糸が繋ぎ留めようと展開される。

 

 大穴を空けられたあちらの柱と異なり、切断面が綺麗過ぎる為に今ならば傀儡糸(クローステール)で修復を行う事で維持が可能。

 

 そういった判断での、自動修復機能の発露だろう。

 

「終わりよ。ぶっ倒れなさい」

 

 しかし、それはあくまで損傷が()()であった場合の話だ。

 

 ヒュースの磁力片によって引き寄せられた第一結柱が、第二結柱に直撃。

 

 全長数百メートルの巨大質量を叩きつけられた柱は、為す術なく倒壊。

 

 より高高度までバリアを展開する為に天高くまで伸びていた事が、仇となった。

 

 二つの柱は、お互いを巻き込んで崩れ落ちる。

 

 同時に張られていたシールドは発生源を失い、消滅。

 

 女神像への攻撃を阻んでいた絶対の防御障壁は、此処に打ち砕かれる事となった。

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